今日は公開大捜査スペシャルと題しまして2時間半、生放送でお伝えしました。
たくさんの情報どうもありがとうございました。
全力で僕ね談志師匠を笑わしたんですねすると「おめえやはり面白いな」と言われて「祝儀やるよ」って言うて祝儀をくれたんですねそれはねその前に来られてた三枝兄さんがお見舞いに来られた三枝兄さんのお見舞い袋やったんですよえッと思うて「裏見ろいくら入ってんだ」って言うから「5万円です」言うて「じゃあそれお前にやるわ」と言うからこれどう処理しようと思って僕は三枝のお兄さんに電話して「お兄さん気悪くせんといてください」「行って笑わしたらシャレやと思うけど」「これいただいたんです」言うたらお兄さんが「少なかったんかな」ともう次の日に行ったんですよ笑福亭鶴瓶10万内三枝5万って書いて…
(薬師丸)鶴瓶師匠お話の途中ですが
ドラマ始めちゃいますよ
(談志)開いてるよバカ野郎
(談春)失礼しま…早くしろこっちだよ!は…はいお…遅くなりまして誰だお前えッ?ダンボールじゃなかったのかダンボール?まッいいやあるもんで作っちゃうかあの昨日電話した佐々木です坊や飯食ったか?えッいや…今うまいカレー作ってやるからよあのこれお口に合うかどうかうん?うちの近所で割と有名なチーズケーキでしてああそうそこ置いといてくれあと履歴書ですああこれカレーですか?ああ?坊やバカかどう見たってお前シチューだろですよね昨日のシチューだよ捨てるにはもったいねえし飽きるだろ?だからカレーにすんだ頭いいだろ?ハハハッこれお前あれだって?何だうめえんだって?えッちょ…えッあッいやえッ何だよチーズと小麦粉と卵だろまずいわけねえじゃねえかおめえええ?よしっと何だか分かんねえけど入れてみるか
ありとあらゆる調味料がぶち込まれた
ああ…えッこれもちょっと入れて談志カレーだ食ってみろ
これってもしかして入門試験?
はいじゃあお言葉に甘えていただきますあれ?うまいあれ?うめえってあれって何だよすいませんあれじゃねえよおめえ高校どうすんだよあッやめますどうしても落語家になりたいんです親御さんは賛成してんのか?あッまあほぼふ〜ん俺はな内弟子はとらねえんだよ生活の面倒も一切見ないなぜだか分かるか?あれですかねあのカワイイ弟子にはわざと苦労をさせて煩わしいからに決まってんだろ何が悲しくて出来の悪い赤の他人どもと一つ屋根の下で寝食を共にしなきゃならねえんだよ俺の生活に関わるなそれが立川流だだからうちに入門すんのはどうしたって親の援助が必要不可欠になるわけだそれでも弟子になる覚悟があるならちゃんと親を説得してここへ連れてきなさいその時は弟子にしてやるはいあのうん?おかわりいいですか?好きなだけ食えよカレーってのはそういうもんだありがとうございます師匠まだ師匠じゃねえよバカ野郎すいませんひろ子…
こんばんは薬師丸ひろ子です
時は1980年代半ば
バブル好景気の始まりでファミコンが流行り
東京ディズニーランドが開園し
エリマキトカゲが走り抜けていた頃
ちまたでは空前の漫才ブームで
皆ツービートやB&B
ぼんちやのりおの話で持ちきりでした
でもこの若者は面白がってはいるんだけれど
おいそれと流行りに乗っかれないタチなもんだから
すぐさまブームを追っかける同級生達を
冷めた目で眺めている少年でした
まあ要するにただのひねくれ者だったのね
そんな時中学の芸能鑑賞会で
彼は落語に
立川談志に出会ったのです
