まちのあちこちに置(お)かれた小(ちい)さな木(き)の扉(とびら)。それは、妖精(ようせい)のおうちの入(い)り口(ぐち)――

 3年前、滋賀県東近江市に現れた「妖精の扉」。うわさを耳にした子どもたちが、扉の前に手紙を置き、妖精との文通が始まった。いま市内70カ所、全国200カ所以上に広がり、さらに増え続けている。

 東近江市八日市本町の英語教室の入り口近くにある木の根元に、高さ5センチほどの小さな赤い扉がある。

 「ようせいさんへ」

 いま小学4年の大内美和さん(9)は3年前、扉を見つけ、手紙を書いた。「おともだちになってね」

 数日後、扉の前に返信があった。「いいよ」

 木の筒のポストが新たに置かれ、文通が始まった。「としはいくつですか」「まほうがっこうの2年生だよ」。妖精に送った手紙は10通を超えた。

 扉を置き始めたのは、市内の子ども向けのイベント企画団体「アート探検隊ピカソ・スイッチ」。代表の中祖(なかそ)厚志さん(50)は中学や高校で美術教師を務め、アトリエも営む。

 展覧会で、特に保育園児や幼稚園児が描いた絵を見て、子どもたちは大人の常識を押しつけられていると感じていた。「たとえば空は青、サツマイモは紫。大人が情報を与えるのではなく、見えないものを自分で想像する力を養ってほしい」。米国やカナダで広がる取り組みをヒントに、妖精の扉を置き始めた。

 中祖さんの仲間やその家族たちが、民家の玄関前や図書館、市役所の窓口に置いていった。形や大きさは作る人によって様々だ。扉の存在は口コミで広がり、子どもたちが扉を見つけては妖精との文通を始めた。「うちでもやりたい」。東京や福岡の大人たちから声がかかり、扉は全国に広がる。