75万人の有料会員を「和製アニメ」で獲得した米メディア:7カ国語展開で世界戦略も

いかにしてマネタイズしていくかは、デジタルメディアにおける試練だ。

アメリカでそのジレンマを、アニメというコンテンツで解消したメディアが存在する。「クランチーロール(Crunchyroll)」だ。この創業9年のビデオサービスは、和製アニメのファンの情熱によって支えられている。

「美少女戦士セーラームーン」「進撃の巨人」「NARUTO−ナルト−疾風伝」などの日本アニメ1万5000本を配信。月額7ドル(約840円)から12ドル(約1400円)で、75万人もの有料会員を獲得している。

会員の80%が英語圏

同社CEOのクン・ガオ氏によると、「クランチーロール」は英語やアラビア語など、7カ国語に対応しており、その会員の80%が英語圏のファンだと語る。「我々のコンテンツは大変多くのオーディエンスを魅了している。しかし、まだ序の口だ」とガオ氏。「我々のコンテンツ視聴者は、日本語が分かる必要はないのだから」。

ちなみに、この「クランチーロール」。ぽっと出のスタートアップのような存在などではない。米通信大手AT&Tとエンターテインメントプラットフォーム企業の「チャーニン・グループ(Chernin Group)」のジョイントベンチャーである「オッター・メディア(Otter Media)」が融資している「エレーション(Ellation)」の傘下にあるのが同社だからだ。

ニッチ戦略で有料会員獲得

メディアの動向をフォローさせ、ユーザーを有料会員にする手法は、ニッチなストリーミングサービスのなかで立証されつつある。特定のカテゴリーでディープなコンテンツのカタログを提示し、特別なコンテンツや会員特権などと有料会員をセットにするというものだ。

「クランチーロール」の登録ユーザーは2000万人。ユーザーネームとパスワードを入力し、広告を最後まで見れば、ライブラリー化されているコンテンツの大半を無料視聴できる。

有料サービスでは、7ドルと12ドルの2コースが用意されている。7ドルの場合、ユーザーは日本で放映された最新エピソードやライブラリーに収蔵されているビデオコンテンツやアニメなどを、広告抜きで視聴することが可能だ。

金をつぎ込む情熱的なファン

一方、12ドルの「プレミアムプラス」パッケージでは、「クランチーロールストア」でディスカウント購入したり、世界中で開催されるファン大会で日本人クリエイターと直接交流できたりと、追加特典がついている。

このようなコンテンツに特典を加える戦略は、「ドラマフィーバー(DramaFever)」「コンテレビ(Con TV)」「シャダー(Shudder)」などのニッチストリーミングサービスでも採用されている。これらすべてに共通するカギは、情熱的なファンである。

「自分の趣味や興味に多くの金をつぎ込む人がいる」とイレーション(Ellation)のトム・ピケットCEO。「情熱をもっている人たちがのめり込めるようにできれば、向こうから進んでお金を払ってくれるものだ」。

テレビ以上の価値

従来型のテレビでは、このようなビジネスモデルを構築するのは不可能に近いことも、「クランチーロール」にとって追い風だろう。既存のテレビチャンネルでは、好みの番組について視聴者がメッセージを発するソーシャルフォーラムの構築や店舗の展開などはできないし、有料特別サービスも不可能だ。

「我々はテレビ以上の価値を提示しつつある」と、イレーションのピケット氏。過去1年で、階層型メンバーシップのモデルが会員育成の助けとなってきた一方、「クランチーロール」では会員獲得に当たって従来型の手法も使っている。広告の配信だ。

コメディ中心のアメリカのケーブルチャンネルである「コメディ・セントラル(Comedy Central)」やSF専用ケーブル局の「サイファイ(Syfy)」。それに、YouTube、Facebook、インスタグラムなどでも、広告を配信している。

「ほかにオーディエンスがいないか探している最中だ。われわれを認知している方やそうでない人でも興味をもちそうな人に訴えかけ、クランチーロールが魅惑的な場であると示したい」と、ガオ氏は締めくくった。

Sahil Patel(原文 / 訳:南如水)
Image by greyloch(CreativeCommons)
※TOP画像は大ヒットアニメ『進撃の巨人』の海外コスプレイヤーです。