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短編ぶっこみ匣

だってだいすきだもん

作者:赤城千
「ユキタカ……?ユキタカ」
声が起き上がりながら呟いている。
だが答えるものはない。
風が吹き、草が揺れる音がする。
「……ユキタカ……」
その名前の持ち主が消えた事も知らず声は呼び続けていた。


僕は目が覚めると見知らぬ部屋にいた。
此処で目覚める前の事は何も思い出せなかった。
  ぱたぱたぱた
スリッパを履いた足音が近づいてくる。
  バタン
部屋の扉が開き女の子が入って来た。
「…………」
びっくりしたように目を見開いて扉の所で固まっている。
暫くしてから彼女は僕の所へぱたぱたと歩いて来た。
そして座っている僕の視線に合わせてしゃがむ。
「私は莉音、アナタの名前は」
『僕は僕の名前は……ユキタカ』
すると莉音は僕の手を掴みくるりと振り返って走り出す。
部屋から出て廊下を通り別の部屋にバタバタと入った。
「センセイ!ユキタカっていうの発見したー」
部屋で机に座り煙草を吸っている人に僕を向ける。
「あ?何だって莉音」
「部屋でこの人、ユキタカ発見したの」
そう言って莉音はガクガクと僕の肩を揺さ振った。
その様子を見て彼は怪訝そうな顔をする。
「……は?そこに誰かいんの?俺には見えないけど……」
「ここにはユキタカがいるよ」
莉音の答えに更に首を傾げた。
「……新しいごっこ遊びか?子供のままなんだな、お前は」
「莉音子供じゃないよ、身長百六十八センチになった」
それを聞き彼は笑いながら、はー、と大袈裟に溜息をつく。
「そりゃ生まれた時からだろ。ほら、もう部屋から出ろ」
莉音は部屋から追い出された。
僕もそれに着いていく。
「……センセイにはユキタカ見えないんだって」元の部屋に戻りながら莉音は言う。
「ユキタカの行く所とか帰る所は」
『……分からない』
「じゃあ、ウチにいる?」
コクンと僕は頷いた。
「やった!莉音はいつも一人だったからとても嬉しい」
莉音がぱちぱち手を打って喜んだ。


遥理:なぁ、知ってるか。
西苑:何を?
遥理:新種のコンピュータウイルスが流行ってるって。
西苑:どんな?
遥理:「幸隆」って名前で、感染した人工知能は幻を見る。
西苑:幸隆?
遥理:幻も同名だそうだから気をつけておけよ、「先生」。


「あ……」
莉音が突然、頭を抑えた。
『莉音、どうしたの』
「なんか今朝から頭がクラクラするの……」
頭から手を離し次は目を擦る。
『寝た方がいいよ』
「こんなの初めてだよ……」
今にも寝てしまいそうな様子で莉音は呟いた。
その時部屋の扉がノックされる。
「おい、莉音入るぞ」
部屋に「先生」が入って来た。
「何?センセイ」
「お前が昨日言ってた人って何て名前だったっけ?」
「ユキタカ」
「今もまだそいつ居るのか?」
「うん」
「じゃあお前今具合悪いんじゃないか」
「なんでわかったの」
「この前入れたデータにコンピュータウイルスが入ってた」
「コンピュータウイルス?」
「名前は『幸隆』、それがお前を壊してるから具合悪いんだ」
ユキタカ?
僕がコンピュータウイルス?
だから記憶がない。
莉音の具合が悪いのは僕が壊してるから?
だから僕が来てから突然莉音は具合が悪くなった。
確かに「先生」の言う通り僕はウイルスだろう。
「最近のウイルスは侵攻が早いから、急いで駆除しないと」
駆除。まあそうだよね、仕方ない。
僕は莉音を壊す悪者なんだから。
「クジョしたらもうユキタカに会えなくなるの?」
莉音が「先生」に聞いた。
「そりゃそうだろう。ほら駆除してやるから研究室に来い」
「嫌、クジョなんかしない!」
そう叫び突然僕を抱えると莉音は外に走り出す。
「こら莉音!ウイルスに感染したら三日ももたないんだぞ」


「あっ!」
  バタッ……
走って、走って、走って、莉音はついに倒れた。
そこは雑草が生い茂っていてどうやら廃墟のようだった。
今にも動かなくなりそうな莉音に僕は質問する。
『なんで僕を駆除してもらわなかったの』
「だって大好きだもん、ユキタカが」
『え』
「ユキタカは初めてのお友達なの……」
莉音は目を閉じた。
『莉音!』
呼んでも目を開けない。
もう、莉音を助ける方法は一つだけ。


僕は僕にウイルスを放った。
『だって大好きだもん』
僕も、莉音のことが。
だから……。

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