ユーティリティ

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第五話

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 このあと、女子中学生組は近衛さんの実家にいくそうで、俺は車を返す必要があるので分かれた。

 

「じゃ、なんかあったら電話しろよ。ゆーちゃん」

「うん。、フー兄ちゃん」

 

 にっこりほほえむ裕奈に手を振って、俺は駐車場に行ったのだが、予想通りに車に傷が入っていた。

 騒動があればそう言うこともあるだろうと思っていたため、わざわざ「収納」のだが予想が当たってゲンナリである。

 周囲で観察するような視線がないことから、いたずらと言うよりも急いで出て行った人間がぶつけたという感じだろう。

 事故で届ければ間違いなくお咎め無い内容だが、面倒なのですり替える。

 

「よし」

 

 瞬間消えたワンボックスだったが、現れたときには傷一つ無い状態に復帰。

 安心して俺はレンタカーを返却するのであった。

 

 

 

 徒歩で宿泊中の宿まで戻り一風呂あびて、さて夕飯はどこに行くかと考えているところで電話が来た。

 電話番号は知らないものだったが、背筋が寒くなるようなイヤな予感が感じられる。

 

「・・・はい、風間です」

「突然の電話をすみません。綾瀬ともうします」

 

 本人の声は微妙に平坦だが、まるで暴風の中にいるかのように風を切る音が聞こえる。

 

「ああ、裕奈のクラスの子だね。こんな時間にどうしたんだい?」

「・・・じつは」

 

 何でも、女子中学生組が向かった近衛家、あの人数が行っても問題ない豪邸だったそうだが、その豪邸が何者かに襲撃されたのだという。

 襲撃者は不明、目的も不明。

 多くの人間が「石化」されているそうだ。

 

「信じてください、本当に石像にされたんです!」

「うん、信じる」

 

 信じるほか無い。

 話が進まんし。

 

「・・・ありがとうございます」

 

 ちょっと脱力するような空気だが、俺はその先を求めた。

 

「で、綾瀬君。君は僕に電話をした。それは僕に助けを求めている、でいいかな?」

「はい、裕奈から風間さんを頼るようにと」

「・・・ゆーちゃんは、今?」

「目の前でワタシをかばって、いしに・・・」

 

 ぐっとわき上がる何かを押さえ込んで、俺は息を整える。

 

「綾瀬君。僕ができることは幾つかしかない。近衛家で石化した人たちを守ること、綾瀬君を助けに行くこと、そして襲撃者をたたくこと。君は何を望む?」

 

 意地の悪いことだ。

 俺が俺のできることを行えば良いだけなのだ。

 しかし、彼女には自覚を持ってもらいたい。

 君がいました電話は、無関係の人間を非常識に巻き込んだ、そのトリガーなのだと。

 

「・・・!」

 

 彼女は頭がいいのだろう。

 瞬間それを悟ったようだ。

 

「・・・大変すみませんでした、風間さん。ワタシの境遇が異常だった所為で、無茶な話をしてしまいました」

「いやいい。ゆーちゃんが巻き込まれた時点で俺は介入を決めている。いま、ドコに介入しても大丈夫かを聞きたいんだ」

 

 そう、戦力集中しているところに増援で行っても意味はない。

 もう終わっている戦場に戦力を投入しても無駄すぎる。

 

「そうそう、俺は裕奈が思うような存在じゃないけど、君たちが思うほど無力じゃない。たとえ中東の戦場に放り込まれても鼻歌気分で帰ってこれると考えてくれ」

 

 こっちの戦力評価が無ければ判断もできない。

 だから基準を見せる。

 

「・・・はい」

 

 電話の向こうで彼女は結論した。

 自分の助けはクラスメイトに頼む。

 近衛家はすでに決着してしまった敗戦の地だ。

 ならば新たな戦力を一局集中すべきである、と。

 

「良い決断だ、綾瀬君」

 

 だから俺はその電話を終えた瞬間、夜の町に飛び出した。

 気配を探るとそこには、時代村にいたであろう少年少女や女性の気配を遠くに感じる。

 周囲の視線は気になるが、人気の少なくなったところにあわせて装備変更。

 飛天セットを身に纏い、俺は天高く舞い上がった。

 

 

 上空から見ると、眼下の戦場は三つ。

 一つは森の中で召還された鬼たちと中学生たちが戦っている。

 一つは眼下の湖の橋の上で、ネギ少年が獣人の少年と戦っている。

 そして最後の一つは、桜咲さんとゴスロリ少女が戦っており、その側に改造狩衣エロ女性が近衛さんを抱えて高笑い。

 みた感じ、足下の魔法陣でなんかしようと言うことらしい。

 つうわけで、「魔法陣」「収納」。

 