《え〜今日は国立演芸場》《あっちの端に学生さん達もいるけども》《頭のいいやつはあれだな》《能とか狂言あっちでやってる歌舞伎とかね》《そういうのを見せるようになってんだけど》《イマイチちょっと頭よくねえなってのは落語に回されたりして》《別にね…君達のことを言ってるわけです》《だからまああれだな》《落語というのは古典芸能の中でもちょっと異種なんですよ》《分かりやすくいえば「忠臣蔵」》《「忠臣蔵」ってのはですね四十七士の討ち入りですよ》《主君の浅野内匠頭の》《あだを討つとねッ》《だから四十七士だけど》《実際赤穂のお城には何人人がいたとかいうと》《三百人いるんですよ》《ねッそのうちの四十七士四十七人》《あとの二百五十何人はどこ行ったかっつったら》《逃げちゃったんだよみんな》《なぜ逃げたか?そんなことできるわけねえ》《大それたことができるわけねえと思って》《で落語はどっちかっていうと》《四十七士の討ち入りした方ではなくて》《逃げちゃったやつそっちにスポットっていうか焦点を合わせる》《これが落語なんですええ》《分かる?そこ》・
(談春の父)何度も同じこと言わせんなよお前!俺はな落語家になるなって言ってんじゃねえんだよ高校だけはきちんと卒業しろって言ってんだよそのあとはおめえの人生だ好きにしろ
(談春の母)お母ちゃんは落語家自体どうかと思うけどでも俺はさ今すぐ落語家になりたいんだよ今のご時世な高校ぐらい卒業しねえと肩身の狭い思いすんのはおめえなんだよ落語に学歴は関係ねえよ落語家になれる保証なんてねえ!ああ?世の中のお前常識ってもん考えろお前とにかく俺はもううちのカレーじゃ物足りないんだよてめえ信行!せっかく母さんが作ってくれた…そういうことじゃなくて!もういい!ここは俺の家だ俺がルールだ俺の言うことが聞けねえなら今すぐとっとと出て行けコラああ分かったよ出てってやるよこっちだってな最初っからそのつもりだったんだよおあとがよろしいようで何だとこの野郎信行!何だあの野郎チッああ重たッ《ちゃんと親を説得してここへ連れてきなさい》《その時は弟子にしてやる》どうすっかな〜・
(母)信行ほらおにぎりあんた本気で落語家になるつもりなのかい?もう決めたんだよ何でまたよりによって談志なんだい志ん朝じゃなかったのかい?志ん朝もいいけど今は談志なんだよ体だけは壊さないようにねああ定期的に連絡よこすんだよあああッあのさ何?
今さら「生活費をくれ」なんて
言えないわよね
いやいいいいいいあッ母ちゃんのカレーあれ最高だよ
これだ
死んだ?はい突然の不慮の事故で親二人ともか?はいなので今日はちょっと連れてくることできませんでしたじゃあなおさら弟子やってる場合じゃねえだろいえ立派な落語家になれというのが遺言でして生活どうすんだよあッ生活は新聞配達のアルバイトします部屋も飯もついてますんでうちはな弟子にアルバイトは禁止してんだよそんな時間があるんだったら落語を覚えろってですが配達時間は夜中から明け方ですので師匠には迷惑をかけません昼間は修業に励みますお願いします!どうか私を弟子にしてください暦の上じゃもう春かほれ誰ですか?これ坊やだよ今日から坊やは「談春」だ談春…ありがとうございます師匠
1984年3月
スーパーの大売り出しのチラシの裏で
立川談春は生まれたのです
今から31年前のこと
あの師匠これ「たちかわ」ですか?「たてかわ」ですか?お前一体誰の弟子になりてえんだバカ野郎すいません知ってます「たちかわ」だよ「たちかわ」ですよねそれで師匠僕は一体何をすれば…坊やがやることは一つだけだよどうやったら俺が喜ぶかそれだけ考えてろ患うほど気を使えお前は俺にホレて弟子入りしたんだろ?俺に本気でホレてんなら死ぬ気で尽くせはいあとなうちは上納金制ってのがあってな前座見習いは月1万滞納が続けば破門だえッ金とるんすか?坊やタダで教えてくれる学習塾あるかよバカな塾の講師や学校の先生よりはまともなことが教えてもらえんだぞ安いもんだろ入会金の10万はな坊やはある時払いにしてやるから分かったか
(談志がえずいている)
次の朝師匠はものすごく苦しんでいた
師匠師匠大丈夫ですか?師匠!
