ユーティリティ

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第七話

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あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします!!




 

 

 翌日、朝。

 明石教授から抗議の電話があった。

 まぁ、半ば娘ラブ自慢だったのだが。

 

「でも、あの子が、裕奈が妻を思いだしてくれたのは嬉しいかったよ」

 

 これが言いたかっただけの明石教授でした。

 

 

 

 

 

 

 一般商業区では面倒が起きることを実体験した俺は、土曜の話し合いをエヴァの家で行うことにした。

 あそこは魔法使いたちの禁足地であり、一般人もこないという点で素晴らしいから。

 長谷川さんへのいろんな話をするから部屋を使わせてくれと頼むと、エヴァも結構乗る気で、話の補足をしてくれると言うことになり、ちょっと盛り上がってしまった。

 

「お、おじゃまします」

 

 現れた長谷川さんは、手作りのカップケーキなんかを持ってきて、結構な女子力を見せつけてくれた。

 香りもいい感じで、○ーソンのコーナーに置きたいと思わされる。

 

「やぁ、長谷川さん。待ってたよ」

 

 エヴァと共に迎え入れ、ジャブとばかりにこの麻帆良の成り立ちから話し始める。

 

「・・・つまり、この麻帆良のヒミツって言うのは」

「そう、この町は魔法使いたちが支配している町ってことになるね」

「まぁ自称、正義の魔法使いだがな」

「うさんくせぇ」

「正に」

 

 反射的に顔を歪める長谷川さんを、苦笑いで俺は答えた。

 実際、彼らの正義は「コメリカ」的正義なのだ。

 妄執ともいえる正義への信仰があり、その正義の根幹を政治が握っているので良いように正義がゆがむ。

 

「エヴァちゃんはその犠牲者でね」

「フー、その話はおいておけ」

「・・・風間さん、聞かせてくださいませんか?」

 

 ちょろっとエヴァをみると、彼女は不満げにそっぽを向いた。

 どうやら勝手に話せと言うことらしい。

 そんなわけで、俺が調べられた範囲でのエヴァちゃんの足跡を話すと、長谷川さん滂沱のリアクションとなった。

 

「マクダ、ウェル、くろう、したんだなぁ・・・」

「私のことなどはいい。長谷川、おまえがどうしたいか、だ」

「え、私?」

 

 そう、長谷川さんがどうしたいか、だ。

 今、魔法に影響されない体質を即時に変えることは難しい。

 だから幾つかの選択肢がある。

 

「選択肢、ですか?」

「そう」

 

 第一番は、麻帆良から引っ越す。

 君子危うきに近寄らず、一番の自衛手段だが、この麻帆良以外にもオカルティズム溢れる土地は多いので、別件で巻き込まれる可能性がある。

 第二に、麻帆良の魔法使いたちに保護を求める。

 一般生活を送るだけでも大変な環境に幼い頃ストレスをかけられた、と賠償交渉をする。少なくとも、麻帆良にあるであろうシェルター的設備を使えるようにさせる交渉が出来るだろう。

 まぁ、真っ先に思い浮かぶのは図書館島。

 あそこって絶対にシェルターかワードナー迷宮だよなぁ。

 で、第三。

 自分も魔法側に立つ、というもの。

 正義の魔法使い側でも良いし、独立魔法勢力に入るでも良いし、自分でそっち再度に立つけど個人勢力という選択肢もある。

 

「長谷川さんは、どうしたい?」

「・・・このまま、なにもしないでスルーって出来ませんか?」

「それはお勧めできないかな? すでに津波が目の前に来てるのに、立ったままで水に浮かぶのを待っていたいとか言われて、認める人間はいないよ。何かをしなくちゃ死んじゃうしね」

「し、し、しんじゃうんですか?」

「うん、まぁ極端な話だけどね」

 

 先日の修学旅行中に起きた襲撃事件の話をしてあげたところ、真っ青になった長谷川さん。

 

「・・・即答、出来ません」

「うん、それは仕方ない。でも、出来れば学園祭前には返事が欲しい。君の決定を妨げるものはないけれど、君の決定を聞きたがってる奴らはいるんだ。俺は君の選択を尊重するつもりだし、手助けもするつもりだから」

 

 ちょっと目を見開いた長谷川さんは、少し嬉しそうに頷くのであった。

 

「・・・ところで、マクダウェルがネギ先生の父親に惚れてたってマジですか?」

「・・・長谷川、誰からそれを聞いたか教えろ」

 

 エヴァちゃん、かなり怖かったです。

 

 

 

