著名な未来学者ドン・タブスコット氏は、現代社会における最も偉大なCEO(最高経営責任者)としてイーロン・マスク氏を挙げている。革新的な製品で巨大企業をつくり上げた事業家は多いが、誰が人類の未来を切り開いていくかまで考えると、マスク氏がトップだというのだ。
マスク氏は科学的な想像を現実のものにしてきた。電子金融取引分野で第一歩を踏み出し(ペイパル設立)、おもちゃ扱いされていた電気自動車を商用化された高級車に変身させた(テスラモーターズ設立)。また、彼が立ち上げたソーラーシティは太陽光発電の普及をリードしており、スペースXという企業は民間宇宙船時代を切り開いている。
マスク氏の活動舞台は米国のカリフォルニアだが、出身は南アフリカだ。生まれてから高校卒業まで南アフリカで育った。だが彼は、そこで過ごした18年はよい時間ではなかったと語る。
コンピュータープログラミングを独学で習得したマスク氏は、わずか12歳でビデオゲームを作って売ったほどの天才だが、南アフリカの小中高校は彼の潜在力を引き上げるレベルに達していなかった。南アフリカでは、月給だけもらって出勤さえしない教師が多い。経済協力開発機構(OECD)が今年、主要76カ国の生徒の数学・理科の成績を比較したところ、同国は75位だった。
問題は教育レベルの低さだけではない。マスク氏は何かにつけてクラスメートたちに殴られ、入院を繰り返すいじめの被害者だったが、学校も教師も彼を助けてくれなかった。彼はメディアとのインタビューで「私は生意気なやつと言われ、いやというほど殴られた。さびしさに負けまいとサイエンス・フィクションを読んでいた」と振り返っている。