今、タモリはあらゆることに対して無抵抗だ

故・ナンシー関さんの名連載「テレビ消灯時間」が1月1日発売の臨時増刊号『週刊文春Woman』でこのたび復活。それを記念してcakesに特別掲載いたします。今回は1995年に書かれた、芸能界の超大御所、タモリ分析です。ナンシーさん曰く「おもしろい事を言わない」タモリがなぜ、芸能界で余人に代えがたい存在にまで上り詰めたのか。タモリの不思議に迫ります。

タモリって、最近イイよね

タモリってさあ、最近イイよね。って「マルクス兄弟特集」オールナイト上映中の浅草の映画館ロビーでくつろぐ、バカお笑いマニアのような書き出しをしてみた。

「イイ」というのはあまりしっくりこない表現なのであるが、私のタモリ観はここ一年ほどで結構変わった。密室芸の達人として売り出し、その後、お茶の間の人気者へ、という経緯は、よく「“いいとも”でタモリは終ったね」とか「毒が無くなってつまらない」という定評につながった。でも、私はその「毒のあるタモリ」自体、あまり知らない。うちの田舎ではタモリがMCをしていたという伝説の「空飛ぶモンティパイソン」とかいう番組もやってなかったし、「うわさのチャンネル」だってやってなかったから。

“おもしろい事を言わない”タモリに怒りを覚えていた

だから私は「毒のなくなったタモリはつまらない」というのとは違う意味で、タモリをつまらないと思っていた。そのピークは六~七年前から二~三年前にかけてだろうか。「おもしろい事を言わない」ということに、怒りさえ感じていた。

現在も、タモリはそんなに「おもしろいことを言う」わけではない。というか、おもしろいことを言って人を笑わせることに、それほど重きを置いている人ではないのだ、元々。

「ジャングルTVタモリの法則」のエンディングで、毎週タモリはダンスをする。毎週、何かこう自分なりに工夫をこらしたオリジナルダンスだ。タモリはあそこでダンスをするのが好きに違いない(と見える)。でもダンスは下手だ。下手だけど踊りたがる五十前のオヤジというのは妙な存在である。毎週踊っているタモリを見ると、「おもしろい」というより「おかしみを感じる」という方が近い。同じく、「タモリ倶楽部」の空耳アワーで、字幕に出ている英詞を必死で日本語風に読み、うれしそうに「言ってるよな」といっていたりする姿も「おかしみ」がある。スチャダラパーと話し込める五十オヤジってのも、そうはいない。

テレビに出る自意識の持ち方が特殊

今、日本で一番よくテレビに出ているのは、ダントツでタモリである。テレビに出るという自意識の持ち方が、特殊なのではないかと思う。特に「笑っていいとも!」と「タモリ倶楽部」に関しては、ある意味「日常生活の切り売り」みたいな感じがする。

変わったオヤジの生態生中継。そして、私の印象ではここ一~二年で、生態を中継されることを自覚し、いや、それこそが自分の望んでいたことであると気づいたのではないかと思うのである。今、タモリはあらゆることに対して無抵抗だ。タレント・エゴ(アーチスト・エゴみたいなやつ)も見えなければ、プレッシャーの存在も見えない。「妙」な感じである、このオヤジ。

《1995年2月23日号より》

ナンシーさんへ一言
2014年に「笑っていいとも!」が終わって、その後始まった「ヨルタモリ」も終わってしまいましたが、「タモリ倶楽部」は健在です。そして今、スチャダラパーの三人も、四捨五入すると全員もう五十オヤジになってしまうという時の流れの恐ろしさ……。



ナンシー関さんのコラムの続きは、ぜひ『週刊文春Woman』で!
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