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藍の捕獲 作者:赤城千
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白の疑惑

(……俺の大切なものは戻らない……)
(……これからも俺は人を傷つけるだろう……)
(……こいつもいつまで無事かわからない……)
(……でも、もう引き返せない……)



 木の葉が日の光を遮り夜の様に暗い森の中。
 俺達のすぐそばで何人かの男達が話している。
「……いないな、どこへ行った?……」
「……クソッ逃げ足の速い奴だ……」
 やがてガサガサという音と共に彼らは去って行った。
「……もう大丈夫か?」
 俺は辺りを見回しながら立ち上がる。
 続いて晴橙も立ち上がった。
「ふぅー危なかったな、眞藍」
「すまない、俺のせいで」
「なーに言ってんだ、お前を連れ出したのは俺だろ?」
 そう言って彼は笑顔をみせる。
 本当によく笑う男だ。
「それにお前と一緒にいる為ならそんなの大した事ねーよ」
 ……そしてきっとバカだ。
 俺はそのバカの額を指で弾いた。
「ぃだっ!?」
「そういう台詞は女の為にとっておけ」
「でも嘘はついてないぜ?」
 涙目でまだそんな事を言うので俺は吹き出してしまった。
 すると彼は突然俺の頭を撫で、
「やっと笑った」
 と言う。
 反射的に俺は何かを思った。

 それとほぼ同時に近くの木が彼の方に倒れた。
「っ危ない!」
 思わず叫ぶ。
 だが木は途中で倒れる方向を変え彼に掠りもしなかった。
「ん?何が?」
「……いや」



 ここ数週間彼といて、気付いた事がある。
 それは、彼がとても運のいい奴だという事だった。
 俺がもたらす不運を無効にしてしまう程に。
『これは貴方のせいではないわ、私がツイてないだけ』
 春里の言葉が蘇る。
 晴橙は運が良いから無事だというのなら。
 もし、今まで俺の周りで不運な目にあった人達が。
 もし、ただ人より不運なだけだったら。
 そういう人を集めてしまうのが俺の不運だったら……。
「……馬鹿馬鹿しいな」
 だとしたらどうだというんだ。
 そうだった所で今と何も変わらない。



 数日後、俺達は小さくのどかな村にたどり着いた。
「こんな所には追っ手もこねぇだろ」
「そうだな……」
「じゃあ寝場所調達して来っからそこで休んでな」
「え……?」
 道端の岩を指して彼は言った。
「一昨日から寝もせずに歩き通しで疲れてんだろ?」
「それはお前も同じだ」
「俺の方が体力ある。いーから休んどけよ」
 彼はそういうなりさっさとどこかへ行ってしまった。
 俺は仕方なく言われた通り岩に腰を降ろす。
 するとじわじわと疲労感が体中に広がった。
 自分ではわからなかったが疲れていたらしい。
「……化け物でも、疲れと眠気は来るんだな……」
 寝不足にのどかな雰囲気も手伝い俺は眠りに落ちた。



「っはは!なんてツイてるんだろう、僕はァ!」
「……!?」
 誰かの声と口を覆う皮膚の感触に俺は目を覚ました。
「母さんの所に帰る途中父親の家も寄っただけなのにィ!」
 突然現れて一体何なんだ!?こいつは!
「運が悪かったな、化け物ォ!今は一人かァ?」
 化け物。
 ……ということは追っ手か?
「奴とはまだ一緒に旅してんのかァ?あの親殺しとは、さ」
 親殺し……?
 こいつは何を言っているんだ?
「あ、知らないんだァ?奴……晴橙が村焼いた話も?」
 そんな馬鹿な事があるか。
 だって彼はあんなにも……。
「あんなにも潔白無実~って顔してなかなかやるよなァ?」
 こいつの言うことは全て嘘に違いない。
「お前も聞いたことあるだろォ?九年前の村が全焼事件」
 九年前……確かにそんな事件がちょうどこの辺りであった。
 俺の近所の人は怖がって火は暫く使わない様にしていた。
「その火の出所がとある牢屋だったんだけどさァ」
 牢屋……?
「その時そこに親殺して捕まってたのさ、奴はァ」
 ……!
「親殺しについては書類も残ってるしィ嘘じゃな……」
「嘘だっ!」
 俺はそいつの手を振り払って叫んだ。
「認めない?じゃあまだ奴に着いてくつもりかァ?」
「……当然だ」
 そうは言ったものの彼を信じ続ける自信はなかった。
 信じ続けるにはあまりにも彼の事を知らな過ぎる。
「へェ、僕ならまず逃げるけどなァ?正気じゃないね」
「……」
「……気が変わった。化け物、今回は見逃してやるよォ」
 そいつはそう言って俺から離れる。
「これからどうなるのか見物だなァ、おい」
「……待っ」
 振り返った時そこには誰もいなかった。



「待たせたな、眞藍」
「晴橙……」
「どうした?俺のいねー間になんかあったんか?」
「いや……なぁ、お前の生まれ故郷はどこなんだ?」
「……この近くだが今はもうねぇな。九年前に焼けた」
「そうか……それは、……気の毒に」
 この近くで九年前焼けてなくなった村はどこだろう。
「どうしたんだ、突然?夢でも見てたのか?」
 彼は笑う。
 その笑顔は前とは変わらない。



 なのに、どうして違って見えるんだろう?
 どうしてこんなに怖いんだろう?
 一体俺は何を怖がっているんだろう?
 俺に出て来いと言ってくれたのに。
 俺の目の色が好きだと言ってくれたのに。

 彼は何が起きても不幸せにならないとも言ってくれた。
 だけどあの自信はどこから来てたんだろう?
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