(関西)お前か今日から入る新弟子っちゅうのは談春です正確には昨日弟子入りしましたそれより師匠は気にするなあれは朝の日課や日課?えッ師匠毎朝ゲロ吐くんすか?そうやなくてあれは師匠こだわりの歯磨きとベロ磨きや立川流の朝はあのえずきから始まんねん
(談志がえずいている)爽やかな朝は忘れ談春か…お前ええ名前やな俺なんか関西人やいうだけで付けられた名前が立川関西や談志の「談」も「志」も入ってあらへんまあ談々よりは気に入ってんねんけどな談々?
(談々)えッ何?・
(関西)おはようございますおはようございます今日から入った新弟子です名前を言えああ談春です談しゅん?大きい声で言えよ談春ですはいすいません「しゅん」はどう…「春」です春?ええな〜まあそういうことだからよろしく頼むわ
(関西)はい
(談々)はい立川ダンボールですおとといチラッとお会いしましたよね《ただいま帰りました》《お前カレーの具材買うのに》《何時間かかってんだよこの役立たず》《やめちまえ!》《・
(ダンボール)すいません》僕もまだ先週入ったばかりなんで一緒に頑張りましょうお願いしますこのバカ野郎!てめえよく覚えとけよたとえ1日だろうが先に入ったら仮にお前が年下であったって兄弟子なんだよ敬語なんか使って頭下げてんじゃねえよすいませんてめえもてめえださっさと挨拶しねえからこんなことになるんだはい何やってんだお前らすいません兄さん至らぬ点があり申し訳ありませんでしたいやこちらこそ…
このダンボール兄さんはプロ野球選手を目指していたらしい
ピッチャーだったがヒジを壊して挫折し
新たな夢を求めて師匠の門を叩いたそうだ
いつもボールを持っていたからダンボール
立川ダンボール
俺は談春でよかったと心から思った
ちょっと出かけるから帰るまでに用事済ましとけ
(談々・関西)はいまずベランダの窓の枠が汚れてるキレイにしろはいスーパー行って牛乳買ってこいはいついでに豚のこま切れ100グラムはいあとそこのはがき出しとけは…はい「はい」でいいんだよはいあとシャワーの出がよくねえぞお湯がぬるい原因を調べて直せ
(談々・関西)はいどうしてもお前らで直せねえなら職人呼んでもいいぞ・
(談々・関西)はいでも金は使うなよ・
(談々・関西)はい
ええッ?
枕カバー替えとけよはいそれから事務所に電話してこの間のギャラの確認しとけつつじの花がしぼんで汚えからむしっちまえ隣の家に荷物が届いてるもらってこいそれから物置に写真が大量にある外側の白い部分がな俺は嫌いなんだよキレイにカットしろ戸袋に鳥が巣つくったようだうまく処理しろあとなスリッパの裏が汚えからちゃんと拭いとけよはい何だよあれ家の塀ネコが偉そうに歩いてるよおめえ不愉快だな空気銃で撃てはいただし当てんなよ重傷でいい二度と近づかないよう脅かしとけ
(談々・関西)はい表の桜に毛虫がたかるとよ嫌だから薬まいとけ何か探せばそれらしきものがあんだろうなきゃ作れはいオリジナリティーってのはそうやって発揮するんだじゃあな
(関西)はい
ネコのくだりしか覚えていない
(志の輔)師匠おはようございます
(関西・談々・ダンボール)おはようございますおう新入りだ談春です「春」と書きますよろしくお願いいたしますよろしく
(関西)行ってらっしゃいませ
(三人)行ってらっしゃいませあいつよ新聞配達やりながら俺の弟子やんだってよ大した意気込みですねもっても三ヵ月だろまあとにかく一つ一つクリアしてきましょう兄さん頼まれた用事は全部で14個ですおッお前よう数えてたな何て?数えてただけで内容はさっぱりアホ!お前そこが一番肝心やないかいまずあれやあの窓の桟の掃除ほんであのスーパーに買い物ほんであのシャワーの修理ほんであと何でしたっけあのあのどうせ師匠も全部覚えてないんじゃないですかね・
(談々)甘い甘いねえ師匠はいつだったかな30個も言いづけを全部覚えてたそうやで覚えてあらへんやろと手抜いたやつが破門にされた破門!?そうつまりこれが立川流の修業あと兄さん何でしたっけ出してこいとりあえずあッはい行ってきます何やったっけな肉言うてはった何グラムですか?グラム言うてはった?
