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藍の捕獲 作者:赤城千
2/5

橙の笑顔

(何故……何故俺は……)
(周りの人……大切な人に危害を……)
(もう、イヤだ……)



 日が上り日が落ちる。
 そしてまた、日が上る。
 その繰り返しをうっすらと感じながら俺は眠り続ける。
 たまに意識が浮かび上がってきた時に聞こえるのは心の声。

『君のせいだよ』

 そんなのは昔からわかっていたはずだ。
 十分知っていたはずだ。
 なのに。
 何故こんなにも胸が痛い?
 ……それは何故なのか本当はわかっている。
 それは彼女が……。
 そこで俺の思考は停止する。
 そんな意味のない日々を送っていた。



「――――」
「――――!」

 誰かが叫ぶ声が聞こえた。
 なんだろうか。
「うわ、まだいるのかよ、牢番さん」
 突然もっと近くで声が響く。
「貴様、何者だ!」
 続いて別の声が問う。
「ちっ、火事で皆出てったと思ったのによう」
「まさかあの火事は貴様が!」
「ご名答!それっ」
「っく……!?」
「俺の用事が済むまでそこで寝てな」
 そう言ってそいつはこちらへ向かって来た。
 俺はその足音に恐怖感を覚え、叫んだ。
「う、うああああ、来るなっ来ないでくれっ」
 久しぶりに出したので声は掠れていた。
「!おい、落ち着けっ俺はアイツじゃねぇよ、眞藍っ」
 俺の事を名前で呼んだ。
 …………アイツじゃないのか。
 ちらっと格子の向こうを見る。
「俺は晴橙、春里にお前を、」
 春里――――!
「うううっ」
「聞けっ!彼女は俺にお前を頼むと言ったんだっ」
 彼は格子越しに手を伸ばし俺の肩を掴んで言った。
「お前彼女に何か誓わされたんじゃないか?」
「ち……誓い?」

 “私がいなくなっても貴方は貴方で幸せになると誓って”

「幸せに……」
「そうだ、お前は幸せにならなくてはならない」
「でも……俺にそんな事は許されないっ!」
「なんでだよ?」
「俺のせいで周りは不幸になる!彼女だって……!」
「本当にそうか?」
 彼は静かにそう聞いた。
「彼女は誰に殺された?お前か?違うだろ」
「だが俺が……」
「そうじゃない、彼女は誰の命令で殺された?」
 命令……?
 それは。
「お前じゃないだろ?」
 ふと見上げてみると彼は笑っていた。
 アイツとはまるで違う笑い方だった。
 暖かい、笑顔。
 そう、まるで彼女のような……。
「つまりさ、お前のせいじゃないんだって」
「いや、でも」
「だからそこにいる必要なんてまるでないんだよ」
 俺のせいじゃない?
 ここにいる必要は……。
 その時、瓦礫が落ちてきた。
 それは目の前の彼を掠って落ちた。
「いや、駄目だ、俺はここから出ては駄目なんだ」
「なんでだよ?」
「俺と関わった奴が不幸になるのにはかわりがないからだ」
「……お前何様のつもりだよ」
「……は?」
「勝手に人を不幸だとかきめつけてんじゃねーよ」
 彼は憮然とした顔でそう言いながら牢の鍵を開けた。
「春里は不幸だったのか?そりゃ大変だったろうけどよ」
「…………」
「最後に会ったとき、楽しかった、って言ってたぜ」
「あ……」
 思い出す彼女の顔はいつも笑顔だ。
 彼女はいつだって俺に笑顔をくれていた。
「そこから出て来いよ、眞藍」
 彼はまた笑顔に戻った。
 髪が炎に照らされて綺麗な橙色に染まっている。
「何が起きても俺は不幸せにならねぇって約束するからよ」
 そう言って俺に手を伸ばす。
「…………」
 迷った末、俺はその手を取った。
 同時にこの牢のある建物が崩れだす。



「さて、取りあえずお前に何か食わせないとな」
 見晴らしの良い丘の上、彼が言う。
「お前が痩せすぎてるから俺が太って見える」
 風にさらさらと揺れる髪は、やはり人より色が薄い。
「じゃ、どっかうまい飯屋行って、その後海に行こうぜ」
「海?」
「お前の眼見てたら行きたくなった」
「……」
「俺は好きだな、その眼の色」
 そんな事初めて言われた。
 そう思うと同時に背後で何かが崩れた音がした。
 だが俺はそれを無視する。
「変わってるな、お前」
「ははは、よく言われる」
「…………ありがとう」
「どういたしまして」



 人と関わってはいけないと理性が告げる。
 俺の周りにいる人に危害が与えられるのは事実なのだ。

 だが俺は思ってしまった。
 何があっても不幸せにならないと言った彼の側で。
 このまま人と関わっていたい、と。
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