 ふぬけた話をしていたら、エヴァちゃんの家に来客がきた。

 だれじゃろ、と思っていると、絡繰さんがその来客を連れてきた。

 

「・・・おじゃまします」

 

 頭を下げたのはガキンチョ先生、ネギ君であった。

 

「明石さんから、風間さんがここにいるって聞いて、おじゃましました」

 

 確かに裕奈には、ここにいるって話したけど。

 

「一応、色々と打ち合わせの用がありましたが、ネギ先生はどのようなご用で?」

 

 仮にも一般社会人で言えば目上の職種のヒトだ。

 敬語の一つでも使わなければなるまい。

 出来ているかは怪しいけど。

 

「あ、あの、お忙しいところにおじゃまして申し訳ありませんが・・・」

 

 ぺこぺこと頭を下げて、その上で彼は言う。

 

「ぼ、ぼくを、風間さんの弟子にしてください!!」

「いやです」

「・・・えぇぇぇぇ?」

 

 半泣きの少年ネギ。

 即答はまずかった気もするが、彼のケアは修学旅行中だけの話だったので断ってもいいだろう。

 加えて言えば、彼のような魔法使いではない俺に配師しても良いことないし、周辺魔法使いとの摩擦も多いし。

 

「あ、あの、僕が希望していることですから、周りのことなんなんか気にしないで・・・」

「あー、ネギ先生。いやさ、ネギ君。君は今、山奥の人気のない小屋で暮らしているわけでなければ無人島でひとりぼっちというわけではない。ヒトとヒトの間で関わりを持ちながら暮らしているんだ。なのに周りの人を気にしないで? それは俺の周辺人間関係も壊す、といっているのかな?」

 

 すこし意地の悪い話であるが、少なくとも戦争の英雄を父に持つネギ君の師匠になると言うことは、波乱と茨の道へ進む決意をすると言うことに相違ない。

 これから数年ほど親の臑を噛むつもりの中学生ぐらいならまだいいが、来年から社会人為ならざるを得ない可能性もある俺には難しい話だ。

 世界の平和より正義より、もっと重いものを背負うつもりがある俺には、目の前の正義の魔法使い見習いは邪魔以外の何者でもない。

 

「・・・え、えええ、あ、あの、その、僕はそんなつもりではなくて、あの・・・」

「わかってるよ、ネギ君。君は強くなりたいんだろ? 夢のためとか目的のためでもいいけど、暴力発生装置としての正義に進むなら、それはそれでいい。ただ、俺を巻き込まないでくれ」

 

 ずっぱーーーん、と言い切った俺を見て、ネギ君は真っ青になってその場を去った。

 さすがに長谷川さんも真っ青になっていたが、エヴァちゃんはものすごくおもしろいものをみたという顔をしていた。

 

「あー、風間さん。もしかして私の話も迷惑だった?」

「いや? 長谷川さんみたいな娘だったら背負うのは問題ないけど、少年ヒーローごっこにはつき合えないって言うのが正直な話かな」

 

 実際に彼が世界を救うほどの英雄の相を持っていたとしても、それに巻き込まれれば悲劇に直結する。

 俺だけであれば切り抜けることも出来るが、一般人である両親が巻き込まれれば正直正気で居ることは出来ないと思う。

 

「・・・そっか、うん、麻帆良のノリだと修行ぐらいつけてやれっていうのがふつうなんだけど、私は風間さんの考えの方がしっくりきます」

 

 自分の常識と俺の発言方向があっているのを見取って、長谷川さんはひどく安心していた。

 

「とはいえ、だ。あの手の子どもはシツコいぞ?」

「あれほど明確に振られれば、ふつうの子供なら近づいてこないんだけどね」

 

 色々と話を聞いてみれば、あのネギ少年は心を大きく削られているらしい。

 所謂「survival guilt」というやつだろう。

 

「・・・えーっと、生き残りの罪?」

「過酷な環境で唯一の生存者となった人間が、生き残ったことを罪と考えて心を壊してしまうこと、かな?」

 

 戦争で絨毯爆撃を食らったとか、テロで何万人も死んだ痕の生き残りとか、例はいくらでもあるだろう。

 ネギ少年も同じ様な心のゆがみを感じる。

 

「なるほど、な。精神患者であれば、自分の異常性も自覚できん、か」

「今度、近衛理事長にも相談するけど、なんか話があったらそれなりに探ってみてくれるかい?」

 

 エヴァちゃんと長谷川さんに話をふると、一応理解してくれたようであった。

 

「・・・何のかんのといっても風間さんは面倒見がいいんですね」

「子供に何でもかんでも押しつけるような流れが嫌いなだけだよ」

「しかし、師匠にはなりたくない、と?」

「もっと師匠向きの魔法先生が居るでしょ? ガンドルフィーニ先生とか」

 

