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藍の捕獲 作者:赤城千
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藍の捕獲

(……神様……)
(……ああ、神様……)
(……いるならどうか、答えてください……)
(何故俺は……)



 ――眞藍の周りにいると悪いことが起きる。
 ある時から俺にそんな噂がたち始めた。
 噂はすぐこの小さな村中に知れ渡った。
 そして村の人達は皆揃ってやっぱり、と頷いた。
 俺は目の色が変わっていて元から異端視されていたのだ。
 友人がそんなわけがないと俺を庇った。
 しかし噂されている“悪いこと”がその時起きる。
 その友人を突然暴れ出した馬が蹴ったのだ。
 幸いにも命は助かったが彼はもう俺の味方ではなかった。
 そんな事が幾度か起きた。

 そんな俺に唯一味方し続けたのは春里という女だった。
 彼女は“悪いこと”のせいで体中に怪我を負っていた。
 俺から離れるように言ったが聞かなかったからだ。
「これは貴方のせいではないわ、私がツイてないだけ」
 それなのに彼女はそう言う。
 そしてそういわれると俺は少し嬉しくもなった。
 しかしその気持ちに浸る間もなく“悪いこと”が起きる。
 そしてまた、俺は彼女に忠告する。
 それを毎日のように繰り返していた。


「私がいなくなっても貴方は貴方で幸せになると誓って」
 ある日彼女はそう言った。
「わかった」
 ついに自分から離れてくれるのかと思った。
「生きているものはいつ死ぬかわからないから」
「そんな死ぬような事言うなよ」
 俺がそう言うと彼女は曖昧に頷いた。
「そうね……」


 その翌日、彼女は都に用事があると言って朝早く出掛けた。
 夜になっても彼女は戻って来なかった。
 やっぱり出て行ったのだ。
「ああこれでやっと一人だ……」
 静かな家が俺一人にとっては少し大きかった。


 寝ようとすると物音が聞こえた。
 続いて戸を叩く音がする。
 俺は用心しながら少しだけ戸を開けた。
「こんな夜中に誰だ?」
 そこには、洋装の男が立っていた。
「私、都から来た者ですが眞藍さんですか」
「そうだが」
「実は春里さんについてお話が……」
「彼女に何かあったのか!?」
 思わず戸を大きく開き身を乗り出した。
 しまった、と思った時にはもう遅く外に引きずり出される。
 そして縄で縛られ口を覆われてつづらか何かに入れられた。
「抵抗すればお前と春里という女の命はない」
「……!」
 彼女も捕まったのだろうか。
「さっさと運べ!それから、そいつに話し掛けるなよ!」
「はっ」
 その声と共に俺が入っているつづらが何かに乗せられる。
 そしてすぐそれは動き出した。


 あまり状況がわからないまま運ばれていく。
 朝日がどこかから差し込んでいるらしく明るくなってきた。
 変な体勢でずっといたので体中が痛い。
 と、今までより酷い揺れを感じ乗っている物が止まった。
 それから今度は人の手で運ばれる。
 しばらくしてそれも止まり何かを開錠する音が聞こえる。
 そして俺はつづらから放り投げられた。
 見ればそこは牢屋のようだった。
 俺を運んで来たやつらがここの扉を閉め、去って行く。
「おい!ちょっと待て!」
 俺は叫んだがまるで聞こうとはしない。
「待ってくれ!春里は無事なのかーっ!」
 やはり答えは無かった。


 恐らく三日程たったころ何か声が聞こえた。
「ここは危ないからお戻り下さい」
「危ない?それは僕を馬鹿にしてるの?」
「め、滅相もございません」
「じゃ、通るよ」
 その声の持ち主がこちらへ向かって来る。
 現れたのは俺よりも若い男だった。
 後ろに一人男を従えている。
「やぁこんにちは、化け物」
「なっ……!」
「あれ、何、自分が化け物ってわかってないの?」
 そいつは馬鹿にしたように笑って言った。
「君の生命力は明らかに人外だろ?今君は空腹か?」
「……?」
 そういえば三日間も飲まず食わずなのになんともない。
「ね?それに君は皆を不幸にする」
「それは……」
「ねぇ、君は幸せになっちゃいけない存在なんだよ」
「……」
「だから僕は君に絶望を与えて不幸にしてあげる」
 そいつは小さく微笑んだ。
「高村、アレを」
「畏まりました」
 後ろの男が何かを取りに行く。
 嫌な予感がした。
「おい……アレってなんだ」
「見たらわかるよ」
 男が大きな袋を持って戻ってくる。
「見せてやって」
 そう言われ袋の口を開く。
 中から覗いたのは。
「っあ、ああ、春里……」
 春里の死体だった。
「彼女が死んだのは君のせいだよ」
「俺の……」
「彼女は君に幸せを与えるから殺された」
「……うぅ」
「君が……お前が幸せになると皆が不幸になる」
「……」
「だから永遠にそこにいろ、化け物」


 俺は全く動けない。
 頭も上手く働かなかい。
 それは絶望の中で眠りについているような状態だった。


 日が上り日が落ちる。
 そしてまた、日が上る。
 その繰り返しをうっすらと感じながら俺は眠り続けた。
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