「・・・!!」

 

 いきなり魔法陣が起動中なのになくなって大きく驚いているエロ女性。

 白髪の少年も現れて周辺を見回しているが、さすがにこれだけ高高度になると気づかないだろう。

 つうか、3000フィート(約914m)は高すぎか。

 でも見つかるより良いわな。

 

 あ、シロゴス調子乗ってるな、うん、「刀収納」。

 

 いきなり獲物がなくなったシロゴスは、そのままもんどりうって地面を転がって停止した。

 うっわー、なんか大業決める瞬間に足を引っかけられたヒトみたいな感じになってしまった。

 こりゃぁ、なんつうか、そのぉ、すまんね。

 

 お、白髪少年、わからないものを割り切った風だな。

 俺自体はちょっかいを出す程度しかしていないので、直接的な戦力をつぶすことを考えたようだ。

 そりゃ甘い。

 というわけで・・・

 

「鉄の剣、抜刀」

 

 主神の力で「+」が文字バケを起こしている最強近接武器を構えて、垂直方向から俺はチャージをかますのであった。

 

「あ、そうだ、ついでに「式返し」「解放」」

 

 あの式返しを解放したところ、エロ女性はそのまま倒れ、近衛さんは投げ出されてしまったが、まぁけがはないだろう。

 

 さぁ、白髪少年よ、何処かにいる誰かの操り人形よ、主神すら切り裂くバグ装備の露に消えるが良い。

 

 

 

 

 俺の介入はぎりぎりだった。

 というかちょっと遊びすぎだった模様。

 

 すでに回復しているが、あの白髪少年から受けた魔法の影響で石化進行中だったり、復活したシロゴスだったがメガネが全損した影響ですべての人間に切りかかるキリングマシーンになっていたり、召還された鬼を迎撃していた女子中学生組の中でノーパン剣士が生まれてしまったりとまぁパニック。

 とりあえず、救援で呼ばれたというエヴァンジェリンさんは回復魔法が苦手だというので、致し方なくエリキサーを飲ませたところ、戦闘で傷ついたけがまで治るという追加現象まで発現したのはご愛敬。

 

「しっかし、あの白髪人形は何者なんだ?」

「人形、ですか?」

「うん、あいつの体は高度な義体だよ。情報か霊体か精霊かはしらんが、本体は別にいるな」

 

 元気になったネギ君は、自分が歯の立たなかった相手を打ちのめしたという事で俺を非常に尊敬しているらしい。

 テレビヒーローを間近でみる子供の目をしてやがる。

 

「・・・術式を強化して体が崩壊するほどの魔力を発揮できる存在なんて何者かすらわかりません」

「そりゃそうだ。自壊してまで守りたいものがあるって言うならまだしも、ありゃ反射行動だろうしな」

 

 そう、自動行動。

 このへんも人形っぽい。

 俺の知ってる「あれ」のほうがまだ人間っぽい。

 

「でも、びっくりしました。風間さんも魔法使いだったんですね!」

「え? 俺魔法使いじゃないぞ」

「そ、そうなんですか? でもものすごいアーティファクト持ってますし」

「アーティファクトってのがどんな意味なのかわからんが、俺の「これ」は修行の成果だぞ」

 

 真っ白になってゆくネギ少年はさておいて、俺はこの場所、近衛家の主に挨拶をすることにした。

 どうやら目を覚ました後でいろいろと説明を受けたようだ。

 

「このほどは、救援をしていただいたそうで感謝いたします。この近衛の長をしている近衛詠春ともうします」

「いいえ。こちらも身内が巻き込まれたから手を出しただけですので」

「なおさら感謝と、そして謝罪を。秘匿されるべき力を、身内のお嬢さんも知らなかった力を晒させてしまったのは此方の落ち度。いかなようにも謝罪させていただきます」

 

 もう、土下座レベルの謝罪であった。

 聞けば、今回の修学旅行でネギ君を麻帆良からの親善大使みたいな感じで送り出して、近衛家、関西との交流の窓口を開くみたいな流れであったという。

 おいおい、それって、不穏分子のあぶり出しまで混ぜてるのかよ、と内心泡だったが、ここまで事態が大きくなったのも白髪少年の介入があったためらしい。

 あのエロ女性だけでは、ここまで大きく話を広げる実力はないとか。

 だから逆に事態を利用されたのだろうと言う。

 

「とはいえ、起こした事件の大きさを考えれば、処分はしっかりします。・・・結果はお知らせした方がいいですか?」

「いいえ、以降の人生に関わりのない人間がどうなろうと知ったことではありませんし、知ろうという気もありません」

 