 ああ、と三人が声をそろえる。

 エヴァちゃん、長谷川さん、そして絡繰さん。

 納得の指導教員である。

 

 

 

 

 

 翌週開け、俺は朝一で近衛理事長とアポを取っておいた。

 

 内容は当然ネギ先生のこと。

 先日の修学旅行で俺の実力を知って、弟子入りしたいとかなんだとか言ってきたが断ったということで説明に出向いたのだった。

 参加者は、先日の宴会メンバーマイナス高畑先生。

 本日は出張だとか。

 

「・・・なるほどのぉ、風間君の言うことも理解できるし、ネギ君を避ける気持ちもよくわかるのぉ」

「忌避しているわけではありませんが、彼の師匠にはもっと向いている方々がいらっしゃあいますよね?」

 

 そう言って、近衛理事長の左右に控えるガンドルフィーニ先生やら神多良木先生に視線を送ると、照れつつも頷く。

 

「わからんでもないが、風間君も彼に修行をつけてヤることはできんかのぉ」

「で、うまくすれば、僕の異能を修得させて魔法界に流す、ですか?」

「い、いやいやいや、そんな野心が全くないわけではないがの。逆に魔法界の常識を越えたところにある風間君の力が彼によい影響を与えることを期待しているんじゃよ」

 

 近衛理事長の瞳に嘘はない。

 しかし真実のすべてでもないことは事実だ。

 

「よい影響と言うよりも、魔法界で固まった常識を打ち壊して欲しい、と言っているように聞こえますが」

「その理解も間違っておらん」

「ずいぶんとぶっちゃけてますね」

「・・・風間君も察していると思うが、ネギ君は猛烈にゆがんだ環境で隔離されて育っておる。彼の修学した魔法の内容を確認して驚いたのじゃ。九割が攻撃魔法かその補助魔法、治療魔法など初歩の初歩しか学んでおらんかった」

「うっわー」

 

 声にでたのは俺だけだったが、ガンドル・神多良木両先生も顔を歪めていた。

 

「仲間が居て、その仲間が回復専門のバランスチームならまだいいが、本人は攻撃だけ、仲間はいない、こんな状態ではどうにもできん」

「そのための生徒、そのための仮契約、そう言う意図かと思ってましたが」

「それは上位組織(メガロ・メデンブリア)の意図じゃ。我々の意識ではない」

 

 強くはない。

 しかし確実な反論を加えてきた近衛理事長。

 まぁ理解しておこう。

 でも、だからこそ、という話もある。

 

「地元では教えてもらえなかった治療魔法とか、そういうのを集中的に魔法先生で教えてはいかがですか?」

 

「「「・・・」」」

 

 押し黙る三者。

 というか、はじめからセルピと明石教授は発言していない。

 色々と考えるところがあるのだろう。

 

「風間君、君の意見は実に色々と考えさせられた。また会合を持たせてほしいのじゃが、よいかの?」

「はい、では、何かありましたら携帯にメールください」

 

 軽く頭を下げて俺は部屋を出る。

 全力で走らなくても一時貫目には間に合う時間である。

 

 

 

 

 

「振られました、ね」

「そうじゃなぁ。しかし、長谷川くんの面倒を見てくれるのだけでもありがたいのぉ」

「最終的な決済や賠償などを背負うことになるかも知れませんよ、か。金銭や待遇で落とし前がつけられるならありがたい話だ」

「神多良木先生が落とし前とかいうと、本職みたいですよね」

 

 今まで黙っていた瀬留彦の言葉に苦笑の男たちであった。

 

 

 

 

 

 

 確かにネギ少年はシツコかった。

 朝夕ばかりではなく電話でたびたび、メールは一時間毎みたいな感じで、ほとんどストーカーと言って過言無いレベルであった。

 思わず裕奈に救援要請を出すと、逆に「なんで弟子にしないの?」と問われるほどであった。

 俺としては穏便に済ませたかったが、あまりにもささくれ立っていたので正直に話してしまった。

 

「もの凄く迷惑です。英雄とか英雄の息子とか、もう、平和な日本で暮らそうと考えている俺には全く縁のない方々じゃないですか。そんな人間と縁を結ぶ?自殺行為でございます」

「じゃぁ何で修学旅行の時には助けてくれたの? 徹底的に無視すればよかったんじゃないの? 今になって拒絶って、ちょっと無責任じゃないの?」

「修学旅行の時は、近衛理事長の依頼だったんだよ。それも大事にならない約束でね。でもあの事件だ。今後だって恐ろしいレベルで介入があるに決まってる。そんなことに巻き込まれるのはゴメン・・・だよ」

