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人工知能が変える医療

1月2日 10時20分

蔵重龍記者

将棋のプロ棋士との対局や車の自動運転などで注目を集める人工知能。今、医療分野での活用が期待されています。
人工知能が医師の代わりに病気を見つけたり、これまでなかった治療法を開発したりするー。そんな時代がすぐそこまで来ているとも言われています。医療を取り巻く環境は、人工知能によってどのように変わるのか。その最前線に迫ります。(ネット報道部・蔵重龍)

人工知能が病気を”診断”

「すぐに病院に行くほどではないけれど、最近なぜか身体の調子が悪い」
こうした不安に答えてくれるのが、調剤薬局準大手「アイセイ薬局」が開発したスマートフォンアプリ「Search Dr.」です。

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年齢と性別を入力し、気になる症状や身体の部位についての簡単な質問に答えると、疑いがある病気や受診すべき診療科の一覧が優先順位をつけて表示されます。スマホの位置情報を利用すれば、近くにある医療機関も推薦してくれます。

このアプリで、病気の“診断”を行っているのが、「エキスパートシステム」と呼ばれる人工知能を使ったプログラムです。内科や小児科の医師などが作成した48の診療科の1300余りの病気の特徴や症状のデータベースをもとに、疑いのある病気を瞬時に判別していきます。

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あくまで医師の診断支援

アプリの”診断”は、あくまで医師の支援という形で行われます。病気の診断は、法律で医師しか行うことができないと定められているからです。

「病気の可能性を考慮したもので、医師の診断に置き換わるものではありません」
"診断”の結果を見るには、このような文章が表示され、同意のボタンを押さなければなりません。

開発した会社の担当者は「アプリはあくまで医師の診断に至るまでのふるいをかけるのが目的で、病院をたらい回しになったり、治療が遅れたりする、いわゆる治療サイクルの負の連鎖を少しでもなくしたいと考えて開発した。万が一、ミスがあると命に関わる可能性もあるので、医師法や薬事法に触れないよう法律家に相談して慎重に検討した」と話しています。

去年8月のリリース以来、アプリのダウンロード数は3000余り。子育て中の母親から「子どもが夜に急病になった場合に参考になる」などという声が寄せられているということです。

感染症の流行をいち早くつかめ

人工知能を使って、感染症の流行をいち早くつかむ取り組みも行われています。

奈良先端科学技術大学院大学の荒牧英治特任准教授が開発したインフルエンザの流行予測システムです。
インフルエンザの流行情報は、国立感染症研究所が全国の医療機関からの報告を基に発表していますが、実際の流行に比べると、どうしても1週間ほどのタイムラグが出てしまいます。
そこで注目したのが、インターネットをリアルタイムで飛び交うツイッターの情報です。

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膨大なつぶやきの中から、本物のインフルエンザの患者の情報だけを取り出すのに使われているのが人工知能です。

例えば、「インフルエンザ」という単語が含まれていても、「予防接種」などの単語があると、実際には病気にかかっていない可能性があるとして、情報の“重み”を下げる判断を行います。また、「だったら怖い」といった仮定の表現や、「去年の今頃は」といった過去の表現、また「速報」などニュースに関わる表現など、病気の真偽との相関関係を「ディープラーニング」と呼ばれる人工知能の技術で自動的に学習し、つぶやきの発信者が本物の患者である確率を判定します。人工知能は学習すればするほど賢くなり、判定の精度は上がっていきます。

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このシステムは「インフルくん」という名前でホームページで公開されています。1日約10万の情報を解析し、患者である可能性があると判断した情報は「インフルエンザ陽性ツイート」として折れ線グラフで表示しています。また、流行の情報は日本地図でも示されています。国立感染症研究所のデータと比較しても、感染者数や時期は90%の精度で重なっているということです。

さまざまな感染症に応用も

荒牧特任准教授は、現在、インフルエンザだけでなく、デング熱やマダニの感染症などの検知・予測システムの開発も進めています。海外渡航の情報などを人工知能に学習させ、専用のモニターで監視する体制をとっています。

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荒牧特任准教授は、「感染症の兆候をいち早くつかむことができれば、個人の予防対策だけでなく、ワクチンの在庫調整や注意の呼びかけなど行政の対応も速やかに行うことができる。未知の感染症の広がりを察知できれば、社会的にも大きな効果が期待できる」と話しています。

お年寄りの転倒防止に

病院でお年寄りの転倒予防に人工知能を使う取り組みも始まっています。

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NTT東日本関東病院は、IT企業「UBIC MEDICAL」と共同で、入院患者の転倒事故のデータを人工知能を使って分析しました。

病院には500人以上の入院患者がいますが、60代以上の高齢者が7割を超え、週に10件ほどの転倒事故が発生します。看護師が記録した患者の転倒事故の電子カルテを人工知能に学習させることで、患者一人一人の事故の危険度を自動的に予測するのがねらいです。

事故の要因になりうる意識障害や運動機能の低下など、電子カルテに記録されたさまざまなキーワードを分析した結果、将来の転倒事故の危険度を点数化できるようになりました。

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例えば、人工知能が最も事故の危険度が高いと予測した患者の電子カルテには「手術後に混乱しているようでつじつまの合わない言動が見られる」といった看護師の所見が記録されていました。また、2番目に高かった患者のカルテには「きょうはどこに連れて行かれるの?怖いから触らないで」といった患者のことばが記録されていました。
人工知能は看護師と患者とのやり取りの微妙なニュアンスを解釈し、事故の危険度を判断しているのです。

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看護師の負担軽減に

中尾正寿看護師長は、「転倒のリスクが高い患者にはベッドに落下柵を付けたりベッドの高さを低くしたりします。意識障害の強い人はナースステーションに近い場所にベッドを移動するなどの対応を取ることができます、また、リスクを特定して集中的に看護することで看護師の負担が大幅に軽減されることも大きなメリットです」と話しています。

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このシステムは現在研究段階ですが、病院では、将来的にはリアルタイムで患者の転倒・転落事故の危険度を把握できるシステムの開発を目指しています。

身近な病気やけがの予防などに生かされ始めている人工知能。さらには、人類がまだ克服できていない、最大の病気、がんとの闘いでも大きな役割を果たそうとしています。次回は、最先端のがん治療の研究に活用される人工知能についてお伝えします。


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