ユーティリティ

ユーティリティ

第四話

トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > ふーにまほら > 第四話




 

 とりあえず、修学旅行前日。

 俺がバイクで一人旅という噂を聞いた裕奈が、そのバイクを見たいと言い出した。

 まぁ、ETCも追加しなければならないので、一度学園に持ち込む予定だったから見せるのはいいのだが、と持ち込んだ麻帆良女子中学の校舎側には人だかりができていた。

 集まってきたのは裕奈達、ではなく、見知った男子教師やら見知らぬ男性教員やら。

 

「うわぁ、クラウザードマーニなんてのを初めて生でみましたよ!!」

「かっこいいわぁ」

「すげぇ、まじ!!」

「ちょっと乗せてもらえないかなぁ、助手席で良いから」

 

 などなど、ものすごい盛り上がりになってしまった。

 

「なぁ、風間さん。こんなバイクドコで手に入れたんだ?」

 

 あまりはなしたことのない長谷川さんが、ものすごい胡散臭いものを見るような顔でこっちを見てる。

 まぁ心事がたいのは理解できるわな。

 とはいえ、これは値と汗と涙の結晶なのです、主に動的酒樽の、であるが。

 そう、事故車のクラウザーを世界のスクラップ置き場から五台分確保して、チートアイテムボックスで増量して使える部品を再生しつつ組み上げて、なんとか完成車体を10台ほど作り上げたのだ。

 で、その中のネタ車体を普段降り回しているのだ。

 車体の多くの部分を魔法金属に置き換えることで、重量をそのままに剛性がアップしてるとか、制動距離が従来の1/20だとか、もういろいろチート。

 とか全部話すのも何だったので、基礎となる事故車をフルスクラッチで再生させたと説明すると、今度は工学系女子が前に出て、あーでもないこーでもないと盛り上がり始めた。

 

「すごいネ、この接合部分。痕は残てルが、剛性に寄与しテルね!」

「超さん、超さん! このナビ、オリジナルOSですよ!!」

「ナンだとぉ! ほんとだ、既存のOSじゃないネ!」

 

 あー、それは現行のナビだと面倒なので、精霊石を核にした妖精式ナビなのだが、さすがにそのままだと世間がうるさいので、それっぽくしてるんだ、うん。

 

「・・・超さん、これ、ナビというよりもナビ機能がある人工知能ですよ!!」

「・・・はぁぁぁぁ!?」

 

 驚きでがぶりよりの二人がそろそろ分解を始めそうだったので、ハリセンを振り回しておいた。

 

「中身が知りたいからって勝手に他人のものを分解するなんて、ドコの半島人だって話なんだけど?」

「「すみませんでした」」

 

 とまぁ、そのへんはさておき、希望者を助手席に乗せてその辺を集会したところ、是非とも今度ドライブデートに連れて行けと言う希望者が続出。

 なんとも困った話だ。

 

「ところで、風間さん」

「なんだい、長谷川さん」

 

 ぐっと何かを耐えるような表情をした後で、こんな風に聞いてきた。

 

「これだけの仕上げの力があれば、現行の道路交通法に引っかからないように、いろんな形のバイクや車が作れるんじゃないですか?」

 

 とても回りくどい言い方だが、何がいいたいかはよくわかる。

 なにしろ、いろいろと「作った」から。

 というわけで、携帯の写真になるが試作品の何台かを彼女に見せることにした。

 

「たとえば、こういうののこと?」

「・・・はぁ!? まじか、まじかよ!!」

 

 国民的人気RPGのゲーム内で、主人公の一人が乗っていた魔導式バイクや、世界的人気SFアニメで主人公の一人が乗っていた電気バイクっぽいものとか。

 

「なになに、長谷川・・・って、これマジに作ったんですか!?」

「うわぁ、まじすごいんですけどぉ!!」

「ワタシバイクとかよくわからないけど、これは乗りたいわ」

「バイクの免許取ったら乗せてください、風間さん!!」

 

 わやわやと大盛り上がり。

 ネタバイクの数々は一品ものなので、転けて壊したら高いぞ~、だから普段乗ってないんだよね~、みたいな話をすると一応引いてくれた。

 

 が

 

「風間さん、是非とも是非とも、今度の即売会で『これ』のコスプレしますんで、できれば協力してください!!」

 

 腐女子の子ががっつり食いついてきたりなんかする。

 