 

 麻帆良の結界に進入しようとした「何か」を関知したので収納したところ、人間ではなかった。

 いわゆる召還された系の悪魔と魔物。

 ほれほれ、やっぱ狙われてるじゃねーか。

 

「・・・たぶんフー兄ちゃんは色々と考えてくれてるんだと思うけど、それって考え過ぎじゃないの?」

「無為無策じゃ早々に詰まるクソゲーっていうのが現実世界だよ。想像できる対策を100%しても完全勝利はないってクズゲーだ。俺はそんなルールの中で最善を目指すつもりなんだ」

 

 それは身内の安全。

 それは仲間の安全。

 それは知り合いの平和。

 ひどく身勝手だけど、伸ばせる手の長さは一定なのだ。

 その手の中にいる身内ならまだしも、よく知らない子供の未来まで背負うことは出来ない。

 逆に未来も背負わず弟子入りなんかを認めることこそ無責任だといえるだろう。

 

「そっか、無責任じゃなくて、責任を負えないから引き受けない、そう言うことか」

「はっきり言えば、ネギ君は向こうの世界の『ランボ○二世』だ。看板として十分だし資質も十分、だけどそれは戦争の英雄としての看板だ」

 

 そう、戦争の英雄って言うのは、その名前だけでわかるほどの大量虐殺者の名前だ。十や百じゃきかない兵士を殺してる。もちろんネギ君はそんなことはしていないだろう。だが、その看板を利用されるということは、そう言う道に進むと言うことだ。

 

 万を越える敵兵を殺した英雄の息子の師匠、全く明るい未来が想像できない。

 

「・・・フー兄ちゃんなら、ネギ君を助けられる?」

「ネギ君と心中するつもりなら不可能じゃない。とはいえ美形ショタッ子と心中とか勘弁して欲しいんですけど」

 

 ぷっと笑う声がやっと聞こえた。

 それ以上に、裕奈の電話をスピーカーモードできいていた周辺女性の息づかいが聞こえる。

 たぶん、裕奈に俺の説得を依頼していたところで俺からの電話があったのだろう。

 

「んー、確かに高校生に背負わせる重さの話じゃない、か」

「逆に言うけどな、ゆーちゃん。中学生の君たちが青春の蠢動だけで背負うと人生を棒に振るレベルの重さだからな。ちゃんとみんなで話し合えよ」

 

 げっ、という声が重なって聞こえた。

 なんと裕奈の周りには五人もいやがった。

 さすがにそれはわからなかった。

 

「わかった。うちのクラスでネギ君の修行に協力させるとかフー兄ちゃんを籠絡するとか息巻いてる人たちが居るけど、ちゃんと言い聞かせるからね」

「たのむぞー」

 

 ちゃ、と電話を切って、ちーとあいてむぼっくすを確認すると、増えたのは悪魔一枠と魔物三枠。

 悪魔の方は中級悪魔。

 魔物の方はふつうのスライムだった。

 とりあえず、スライム種の天敵という称号がある俺にとってスライムは下僕なので、一匹ずつ引っ張り出すと、形のないスライムが三体ほど土下座っぽい姿勢になった。

 

「おたすけください」「いきててすみません」「ころすなららくにころしてください」

 

 どうやらこっちのスライムにも称号は通じるらしい。

 

「ころしゃしねーけど、配下になれ」

「「「よろこんでー」」」

 

 向こうのスライムの核を与えたところ、三体共に「スライム・ゴーレム」という種族に変化した。

 999倍になってる他の体も融合させることで確固たる芯のある体を形成し、ほぼ人間と同じ程度の密度と質量を手に入れたスライム組と同居するわけには行かなかったので魔物の手下としてエヴァに紹介したところ、結構喜んでくれた。

 服の着せがいがあって見た目もかわいい少女と言うことで、真祖の自分の配下としてふさわしいとかなんとか。

 

 で、悪魔の方は早々に消去。

 これで999倍の消滅ダメージが行ってるだろうから反省してくれたまえ。

 召還者にもダメージは行ってるだろうから、おもしろいことになるかも知れないけど。

 

「悪魔討伐者の称号が追加された、か」

 

 称号欄に久々の追加。

 さすがに999体の悪魔を討伐すれば称号もつくだろう、うん。

 おや、もう一つ追加、いや、変形か。

 

『神魔を倒せし者』

 

 神様だけだったしなぁ、うん。

 よく神敵にならなかったものだ。

 

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