笠井哲也
2016年1月2日12時25分
大阪生まれの作曲家、信時(のぶとき)潔が昨年、没後50年を迎え、改めて脚光を浴びている。戦時中、鎮魂歌などとして歌われた「海ゆかば」は代表曲の一つだ。戦争の記憶と結びついた作品とどう向き合い、次世代に引き継ぐか。様々な思いが交錯する。
信時が教えていた東京芸術大学。昨年11月28日、没後50年記念の演奏会が開かれた。チケットは完売し、約950人が聴き入った。学生や教授によって75年ぶりに演奏されたのが代表作「海道東征」だ。
1940年、皇紀2600年を祝うために作曲された。神武天皇の建国神話をもとにした「神坐(かみま)しき、蒼空(あをぞら)と共に高く」という北原白秋の詩と、雅楽を模した調べで幕をあける。全8章の交声曲で、演奏時間が約1時間という大作だ。
戦後はその成立背景から演奏の機会に恵まれなかったが、東京芸大は「芸術的価値を広く社会に知ってもらう試みには、大きな意義がある」と説明する。
大阪市でも11月20日にこの曲の演奏会があり、1700人が集まった。大阪フィルハーモニー交響楽団とオペラ歌手らの演奏に兵庫県川西市の男性(68)は「涙が出るのはなぜだろう。日本人として魂があらわれた」と話した。
アンコールは「海ゆかば」。聴衆は起立して合唱し、一人の年配男性が「バンザーイ」と叫んだ。
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