 冷たい話だが、裕奈を石化に巻き込んで無罪放免など許せるはずもない。

 まぁ石化した方々はエリキサーを霧吹きで噴霧する事でサクサク直ってしまいましたが。

 それをみて、是非とも譲ってほしいと泣きついてきたネギ少年がいたり居なかったりしたが、それはそれ。

 

「あなたの力は強大です。すでに晒された力を目当てに動く人間もいるでしょう。できる限り我々も防ぎますが、できれば、義父に相談なさることをおすすめします」

「で、その対価に利用されるですか? ぞっとしませんね」

「いいえ、今回の事件に巻き込まれたこと、そして解決に導いたことを対価に引き出せる話だと思います。ワタシの方からもそう進言しましょう」

 

 にっこりほほえむ詠春どの。

 なんつうか苦労人の顔なんだよなぁ。

 

 とかなんとか言ってるが、今回の問題は俺の問題だけではない。

 ネギ君を筆頭にした魔法使いたちの手落ちによって、裕奈たちのクラスの半分以上の生徒に魔法のことが知られてしまったのだ。

 これには魔法使い側も困っていて、すべては麻帆良に帰ってから、という先送り+口止めろする事になったそうだ。

 加えて、俺自身が異能持ちであると知られたので、それなりに警戒心をもたれている。

 何が目的で女子中学修学旅行に乱入したのかだとかなんだとか。

 これについては理事長から「自分の依頼である」との声明がでているので矛は納められたが、これから先の同行は拒絶されている。

 

 まぁあとはゆっくり帰るだけだから良いか、と言う俺であったが、なぜか俺に裕奈のクラスの女子が二人ついてくることになってしまった。

 その名も「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」「絡繰茶々丸」の二名。

 何でも、エヴァンジェリンさんは麻帆良が用意した応援人員で、絡繰さんはその従者だという。

 で、本来は麻帆良から出られない呪いをかけられているそうだが、今回は応援だと言うことで一時的に無効化されているという。

 せっかくの機会なので、外に出たからには全力観光したいと言う話になり、俺が連れ帰る約束ならということが認められ、ほぼ一日京都を観光+帰り道は道すがらの日本観光という行程での帰京となることになった。

 見たところ、その呪いも「収納」出来そうなので、周辺情報が調整できれば俺が施術しても良いかなと思わなくもない。

 

「うむ、風太郎。貴様は見所があるな。望むなら私の配下に加えてやっても良いぞ」

「あー、一応一般人を自称してるんで」

「ふふふ、自称と自分で認めているという事は、いかに異常か自覚しているという事だな?」

 

 絡繰さんと俺でエヴァンジェリンさんを挟んで歩くと、年の離れた兄弟姉妹か若い夫婦と子供かって感じに見えなくもない。

 

「あー、さすがに自分の異能やら精神を考えれば、そうそう全うじゃないとは自覚しているぞ」

 

 何しろ向こうで、気が遠くなるどころかすり切れるほど時間を過ごしている。

 一般人という感覚はエミュレート出来ても、そのものになれるはずもない。

 そう言う意味では、自称吸血姫三桁年齢の彼女より年上なんだよねぇ。

 

「うむうむ、まぁ、貴様のような人間を魔法使いどもが受け入れられるはずもない。自然、私の領域に来るだろうから待っているぞ」

 

 軽やかに笑う悪役。

 正直、彼女側の人間である自覚はある。

 なにしろ、この身は何度も神を殺した存在だし。

 神敵寸前の冒険者だんんて、あの世界にも居なかった。

 

「というわけで、京都から一度北陸方面に向かって富山、そこから南下して白川郷、諏訪、で麻帆良に移動って感じなんだけど、それでいいかい?」

「うむ、京都、富山、白川郷、贅沢を言えば立山黒部アルペンルートなども興味があるが、まぁいい。時間を考えれば妥当だろう」

 

 思いの外日本の観光地に詳しいエヴァンジェリンさんだった。

 

 

 

 

 

 麻帆良に帰ってくる頃には、エヴァ・フーと呼び合うほどになっており、結構仲良くなっていた。

 当初はサイドカー旅行というものが貧乏くさいと言っていたエヴァであったが、羨望や嫉妬の視線を受け続けて色々と満足してしまったようだ。

 やはり女の子、色々とある。

 

「では、フー。何か困ったことがあれば相談に乗ってヤるからな」

「ありがとう、エヴァ」

「では、風間様。失礼します」

 

 彼女の家の前まで送った俺だったが、これからまた駐車登録されている某店まで走らなければならない。

 なんとも面倒な話だが、このクラウザードマーニという車とつき合うための最低限の礼儀みたいなものだから仕方ない。

 

「さってと、今俺を包囲しているみなさん。逃げも隠れもしないから、このバイクを格納させに行かせてもらえませんかね?」

 

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