東京・文京区にある中高一貫教育の私立学校「郁文館夢学園」。明治22(1889)年に設立され、120年以上の歴史がある学校だ。だが、今は、居酒屋全国チェーンなどを運営する「ワタミグループ」の創業者・渡邉美樹氏が理事長を務める学校として知られる。
渡邉氏が理事長に就任したのは2003年のこと。郁文館学園から郁文館夢学園へと校名を変更し、経営難に陥っていた学園を立て直す。そして再建から10年、この春には東大合格者も1名生まれた。
渡邉氏の経営手腕が学校運営でも発揮された“郁文館大改革”だが、この真相を裏の裏まで知っているのは、郁文館の元校長でもある小林節・慶應義塾大学教授(法学博士・弁護士)だ。小林教授に訊いた。
「私が校長になった時、郁文館中学は偏差値38でした。都内最低です。それが一気に4ポイント上がったんだけどね。
元はと言えば、『ワタミのオーナー社長が学校を作りたいと言っている』と、弁護士をしている私の教え子が私に相談してきたところから、話は始まっているんです。でも、新しい学校を一から作るとなると大変なので、私がワタミの顧問弁護士になり、経営難に陥っている学校を政治家から教えてもらい、買い取ることにした。それが郁文館です」
そして、当時の理事長に1億円の退職金を払って辞めてもらい、渡邉氏が理事長、小林教授が副理事長兼校長になった。郁文館の創立者の先祖と小林教授の先祖が、同じ大名の家老同士だったからこそできた芸当だった。
「渡邉は『先生、二人で頑張って、学校改革の立て直しの成功例を作って、全国に渡邉学園グループを作りましょうね』なんて言う。私は、郁文館の改革だけでも一生かかるんじゃないのと思ったんですが」(小林教授)
小林教授はこの時、在籍していた慶大に休職を申し出ている。“郁文館大改革”に専念しようとの気持ちからだった。しかし、慶大から止められる。
「慶應と相談したら、『うまく掛け持ちすればいいですよ』と言う。それで、慶應が専任で、郁文館は非常勤ということになった。だから郁文館からは校長手当しかもらっていない。あとで東京都(生活文化局)の私学部に聞いたら、『いやいや、(郁文館からも)フルに月給をもらっていいんですよ』と言われたんだけど、遠慮したのよ。渡邉ってケチだからさ」(小林教授)