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人気漫画「頭文字D」のドラテクはホントにできるか? “プロ”の意外な答え〈dot.〉

dot. 2015年12月29日(火)16時10分配信

 映画化されるなど大ヒットした“走り屋”と呼ばれる峠道の公道を車で速く走る若者たちの青春を描いた漫画「頭文字D(イニシャルD)」(しげの秀一作・講談社)。この作品は、群馬県・榛名山がモデルといわれる「秋名山」を舞台とした物語。主人公・藤原拓海が、車好きの親友・武内樹(いつき)や、「公道のカリスマ」と呼ばれる高橋涼介らとの交流を通して、走り屋として覚醒、成長する過程を描いている。

 今や“走り屋のバイブル”といわれる「頭文字D」は、華麗なドライビング・テクニックが作品の主軸となっている。ここで気になることがある。はたして、作中に出てくるドライビング・テクニックは本当にできるのか。

 たとえば、こんな場面がある。主人公・拓海が駆るトヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)が、排気量が大きくパワーも強い日産・スカイラインGT-R(R32型)をレース上で抜き去るシーンだ。

 これは本作品の監修者でもある“ドリキン(ドリフト・キングの意味)”の愛称で知られる著名なカーレーサー・土屋圭市氏が、テレビ番組で実演したことがある。ドライバーの腕次第では不可能ではないことは走り屋たちの間では今や常識という。

 作中に出てくる数々のテクニックのうち、先行車のドライバーを心理的に揺さぶる目的でヘッドライトを消して走行するという心理戦はまだ想像がつく。

 だが、舗装された公道の峠道で急カーブを曲がる際、降雪地域用の路肩の側溝にタイヤを落として素早く曲がる「溝落とし」や、栃木県日光市の高低差が激しいヘアピンカーブで知られる「いろは坂」で車をジャンプさせて早く曲がるといった“ワザ”は、素人ならずとも本当にそんなことができるのかと思わずにはいられない。

 そんな率直な疑問を本作に登場するトヨタ・スプリンタートレノの製造元・トヨタ自動車やカーレーサーなど自動車業界関係者、そして走り屋にぶつけてみた。

 まずはトヨタ自動車を直撃したが、その返答は「回答は差し控える」とにべもない。しぶる担当者を説き伏せて、どうにか得たのが次のコメントだ。

「どの車種でもありとあらゆる想定でのテスト・ドライビングは行っています。ただし、その個別具体的な内容についてはお答えできません」

 一方、「頭文字D」の作品すべて読んだという元テスト・ドライバーはこう話す。

「作中に出てくる数々のテクニックに近いことはテスト・ドライビングでどこの社でもやっているだろう」

 作中に出てくるテクニックを自動車メーカー各社がテスト・ドライビングで行っていることを暗に認めたが、何度質問しても作中に出てくる数々のテクニックができるかどうか、明言を避けた。車の性能に関わるテストドライビングの具体的内容はどこの自動車メーカーも社外秘というのがその理由だ。

 プロのカーレーサーはどうか。引退した人を含めて5人に聞いたが、そのいずれも「危険走行を助長しかねないので何も答えられないし答えない」と回答を拒んだ。だが、そのうちのひとりが“溝落とし”と“ジャンプ”について、「メカニックという観点から」と前置きのうえで重い口を開いた。

「足回り、つまりサスペンションが強化されているという条件であれば、ドライバーの腕次第では理論上可能かもしれない。ただし、早く走ることを目的とするレースの世界では、現実的には不可能。特に『溝落とし』など速いスピードで行えばサスペンションが壊れてしまう。ジャンプはカースタントの領域だ。レーサーが答える範疇ではない」

 こうしてカーレーサーのひとりが「頭文字D」の作中で描かれるテクニックは、スピードさえ出さなければ実現可能だという含みを持たせた。もしかすると、カースタントマンなら作中描かれたテクニックを実現できるのかもしれない。そこでカースタントマンに尋ねてみた。

「できます。“イニD”は全部読んでますが、そのほとんどはレース、テスト関係なくプロのドライバーならできるはずです。カースタントマンなら軽くこなせます」

 いとも簡単に「頭文字D」で描かれるテクニックを「できる」と言い切った。だがこの後に次の言葉が続く。

「ただし、レースでの話ではありません。カメラ越しに格好よく映るためだけならという話です。作中に出てくる“溝落とし”ならそのシーンだけ撮影できればいい。後は車が壊れても構わなければ……。ジャンプはカースタントをする人なら普通にします」

 関西の峠道を走り込んでいる大阪府在住の現役の走り屋、リョウヘイさん(仮名・25)はこう豪語する。

「俺なら“イニD”のテクニックは余裕でできる。ただ車のことを考えてやらないだけだ」

 カースタントマンというプロができるという以上、この若き走り屋の言葉もあながち嘘とは言い切れまい。ただし車のプロほど安全に注意を払った物言いをする。そこがプロとアマの違いといったところか……

 ただし、危険な運転と走行は道路交通法に反するので、くれぐれもマネをしないように!

(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)

最終更新:2015年12月29日(火)17時8分

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