2016-01-05

蕎麦屋鍋焼きうどん

午後2時過ぎ。蕎麦屋で一杯やるにはこの時間に限る。

銚子1本と板わさ、焼のりを注文し店内を見渡す。おしぼりで顔を拭くのはいけない。

先客は4人掛けテーブルに営業らしきネクタイ3人組。

いや、様子がおかしい。二人の器は空だが、もう一人の前には何も置かれていない。

その一人が口を開く。

申し訳ない、鍋焼きうどんを頼んだ私が悪かった。きつねそばにすれば良かった。先方も待っているだろうから先に行ってくれないか」

明らかに若い二人はその男を蔑んだ目で見下しながら、千円札2枚を机に置いて店を出て行った。

俺はその男の顔を見た。おじさん、あの時のおじさんじゃないか。

おじさん、連れが軽い物注文したのにあんたは鍋焼きうどん頼んだのか。その後商談の約束もあるのに。

鍋焼きうどんはお一人様でこっそり食べるか、全員が同じものを頼むときだけ食べていい神聖ものなんだ。

でもおじさん、俺はあんたのことが嫌いじゃない。

右へならえの風潮に抗うおじさんが俺は好きだ。

もし山田かまち尾崎豊中間管理職になっていたら、鍋焼きうどんを注文していたはずだ。おじさんと同じように。

俺は店のお姉さんに断り、おじさんの机に移動していった。「お姉さん、鍋焼きうどん追加」

鍋焼きうどんを待つ長い間(至福の時間だ)俺はおじさんに聞いた。

「その商談、おじさん無しで大丈夫なのか」

おじさんは力無く首をふった。

悪かったおじさん、くだらないことを聞いた俺が馬鹿だった。

俺はまた厨房に向かって言った。

「お銚子2本、それとお猪口もうひとつ

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