辻野晃一郎「人生多毛作で行こう」

ニッポンの家電産業はなぜ負け続けるのか? 手遅れになる前に「現場」への大胆な権限移譲を!

2016年01月02日(土) 辻野 晃一郎
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〔photo〕gettyimages

 

昨年は、戦後70年の節目ということで、メディアではさまざまな振り返りが盛んな1年であった。

産業史や経済史を振り返ると、日本は太平洋戦争で負けてすべてを失ってから、再び新しい民主国家を創り直し、近年、中国に抜かれるまでは、米国に次ぐ世界第2位の経済大国として力強くよみがえった。

その大きな原動力となったのが製造業である。旧財閥系の企業だけでなく、ソニーやホンダなど、戦後の新興企業が家電や車の業界に旋風を巻き起こした。

日本製の工業製品は、世界最高の性能と品質を誇り、メイド・イン・ジャパンは、世界中の人達が競って買い求めるプレミアムブランドとなった。

古い映画だが、世紀の大事業として語り継がれる黒部ダムの建設を描いた『黒部の太陽』などを観ると、高度成長を支えた電力事業などのインフラ産業においても、そこに描かれている戦後の経済人や企業人には、国家再興に命を懸けたプライドや気迫がみなぎっていた。

福島の原発災害で醜態を晒した現在の東京電力などからはおよそ想像もつかない使命感に溢れた高いモチベーションがそこにはあった。

95年が繁栄のピークだった

しかし、その状態は長くは続かなかった。

米国国家情報会議が大統領選挙の年に発行する「Global Trends」という白書(最新版は2012年12月発行)や、それに基づいた立花隆氏の分析をみると、日本は1995年に繁栄のピークを終えて衰退期を迎え、急速な高齢化の進展と人口の減少で、長期的に経済成長を実現させる潜在力は極めて限定的、今後頻発する経済危機に対して最も不安な国として描かれている。

実際、すでに栄光は過去のものとなり、家電をはじめとした製造業の世界もすっかり様変わりしつつある。

その理由は追って詳述するが、スマホやタブレットなど、いわゆるクラウド時代の新たなデジタル機器が出現し、その主導権を握るのはもはや日本勢ではなく、アップルやグーグルなどの米国勢だ。

量産のスタイルも、パソコンのような水平分業型が主流となり、韓国勢や、日本企業からの受託生産で急成長した台湾・中国のEMSメーカーが躍進した。

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