新人投手として目覚ましい活躍を見せた=昭和41年7月【拡大】
不運が生んだ勝負球 〈昭和40年、ドラフト1位で巨人に入団。プロ入り1年目から頭角を現し、この年5月30日から6月22日にかけて44回連続無失点を記録。開幕13連勝を含む16勝を挙げ、最優秀防御率、最高勝率、沢村賞、新人王のタイトルを総なめにした〉
デビューは41年4月14日、名古屋での中日戦。さすがに敵地で緊張してマウンドから捕手が見えなかった。「緊張したら練習の時にバックネットに思い切り投げろ」。高校時代の恩師の教え通りバックネットに投げたらお客さんが「あんなとこに投げるばかがいるか」と笑った。でもその笑い声を聞いた途端になぜか落ち着いた。体はフワフワ浮ついていたけれど捕手が見えたんだ。それで初登板、初勝利よ。
制球が定まらず一時、2軍に落ちたけど、5月に復帰してからは負け無しさ。技術なんてない。球が速く、カーブが大きいだけ。「コントロールを良くしろ」と言われても無理。大切なのは心の余裕さ。確かに相手にはいい打者がいる。しかし、「うちには長嶋さんと王さんがいる。相手打者の実力はどう考えても3番手以下だよな」という感じで見下ろして投げられた。
1年目は勢いと運だよ。新人なんて使いどころ次第さ。プロに入ってくる人は皆、力は持っている。上り調子の時に起用されたら結果は残せるはずだ。ただ、調子が落ちているときに使われると大変だ。「こいつは打たれる」という印象を監督やコーチが持つ。そうなると出世が遅れる。どこの世界でも新人の扱いは難しい。