ところが、元慰安婦を支援する韓国と日本の一部の団体日本のそれはリベラル派であるは日本政府の法的責任と国家賠償に固執し、「アジア女性基金」を「政府の法的責任を隠蔽するための欺罔(あざむくこと)的手段」などと猛批判した。韓国では、「償い金」の受け取りを希望する元慰安婦に対し、脅しにも等しいバッシングが行われたほどだ。
ちなみに、保守派の一部は「アジア女性基金」を「土下座外交」だと批判した。そのように保守とリベラル、右と左が、ともに日本を道徳的な高みから引きずり下ろそうとしたのである。
リベラル派の言説を一般の国民が「過度の自己否定」と捉えたのは当然で、それへの反発から「過度の自己肯定」や「リベラル嫌い」の空気が生まれた。リベラル派はそれを批判し、困惑するが、責任はリベラル派自身にあるのだ。
【プロフィール】井上達夫(いのうえたつお):1954年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科教授。主な著書に『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 井上達夫の法哲学入門』(毎日新聞出版)など。
※SAPIO2016年1月号