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2月12日に公開されるダニー・ボイル監督×マイケル・ファスベンダー主演版『スティーブ・ジョブズ』をお先に鑑賞させて頂きました。賛否真っ二つとなるでしょう。ここで描かれるスティーブ・ジョブズはあなたの考える理想のスティーブ・ジョブズではありませんので。
スコア
◯私的満足度
★★★★☆(4/5)
=圧巻の会話劇!『ソーシャル・ネットワーク』で見せたアーロン・ソーキン脚本再び!
◯ファミリーオススメ度
★★★★☆(4/5)
=親子にフォーカスして終わらせていくので結構あり!
◯子供オススメ度
★★☆☆☆(2/5)
=ひたすら会話劇!ひたすら口論!きついかと。
◯友人オススメ度
★★★★☆(4/5)
=会話劇の迫力、エンタメ性もあり!
◯デートオススメ度
★★★☆☆(3/5)
=害はないがお勧めできはしない。
◯映画リピーターオススメ度
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感想:「言葉のボクシング、「再び」、圧巻!」
本作の感想を一言で言うならば「圧巻の会話劇再び!」と言ったところでしょう。もうとにかくスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアック、ジョン・スカリーらを中心にまあ喋る!喋る!喋る!しかもその大半は普通のテンションではない、言ってしまえば口論。200ページにも及んだ脚本の会話劇は言葉のボクシングを見ているかのようでした。
私の記事ですと、この「言葉のボクシング」という表現は『フロスト×ニクソン』以来かと思います。とにかく言葉のボクシング具合が凄まじい、圧巻の会話劇映画に仕上がっていました。
ざっくり3部構成の本作ですが、どこを取ってもとにかく誰かがひたすら喋ってます。緊張感は最後の最後まで持続し、見終わった後感じるのはスティーブ・ジョブズへの敬意とかそういうものではなく、「何て凄まじい映画なんだ!」という映画的満足度。
いや、これ、最初の5分くらいでそう思ったレベルです。とにかく圧巻の会話劇で、圧倒される方が多いかと思います。
という感じで、まず「この映画圧巻だぞ!凄いぞ!」を伝えさせて頂いたので、ここから冷静に本作を考えていきたいと思います。
本作を語る上でまず着目するべきなのは「脚本を書いたのがアーロン・ソーキン」であるということ。
Facebookのマーク・ザッカーバーグを描いた傑作『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞脚色賞を受賞したソーキン。『ソーシャル・ネットワーク』では複数の訴訟話を巧みに混ぜながら、Facebook誕生と成長、そしてマーク・ザッカーバーグという人物を炙り出しました。
そうなると、本作『スティーブ・ジョブズ』でも同じ期待をするのは当然。結果として「脚本の巧みさ、面白さは期待通り!」でした。ただし、良い意味で『ソーシャル・ネットワーク』の焼き直しにはなっていませんでした。詳しくは章を変えて後述します。
とにかくアーロン・ソーキンの脚本の高密度さとダニー・ボイル監督の勢いある演出が見事にマッチしていました。『ソーシャル・ネットワーク』同様にデヴィッド・フィンチャー監督予定で、それが変わったので不安視してましたが全く問題なかったです!
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描くのは製品発表会40分前の舞台裏×3!「あなたの見たいジョブズ」はいない!
『スティーブ・ジョブズ』という同タイトルの映画が既に存在しています。「2時間じゃまあスティーブ・ジョブズは描ききれないよ」と思ってしまう正直中途半端、消化不良の映画でした。2時間で描き切れないスティーブ・ジョブズを映画で描くにはどうすべきか?
偉大なる脚本家アーロン・ソーキンにかかった結果、「そうきますか!」「そう描きますか!」と驚きと感動に満ち溢れたものになっていました。
この映画は3つの製品発表会40分前の舞台裏を描くだけです。
具体的には、
その1:1984年のMacintosh発表会40分前の舞台裏
その2:1988年のNeXT Cube発表会40分前の舞台裏
その3:1998年のiMac発表会40分前の舞台裏
です。それらの会話劇(基本的に口論)の中でその他のダイジェスト映像も入りますが、基本的にはこの3つの舞台裏の話「だけ」です。
それらは一言一句史実ではありません。その舞台裏のドタバタの中に様々な史実のエピソードを織り交ぜて脚色をしているのです。
その中でも大きなウェイトを占めるのはジョブズと4人の人物のやり取り。
その1:共同創始者のスティーブ・ウォズニアックとのやり取り
その2:一時期CEOを務めたジョン・スカリーとのやり取り
その3:マーケティング担当ジョアンナとのやり取り
その4:娘リサとのやり取り
です。
これらそれぞれが圧巻の会話劇(口論)でして、あえて私のベストを選ぶなら第2幕で描かれるジョブズが一時的にAppleを去ることになったジョン・スカリーとの口論でしょうか。あのシーンの緊張感は凄まじいもので、あまりの迫力に鳥肌が立ちました。
また、リサとの距離感は本作の非常に大きなポイントになっています。
小さな会話の中にiPod誕生にきっかけを忍ばせる辺り、脚本うまいなあとニヤリとさせられました。クライマックス付近のそれとクライマックスが非常に感動的でした。全体的に緊張感が凄まじい映画ですが、ここだけ何かほっこりできました。
繰り返し書いている通り、この映画は会話劇、口論が大半を締める映画です。そして発表会直前の舞台裏が大半を締める映画です。
つまり!!
