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 水俣病を描いた「苦海浄土」で知られる作家、石牟礼道子さん(88)の未発表の短編小説「不知火(しらぬい)」が、熊本市で見つかった。戦後間もなく、石牟礼さんが10代後半のころ書かれたもので、小説としては初の作品とみられる。

 「不知火」は、石牟礼さんの資料を整理している「石牟礼道子資料保存会」(熊本市)が、石牟礼さんから預かった資料の中に見つけた。400字詰め原稿用紙30枚分で、25~29枚目が欠落。ほかにあらすじが2枚分ついていた。石牟礼さんを思わせる思春期に入りかけた少女が主人公で、同じ年頃の「杉の木の芽を手折った男の子」に寄せる恋心や恋することへの戸惑いが、生き生きとした自然描写とともにつづられる。

 石牟礼さんの小説はこれまで、結婚後間もなく書かれた「不知火をとめ」(1947年)が初の作品とされ、石牟礼さん自身を思わせる主人公の結婚生活への苦悩を描いていた。石牟礼さんは今回見つかった「不知火」について、「結婚前に書いたもので、当時も発表するつもりはなく、いわば心の日記だった。水俣の自然の中で育まれた詩情を表現したかったようだ」と語る。

 石牟礼さんの編集者を長年務める評論家の渡辺京二さん(85)は、作品の表現の特徴などから、46年に書かれたとみる。「少女の純情、純粋さが出ている作品だ。石牟礼さん独特の入り組んだ文章で、後の作品に見られる感性がすでに表れている」と話している。(上原佳久、斎藤靖史)