立川流は落語界では異端の存在でした
通常落語家は寄席というホームグラウンドを持っており
弟子達もそこで師匠や他の師匠方のお世話をしながら
時折舞台に上がり腕を磨いていく
それが落語家になるための修業なんだそうです
ところが落語協会を脱退した立川流は
寄席の場を持ちませんそんなわけで
やることといえば師匠の身の回りの世話をしたり
言いつけられたムチャな仕事をこなす毎日なのです
よしてめえもてめえだお前バカ野郎お前怒られとった談々兄さんちょっと手荒にやると
(談々)何かここら辺がなカレーでも食ってくか?是非いただきますああちょっと何や…おいお前何やってんだよお帰りなさいませ師匠つつじに毛虫がたからないように薬を薬は表の桜だろバカ野郎おめえつつじにまいてどうすんだよ摘めっつったじゃねえか全部枯れちゃうぞお前すいません!簡単に土下座なんかすんじゃねえすいませんてめえのことばかり考えてっからそうやって簡単に頭下げられんだすいませんすいません俺に謝るよりつつじに謝れ申し訳ございません!つつじがいいって言うまで謝れ申し訳ございません!わあッ何やってんだ
(小声で)だから言ったじゃ…お帰りなさいませ師匠おいシャワーどうしたよ水は出るようにはなったんですが今度は止まらなくなりまして止まんなきゃしょうがねえだろ水道代どうすんだよ水道局呼べ
(談々)はい破産しちゃうぞこの野郎早くしろバカ野郎何やってんだよ申し訳ございません
(鳴きながら威嚇する)
え〜っと
俺何しにここに入ったんだっけ
(ネコが鳴いている)おい関西
(小声で)はい殺すなよはい
(ネコが鳴き続ける)申し訳ございません志の輔兄さんこんなこと毎日しててホントに落語家になれるんでしょうかバカだねお前はなれるわけないだろえッ?あれは師匠のただのワガママだ弟子にムチャやらして楽しんでんだそんな…矛盾とは…あッ修業とは矛盾に耐えることだバカ野郎て師匠は言ってたな〜僕師匠に叱られるのが怖いんですどうしたらいいでしょうかそんなのお前簡単じゃねえかその状況から抜け出したかったら早く二ツ目になるしかないってことだよ二ツ目?
