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【千葉】

大人って…<第1部> わたしたちが選ぶ (3)壁は「無関心」

「責任を果たせるのか不安」と口にした高橋君(左)に、山口教諭は「自分で情報を集められれば立派に選挙権を行使できる」と励ました=館山総合高校で

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 「やはり、まだこんな感じなんだろうなあ」。館山総合高校(館山市)公民科教諭の山口一雄さん(61)が昨年十一月、三年生百三十九人に実施したアンケートの結果は予想通りだった。

 選挙権が欲しいかどうかという問いに「欲しい」と答えたのは二十三人(約16%)にとどまり、「欲しくない」は四十九人(約35%)。「どちらとも言えない」が六十七人(約48%)と最も多かったからだ。

 商業科三年の高橋巧哉(こうや)君(18)は、どう答えるか迷った。「権利を正しく使えるか、責任を果たせるか不安」。悩んだ末に「どちらとも言えない」に丸をつけた。

 今年四月、親元を離れて都内の私立大に進学する。「自立し、新生活をこなせれば大人と思えるかも。今はまだ中途半端です」

 ある生徒は自由記述欄に「十八歳に選挙権をくれるのは大人が決めただけ」と書いた。山口さんは「自ら求めて得た権利ではないので、実感がわかないのだろう」と分析。授業で身近な時事問題を話題にしたり、討論の機会を増やし、生徒たちの「無関心」に向き合っている。

 「候補との距離があるほど、有権者の無関心につながる」。淑徳大学コミュニティ政策学部三年の鳰川(におかわ)貴也さん(21)も昨年、大学ゼミで県内の大学生を対象にアンケートを行った。結果は、館山総合高と同様に「関心ない」との回答が目立った。

 有権者が候補をもっと身近に感じられるようになればいい。こう考えるのは、ある体験からだ。中学・高校時代にアイドルグループ「AKB48」に熱中。グループが公演する東京・秋葉原の劇場に何度も行った。メンバーとファンの距離が近いことに魅了される。シングル曲を歌うメンバーを決める「選抜総選挙」では四回、投票した。

 AKBはエンターテインメントとしての選挙で、実際の選挙と別物だとは思う。ただ「実際の選挙の候補者が当選後、どんな活動をしているか。自分も含めて多くの人は知らない」。公約が果たされているか、チェックもしづらい。AKBは、出馬したメンバーの「政見放送」を動画サイトで見られる。ネットを駆使して選挙後もメンバーの活躍を発信し、「有権者」との交流を大切にする仕組みは、ヒントになると感じている。

 候補者の当選後を見据え、「政治家に政策を言いっ放しにさせない」とネットで情報発信する大学生たちがいる。候補の経歴や公約を紹介する選挙公報を、選挙後もネット上に載せるグループ「選挙公報ドットコム」だ。千葉大、専修大などの三十人が二〇一四年九月に設立。全国の首長選や地方議員選の選挙公報の情報を地道に集め、ネットに掲載してきた。

 千葉大三年の長谷川舞子さん(20)はネット掲載にこだわる理由を「若者が進学や就職で選挙権がある地元を離れても、候補者の情報を得られる」と話す。ドットコムの活動をなぞるように、各自治体も選挙公報をネットで継続して掲載するようになった。全国約千八百の市区町村のうちネット掲載を選挙後も続ける自治体は、昨年一年で1%から10%まで増えた。

 十代や二十代前半の若者たちは、物心ついたころからネットが身近にあり、「デジタルネーティブ」と呼ばれる。ネットを当たり前に使うが、興味のある情報でなければアクセスしない。長谷川さんらは今夏の参院選を控え、短文投稿サイト・ツイッターやフェイスブックなどで、ドットコムの活動を広く発信することも計画中だ。工夫次第で、ネットが若者と選挙の距離感を縮めると信じている。 (柚木まり)

 <AKB総選挙> ファンクラブ会員や投票権付きのCDを購入するなどした人が、インターネットで投票する。2009年に初めて実施。昨年の第7回の総投票数は過去最多の328万7736票。指原莉乃(さしはらりの)さんが19万票余を得て1位となった。

 <デジタルネーティブ> 生まれながらにパソコンや携帯電話、テレビゲームなどが当たり前にある環境で育った世代。国内では、一般家庭にインターネットが普及し始めた1990年代半ば以降生まれの世代を指すと言われる。2001年に米国作家マーク・プレンスキー氏が自著で発案した。

 

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