2011年08月24日

◆ リビアと戦争の原理

 リビアの内戦は、独裁者の追放という形で終結した。このような形の「戦争」をどう評価するか?

 ──

 一般に、「すべての戦争は悪である」という発想がある。
 しかし、今回の戦争は、「独裁者の追放」という形で集結した。それによる被害は、
  ・ 政府軍側は、傭兵が多くて、かなりの死者数
  ・ 反政府軍側は、地方部族の国民が多くて、死者数は少数

 という形となり、国民の側の被害は少なかった。
 それでいて、「独裁者の追放」という利益は大きかった。全国民が独裁者の圧政から解放されたことは、とても喜ばしいことだと言える。(そう思わない人は、独裁者のいる北朝鮮で暮らせばいいだろう。)

 つまり、「すべての戦争は悪である」という発想は、今回においては成立しなかった。リビア解放の戦争は、正義の戦争だった。被害も最小で済んだと言えるだろう。

 ──
 
 このような戦争について、私は以前、どう評価したか? 初期の時点で、次のように評価した。
  → リビア情勢とカオス理論

 ここにすべては書いてある。それを読んでほしい。

 簡単にまとめるなら、次の原理だ。
 「流れを右から左へ変えるような戦争は、多大なコストがかかるので好ましくないが、流れが右か左か迷っているような分水嶺となる戦争は、小さなコストによって(右か左かという)大きな違いをもたらす。ゆえに、そのような戦争では、介入することによって、好ましい結果に導く方がいい」

 この原理によって、次のように説明した。
 「リビアの状況は、二つの状況のあいだで揺らいでいる。体制側の勝利で安定するか、反体制側の勝利で安定するか。そのどちらの状況になるとも決まらずにいる。ここでは、外部の力によって、一方の側に安定させることが可能だ。国際社会の要望が、カダフィ追放による民主主義政権の樹立であれば、その方向に進むように力を入れると、容易にその方向に進めることができる。(今のようなどっちつかずの状況であれば。)」
 「しかしながら、いったん状況が安定したあとでは、それを反対方向に動かすことは、非常に困難である。たとえば、カダフィ側が勝利したら、それをひっくり返すことは非常に困難である」


 そのあとで、次のことを提言した。
 「国連主導のもとで(あるいは米国中心の主要国の連合で)、リビアに介入する。カダフィ側の傭兵を壊滅させる」
 具体的には、降伏を呼びかけたあとで、次々と空爆して、傭兵を壊滅させればいい。


 そして現実には、そうなった。つまり、NATO 軍の介入のもとで、空爆により、カダフィ側の軍を壊滅させた。
 私の提言通りと言える。ただ一つ、違いがあるとすれば、NATO 軍の主力が米軍でなくフランス軍であったことだ。しかしまあ、そのくらいの違いは、どうでもいいだろう。
 私としては、フランスの決断を高く評価したい。サルコジ大統領というのは、ろくでもない大統領なのだが、リビア内戦への介入については、きちんと正解を出したことになる。おかげでリビアの国民は救われた。
 


 [ 余談 ]
 私のことを「戦争好きの軍事マニアめ!」と思っている人もいるだろうし、私のことを「軍事のことも知らないで平和を好む軟弱な素人め!」と思っている人もいるだろう。
 しかし私は、どちらでもない。合理主義だ。(人的な)コストがとても小さくて大きな戦果が得られるならば、戦争をした方がいい。(人的な)コストがとてもかかるならば、戦争をしない方がいい。物事を一律には考えない。その点では、軍事マニアの右翼とは違うし、降参することしか知らない左翼とも違う。
 


 【 関連サイト 】

 → リビア内戦・写真集
 
posted by 管理人 at 19:11 | Comment(2) | 一般(雑学)1 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
◆ イスラム国(ISIS)の本質
ttp://nando.seesaa.net/article/413347804.html
では管理人様は以下のように述べておいででした。

>( ※ なお、以上のことは、イラクに限ったことではない。リビアも同様だった。
>カダフィ大佐を排除することだけを考えて、後先のことを考えなかった。
>結果的に、リビア軍の大量の武器は、暴力的に奪われた。かくて、テロ組織が生み出されこととなった。
>……何のことはない。リビアで大量の武器組織を供給して、あえてテロ集団を誕生させたのは、
>カダフィ体制を崩壊させた西側諸国だったのである。
>西側諸国があえてテロ集団を誕生させたのだ。軍事介入によってリビア政府を崩壊させる という形で。)


一方こちらの記事では

>しかし、今回の戦争は、「独裁者の追放」という形で集結した。
>(中略)
>それでいて、「独裁者の追放」という利益は大きかった。
>全国民が独裁者の圧政から解放されたことは、とても喜ばしいことだと言える。
>(そう思わない人は、独裁者のいる北朝鮮で暮らせばいいだろう。)

>つまり、「すべての戦争は悪である」という発想は、今回においては成立しなかった。
>リビア解放の戦争は、正義の戦争だった。被害も最小で済んだと言えるだろう。


>そのあとで、次のことを提言した。
>「国連主導のもとで(あるいは米国中心の主要国の連合で)、リビアに介入する。カダフィ側の傭兵を壊滅させる」
>具体的には、降伏を呼びかけたあとで、次々と空爆して、傭兵を壊滅させればいい。

>そして現実には、そうなった。つまり、NATO 軍の介入のもとで、空爆により、カダフィ側の軍を壊滅させた。
>私の提言通りと言える。ただ一つ、違いがあるとすれば、NATO 軍の主力が米軍でなくフランス軍であったことだ。
>しかしまあ、そのくらいの違いは、どうでもいいだろう。
>私としては、フランスの決断を高く評価したい。
>サルコジ大統領というのは、ろくでもない大統領なのだが、リビア内戦への介入については、きちんと正解を出したことになる。
>おかげでリビアの国民は救われた。

カダフィ政権打倒の為の軍事介入を提言され、フランス軍の軍事介入を高く評価され、
カダフィ政権のリビア政府を崩壊させたことを「とても喜ばしいこと」だとされています。
また、引用記事にあるような「後先のことを考え」ておられるお言葉もないように見えます。
両方のお言葉には一致が見られないように思えるのですが、どのように理解すればよろしいでしょうか。
Posted by 検校 at 2016年01月02日 01:12
書いた時期が全然違うのだから、情報の入手しだいで、意見が変わることはあります。2011年の時点で、2015年の情報を入手することは不可能です。それだけ。
Posted by 管理人 at 2016年01月02日 09:20
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