落語家の身分には見習い前座
二ツ目そして真打ちがございます
見習い前座という
時に人間扱いされないような厳しい修業時代を経て
やっと正規の落語家として認められるのが
二ツ目という地位です
二ツ目になれば師匠の雑用も裏方仕事もしなくてよくなり
落語会も自由に開くことができ
あとは真打ちを目指して時間と労力を100パーセント
落語のためだけに使うことが許されるのです
そして興行のトリを務めることができるのが
真打ち重責です
ですから真打ちより二ツ目になった時の方が
喜びが大きかったという落語家も
少なくないそうです
立川流の二ツ目になるための条件は実に明快だ古典落語を五十席覚えること五十席…そして家元がその中から選んだ根多をその場で演じて納得させることそれさえできれば入門一年目だろうが半年だろうが二ツ目に昇進できる平等な実力勝負の世界だ
そう言い切ったこの立川志の輔は
入門してわずか一年半でその条件をクリアし
二ツ目になりました
後に立川流の最高傑作
とまで師匠・談志に言わしめた男です
チケットとれないんですよねえ
足崩していいよ失礼します《ただいま帰りました》《カレーの具材買うのに何時間かかってんだよ》《この役立たずやめちまえ!》《すいません》《つつじがいいって言うまで謝れ》《申し訳ございません!》ダンボール兄さん兄さんいただかないんですか?あッ食べてあッじゃあいただきますうん集まってもらったのは他のことじゃないんだよまた今年もね大山するんだねヤ…すいません遅れましたおうあの…おい金魚買ってこいえッ金魚?ダンボールのせいでつつじはみんな枯れるし庭は殺風景だしあ…パッとしたないいの買ってこいはいそれからよダンボールやめたぞえッ?面白いやつだったんだけどなやっぱ縁がなかったのかな〜何ボーッとしてんだよ早く行ってこいよはい・
(店員)いらっしゃいませしかし寂しくなっちゃうな兄さんホントにやめるんですか?いや…親父が倒れちゃってさこれ以上仕送りしてくれなんてもう言えないからあのだったら新聞配達のアルバイト紹介しましょうか?キツイはキツイっすけどでもやれないことはない偉いな談春はうん?ホントはねホッとしてんのこれでもう師匠に怒鳴られることもないし談春に追い抜かれることもないから僕は親父が倒れたことを落語をやめるための言い訳にしたの兄さん食べようはい食べますか談春根多できるの?あッはいいやはいというか「大山」とかうん「大山詣り」?はいちょろっとですよでもすごいねいえいえいえ…じゃあここで談春君ならやれる絶対いい落語家になってください
俺はその時
今まで一番穏やかな顔をしているダンボール兄さんを
引き止められなかった
これ金魚か?はい何でも海外の珍しい品種だそうで10匹1万3千円のところを1万円ちょうどにまけさせました
すいません師匠本当は焼き肉のお釣りで買った
1匹100円の赤めだかです
なかなかイケてんじゃねえかはいこれ水鉢移しとけあとはお前が面倒見ろははいおい終わったらな2階来いえッ?ちょっと見てやるから
み見てやるって稽古?
《師匠にホントに稽古を》《つけてもらえるんですかね》《お前ら?お前らはまだ無理だろう》早くしねえかおい!はいッ《稽古ん時もあんな感じで怒鳴るんですか?》《ずっとだ特に語尾をのむと怒鳴る》《語尾?》《ああ》
さあいよいよ念願の
いや緊張の初稽古です
やってみなえッ何を?何でもいいんだよ坊やも落語家を目指してんなら根多の一つや二つ覚えてんだろ口調を見るだけだとにかくやってごらんははいではお笑いを一席え〜ただいまこの山を登るというのは大変スポーツでございまして盛んですなこう暑い時期に…あのなあマクラはいいから根多やんなはい集まってもらったのは他のことじゃないんだよまた今年もね大山するんだねところがね毎年カミさん連中から苦情が出て…もういい
早ッ
それは誰の「大山詣り」だ?志ん朝師匠ですそうか志ん朝か
ヤバイ志ん朝は
師匠・談志と人気を二分する大名人
談志に弟子入りしときながら
志ん朝のテープで覚えた根多を…
