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短編ぶっこみ匣

無色不透明

作者:赤城千
無色不透明





白でも黒でもない無色。
但し色が無くとも透けてくれる訳ではない。


――硬い床を歩く音が段々に近付き――
――やがて水を弾く様な音に変わる――
――其は息を呑む音と共に私の前で止まった――

静かに水面に波紋が広がる。
其処に居るのは誰だろう。

赤い火焔の渦から訪れた彼女か。
蒼い堅冰の峽から訪れた彼女か。
黒い暗闇の底から訪れた彼女か。
白い白皚の夢から訪れた彼女か。

嘲りに来たのか。
嗤いに来たのか。
蔑みに来たのか。
戒めに来たのか。

其ならば良いがどうせ違うのだろう。

併し乍ら何故私に其程構うのだ。
お前達は。
優しい以上に欝陶しい。
頼むから私を独りにしてくれ。
然もないと私は何をするか分からない。
私は色を失い壊れている。
もう私は化け物だ。
例えお前にはそう見えていなくても。

初めに私の餌食となった奴等を覚えているか。
奴等はそこに居合わせただけだった。

無条件に無差別に無意識に無慈悲に。
私の力は誰かに振るわれる。

これは暴走だからだ。
私は私を制御出来ず暴走する。
壊れている私は望みもせずに私の世界を壊しだす。

お前達には其に巻き込まれて欲しくない。

……巻き込まれて欲しくなかった。
欝陶しい程に優しいお前達は。

一度だけ考えてみて欲しい。
何故私が此処に居続けるか、私を幽閉し続けているかを。
昔から今への私の変化を。


もう時間が無い。
急げ。
私の事は忘れ、もと来た所に戻れ。
今ならば、まだ。
……行け、行ってくれ、此以上私の罪を。


………………。

――耳を突くような私の悲鳴――
――耳障りな私の中の泣き声――

――そして誰かの最悪な笑顔――
これは昔の話。
そして今の話。

――……ああ、…………!――



其御覧。
間に合わなかっただろう。
こんな私の事など気にしているから。
これでは私が此処に私を閉じ込める意味が無いではないか。
私を咎めに来る位なら自分の身を守れば良かったのだ。
全く。
なんて愚かで………………。

何度繰り返しただろう。
後、何度これを繰り返せば良いのだろう。
色を失った私は何も感じない。
だが昔の私が何かを言っている。
聞き取れる筈は無いが。

…………。

床に溜まる液体は増え続けている。



――閑寂で曖昧な匂いが漂う――
――此処は色彩も明暗も無い――
――無色の牢中――
――其処に居るのは名前の無い罪深き存在の集合――

――無色不透明な私――

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