聞き手・佐々木洋輔
2016年1月5日11時10分
ゲームは勉強の天敵――。東大卒のプロゲーマー、ときどさん(30)は、そんな固定観念を覆した人物です。「受験前でも8時間はゲームをしていた」というときどさんは「むしろ、ゲームをしていたから東大に入れた」と話します。
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ゲームにのめり込んだのは小学生時代。いじめられていたんです。だから、家でゲームばかりしていました。ゲームをしていても、成績がよければ親からは何も言われなかった。それで、中高一貫の進学校にも進学できた。
中高時代はゲーセンに入り浸っていました。そのころから周りには「敵なし」で、高校時代には大会で賞金も稼ぐプレーヤーになっていました。高3になって受験を考えた際、東大を目指したのは、ゲームへのコンプレックスがあったから。「ゲームばかりやっていたから」と言われたくなかった。
■受験もゲームも効率重視
東大卒のプロゲーマーというと、よくこう聞かれます。
「ゲームをしていたのに東大に入れたのか?」
「ゲームをしていたから東大に入れたのか?」
答えは「していたから」です。
中学時代から格闘ゲーム(格ゲー)の大会に出場していました。格ゲーとは有名なところでいうと「ストリートファイターⅡ」のように1対1で画面上のキャラクターを操って対戦するゲームです。当時から強くなりたくて、最も効率よく勝てる方法ばかり考えていました。操作するのは当然、最強キャラ。特長を最大限に発揮できるまでやりこんで、動きや技を徹底的に覚える。対戦相手の癖も研究する。フェイントを入れたり、わざと攻め込ませたり、戦略も必要です。
受験勉強も効率です。僕は東大しか受けていません。1浪で合格したのですが、現役時も浪人時も東大1本で勝負しました。極端な話、東大に受かりたければ、とにかく東大対策を徹底すべきです。焦りからあれこれ手を出すのは無駄。落ちたときのために滑り止めの私大対策をするくらいなら、東大対策だけに集中した方が東大合格率は高まります。
振り返ると、僕の勉強法はゲームによって身につけた思考に支えられていました。受験もゲームも「勝ちパターン」は似ているのです。「ゲームばかりやっているとバカになる」という言葉は、ちょっと違う気がします。何かを全力でやれば必ず学ぶものがある。僕にとって、それがゲームだっただけです。
■論理だけでは勝てない
プロになって4年。食えるくらいは稼げています。収入は1カ月に1回くらい世界中の大会に出て賞金を稼ぐ。それからスポンサー収入。ゲーム開発のアドバイスやイベント出演などの雑収入。その三つが柱ですね。
大会前は1日8~10時間くらいゲームをしています。大会を勝ち抜くには集中力や体力も重要なので、ジムに通って体を鍛えて、お酒もほとんど飲みません。ゲームに無駄なものはそぎ落とした生活です。勝利至上主義ゆえに、観客にとってつまらない試合をすることから、「IQプレーヤー」「アイス・エイジ(寒いやつ)」などとあだ名をつけられました。
でも最近、プレースタイルを変えました。論理は結局、情熱に勝てないことに気がついたからです。
ゲームの世界は頻繁にルール変更やキャラの仕様が変わります。僕みたいなつまらないプレーをするやつだけが業界を食い散らかしたら、ファンやプレーヤーが離れるので、ルールの是正は当然と言えば当然です。本当の天才ゲーマーは、そういうルール変更も見越した上で、プレースタイルをつくり上げる。あえて最強キャラを選ばすに、どうやったら最強キャラを倒せるかを考え抜いたスタイルなので、試合中も「引き出し」をいっぱい持っている。見ている方も強いキャラを倒すから面白い。
僕は勉強にしろゲームにしろ、「Why?」を考えない人間でした。目的を決めたら、最も効率的にそこを目指す。その繰り返し。それだけ。なぜそこを目指すのか考えない。だから、プレーに幅がない。強くなるのは早いけど、マネされるのもあっという間。このままだとずっとトッププレーヤーとしては生き残れないなと思い至りました。論理は結局、情熱には勝てないのです。
■情熱こそ大事
僕がプロゲーマーになったのだって、論理じゃなくて「やりたい」という情熱に突き動かされたから。東大では工学部で人工骨や人工臓器をつくるバイオマテリアルの研究をしました。持ち前の合理的思考を発揮して研究に没頭しました。楽しかった。ものづくりってダイレクトに社会貢献につながるじゃないですか。そのころはゲームと離れるくらい研究に全力を注ぎました。論文が国際的な賞を受けたこともありました。
でも研究に没頭しすぎて、肝心の大学院試験の勉強がおろそかになり、院試の点数が足りなくて志望する研究室に落ちました。違う研究室に入ると、すぐに「幽霊研究生」になりました。何にもせずに日々を過ごしながら、さあ人生どうしようかと考えていたとき、僕より弱いゲーマーがプロになった。そのころはプロゲーマーの黎明期(れいめいき)でした。「許せない」と思いましたね。悩みに悩んだ末、進路を大転換してプロの世界に飛び込みました。
受験生のみなさん、受験テクニックも大事だけど、その先はもっと大事です。情熱を持って大学に進学してください。(聞き手・佐々木洋輔)
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ときど 本名・谷口一。1985年、那覇市生まれ横浜市育ち。麻布中学・高校から東大理科一類入学。東大工学部マテリアル工学科卒、東大大学院中退。2010年、格闘ゲームの分野で日本で2人目のプロゲーマーに。主な大会成績は「World Game Cup 2013」優勝。「EVO2013」準優勝。著書に『東大卒 プロゲーマー』(PHP新書)。プレーヤーネームの「ときど」は、格闘ゲーム「THE KING OF FIGHTER」のキャラ「八神庵」の決めゼリフ「“と”んで、“キ”ックからの、“ど”うしたぁ!」から名乗るようになった。30歳
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