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 28日に決着した慰安婦問題をめぐる日韓交渉は、日韓首脳の意向をくんだ水面下の接触が支えていた。

 昨年4月、伊原純一・外務省アジア大洋州局長(当時)と韓国の李相徳(イサンドク)・外交省東北アジア局長による外交当局の局長協議が始まった。ただ、1965年の日韓請求権協定をめぐる解釈の違いなど、双方は互いに原則論を繰り返すだけで実質的な進展はなかった。

 日本政府は当初から、局長協議で詳細を詰めるのは難しいと考えていた。外務省局長が直接、首相に経緯の報告ができる日本と違い、韓国では対日強硬論者の尹炳世(ユンビョンセ)外相らを通じてしか朴大統領に日本の意向が伝わらないためだ。

 日本側の要請で、両首脳の意向が反映できる交渉チャンネルが今年に入って本格的に動き出した。日本側は谷内正太郎・国家安全保障局長をトップに据え、カウンターパートは李丙琪(イビョンギ)・大統領秘書室長となった。

 いつしか日韓ともにこのチャンネルを「谷内プロジェクト」と呼ぶようになった。ただ水面下の接触が明らかになることを警戒し、ソウルの金浦空港内で協議したこともあったという。

 今月23日、韓国の憲法裁判所で日韓請求権協定を違憲とする訴えが却下されると、同日午後からプロジェクトの交渉が始まり、深夜までの協議で、慰安婦問題をめぐる合意事項のほぼすべてが固まった。

 24日に谷内氏から報告を受けた安倍首相は同日夕、岸田文雄外相に28日の訪韓を命じた。(編集委員・箱田哲也)