「展示しちゃうと、売ってくれとか譲ってくれとか量産ベースにするからヨコセとか言われるでしょ?正直面倒だから拒否」

「ぐはぁぁぁぁ、おしすぎるぅぅぅぅ!!」

 

 とはいえそれもかわいそうなので、中身のないモックをテストでくんだので、そっちは貸しても良いという話をしておいた。

 

 ただ

 

「搬入搬出はそっちでやること、良いかな?」

「はい、感謝感激です!!」

 

 びしっと敬礼の腐女子の子。

 報道部の子も何かいいたそうだが、面倒は拒否という姿勢を見ていろいろと考えがあるようだ。

 

「・・・あー、風間君。僕は大型特殊と限定解除を持ってるんだがぁ」

「へいへい、高畑先生。運転したいんでしょ? 普通車が通れるところを想定して走ってくださいね?」

「ありがとう!」

 

 きゅるん、とスターターを回した高畑先生が走り出す前に標準装備を追加することにした。

 

「ほれ、神楽坂さん、積極的にゴー」

「え、ええ?」

 

 そういいながらも、ひょいっと助手席に乗ってみせる神楽坂さん。

 

「何しろサイドカーですから、横に誰かいたほうがいい緊張になりますよ」

「そ、そうかい?」

 

 すこしひきつった顔だが、男の趣味には女の影が必要なのです。

 

「だから、高畑先生の男の趣味の時間を観察すべし、神楽坂さん」

「はい、ありがとうございます、風間さん」

 

 なにげに神楽坂さんの恋の応援をもこなした俺の評価は高いものとなり、殆どの3-A生徒とアドレス交換が完了してしまったのでした。

 その中でも・・・

 

「(長谷川さん、わりとマジで相談事があるとか速攻でメールきたけど、だいじょうぶかいな?)」

 

 相談は修学旅行の後、本格的に悩んでいるらしいので、こっちもいろいろと準備しておこうと思うのであった。

 

 

 

 それが起きたのは夜。

 嵐山近くのビジネスホテルに泊まっていた俺の脳裏に妙なメッセージが流れたのだ。

 

『フィールド型簡易結界に抵抗しました』

 

 何が起きた?

 思わず周辺警戒するが、住民に変化はない。

 イヤ違うな、「変化がない」状態に固定されている、だ。

 家の外で何が起きようとも「変化がない」ものと認識させる、そういう結界が空間的に展開されたという事だ。

 つまり。

 

「(誰かが何かをやっている。それも誰にも知られたくない、と)」

 

 とはいえ、それは「何か」であって「何が」かはわからない。

 わからないんだけど・・・。

 

「とりあえず、面倒なので関わりません」

 

 布団をかぶって睡眠をとることにした俺であった。

 

 翌日、裕奈たちが奈良方面にいくというので、京都市内を観光することにした。

 有名どころを網羅するために、宿にバイクをとめておいて足で移動したのだが、結構な距離を歩いた自覚がある。

 

 途中で移動用に自転車を「引っ張り出した」のは内緒だ。

 

 この京都で大きな不満がある事としては、適当な食事をする場所が無いことだろう。

 皆無というわけではないけれど、「適当」なのがない。

 軽食を提供する喫茶店は高いし、ちゃんと食事をするとなるともっと高い。

 チェーン店は皆無ではないけど、幹線道路まででないとない。

 つまり観光生活範囲には無いといいきれる。

 とはいえ、自転車という中距離移動手段を得ると、昼を通して幹線道路を横断することで食事のタイミングも作れるのだが、朝夕がつらい。

 なんとも悩ましい話だ。

 さすがに三食中二食がコンビニでは気が滅入る。

 逆にウイークリーマンションを郊外に借りて活動するというプランもないわけではないが、それはそれで腰が据わりすぎていてイヤだ。

 あと、バイクを停めるスペースもないし。

 もちろん、短期の話だから無視できるけど。

 

「・・・お、ゆーちゃんも楽しんでるな」

 

 携帯に送られてきた写真から、奈良公演でシカと戯れているのが楽しそうに見える。

 というかネギ君の顔色が悪い。

 何か起きたのか?

