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短編ぶっこみ匣

呼応

作者:赤城千
【幽霊】なんかに誘われないで。
【私】を大切にして欲しい。



 今日、私は機嫌が良かった。
 うっかり気を抜くと顔がニヤけてしまうくらい。
「なんで今日そんなニヤニヤしてんの」
 友達が指摘する。
 もう、ニヤけてたのか。
「明日は裕也と久しぶりのデートの日だからかな~」
「宮岸と?じゃあそんな顔してたら駄目じゃん」
 彼、まだ親友の事吹っ切れてないでしょ、と彼女は言った。


 宮岸裕也。
 私のクラスメートで今は、兼、恋人。
 先月彼の親友、舞岡智が死んだ。
 学校裏の池に足を滑らせて落ちたと言われている。
 遺体を発見したのは不運な事に裕也だった。
 だが彼は一週間だけ休み、その後はすぐ学校に出てきた。
 彼の性格からいって、皆に心配をかけたくなかったのだろう。
 無理して少し笑顔も見せていた。
 しかしそれは逆に痛々しくてとても見ていられなかった。
 智が生きていた時はよく私と裕也と三人で遊んだ。
 正確に言えば私が裕也と付き合いだしてからだ。
 智は優しく明るくいい奴だ。
 私は彼が死んで確かに悲しかった。
 同時に邪魔者が消えたと少し喜んでもいた。
 だって智がいた時はあまり二人きりになれなかった。
 それに裕也とずっと仲が良いなんて羨ましくて嫉妬する。


「大丈夫、私、その辺りはちゃんと配慮できるから」
 私は友達の問いに答えた。
「ふーん?それでどこに行くの?」
「ゲーセンめぐり」
「……それってデートか?」
 本当はもっと違う所に行きたい。
 でも今は池に近づかずに済む所がいいので仕方ない。
 それに智と行った事の無い所がいい。
 加えて騒がしい方が色々考え込みにくいだろう。
「ま、ぱーっと遊んで悲しいの忘れさせてあげなね」
「もちろん」
 せっかく生きているのにずっと悲しんでたらつまらない。


 翌日。
 高速道路沿いにあるゲーセンを四、五軒まわった。
 移動は裕也のバイクだ。
 昼は、満席で騒がしくなってるファストフード店に入った。

 久々に裕也と遊べて私はとても楽しかった。
 裕也も学校で見るより、楽しそうに見えた。


「はあー、今日は楽しかったー」
「そうだな」
 裕也は笑顔を返す。
 それが自然な笑顔に見えて私は一層嬉しい気分になった。
「家まで送るよ」
「えっ、あっ、いらないっ別に平気っ」
 彼の提案に私は焦った。
 私の家に帰るにはあの池の前を通らなければならない。
「大丈夫だから、乗って」
 そういって彼はバイクに跨がりヘルメットをよこす。
 バイクなら一瞬で通り過ぎるから大丈夫かもしれない。
 私はそう考えて彼の後ろに乗った。

 しばらくゲーセンのゲームについて話しながら走る。
 そしてそろそろ池が近いなと思った時、バイクが停止した。
「裕也……?」
 まだ池に近づきたくないのだろうか。
 バイクから降りて呼びかける。
「いや、バイクが動かなくなった」
 裕也が色々いじるがバイクはうんともすんとも言わない。
「こりゃ無理だ」
「じゃあ私、ここまででいいよ」
 私はすぐに言った。
「いや、もう暗いし最後まで送る」
「いいって、バイク壊れたし」
「じゃあこれ、ここから近いお前の家に置かせて」
 彼もなかなか退こうとしない。
「それなら私がここでバイク預かるからっ」
「これ重いよ?」
「平気っ」
 なるべくなら彼を池に近づかせたくない。
「いや、無理……」

 ――……ぅゃ……――

 突然、声が聞こえた。
「今の、お前?」
 裕也のその問いに私は首を振る。

 ――……ゅぅゃ……――

「……!」
 裕也。
 そう言っているように聞こえた。
「さ、智、智か……?」
「な、何言ってるの、そんなわけないじゃ……」

 ――……ゆうや……――

 今度ははっきりと聞こえた。
 寒気がして振り向くとそこには白く光る“もや”があった。

 ――……裕也っ……――

 “もや”は裕也を更に強く呼ぶと離れていく。
「智……っ」
 裕也はそれを追い掛けて走り出した。
「裕也っ待って、そんなのについていっちゃだめっ」
 私は叫ぶ。
 あんな怪しいモノについていったらどうなるかわからない。
 だが彼はまるで聞こえていないかの様に走り続ける。
「裕也っ……裕也、裕也ぁっ!」
 裕也は“もや”にはすぐ応えたのに私には応えてくれない。
 私は彼を追おうとしたが足がもつれ上手く走れなかった。
 ……あのまま“もや”を追い掛けたら裕也は……。
 嫌な想像をしてしまい、涙が出てくる。
「……ゆうやぁ……」
 私に応えて。



 バシャッ……

 人が落ちたような水音が小さく聞こえた。

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