まあ口調は悪くないな坊やよく芸はな盗むもんだというけどあれは嘘だ教える方に理論がないからそういうこと言うんだよいいか盗む方にも技術が必要なんだよ時間がかかって当然なんだ落語を語るにはな必要なのはリズムとメロディだ坊やはい坊やは俺の弟子なんだから落語は俺のリズムとメロディで覚えろ盗めるようになるまでは俺が全部教えてやるはいありがとうございますやだよえッ?やだよわたしゃもう今日はな「浮世根問」を教えてやるはいこの話は基本中の基本だ登場人物は二人しかいないご隠居さんと八っつぁんだ場面転換も少ない右を見てご隠居さん左側見て八っつぁんだこれで落語のリズムとメロディを徹底的に覚えろはい扇子はな座布団の前に平行に置けはいそれは結界といってな扇子より座布団側が芸人演者の世界で向こう側が観客の世界だ観客が演者の世界に入ることは決して許されないたとえ前座だってお前はプロだ与える側だそのぐらいのプライドは持てはいご隠居さんご隠居さんちょっと伺いますけどね…
こうして談春は新聞配達をしながら
落語の修業に励んだのでした
(毒蝮)毒蝮三太夫の
(菅原)土曜ワイド商売繁盛
(毒蝮)よいしょ〜!おい談春はいお前「浮世根問」覚えたのか?はい覚えましたやってみろえッ…ああ?あッはいやらせていただきます隠居さんそうやって毎日本ばっかり読んでますけど本を読むってえと儲かるんす…語尾をのむなよ!はいすいませんほう明るくなる?じゃあ提灯やなんかがいらなくな…お前な語尾をのむなって言ってんだろ!すいません行けども行けども海である所をどんどん西に向かってったらどこ行くか聞いたら外国だと外国から西に向かったら?と聞いたらその先は西洋だとものすごい海なんざ驚かないから皆でやーって西に向かったらどこ行くか聞いたら塀があって行かれねえとお前さんにはかなわないから一円の銀貨持ってお帰りと取ったんじゃねえもらったんだ隠居も地獄極楽分からなかったら五十銭出すか誰が出すかフッフッよしそれでいいよく覚えたはいもういいやお前はな何も考えなくていいそのまま片っ端から落語覚えちまえはいいい口調だうん今度はな「道灌」を教えてやるありがとうございますどうだ運ちゃん面白かったろ面白かったですだろ?はい坊やうち来てどのぐらいになるんだ?半年になりますふ〜んだったらもういいだろう明日実家に帰ってこいそろそろ親も許してくれるだろうちゃんと話してこい師匠…親が入門を認めてくれたら新聞配達はもうやめろそんなことするためにうちに来たわけじゃねえだろ続けたくてもやめてくやつもいる談春はいさっさと二ツ目になっちまえはい青だよ!あッあッはい分かった最低限の生活費だけは出してやる四年だえッ?普通の若者が学生を終えて就職する22歳までだそれも貸しだぞ落語で食えるようになったら必ず返せうんありがとう親父もし四年でものにならなかったらその時はきっぱり落語をやめろいいな?ああ俺も最初っからそのつもりだ
こうして立川談春は
晴れて新聞配達をやめ
二ツ目を目指しただひたすらに
落語の修業に励む
はずだったのですが
林様林様…申し訳ございませんご予約は本日でお間違いありませんか?
(林)予約はしてないたまたま時間が空いたから来たんだよキャンセル待ちの方に並んでいただけますかあいにく本日満席でございまして関係者席があるだろう一席ぐらいどなたかのご関係者様ですか?いやもういい林先生お忙しいところどうもありがとうございました帰るとこだよえッ?席がないそうなんでね満員御礼結構じゃないか
このスーツの男は
日本の演芸に今一番造詣が深いといわれる大物批評家
林修一先生と呼ばれてる人です
弟弟子がとんだしくじりをしまして本当に申し訳ございません何分まだ駆け出しでしてお前も謝罪しろ謝れ申し訳ありませんでしたいやよしてよしてよたかが前座ごときに本気で目くじら立てるほど小さくありませんよ僕は
たかが?ごとき?
だけどね僕は事実をありのままに批評しますよ今後君達が食っていけるかどうかはそれにかかってるねえそれだけのことだ
要するに売れたきゃ俺を怒らせるなって
そう言いたいのか
それにしてもお宅の家元あれ大丈夫?とおっしゃいますと?落語協会を飛び出して立川流なんてものを勝手にこしらえたはいいが弟子のしつけもまともにできないんじゃねえ君らもまあでもよくやってるよね普通はだよ師匠が弟子の面倒を見るのが落語界の常識なんだがまさかその弟子に上納金を払わせてるだなんて僕には理解できないね立川流は金さえ払えば誰でも入れる頭数揃えただけの寄せ集めだなんて声もあるけどそう言われても仕方ないよねちょっとあんた!
