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記者の印象に残った人のその後(2) 松本康汰くん

◆特別支援学級に通う重複障害児の松本くん=5月27〜29日掲載

コウちゃんに話しかける健一さん(左)と一代さん。育ち盛りで身長は半年で10センチ伸びた=愛知県刈谷市の自宅で

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 奈良公園でシカが近づいてきて、車いすのコウちゃんのほっぺにキスをした。京都の土産物店では、初めての買い物学習に歓声を上げた。愛知県刈谷市のコウちゃんこと松本康汰(こうた)君(11)=市立富士松東小学校六年=は十月、修学旅行に参加した。

 脳性まひで寝たきり。知的障害も重く、自分の気持ちを伝えることも難しい。バスのトイレ休憩のたびに、担任の深谷ひろみ先生(57)と、ボランティアの大学院生が障害者トイレの寝台で、おむつを替えた。コウちゃんの父健一さん(40)も自家用車で同行したが、担当は投薬だけ。宿も別に取った。家族以外の人とかかわる経験を積むためだ。

 在籍する肢体不自由児学級はずっと一人きり。だが他学級、他学年の子との交流を通じ、コウちゃんは成長した。その笑顔を見たくて、昼休みに遊びに来る子も増えた。そんな日々を五月の連載「コウちゃんのクラス−特別支援教育を考える」で紹介した。

 この半年で、身長は十センチ伸びた。体重もずっしりと重くなり、日ごろの世話をする祖母一代さん(65)は「腰を痛めました」と苦笑い。でも「トイレ行く?」の問い掛けに「アー」と肯定の返事をしたり、無言で否定の意思を示したり。コミュニケーションのパターンが増えてうれしい。

 来春から通う市立富士松中学校は、校舎改装の時期で、トイレ、エアコン、階段など施設面の配慮をしてくれるという。日常の療育、教育の引き継ぎも、深谷先生が入念に進めている。

 「三学期に、最後の交流学習を考えたいです。コウちゃんを通じて、子どもたちが得たものは大きい」

 深谷先生の夫で、絵本童話作家の野村一秋さん(61)=ペンネーム=は、コウちゃんを囲む子どもたちの輪、成長する力をテーマに「4年2組がやってきた」という絵本を六月に書き上げた。出版を目指して交渉中だという。

 多くの人の心に、あたたかいものを植え付けて、コウちゃんの小学校生活はやがて幕を閉じる。

 (安藤明夫)

 

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