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バス車内でラジオ放送なぜ? 背景に厳しい沿線環境

乗りものニュース 1月2日(土)10時0分配信

車内のラジオ、元々の理由は沿線の厳しい環境

 日々、通勤や通学で利用される路線バス。その車内は案内放送を除き静かなのが普通ですが、そこでラジオ放送を流しているバス会社があります。

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 全国的にも珍しいそのバス会社は北海道北部、日本海に面した留萌管内の羽幌町に本社を置く沿岸バス。北は宗谷管内豊富町から南は札幌まで幅広い営業エリアを有し、近年では独自の萌えキャラをデザインした「萌えっ子フリーきっぷ」の販売や、「萌えっ子」をラッピングした高速乗合バス・路線バスの運行で、バスファンにはよく知られている会社です。

 この沿岸バスでは、昔から一部路線においてバス車内でラジオ放送を流しています。その理由について、同社営業部の斉藤さんは次のように話します。

「当社の営業エリアである宗谷・留萌管内は、年間を通して強風や越波に見舞われることが多く、たびたび幹線道路が通行止めになるうえ、その際に路線バスが迂回できる道路が限られています。そこで早期に障害情報を収集し、速やかに対応できるよう、全車にラジオ機器を搭載しているのです」

 つまり、ラジオ放送を車内で流し運転手が常に情報収集することで、バスの運行に役立てようというのです。沿岸バスの営業エリアは、バス停や待合室がたびたび吹き飛ばされるほど冬の気候が厳しい場所。車内でのラジオ放送は、そんな地域を走るバス会社ならではといえるでしょう。

 同社によると、ラジオ機器は少なくとも昭和40年代には各車へ備えられていたそうで、現在は豊富留萌線(豊富~羽幌~留萌)、留萌旭川線(留萌~深川~旭川)、留萌別苅線(留萌~増毛~大別苅)など複数の市町村を経由する生活路線を中心に、車内でラジオ放送を流しているそうです。

別の役割も担うようになったバス車内のラジオ

 しかしながら、一般的にバス車内は案内放送を除いて静かなもの、また静かにするものです。苦情はないのでしょうか。

「把握している限りでは、過去に1度だけ北海道外から来られたお客様より『運転手が暇つぶしにラジオを聞いている』と苦情が寄せられたことがありましたが、その際は経緯や地域事情をお話してご理解いただきました」(沿岸バス、斉藤さん)

 また近年では、障害情報の収集以外にもラジオ放送が役立っているといいます。

「元々は、障害情報を収集する目的でラジオ放送を流していましたが、過疎化による病院や学校の統廃合などによって通院・通学に1時間以上かけるお客さまが増えたこともあり、最近では乗車中の娯楽としても支持されています」(沿岸バス、斉藤さん)

 ちなみに、流している放送局はHBC(北海道放送)、STVラジオ、NHKのいずれかで、チャンネルの選択は乗務員の裁量に任されているそうです。なかでも野球中継や相撲中継、STVラジオの長寿番組「ウィークエンドバラエティ 日高晤郎ショー」が人気といいます。

 実は、かつては長距離路線を中心に、車内でラジオ放送を流していたバス会社が少なからず存在していました。なかには十勝バス(北海道帯広市)の「広尾線代替バス」のようにTV放送を流していた路線もありましたが、時代と共に数が減り、いまではすっかり珍しくなっています。

 東日本大震災以降、娯楽としてのみならず、災害時の情報ツールとして再評価もされているラジオ。スマートフォンが普及する昨今ではありますが、路線バスにおける情報ツールとして、より注目されて良いかもしれません。

須田浩司

最終更新:1月2日(土)16時31分

乗りものニュース