通常国会がきのう開幕した。三が日が明けて早々、異例に早い召集となった。

 極めて重要な国会である。

 夏に参院選がある。安倍政権はその後、憲法改正の国会発議を視野に入れている。

 異例の早期召集は、そのための布石でもある。この時期の召集なら、衆参同日選も可能だ。実際に踏み切るかはさておき、同日選の選択肢を手にするだけで野党を分断しやすくなる。

 衆院は自公両党で発議に必要な総議員の3分の2以上の勢力をもつが、参院でも3分の2の「改憲勢力」を確保したい。それが政権の狙いだ。

 ■選挙前後の使い分け

 「安倍1強政治」を加速させるか、転換させるか。夏の参院選は、戦後日本の大きな分岐点になる可能性がある。

 この国会は、国民にとって、参院選を前に日本の針路を考える重要な機会となる。判断材料となるような、深みのある論戦を与野党双方に求める。

 「新しい国づくりへの新しい挑戦を始める年にしたい」

 安倍首相はきのうの年頭会見で抱負を語り、1億総活躍社会づくりなどを強調した。

 だが、額面通りには受け取れない。選挙前は経済最優先と言いながら、選挙に勝てば、自らこだわる政策を数の力で押し通す――。選挙至上主義とも言えるそうした政治手法が、安倍政権では際立つからだ。

 2013年の参院選後の特定秘密保護法のときも、14年の総選挙後の安保法制のときも、そうだった。次は憲法改正を持ち出すだろう、というのが与野党一致した見方である。

 昨年11月末、安倍首相は自ら率いる右派系議員の会合で、こう述べている。

 「憲法改正をはじめ、占領時代に作られた様々な仕組みを変えていこうという(自民党の)立党の原点を呼び起こさなければならない」

 仮に参院選で与党が勝てば、同日選なら3年間、参院選単独でも2年以上、大きな国政選挙に臨まなくても済む「時間」を手にすることになる。

 改憲の発議を含め、これまで以上に思い切った手を打てる環境が整う。

 ■争点隠しを許さない

 「選挙前」と「選挙後」を使い分ける政権のやり方は、これにとどまらない。

 一つは、経済だ。

 有権者受けする「給付」を先行させる一方、痛みを伴う「負担増」は選挙後に先送り。そんな手法が目立つ。

 今年度補正予算案には、年金額が少ない高齢者に1人あたり3万円、総額3300億円を配ることを盛り込んだ。低年金者には資産を多く持つ人もいるのに、巨額の給付のツケが将来世代に回される。

 17年度から導入する消費税の軽減税率も、1兆円もの税収減の財源探しを先送りした。

 もう一つは、安全保障だ。

 安保法制が3月に施行されるが、政権は国連平和維持活動(PKO)に派遣する自衛隊への「駆けつけ警護」任務の追加を参院選後に先送りする。

 米軍への弾薬提供など、後方支援を広げる日米物品役務相互提供協定(ACSA)改定案の国会提出も先送りだ。

 安保法制に対する世論は二分されている。重要な選挙を前にして、反発を再燃させたくないという判断だろう。

 選挙前の最後の論戦となる国会で、与党の「争点隠し」とも言える動きをどう覆し、議論を深めていくか。

 野党の責任は重い。

 ■幅広い国民と連帯を

 「安倍1強政治」に対抗するために、野党がいま、果たすべき役割は何か。

 まず国会対応や選挙協力、政策づくりを通じて、1強に代わりうる「もう一つの選択肢」を国民に示すことだ。

 違憲の疑いが濃い安保法制を白紙に戻す。安倍政権が軽視する立憲主義を守る。それが結集軸になるはずだ。

 野党がバラバラなままでは、今の政治に危惧を抱く民意は行き場を見いだせない。

 そして何より、幅広い国民の思いや不安と共感しながら、連帯をはかることである。

 昨年、安保法制をめぐって国会前の街頭活動など市民の動きが呼び起こされた。

 野党が改めて思い起こすべきは、国の針路を最終的に決めるのは、主権者たる国民だということだ。憲法改正も、国会議員による発議だけでは決まらない。国民投票による過半数の賛成が必要である。

 選挙での勝利や、議員の数の力で押し切る政治か。国民との共感と連帯に基づく、合意形成を重視するのか。

 その問いに、新たな政治の可能性が見えてくる。

 今回の参院選から18歳選挙権が認められる。

 今だけでなく、彼らが生きて行く未来を見すえた論戦をしなければならない。