ダイワ精工のフリースプールベイトリール、ミリオネアシリーズです。フリースプールとしてはオリムピックのアンバサダーコピーが初代としてあったのですが、訴訟の影響と構造が比較的複雑なベイトリールの特性上、このミリオネアが日本で二番目のモデルということになりました。これ以前にオリムピックもNO.3200を出していますが、これは基本設計をスエーデンのビクトリー社から引き継いだもので、オリジナルブランドではなくヘドンのOEMです。したがって日本市場においても、オリムピックブランドでは結局販売されず仕舞いでした。設備や製造コストの問題もあるのでしょうが、これほど長くフリースプールのベイトリールが製造されなかったのは、やはりアンバサダーコピーの訴訟に対する影響が大きかったものと思われます。
とは言うものの、このミリオネアにいたっても、日本製はアンバサダーの影響を抜け出せていません。それどころか外観のデザインから細部にいたるまで、アンバサダーのコピーからできていたというのが本当の所です。その細部を検証する意味で、先ずはプレートのデザインから見て行きましょう。
丸いプレートはもちろんそうなのですが、注目すべきは描かれている金色の線です。ミリオネアの登場した76年には、すでにアンバサダーは山型プレートになっていたのですが、このデザインまではさすがに真似できなかったらしく、無意味な線だけをプレートに書き込んだのです。左プレートにはキャスティングコントロールノブのダイヤルも付いていますが、これも単なるお飾りで、重過ぎて回転させることはできません。単に数字が表示してあるだけですので、付いていてもあまり意味はないものに思われます。
隣のニジ色のマークにしてもそうなのですが、何も意味のないものがゴタゴタ付いているのが、この頃の日本製の特徴の一つでした。モデル名の6Hというのは分かりにくいものですが、6はアンバサダーの6000番クラスを表し、Hはハイスピードを示します。つまりはアンバサダー6500Cのコピーという訳です。未だにとても分かりにくいモデル名を付けるダイワの悪い癖は、既にこの頃から始まっていたものでした。
このスプールはフランジ形状が少し違うものの、ほぼアンバサダーのコピーでした。6500Cの作りに似せて、シャフトの端は細く削り込まれています。ただしクラッチ部分は6000Cに似せてあります。試しにアンバサダー6000Cとスプール交換してみたら、ピッタリ収まって苦もなくハンドルが回せたので、バカにするなよと笑ってしまった思い出があります。
スプールキャップの中身は、やはりアンバサダーそっくりです。穴開きのセンタリングシムもそうなのですが、樽型のベアリングまで真似しているのはすごいと思います。ベアリングには規格があり、この様な樽型のものはリムの平らなものより遥かに用意し辛い筈だからです。結局大きな違いはノブの刻みの入れ方と、右側に入っているベアリングクッションのスプリングの省略くらいです。内部に入っているパーツから、コピーしたのは72年以前のアンバサダーと分かります。
クラッチ部分にはダイワ独自の工夫も見て取れます。クラッチボタンはプレートではなく厚い四角のボタンとなっており、ピニオンギヤを支えるヨークは白いプラスチックです。クラッチは二箇所で持ち上げる方式になっていますが、このために構造はより複雑化し、スプリングが全部で5本使用されています(アンバサダーは折りバネも入れて4本)。なおこの方式は、後に島野工業のバンタムにも採用されます。シャフトやアンチリバースの構造など基本設計は、アンバサダーのものがそのまま流用されています。
ドライブギヤ一式を分解したものが右です。ドラグワッシャーはアンバサダーと違うタイプのものを使用しているのが分かります。その最たるものが、ダムのチャンピオンに入っている様な巻きバネです。おそらくダムのドラグワッシャーをコピーしたものでしょう。やたらと部品点数が多い割りに微調整は不得手で、まるでトラックのそれのようなカックンブレーキです。入っているワッシャーの数が多ければ多いほど良いというのが、この頃の日本製が信奉しているドラグ設計理論でした(現在でもこれは通じているのかもしれません)。ピニオンギヤには真鍮の輪がかぶせてありますが、これはクラッチ部分でギヤが避けるのを防ぐためのものです。この部分はかなり無理のある設計をしていることが分かります。
画像はミリオネアのハンドルとレベルワインダー周辺です。ハンドルのデザインこそ少し違うものの、後はアンバサダーそのままのデザインと構造です。パーツの細部を一々デザインし直している余裕はなかったものと考えられます。ここではハンドルのデザインだけが、どうにかダイワ精工を主張しています。
フレームデザインもアンバサダーそのままの作りですが、唯一フットの固定方式だけが、アンバサダーのような蝋付けとは異なり、リベットによるカシメ方式です。この方がずっと簡単に生産できますので、大量生産するには有利です。リールフットの成形に関して言えば、かなり荒っぽい感じがします。