・スティーブ・ジョブズの伝記映画ではありません!
・スティーブ・ジョブズの偉大なる功績を讃えてはいません!
・スティーブ・ジョブズを神のように崇める描き方もしれいません!
・何なら結構な勢いで嫌な奴感出まくっています!
となると、これある意味映画公開後に楽しみなのが、映画好きの方々のレビューではなく、ウェブやコンピュータ業界の方々のレビュー。
良くも悪くも「俺がジョブズを一番知ってる」かの如くジョブズ論を語ったり、映画の批判を始める方が出てくるでしょう。
なぜならここには「スティーブ・ジョブズ最高だよな!」と思えるジョブズがいないからです。この辺は『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグが「映画としてのマーク・ザッカーバーグであり、現実とはだいぶ異なる」という点を知っていると冷静に映画として楽しめるかなと思います。
いや、でももうこの世にいないスティーブ・ジョブズですから、やっぱ信奉してる方は「こんなんジョブズじゃない!」論で暴走してしまうかもしれませんね。
逆に史実と受け取って、かつ好意的に捉えて実際のジョブズと映画のジョブズを線引きできずにたたえ始める方も出ることでしょう。
どちらにもならないために、是非『ソーシャル・ネットワーク』をご覧になったり、私がまとめている『ソーシャル・ネットワーク』関連コラムをご覧頂いて備えて頂けたら良いのかなと思います。
特に3の映画『ソーシャル・ネットワーク』の功罪とは何か?それはな、これ完璧にフィクションだってみんなわかってないことだ!は是非ご一読を。
1:映画『ソーシャル・ネットワーク』が傑作すぎて震えた2011年【鑑賞日記】
2:映画『ソーシャル・ネットワーク』、膨大な情報の中で核となるメッセージは何か?
3:映画『ソーシャル・ネットワーク』の功罪とは何か?それはな、これ完璧にフィクションだってみんなわかってないことだ!
4:映画『ソーシャル・ネットワーク』、『市民ケーン』、『華麗なるギャツビー』 の関連性
5:映画『ソーシャル・ネットワーク』のウィンクルボス双子の片方の身体だけ演じた俳優が『ダークナイト・ライジング』に出てる!?
6:映画『ソーシャル・ネットワーク』が牽引した日本のfacebookブーム、流行らないと言われた謎の風潮とmixiの今から当時を懐かしむ
7:映画『ソーシャル・ネットワーク』で描かれない今のfacebookを統括するシェリル・サンドバーグという女史の最強エピソード
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98年の幕のジョブズは98年の姿ではない!?
映画は発表会の舞台裏を描いているため、製品発表会のシーンはほとんどありません。クライマックスの98年のiMac発表会の映像が見たくてYoutubeを漁ったのですが、ここでおや!?っとなりました。
98年の発表会の映像はこちら
画像キャプチャで見るとこんなん。
映画では以下のような風貌です。
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演出ミスなわけ無いので、意図的に「98年のシーンに2003年以降のジョブズを重ね合わせている」ということになります。
これはもちろんポジティブに捉えるべきもので、そのようなジョブズも映画の中で示したかったということでしょう。
膨大なセリフ量なので、もう何回か見て研究することでこの真の意図は見えてくるのかなと思います。
とにかく「98年の風貌じゃないジョブズなんだよ!」という演出の妙味だけお伝えしておきます。
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『イミテーションゲーム』を見るか、アラン・チューリングを調べるかしておくべし!
是非本作を見る前に映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』をご覧になられるか、「アラン・チューリング」という人物を調べておいてください。それをすることで、ハッとする機会が訪れます。
アラン・マシスン・チューリング(Alan Mathison Turing, 1912年6月23日 - 1954年6月7日)はイギリスの数学者、論理学者、暗号解読者、コンピュータ科学者。
参照:https://goo.gl/Azthhc
アラン・チューリングは第二次世界大戦下のイギリスで、ナチスドイツの暗号「エニグマ」を解読した人物。彼の貢献で戦争終結が早まったと言われていまして、「コンピュータの父」と言われています。
そんな彼の偉大なる功績と彼の悲劇を描いた大傑作映画が『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』です。
是非この映画を見てアラン・チューリングという人物についても深く知ってほしいなと思います。特にコンピュータの恩恵を日々受けている人は是非とも!
