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エイみたい?悪魔みたい?いいえ、サメです。そして天使です!
二年ほど前、沖縄の海で船に乗っていると、足元の水面直下を奇妙な魚が三匹並んで泳いでいるのに気が付いた。飛行機のようなシルエットからエイの仲間かと思ったが、どこか雰囲気がおかしい。だがとにもかくにも、僕の眼にはとても魅力的な姿として映った。
帰宅して調べてみると、それは「カスザメ」というサメの一種で、とてもおいしい魚だという。…捕まえて食べたい。 > 個人サイト いきものいきもの エイリアンのつかまえかた 冬の房総半島に多いらしいおそらく、海上での遭遇は奇跡的なものだったのだと思う。同じシチュエーションはは二度と無いかもしれない。
捕獲は困難かと思われたが、よくよくリサーチしてみると、カスザメは冬と初夏の房総半島で頻繁に釣り上げられているというではないか。 冬の房総半島。カスザメは砂地を好むので、砂浜やその周りの漁港を探していく。しかし寒い。
だが、簡単にいかないことは明白だった。
釣り人のブログなどを見ていると、スズキやヒラメなどを狙っている際に予期せぬゲストとして釣れてしまっているケースがほとんどのようなのだ。 つまり、釣り方が確立されていないため、狙って釣るためにはかなりの試行錯誤が求められるということである。 カスザメはスズキ釣りをしているとたまに釣れるらしい。ネットで勉強したスズキの釣り方を試してみると、本当に立派なスズキかいきなり釣れた。やった。いや、違う。
でもまあ、いざ行ってみたら案外なんとかなるんじゃないか。
そんな気持ちで九州の自宅から釣り竿を担いで一路房総半島へ。季節は12月下旬。真冬である。 小さなヒラメや
大きなマゴチも釣れる。本命じゃないけど色々な魚と対面できて楽しい。すごいな、房総の海。
初めて訪れる房総の海は豊かだった。スズキやらコチやらが定期的に釣れてくれるので退屈しない。
だが、肝心のカスザメは姿を見せてくれない。 寒すぎて手がかじかむ。釣り竿のグリップに使い捨てカイロを貼ってしのぐ。
初めて訪れる房総の海は寒かった。とにかく風が強く、そして冷たい。これは確実に僕の心を折りに来ているな。どうしよう、これ結構つらいな…。
一晩中砂浜を歩き続けた結果、新品の靴下に大穴が。…想像していたよりも辛い釣りになってきた。
救世主現る深夜の漁港で途方に暮れていると、一人の釣り人がやってきて声をかけてくれた。
「シーバス(スズキ)狙いですよね?調子はどうですか?」 これが運命の出会い的なアレだったとは、この時はまだ知る由もなかった。 深夜の漁港で知り合ったYさん。館山でカフェ兼ペンションを経営しているというのでお邪魔することに。
狙いがスズキでなくカスザメであることと九州から出向いてきたことを伝えると、とても驚かれた。よほど奇特な人間だと思われてしまったようである。だが、ドン引きするというよりは面白がられている感じで、ずいぶん興味を持ってもらえた。
Yさんの経営するカフェ「One drop」。冷たい潮風に吹かれた後だと、窓から漏れる明かりがとても暖かいものに見える。マッチ売りの少女になった気分。実際はサメ釣りのおっさんだが。
彼はYさんと言って、館山でカフェとペンションを経営しているのだそうだ。話が弾み、翌日お邪魔させていただくこととなった。
おしゃれなのに釣具まみれのカフェビーチのそばに建つ小奇麗な白い建物。外観も、窓からのぞく内装もとても洒落ている。一方こちらは魚釣りしか視野に入れていない完全アウトドアスタイルである。やばい。場違いもいいところだ。帰ろうかな。全身ほのかに生臭いし。
一見するととっても
でもせっかくだから軽くお茶でもいただいて、他のお客さんが来たら空気を読んですぐに出よう…。
そう思いつつ玄関をくぐると、かわいらしい家具や雑貨の数々が出迎えてくれる。 だが、ところどころ様子がおかしい。 おしゃれな空間なのだが
よく見るとそこらじゅう
釣り道具(ルアー)だらけ…
クリスマスツリーの飾りまで
実はルアー!なんかすごいとこに迷い込んでしまったぞ。
店内のいたるところに釣具(主にルアー)が飾られている。下手な釣具屋さんより品ぞろえが豊富なのではというほど。手作りのルアーも多数。
えぇ…。なにここ…。 名物のカツカレー。うまい。カスザメを釣り上げるまでに一体何皿食べただろうか。
Yさんはもともと都内在住だったのだが、釣り好きが高じて、海が豊かな館山市でこのお店を構えるに至ったのだという。住む場所と仕事が魚基準。カモメのような人生だ。
日替わりのパスタもおいしい。これは地元の猟師からもらった鹿肉とソラマメで作ったというペペロンチーノ。
宿泊のお客さんには釣り目当ての方も多いらしく、実はそっちの方面ではちょっと知れた存在になっている。
となれば、あの異様な数の釣具ディスプレイにも納得がいく。 なんで僕はサメ釣りに来てこんないい部屋に泊まってるんだろう…。
なんとこの後、僕は一年以上もこの房総に通うことになるのだが、このお店には訪問時の拠点として、そしてYさんにはアドバイザーとして毎度お世話になった。
このお店なくしては今回の記事も実現しなかったろう。 ありがたい限りだ。
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