 

 

 気になったので女子中学の宿舎によると、ネギ君に紹介されたのだが・・・

 

「か、風間さん。僕は紳士として、しんしとしてぇぇぇ」

 

 何でも、クラスの生徒から告白されたという。

 かなり重量級の告白だったらしく大パニックで、真摯に結婚を考えるべきかと初対面ともいえるレベルでしか会っていない俺に相談してきたほど。

 

「ネギ君、落ち着いて」

「ふあいぃぃぃぃ」

 

 むにむにとほっぺをいじって俺が癒されていると、その空気に同期してか、ネギ君も落ち着いてきた。

 

「告白されたからって恋人同士にならなくちゃいけないわけではない。君は教師で彼女は生徒なんだろ?」

「は、はい」

 

 だったら職種による制限がある。

 教師が生徒に手を出すなんて論外だし、彼女は来年進学の大切な時期だ。

 今はお互いの距離感を正しいものにするための時間をとるためのモラトリアムだ。

 

「・・・きょり、ですか?」

「そう、距離」

 

 対人距離というのは大切だ。

 仲がいい人とは縮めたいし、仲が悪い人とは距離を離したい。

 憎らしい人とは視線も合わせたくないし、愛しい人とはべったりくっついてもまだ足りない。

 

「・・・はい、なんとなくわかります」

「で、告白した彼女との距離感は?」

「わかりません」

「だったらその距離がどんなものか、ちゃんと見定めるんだよ」

 

 ぽんぽん頭をなでると、徐々にネギ君の顔から緊張がほぐれた。

 

「・・・はい、ありがとうございます。風間さん」

 

 にこやかな笑みで手を振りながら走ってゆく少年を見送って、俺の隣に立っている裕奈を見てみる。

 

「つう感じで良かったかい、ゆーちゃんや」

「いっやぁ~見事な手際で感心感心」

 

 ネギ君のパニック状態解除を養成してきた裕奈は、うれしそうにウンウン頷いていた。

 

「さすが元男の子。勘所をついたナイスフォロー」

「アホが。ゆーちゃんたちが告白の後押しをしたから気まずかっただけだろう?」

「えへへへへ」

 

 気まずけに視線を逸らした裕奈をぽんぽんしつつ、俺は部屋の端っこで監視のために居た新田先生に頭を下げて用件が終了したことを告げて立ち去ることにした。

 

「すまんね、風間君。我々では説教になってしまうのでね。君のように親身に対話ができんのだよ」

「いいえ、こういうことは適材適所と言うことで」

 

 しっかり握手した後、新田先生に夕食をとっていかないかと誘われたが、丁重にお断りして宿を出た。

 なにしろ今日はちょっと豪華なところで夕食なのです。

 

 

 

 昨日に引き続き京都観光中に裕奈と合流した。

 何でも、ナンパ男がうるさくてたまらないのだとか。

 裕奈の班は「裕奈」「椎名」「柿崎」「大河内」「和泉」「佐々木」。

 さすがにこの人数とバイクは合わないので、ワンボックスをレンタルした。

 基本、免許取得して一年未満なのでレンタルも面倒なのだが、買うのもまずいので仕方ない。

 

「うっわー、車で移動とかいいんですかぁ?」

「ちょっとゴージャス感がありますね」

「んー、この人数だから仕方ないけど、もうちょっと良いくるまないんですかねぇ?」

 

 とかなんとか、誰の発言かはおいておこう。

 それはさておき、車で直接乗り付ける観光というのは女子中学生には新鮮だったらしく、嵐山まで足を延ばした自由自在観光は、妙な電話で中断されることになった。

 

「・・・え、それどういう事?」

 

 それは柿崎の携帯電話にかかってきた友人からの電話。

 綾瀬からの電話で、時代村に観光に行った集団が正体不明の存在に襲われているというのだ。

 その中心にはネギ君が居るという。

 今の段階では喧嘩を売られているだけだが、腕ずくの騒ぎになれば修学旅行の中止すら視野にはいるということで、騒ぎを納める為の応援を集めているのだという。

 

 というか、学校の先生呼べや、と思わなくもない。

 女子中学生を何人集めても被害者が増えるだけだ。

 

「ふー兄ちゃん・・・」

「あー、わかったよ、ゆーちゃん」

 

 俺はハンドルを切り、時代村へと進路を変更した。

 

「えーっと、裕奈。風間さんがいくら頼りになるからって、腕っ節までは・・・」

「ふっふっふ~、うちのフー兄ちゃんは、腕っ節も万能です」

「「「「えええ、まじー!?」」」」

 

 まぁ、近所の不良程度には負けませんが、それ以上にはチート必須です。

 

 

 

