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ニッポンの底力を引き出せ!

1月4日 20時00分

湯浅庸右記者

景気回復を実感できないという方も少なくないと思いますが、一方で「ほぼ完全雇用」(日銀・黒田総裁)とも言われています。変な感じです。これはかつては非常に高かった日本の潜在成長率が下がってしまっているからだと考えられています。
潜在成長率、その数値は今や0%台前半とも0%台半ばとも試算され、ものすごく低い水準になっているのです。つまり経済が1%でも成長すると人手が足りなくなって過熱感が出てしまうのです。
この潜在成長率=底力を引き上げる手だては無いのでしょうか。いえ、あるんです。特にサービス産業に頑張ってもらえば、上がる可能性があります。ニッポンの底力を引き出すための課題を経済部の湯浅庸右デスクが解説します。

日本は20位!?

去年暮れ、内閣府が公表した1人当たりの国内総生産(ドル換算)の順位は衝撃的でした。日本は20位と1970年以降で最低に落ち込んだのです(2014年・OECD加盟国中の順位)。
かつては世界3位だった順位がここまで落ちたのには、バブル経済の崩壊が大きいのと、最近の円安も影響しています。韓国が23位まで迫っています。なんとかしたいところです。

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″底力″の低下

これは全体としてGDPが増えていないという問題がありますが、より根本的な背景としては、日本の「潜在成長率」の低下があります。
「潜在成長率」は、その国が有する「資本(生産設備等)」、「生産性」、「労働力」という生産活動に必要な3要素を活用した場合に実現可能な成長率で、国家の経済の実力を表すとも言える指標です。

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日本は80年代は「4%~5%」でしたが、その後次第に低下。
90年代は平均で「1~2%」、しかし労働力人口の減少で3要素のうちの「労働力」がマイナスになっているため、2000年代はじめには「0~1%」となり、直近では「0.5%」まで低下しています。

これでは1%も成長すれば、上出来の部類に入ってしまいます。資本も伸び悩みに直面しており、労働力人口は増やすことはおろか、減少に歯止めをかけるのさえ難しい情勢です。日本の潜在力を引き上げるには「生産性」を上げることが極めて重要になってきます。

日本の生産性は高い??

「日本は生産性が高いに決まっている」
そう思い込んでいませんか。私もそう思っていました。
日々、カイゼンを続ける製造業は日本の強いものづくりの象徴でもあります。
しかしGDPの約7割を占める非製造業(サービス業など)の生産性が、国際的にはそう高くないと知り驚きました

日本生産性本部によると、非製造業の生産性はアメリカと比べて半分程度(53.9%)にとどまります。中でも「卸売・小売」は4割程度(41.5%)、「飲食・宿泊」に至っては3割弱(26.5%)にしかなっていないというのです。政府もこの点を問題視し、対策を打とうとしていますが、まずは生産性の問題の存在を広く関係する業界で共有してもらわないと始まりません。

カイゼンに乗り出す外食産業

外食産業では生産性を意識する企業が目立ち始めました。
生産性を高めることが利潤に直結するためです。
外食チェーンの「すかいらーく」では、かつての出店ありきの戦略から経営不振に陥り、投資ファンドの傘下に入った後、抜本的な経営の見直しを行い生産性の向上を意識しました。

広報担当者からITの活用などさまざまな生産性向上策を聞く中で「なるほど」と思ったのは店舗内の客席のつくり方でした。
以前はファミリーレストランというとおり、座席はボックスタイプのものが多く、1人で来店した客でもゆったり4人が座ることができる席に案内することも少なく無かったと言います。当然、面積当たりの売り上げが落ち非効率です。

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今は、右の写真のように2人用のテーブルとイスを多めに配置することで、1人や2人で来店する客に必要にして十分な席を用意し、4人が来客した場合は2つテーブルをくっつけて対応するといいます。″何だ、当たり前のこと″と思ってしまいそうですが、改装前後で約5.3%も売上高が増加したというのですからばかになりません。
いったん初期投資でボックス席をつくってしまった場合、その路線変更にはコストも発想の転換も必要ですから、効率を意識した投資の重要性を教えてくれます。

このほかの外食産業でも生産性を極限まで追求する動きが始まっています。ちゅう房や店内をカメラで撮影し、作業手順にむだがないか分析する。製造業が実行してきたカイゼンの手法を取り入れサービス産業でも生産性をあげようとしているのです。

人手不足で旅館業も動く

日本生産性本部が課題だとしている業種の一つ、旅館・ホテル業界も本格的な取り組みに乗り出そうとしています。突き動かすのは深刻化する人手不足です。日本旅館協会は全国の会員からモデル旅館・ホテルを8軒選定し、国の支援の下、生産性の向上策を模索することになりました。

今月から早速、北海道・十勝川温泉の大型旅館に生産性本部のコンサルタントが入り、指導を始めるといいます。どうすれば人手不足の時代に十分なサービスを提供できるのか、その報告を全国で広く共有することが重要なカギを握ります。

すでに大きな成果を上げている老舗旅館もあります。江戸時代初期創業という箱根の「一の湯」グループはその代表例です。この老舗旅館は、1人の時間当たりの生産性を(25年余りかかったそうですが)3.5倍の5000円に引き上げたといいます。

老舗にもかかわらず「下足番」は居ません。詳細な館内案内図を配ることで客室への案内係も廃しました。フロント係はチェックインのピークがすぎると配膳係を行うといった「1人複数役」の仕事改革で1旅館当たりの従業員数を半減させたというのです。

こうした取り組みの結果、宿泊料金を下げてなお黒字を確保しているといいますから、外国人旅行者の急増で人手不足になやむ旅館にとっても参考になるのではないでしょうか。逆に生産性向上に本格的に取り組まなければ、予想を超えて増える外国人旅行者から『日本のサービス水準は低い』などと思われてしまいます。これではリピーターになってもらえなくなります。

より深刻化する人手不足

しかも人手不足は今後、ますます深刻化することが見込まれています。東京オリンピック・パラリンピックが迫ってきたためです。日銀が去年暮れに公表した試算では、オリンピックが無かった場合と比べると再来年・2018年には73万人が追加的に必要になるというのです。

建設需要やサービス業の需要が高まるためで、人手を手当てできなければ、例えば工事が遅れたり、24時間営業などというサービスが提供できなくなると警鐘を鳴らしています。今後、製造業・非製造業を超えた人手の奪い合いが起きることを想像させます。サービス業の生産性向上はこの観点でも待ったなしと言えます。

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危機を乗り越えて底力を高めよ

しかし、もしこの「危機」を乗り越えられれば、サービス業の生産性が一気に向上していく可能性もあります。かつて石油危機で日本はダメになると考えられましたが、危機を乗り越えて世界に冠たる省エネ社会をつくりあげることに成功しました。

人口減少が引き起こす新たな「危機」をなんとしても乗り越え、高効率な経済をつくりあげなければなりません。ことしも海外情勢は何が起きるか予断を許しません。底力のある高効率な経済は海外からのショックへの耐性を高めるでしょう。そうした課題と前向きな取り組みをことしは広く紹介することに努めたいと考えています。


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