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不親切な映画とも言える、だがしかし!
この映画は伝記映画ではないので、不親切とも言えます。共同創始者のスティーブ・ウォズニアック、そして一時期CEOを務めたジョン・スカリー、この辺りの人物について少し知っておかないと置いてけぼりになる恐れがやややあります。
もちろん綿密な脚本なのでその辺りちゃんと説明されてはいるのですが、あまりのセリフ量とスピード感なので、知っておくことは確実にプラスになります。
特に、ジョン・スカリーに関しては元々ペプシの社長だったことや、最終的にAppleから出て行ったことなどは是非知っておきましょう。
ジョン・スカリーとは、Apple Computer社の会長兼最高経営責任者(CEO)として知られる米国の企業経営者である。1983年に、清涼飲料水で有名なペプシコグループの社長だったスカリーが、スティーブ・ジョブズの招きによってApple社に招かれたという有名な逸話が残っている。
ジョン・スカリーはスティーブ・ジョブズと共に経営に乗り出し、1984年にはMacintoshを発売して世界的なセンセーションを巻き起こした。その後1985年、スカリーはスティーブ・ジョブズをApple社から追放し、経営権を一手に握る。以来、スカリーはPowerPCやSystem 7の成功を初めとする多くの業績を残したが、やがて訪れたAppleの低迷と社内の人間関係の混迷から、1993年にはスカリー自身が部下たちによって追放されることとなった。
参照:http://goo.gl/HmBlH0
と言うように予備知識はあればある程良いのは事実。
しかし、3部構成でスティーブ・ジョブズの伝記映画でも無い以上、何も知らなくても(言うならばスティーブ・ジョブズを知らなくても)、映画として楽しめる魅力ある作品とも言えます。
共同創始者のスティーブ・ウォズニアックご本人がこの作品を見て描かれ方を絶賛したと言います。
Universal Picturesの映画「Steve Jobs」が米映画祭でプレミア上映され、VarietyやHolliwood Reporterなどが好意的なレビューを掲載。Appleの共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏も「役者が演じているのではなく、本物を見ているようだった」と絶賛した。米国での封切りは10月9日。
参照:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1509/08/news059.html
もちろん全てを舞台裏で描くことで脚色は相当されていることでしょう。しかし、スティーブ・ウォズニアック本人がこう言うからには、作品のあらゆる場面に史実のエッセンスが凝縮されているのでしょうね。
お行儀の良い伝記映画ではない『スティーブ・ジョブズ』。言うならば喧嘩映画の『スティーブ・ジョブズ』。スティーブ・ジョブズを信奉していたり、尊敬している人ほどもしかしたら本作を嫌うかもしれません。
しかし、そういう反応含め、映画が公開されたらスティーブ・ジョブズと映画『スティーブ・ジョブズ』が様々な視点で語られると思うとわくわくしている自分がいます。
私としては、映画としての面白さからこの映画を多くの人に見てほしいです。あのスティーブ・ジョブズを思いながら、映画として楽しみましょう。
公開は2月12日からです。
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どんな映画?
ジョブズ本人や家族、関係者へのインタビューを中心に執筆された伝記作家ウォルター・アイザックソンによるベストセラー「スティーブ・ジョブズ」をもとに、「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンが脚本を担当。1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacというジョブズの人生の中で最も波乱に満ちていた時期に行なわれた3つの新作発表会にスポットを当て、人々を魅了した伝説のプレゼンテーションの舞台裏を通し、信念を貫き通そうとする姿や、卓越したビジネスセンスを浮かび上がらせていく。さらに娘リサとの確執と和解といったエピソードも盛り込み、ジョブズの素顔を浮き彫りにする。
ジョブズ本人や家族、関係者へのインタビューを中心に執筆された伝記作家ウォルター・アイザックソンによるベストセラー「スティーブ・ジョブズ」をもとに、「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンが脚本を担当。1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacというジョブズの人生の中で最も波乱に満ちていた時期に行なわれた3つの新作発表会にスポットを当て、人々を魅了した伝説のプレゼンテーションの舞台裏を通し、信念を貫き通そうとする姿や、卓越したビジネスセンスを浮かび上がらせていく。さらに娘リサとの確執と和解といったエピソードも盛り込み、ジョブズの素顔を浮き彫りにする。
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written by shuhei
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