(談志のせきばらい)あ〜あ〜あ〜何だカラオケやり過ぎたかな昨日なまあ客なんか落語聞きに来てるわけじゃねえからよ俺見に来てんだから
(せきばらい)こういう俺もいいかなあ志の輔はい何だこんな弟子いたか?あッご無沙汰してます家元実はちょっと談春がちょっとしくじりまして師匠からも一言あのお詫びを…詫びだあ!?ふざけんなこの野郎!何で弟子のために俺が頭下げなきゃいけねえんだよお言葉ですが弟子のしたことに師匠が責任を取るのは当然かと思います弟子は弟子私は私ですよそれが立川流なんです
立川談志という人は高座に上がると
誰よりも深く長く
キレイにお客に対して
頭を下げるといわれていました
でもそれ以外の場では決して
人に頭を下げたことがありません
落語協会を脱退した時も
師匠であり会長だった柳家小さんに
一言頭を下げて詫びてれば
事は円満に収まったといわれてました
しかし談志はその時も
決して頭を下げようとはしなかったのです
申し訳ないけどね俺は評論家ってのは信用してないんですよ俺以上に俺を冷静に分析するやつはいないからねああそれからねあんたがこいつら食わしてるわけじゃないこいつらが一人前になって有名になったらあんたそれを飯の種にするだろうあんたがこいつらに食わしてもらうことになるそこんとこ間違ってもらっちゃ困るんだよ・
(談々)林先生お席のご用意ができましたのでご案内いたしますもう結構だ何だあの野郎75過ぎたらヒロポン打とうが何しようがね死刑はなしとか…
その日の独演会は荒れに荒れ
師匠は3時間毒を吐き続けた
客はずっと笑いっぱなしだった
物忘れが激しいのいつ頃から?何がですか?なんてね大丈夫なんですか兄さん前座は酒はご法度でしょ平気平気酔わなきゃバレないからすいませんもう一本ちょうだいそんな飲んで大丈夫なんですか
(談々)飲んだうちに入んないまだまだ序の口そうじゃなくてあッ仕送り結構もらってるんですか?いや〜さすがにこの年でさそこまではね臨時収入入ったとか?ううんじゃここの勘定誰が支払うんですか?お前ら持ってないの?何で一緒に飲み行こうなんて誘うんだよ「飯行きません?」と言っただけでどっちにせよ普通兄弟子が払うもんでしょそうですよ兄弟子っつったって同じ前座なんだからお金持ってないの知ってるだろあかんこの人に何言うてものれんに腕押しや志の輔兄さん呼ぼかまだ?ちょっと電話してくるわあッ奥さんすいません志の輔兄さんお帰りでしょうかあッそうですかええはいあッはいそうですかはい春俺な今急用思い出したからえッちょっと!先帰るわ嘘でしょねえちょっと兄さん兄さんやっぱダメだあッ…はい…ちょっとどけどけ!はいどうもすいません兄さん?談々兄さんって借金あるんですか?俺も詳しいことはよう分からへんけどな立川流入る前に訳分からんとこに弟子入りしててんてそこの師匠に酒飲まされうまいこと言われて気ついたら借金の連帯保証人に…え〜ッそのあとすぐ師匠消えて残った借金兄さんが払うはめになったんやってお前も気つけた方がええぞ何あるか分からんぞこの世界僕は大丈夫ですよ今ずっと師匠に稽古をつけてもらってて悪くはないって褒めてもらってますからホンマか?もしかしたら先に二ツ目になっちゃうかもしれませんけどそれは許してくださいねアホお前に先越されるぐらいなら落語家やめるわ!待てお前ほらうッ…コラおいごめんなさい談春はいッ「道灌」の稽古をつけてやるありがとうございます2階上がってこいはいあの師匠何だ?すいません実はちょっと風邪の方をひいたっぽくってですねくしゃみが止まらないんですよそうかじゃあれだな風邪治ってからゆっくりやるかはいすいません
この瞬間から
俺と師匠の関係は一変した
お待たせしました
(電話のベル)はい佐々木です
師匠は俺のお袋に電話した
・今なお前の息子に稽古をつけてやると言ったら風邪をひいてますと断られた無礼にも程があるこんなことは初めての経験だそうでしたか申し訳ありません親の反対を押し切って修業してるし落語の筋も悪くないと思いこの忙しい中時間をつくってやったのにあろうことかあの小僧は風邪気味なんてぬかしやがった親の顔が見てみてえや全くそこまで言わなくても…親の顔ならいつでも見せに行きます!何だこの野郎!とっとと破門にしてください何い!
