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短編ぶっこみ匣

こっちにおいでと手招きする

作者:赤城千
 こっちにおいでと手招きする。





 夕焼け色の学校。
 どこの場所でも人がまばらである、中途半端な時間。
 その教室の一つに、僕と彼女はいた。

 最初は、皆で勉強をしていた。
 一人減り、また一人減り、気付いたときにはたったの二人。
 進まない数学の問題を眺め、溜息をつく。
 それを一旦放り出して、僕は教室を眺めていた。

 少し赤みがさした、いつもの風景。
 その上に視線を滑らせて――彼女のところで、止まった。

 僕より少し、背が低くて。
 周りから見れば「変わったひと」といわれる彼女。
 でも、人を惹きつける魅力を持つ、素敵なひと。
 そして僕は――簡単に使うべき言葉ではないけれど――

 彼女が、好きだ。



「何を、見ているの?」
 いつのまにか、振り向いていた彼女と目が合う。
 滅多に人に見せない、極上の笑みを浮かべている。
 ――だが、目が笑っていない。
 それに、こういう時の彼女がとても怖いことを、僕は知っている。
「――ほら、こっちにおいで」
 僕が黙っていたら、手招きされた。
 顔には相変わらずの笑み。
 ――それに逆らえない力を感じて――
 僕は渋々、そちらへと向かった。

 彼女の目の前の机の上に腰掛ける。
 そして、呟く。
「――貴女を、見ていた」
「ん?」
 口元を上げながら、もう一回、とせがまれる。
「ずっと――貴女を、見ていたよ」
 僕は、微笑み返した。

「――貴女が、好きだから」
 少し、彼女が驚いた顔をする。そして、
「もう一回、言って?」
 そう言われて、自分の言葉を反芻する。――赤面した。
 無意識に、そんなことを言っていたなんて。

 口を手で塞いで、彼女の笑った顔を見て。
「言って――くれないの?」
 しっかりと引いてみる彼女に、苦笑しながら。
「――好きだよ」
 今度は目を見て、意識して――そう、言葉を乗せた。



「――私も、好きよ。My dearest」

 彼女は僕に抱きついて、耳元で囁いた。



 チャイムとともに、下校時間を告げる放送が入った。
 彼女は、まだ僕に抱きついたまま。
 ――幸せ、なのだけれど。



「もう、帰らないとね」

「そうだね」



「でも、あともう少しだけ――

 このままで、いさせて?」



 手を繋いで歩く帰り道。

 長い長い影が、伸びている。

 ――いつもの道に、今日、色が付いた。

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