表紙すげ替えもへっちゃら 韓国アカデミズムで「盗作」が横行する根底に何があるのか?

産経ニュース / 2015年12月31日 13時7分

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 【劇場型半島】

 他人の学術書の表紙をすげ替え、自著として出版するのに関与した教授179人が韓国で摘発される事件があった。大学の有名、無名にかかわらず、1980年代から黙認されてきたとされ、今回の摘発は「氷山の一角」といわれる。“数字”偏重と著作権無視が横行する韓国のアカデミズムの悪弊が根底にあるとみられ、一朝一夕の改善を期待するのは難しそうだ。

 ■“あきれたリサイクル”の裏に利害の一致

 韓国メディアの報道によると、今回、摘発の対象となったのは、全て理工系の学術書で、計38冊。

 手口としては、他人の書籍の表紙の著者名を自分の名前に替えたり、共著者として加えたりしていた。本の体裁や、タイトルの1、2文字を変えるケースもあったというが、文書の内容はそのままに再出版されていた。

 犯罪には、大きく分けて3者が関わっていた。

 まず、研究実績を水増しするため、表紙に自分の名前を記して“盗作”していた教授。次に「人気のない理工系書籍」を再出版して在庫の処分を望んだ出版社。

 加えて、“盗作”されるはずの原著者も、共著者として自分の名前が残れば、再出版で印税が入るうえ、盗作する側の同僚教授や出版社との関係を考え、黙認していたという。

 「3者の利害が一致」(検察当局)し、誰も被害者として名乗り出ない“あきれたリサイクル”が続けられてきたのだ。

 韓国議政府(ウィジョンブ)地検は12月14日、著作権法違反などの罪で、教授74人と出版社4社の役員ら5人を在宅起訴し、残る105人を略式起訴し、罰金300万~1000万ウォン(約30万~100万円)を科したと発表した。

 海外研修中で、立件が保留された3人を合わせ、教授182人のうち、他人の著書を自著に偽装していたのは159人、盗作を黙認していた原著者は23人を数えた。

 ■国立や有名私大も…「ただちに大学から追放を」

 摘発された教授179人が所属する大学は、全国110に上り、国公立大のほか、韓国の慶応大といわれる延世(ヨンセ)大学や、早稲田大に比される高麗(コリョ)大学といった有名私立大学も含まれていた。

 今回の立件は、著作権法違反の公訴時効5年を迎えていないケースに限られ、こうした盗作は、80年代から「普通に行われてきた」(韓国紙)といわれることを考えると、いかに裾野が広い犯罪かが分かる。

 何度も改訂を重ね、計21人の教授が著者として名を連ねた学術書もあったという。

 今回、検察が教授らの名前を伏せ、所属する大学名だけを公表したことに対し、韓国最大手紙「朝鮮日報」は社説で、「教授らの氏名も公表し、ただちに大学から追放しなければならない」と強調した。

 「学問分野で、詐欺行為に手を染めるような人間に、講義室で学生らの指導をさせることなど、絶対にできない」というのだ。

 別の大手紙「中央日報」は社説で、「名誉を重視すべき現職の教授が、他人の著述に自分の名前を付け、知的財産権を無視したのだから、本当にあきれる」と指摘。

 今回の事件を「反面教師」として、研究倫理の指針や実績評価基準を見直し、「学生に徹底的に教育して、熟知させるよう制度化する必要がある」と力説した。

 本当に、こんなかけ声だけで、最高学府におけるパクリの横行は改まるのか?

 ■こんなにすごい! 韓国の大学「コピー室」

 記者も以前、韓国の大学に客員研究員として籍を置いた経験があるが、大学内で書籍のコピーがまかり通っていることにまず驚いた。

 大学ごとに「コピー室」などと称し、何台ものコピー機を備え、専門の職員が常駐する部署が複数ある。図書館で借りた書籍の参考箇所を複写するというより、大半が、書店では手に入りにくい教科書や参考書を1冊丸ごとコピーするための場所だ。

 職員らが手慣れた作業で、書籍のコピーを次々製本し、「コピー代」として、堂々と料金を徴収する。

 著作権も何もあったものではないが、大学側が黙認の域を越え、学生らの利便性を考え、こうした部署を設置することで、コピーをなかば“奨励”しているといえなくもない。

 新入生らは、著作権を度外視し、教科書や参考書をそろえるところから学生生活をスタートさせることになる。

 学術書をそっくり盗作するのとはレベルが違うが、こんな環境では、著作権に対する意識が育ちようもない。

 次に、韓国の大学にみられる傾向は、目に見える肩書や得点を過度に尊ぶ点だ。

 日本以上に大学進学率は高く、多くの社会人や公務員らが夜間の大学院に通う。ところが、大学院に進学した理由を尋ねると、多くが「博士や修士の学位を取得すると、職場での待遇が上がる」ことを挙げる。

 日本でも肩書のために学位を取る人はいるだろうが、韓国では、建前でも「何々を学び、追究したいから」というよりも、あっけらかんと、キャリアアップのためだと認める人が実に多い。

 そこで重視されるのは、ひたすら量産する論文の数だ。

 ■日本の教科書丸写し、ノーベル賞はほど遠く…

 韓国の教育界には、朝鮮王朝時代の「科挙」の伝統が色濃く残る。

 中国古典を一言一句丸暗記し、試験に合格した者が官僚に登用された制度だ。

 韓国の高校生らは、大学受験のために、学校に居残りさせられ、教科書や参考書を丸暗記する詰め込み式の勉強を強いられる。保護者らもこの教育方針に異を唱えないという。

 居残り時間中に「小説ななんかを読んではいけないの?」と韓国人に聞くと、即座に「そんなことは許されない」との答えが返ってきた。記者などは高校時代に学んだ糧として記憶に残っているのは、ほとんどが想像力や表現力を育んでくれた小説なのだが…。

 そして、苦学して丸暗記式の司法試験に合格し、国のトップに登り詰めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領などが、大統領時代の低評価にもかかわらず、立志伝中の人物として、いまだに若者らの尊敬を集めている。

 今回の事件を受け、朝鮮日報の記者はコラムで、「韓国で最高の法学教授といわれた人が、日本の教科書を丸写しし、大胆にも(?)日本人著者の本を『拙著』として注釈に入れていた」という逸話を紹介している。

 その上で、ある法学教授の言葉を借りて、盗作まで行かなくとも、「新しい学問的な内容を加えず、教科書同士で互いに写し合い、一歩も前進できずにいる」韓国アカデミズムの弊害を指摘した。

 ノーベル賞の発表時期を迎える度に「日本人は受賞できてなぜ、韓国人にはできない」ということが話題に上る。同賞に輝くほどの新発見や新発想に求められるのは、独創性とともに、周囲に何と言われようとも「自分が学び、追究したいと誓った道をひたすら歩む」ことだろう。

 韓国アカデミズムが置かれた現状は、対極ともいえるほど、その道からは大きくそれているようだ。ノーベル賞を論じる前に、見直すべきことはあまりに多く、手を付けようにも、その根はあまりに深い。(桜井紀雄)

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