1月3日、東京・大手町。
ゴール前の沿道を埋め尽くした観客から「利典(としのり)」コールが起こる。その声援の中を、青山学院大学の10区を任された渡辺利典選手が笑顔を湛(たた)えながら走り抜けていく。
指導者が見せる態度としては珍しい
第92回東京箱根間大学駅伝の復路。
ゴールテープの先では、箱根駅伝各区を走った青学大のランナーたちが横一列に並び、肩を組んで渡辺選手のゴールを待っていた。
待ちに待った歓喜の瞬間。
その整列の中心には、学生と一緒に肩を組む青学大の原晋監督(48歳)がいた。どの選手にも負けないほどの笑顔で……。
そして選手と一緒に「利典」「利典」とコールしていた。
それは、何とも微笑ましいシーンに写ったが、指導者が見せる態度としては珍しいものだった。
正直に言うと、私は前日(往路)からある種の不安を覚えながら原監督の言動を見ていた。往路を制した青学大の表彰式がゴールの芦ノ湖ですぐに行われた。
壇上に上がった原監督は、喜びを隠さない。まだ翌日に復路が残っているにもかかわらずその喜びを抑えるようなことはない。
そしてインタビューに応えて言った。
「明日は、6区を任す1年生の小野田(勇次)がポイントだと思っています。彼が上手く走ってくれれば他の選手は心配ない。優勝を確信しています」
そこまで言ってしまって大丈夫か?
オヤジ目線(老婆心)で眺める当方には、そこが心配でならなかった。油断や慢心が怖いというのは、前回の五郎丸選手のコラムでも書いたばかりだ。
思いもよらない選手のブレーキ(体調不良)や転倒などのアクシデントがないとは言えない。往路(半分)を走り終えただけで、勝利を確信していると言い切っていいものなのか?
私の不安は、その一点にあった。
しかし、そんな心配が杞憂に終わったことは、結果が示す通りだ。
1区から10区まですべて1位で走り切った青学大は2位の東洋大に7分11秒の差をつける完全優勝(10時間53分25秒)。1977年の日本体育大学が10区間すべてで1位になって以来39年ぶりの快挙(6校目、計12回目)を成し遂げた。