アメリカの危機感
国際社会のルールは誰が決めるのか? 2016年はこの大テーマの行方を占う上で重要な年になりそうだ。
その火蓋を切るかのように、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が年末の25日に正式発足した。アメリカ支配の象徴である世界銀行・国際通貨基金(IMF)体制、ドル基軸体制への中国の挑戦の第一歩だろう。
一方のアメリカでは11月に新たな大統領が選出される。アメリカはブッシュ、オバマ両政権下で失墜した国際社会での「威信」を取り戻せるのか。そして、リベラルな民主主義陣営の指導者として、自己主張を強めるリビジョニスト(現状変革)国家への反転攻勢に打って出る契機となるのか。今年はその分岐点となりそうである。
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誰のルール、行動様式が「世界標準」なのか。この問題をめぐる攻防は、アメリカと欧州の相対的な影響力低下と、中国やロシアなどリビジョニスト国家の台頭でますます熱を帯びている。
その実情は、オバマ米大統領が昨年10月、米日が主導した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)大筋合意を受けて出した次の声明が端的に示している。
「グローバル経済のルールを中国のような国に作らせるわけにはいかない。新しいルールは我々が作るべきだ」
この発言を聞いたとき、我が耳を疑った。大統領が公然とここまで言わなければならないほど、アメリカの危機感は高まっているのかという意味でだ。経済ルールをめぐるアメリカからの「宣戦布告」。中国側がそう受け止めても仕方ない内容である。
日本では「中国崩壊論」が脚光を浴びているようだが、ホワイトハウスにそうした情勢認識は全くなく、競争の激化に備えているようである。
一方、攻める側の中国の路線は明快だ。習近平・国家主席は2014年11月、8年ぶり、史上二度目の「中央外事工作会議」での重要談話でこう訴えている。
「国際システムとグローバルガバナンスの改革を推進し、我が国と幅広い途上国の発言権を高めなければならない」
習氏の発言はオブラートに包んだ物言いながら、米欧が築き上げてきた国際ルールを中国の国益に沿うように変えていくという宣言であり、その姿勢が先鋭化して現れているのが南シナ海だろう。中国はここで国際法を無視し、人口島を造成して独自のルールに基づき「領海」を主張している。
しかし、この問題は国際ルールをめぐるせめぎあいの点から見た場合、氷山の一角でしかない。長期的により重大な意味を持つのは、AIIBの設立により、中国が米国の金融覇権への挑戦を始めたことである。