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短編ぶっこみ匣

僕の眠り姫

作者:赤城千
僕の恋人は、ちっこくて、可愛くて、マイペースで。
……そしてよく眠る。



スー…

スー…

ふと、静かな寝息が隣から聞こえてきたのに気付いた。
僕はこのアパートに一人暮しの筈である。
持っていた参考書を閉じて隣を見てみた。

(またか……)

「……寝る子は育つと言うがこれは寝過ぎじゃないか?」
僕、遠野隆実は恋人の南雲未宇の寝顔を見ながら思う。

夕方、ベッドで参考書を読んでいると横で未宇が眠っていた。
夢中で読んでいたから僕にはいつ未宇が来たかは判らない。
だが今の時刻でも、来ると言っていた時間より数時間早い。

(眠いなら自分の家で寝ればいいのに……)
薄情にも僕はそう思った。
未宇は今日がクリスマスだから眠いのに来た訳じゃない。
こいつは遊びに来る度来る度気がつけば僕の横で寝ている。

付き合い始めた頃の未宇は僕の家で寝たりしなかった。
勉強する僕の傍らで小説を読んだり、編み物をしたり。
僕の勉強の邪魔にならない程度に側にいた。
しかし、最近はというと……。
相変わらず邪魔になるということはない。
だが今は、ただ寝に来ているだけという状態だ。
それもぐっすり熟睡である。
僕がほっぺをつついてやっても起きる気配がない。

幸せそうだが訳が分からない。

勉強に疲れた僕は未宇の頬を息抜きに引っ張って遊ぶ。
そんな事をしても未宇は全く目覚めそうにない。
調子に乗った僕は未宇の鼻を指で押して豚の鼻にしてみる。
可愛い顔が台なしだがそれも別の意味で可愛くて吹き出した。

「ミウ」

そっと名前を呼びかける。
もちろん起きる訳がない。
相当深い眠りに落ちているようだ。

(どんな眠い授業でも寝ようとしないのに)
僕といる方がつまらないと言われてるようで面白くない。

「こんな無防備な顔しやがって……」

男として、恋人とはいえ無防備過ぎなのもどうかと思う。
付き合って三ヶ月半。
僕達は恋人同士だが身体の関係まではいってない。

「いっそ襲ってやろうか……」
出来もしない事を呟きながら未宇に毛布をかける。
せめてキスぐらいはしてやろうか、と思い顔を寄せる。
だが嫌な事を考えてしまって中断した。

らしくもない考えだった。
未宇はもう僕といるのが嫌なんじゃないか、なんて。

僕が面白くない人間だというのは自覚している。
これまで勉強ばかりして生きてきた。
正直言って遊び方なんて知らない。
他人とつるむのが苦手でいつも一人で本を読んでいた。
そんな僕に興味本位で近づいてきたのがこの南雲未宇だ。

「……」

僕は身を起こすと未宇を跨いでベッドから下りる。
ベッドが軋むがこのくらいで未宇は起きない。

僕は上から未宇の寝顔を確認して、財布を手にした。

うっかり飲み物を買うのを忘れていた。
僕が住むアパートからコンビニまでは片道10分だ。
買い物する時間を10分としても30分しか、かからない。
30分の間に未宇が起きるのは考えられなかった。
それくらいぐっすり熟睡している。

(……行って来よう)




辺りはすっかり暗くなった。
コンビニから帰ってきた僕はそっと家のドアを開ける。
すると。

「おかえりーたかみー」
と、何かが僕にぶつかってきた。
「えっ……」
「起きたら隆実いなくてびっくりした。どこ行ってたの?」

ぶつかってきたのは未宇だった。
意外にも未宇は起きていたのだ。
それも寝ぼけ眼ではなくハッキリ起きている。
いつもの未宇なら起きても30分はぼけぼけしてるのに。

「お前こそ、なんで起きてるの?」
「隆実がいないからに決まってるじゃん」
僕の手に小さい手が重なった。
そのまま手を引かれて室内へと導かれる。

買った物を冷蔵庫に入れてから、聞いてみる。
「眠く……ないわけ?」
「……隆実がいないと、眠れないよ」

未宇が僕をベッドに横になるよう則す。
それに従うと未宇も隣に来て体を寄せた。
満足そうにニッコリ笑う顔がとんでもなく愛らしい。
「わたしのとくとおせきーっ」
間延びした声で嬉しそうに笑う未宇。

「ミウ」
「んー?」
「僕といるのがつまんなくて寝てたんじゃないんだな?」
さっきまで僕はその可能性に怯えていた。
だが未宇の様子を見ていると、どうも違うらしい。

未宇はあからさまに眉を潜め訝しげにこちらを見た。
「つまんなかったら隆実の家、来る訳ないじゃん」
ごもっともな言い分である。
「じゃあ、なんでうちに来ると寝てばっかなんだ?」
「だって家帰ると隆実の事ばっかり考えてて……うぅ~」
寝れる訳ないでしょー、と小声で言って僕の髪に触れた。

その未宇の恋い焦がれるような瞳に胸が熱くなる。
思えば僕は最初からこの眼に弱かった。

「ここで寝るのは隆実の側が安心できるから。わかった?」
「……まぁ、何となくは」
「それじゃだめっ」
未宇は頬を膨らませて僕の顔を両手で挟む。

「私は隆実が大大大好きだから隣にいると安心できるのっ」

そして、ちゅっ……と未宇から唇にキス。

熱烈な告白の後に不意打ちのキス。
愛のダブル攻撃を受けて僕は口元を押さえた。
顔は恐らく耳までゆでダコだろう。

「わかってくれた?」

念押しの確認に僕はコクリと縦に頷く。
「……よく、わかりましタ」
いかに愛されているかが。
僕の不安は全くの杞憂だったようだ。

答に満足したのか未宇は笑顔になり僕の胸に顔をうずめた。
「隆実も一緒に寝よ~」
「えっ、僕も?」
「じゃあ、おやすみ……」
そう言うやいなや未宇は寝息をたてはじめた。
呆れながらも僕は未宇を振りほどけない。

(よく寝るなあ……)
そう思って未宇の寝顔を見てると何だか心が暖かくなる。
ちょっとだけ、この眠り姫の気持ちが分かった気がした。

「……僕も少し一緒に寝てやるか」
声をかけられたばかりの頃はウザいと思ってたのに。
一体いつからこんなにも大事な存在になっていたのだろう。

ちょっとした事で不安にかられてしまう程に。
「大大大好きなんだよな……未宇の事」



起きたら未宇と一緒に祝おうと思う。


この聖なる夜も――

二人が愛し合って共にいる事を。
読了ありがとうございました。

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