貴州省岩洞鎮=延与光貞
2016年1月5日00時46分
■中国少数民族・トン族の「大歌」
夜9時。村の中心にある役場で、男女三つのグループが合唱の練習を始めた。2月上旬の春節(旧正月)を祝うため2カ月間、毎晩11時まで練習が続く。
歌わなければ 歌がもったいない 働かなければ 人は飢えてしまう/働き 歌おう/農期を逃せば 収穫は減る 青春を逃せば 人は老いてしまう
山々に囲まれた中国南部・貴州省岩洞鎮。少数民族のトン族が暮らす村だ。
6歳から歌い始めた呉応清さん(73)は「練習がつらいなんて思ったことはないね。人生のあらゆることがトン族の歌の中にある。歌えば歌うほど心は楽しくなる」と豪快に笑った。
トン族には「食事は体を養い、歌は心を養う」という言葉がある。長く文字を持たなかった彼らは、あらゆることを歌で伝承してきた。民族の起源、自然の美しさ、人の道、結婚の心構え、礼儀や労働の作法。30分、1時間続く歌も珍しくない。中でも合唱形式の「トン族大歌」は、ハーモニーの美しさで知られる。
かつては「歌がうまくなければ、結婚できない」とまで言われた。若い男女が集まって歌い合う場で恋が芽生え、結婚していたからだ。子どもは4、5歳から、男女別に「歌師」と呼ばれる先生について歌を習っていたという。
岩洞鎮の銅関小学校でトン族の歌を教える呉良明先生(50)の両親も歌師だった。でも幼少期は歌えなかった。全土で吹き荒れた文化大革命の間、トン族の歌は「打倒すべき古い習俗」として禁じられたからだ。
歌は、消えなかった。
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