短編ぶっこみ匣
生首問答
すごく疑問なのは、目の前にそれがあると言うことだ。
これはこう単独で存在するのは珍しい代物だと思う。
まあ存在することもまああるのだが、だからと言ってなぜ私の目の前なのか。
私の目の前にこれが出現するまでの経緯はそう思い付くものではないし、
いくらなんでも自分の…というのはおかしいのではないか。
別に血を流している訳でもなく、
インテリアのように平然とそれは床の上に正しい向きで鎮座している。
穏やかな表情だ。多分気付かないうちにこの部分と残りは分断されたのだろう。
当然ながら不安になり、自分の方を手で確認してみる。…ある。
考えてみれば当然だ。なければこれを見ることすらできない…
ならなぜこれは自分のなのだろう。
冷静にみるとそう悪い顔でもない。なんとも安心し、それから混乱する。
なぜ安心しているんだろう。
此処にこれがあること、そしてこれを私が見ていること、どちらも異常じゃないか。
とは言っても他に出来ることは人に言うことくらいで、
しかしこれはどう説明しても冗談扱いされるのが目に見えている。
私はだからこれをぼんやりと見つめたまま。
冷静になろう。
そもそも此処はどこだ。
私の部屋。
これは何時からあった。
気付いたら。
これは誰のだ。
自分のだ。
なら自分のそれは。
ついている。
…これはじゃあ何なんだ?
他人の空似とは思い難い。
意味が分からなくなってまた見つめた。静かに眠るような表情。私の混乱をよそに佇む私の顔。
これに気付く前は。
ぼうっとしていた。
その前は。
寝ていた。
また不安になって手を頭にやる。…ちゃんと触れる。
…もしかして違うものがついてやいないかと怖くなった。
机の方に行き、小さな鏡を出して、見る。
そこにはさっきまで見ていた顔が青ざめていただけ。
…じゃああれは?
…わからない。
怖くて机に向いたまま振り向けない。
意味がわからない。
普通の人間として、私に二つあれがついていたということは有り得ないだろう。
だが出来のいい作り物というのも信じにくい。
床にあるあれはかなり真実味があったし、
あんなものをそこまで丁寧に作って私を驚かすような人もいないだろう。
夢かと思って頬を自分でつねる。痛い。しかしつねる頬があるのがまた私を混乱させる。
…あれは何だ!
…私の首…?
何だか頭が痛い。下らないことで悩み過ぎだ。
何で自分の、首が、部屋に、置いてあるのを、見るはめに。
いや、下らないで片付けられる問題ではないだろう。
幻か?けれど振り返って再び直視し確認する勇気はない。
どうしよう。あれ。
顔に触る。触れる。
鏡に写る自分には頭はある。
あれは何なんだ?
私は悩みに悩み、脅えに脅えた。
そして最後には、夢ならいいと本当に切実に願い、机に突き伏し、眠った。
「ごめんなさい、すみません!」
聞いたことのあるようなないような声に私は目を覚ました。
「ああ、忘れてた忘れてた」
…それが自分の声だと気付いた私は驚きの余り一気に振り向き、そして直視してしまった。
首のない私が、照れたような苦笑を浮かべた私の首を拾いあげているのを。
「ごめんなさい、びっくりさせちゃって。じゃ」
首のない私に抱えられた私の首が申し訳無さそうに言い、
そして首と体が分離したままの私がそそくさと私の部屋を出ていった。
茫然としていて、我に帰り鏡に自分の頭を、そして体を写して見る。
…ある。
「…誰だよ…」
私は半べそで呟き、一も二もなく机に突き伏してまた眠った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。