 時代村に到着したとき、まだ事態は起きていなかった。

 念のために車を一度「収納」してから入場したのだが、どうも観光空気を引きずっていた女子中学生組が貸衣装などに走ってしまって何とも。

 まだ余裕があるかなぁ、と首を傾げているところで、会場内に悲鳴が響いた。

 ああ、何か始まったな、と理解した俺は、着替え中の裕奈に一声駆けて悲鳴の方向へ走った。

 

 到着した先は、時代劇の撮影でも使うような橋を中心にした広場で、裕奈のクラスメイトたちに襲いかかる魔物、というかクリーチャーというか、まぁ小猿が大騒ぎといった感じ。

 鑑定結果「式紙」と出てきたので、ヒトゴミを挟んで「収納」すると、「おお」と歓声が観客からあがった。

 改造エロ狩衣姿の女が、周囲を見回してパニックになっているのだが、なぜか騒ぎの中心にいたネギ君まで消えた。

 おや、と首を傾げると気づく。

 なんとアイテムボックスの中にいました。

 どうやら彼も式紙だったらしい。

 説明も面倒なので一気に消したところ、改造エロ狩衣姿の女が急に胸を押さえて倒れた。

 こりゃまずいと言うことで、地面に接触する前に抱き上げて、広場の端まで抱えてゆく。

 今まで剣戟を繰り返していた連中も、なんか魔法っぽいものを繰り出していた連中も心配そうにこちらを見ており、どうにも閉まらない空気であった。

 

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

「・・・ぐぅ」

 

 苦しそう胸を押さえる姿に違和感があったのでさらに鑑定をしてみると・・・

 

 身体:呪詛汚染(過剰式返し)

 

 とかでてきた。

 ・・・ああああ、そうか、制御できる限界まで式紙を出していたが、それを999倍にして返されたんだ。

 そりゃ苦しかろう。

 いやはや、そりゃ、まいった。

 俺のせいか、うん。

 

 俺は、一応ビジュアル的な意味も込めて、薬師如来真言を唱えながら彼女の胸に軽く手をおく。

 もちろん「式返し」を収納するためのもので、真言二回目で収納したところ、彼女の表情は安らかになった。

 

「この女性の身内の方は?」

 

 俺の言葉に、心配そうにこちらを見ていたシロゴスめがねの少女が手を挙げた。

 

「心臓に強い負荷がかかっていました。気休めですが一時的に楽にできましたので、無理をさせずに休ませてあげてください」

「は、はいぃ・・・」

 

 こくこくと頷く少女に女性を預けつつ、魔法を連発していた白髪の少年をみる。

 

「君も男だろう。少女ばかりではなく、君も手伝いなさい」

 

 結構強気でいった影響か、小さく頷いた少年が少女と共に女性を抱えて移動していった。

 この姿を見て観客は拍手で盛り上がり、握手を求められたのであった。

 

 

 

 この騒ぎに間に合わなかった裕奈は悔しがったが、真言を唱える姿を撮影していた朝倉さんからデータを見せられて、感動しきりの裕奈。

 

「なになに、フー兄ちゃんって、魔法使いなの!?」

「ちゃうちゃう。あれは密教の薬師如来真言ってもの。知ってるヒトが世術して、知ってる人が受けると効果が出るかもってだけのちからだよ」

「「「「「へーーーー」」」」」

 

 その場で呪文や印、九字の切り方などを説明すると、なぜかふつうの観光客まで聞き入って、さらには国外の観光客が解説を求めてきたりして、もうグダグダ。

 そんななか、なぜか桜咲さんと神楽坂さんが俺をじっと見ているのが怖い。

 まさかこの「厨弐病め」とか蔑んでいるのだろうか?

 

「(風間さん、一切魔力を感じませんでしたが、それでも真言に力があるのは事実。どう言う方なんでしょう?)」

「(・・・風間さんも魔法使いなのかしら?)」

 

 ともあれ、大騒ぎは収まったという事で、俺は裕奈たちと共に時代村を見学したのだった。

 

 ただ、その見学中、なぜか外国人観光客が同行してきて通訳をさせられたのが何とも。

 USA、UKは英語でいいんだけど、ドイツ・フランスって三か国語で言い直すのって面倒なんですけど。

 

 

拍手送信フォーム


昨日は7回頂きました。これまでに260回の拍手を頂いています。

投票フォーム

OU:3人
UA:17,457人

文字数は6,330文字

感想・コメント登録

  • 感想・コメントを登録するにはログインしてください。