師匠にうつしちゃいけないと思ったから言ったのに
あれ以来俺は師匠に
稽古をつけてもらえなかった
よいしょ・
(昇太)談春君昇太兄さんおはようございます風邪治った?えッ?風邪いや〜勇気あるよね感心しちゃったいや〜あれ絶対僕だったら言えないもんなでもさ何で談志師匠んとこ入ったの?えッ?すごいよね俺絶対無理よかった柳昇んとこで失礼しますおはようございます談志の弟子の談春と申します本日は勉強させていただきますあなたか家元の稽古断ったの風邪治ったの?ええまあ…これさ頂き物だけどさ全快祝いに持ってく?えッ?マンゴーいえ…高いよはい大丈夫ですありがとうございます失礼いたします頑張ってね
俺は立川談志の稽古を断った前座として
有名になっていた
風邪を理由に稽古を断ってから
師匠は俺と目も合わせてくれない
当然俺はグレていた
あの師匠うん?あの志の輔兄さんところに稽古をつけてもらいに行ってもよろしいでしょうかもういいお前明日から来なくていいわえッ?ちょっと面倒見きれんお前の存在が俺にとってはなマイナスなんだよいやあの…お前落語向いてねえわ
(女将)はいこれ場内の三洋食堂まで配達5分で戻ってきなよえッ?そしたら次は倉庫内の仕分けだよボサッとしてないでさっさと行きなよシューマイ腐っちまうだろ!はいはい三洋食堂?《しばらくの間てめえの面なんか見たくないから》《明日から築地行ってこい》《えッ?》《俺の弟子続けたかったら》《一年間働いてこい》《一年…》おおッすいませんああッ!最悪だマジかすいませんすいません・
(女将)落とした!?すいません急に後ろから人がぶつかってきて人のせいにしてんじゃないよ!よけなかったお前が悪いんだよ無理ですよ背中に目があるわけじゃないからだったら背中に目つけな今自分の周りで何が起こってて何をしなきゃならないか状況判断ができないやつはここではやってらんないよ!すいません痛ッ
(香織)邪魔!すいませんだから言ったよね漫才師雇っても役に立たないって漫才じゃなく落語なんだよねどっちでもいいよどうせそっちの世界で挫折して適当に腰掛けで来たんでしょ別にそういうわけじゃ…女将さんこれどうすれば?お前が食え!えッ?今頃どうしてんのかな談春やめんのは時間の問題でしょうねあッあッ!すいません女将さん女将さんこれまた…お前が食えですよねなあ関西金貸してくんない?はあ?千円えッ?500円500円でいいや最近酒買う金もなくて寝つけないんだそのせいでどうも体調が…兄さんもうあきませんてそれおい談々ちょっと来いはいただいま失礼します
(幾島)あれッ国府?おうやっぱ国府やんか久しぶりやな大学ん時以来か幾島?何してんのこんなとこで俺ここに就職したんや今バラエティー番組のAPやってんねんすごいTBSなかなか入られんやろたまたまですよそっちは?えッいや俺はまああれや何やお前もしかして落語家やってんの?そやねん物好きやなあえッ?お前確か大学ん時からお笑い目指してたもんな向こうじゃあかんかったけどこっちでリベンジってわけやリベンジいうか…ええなあ夢があって儲かんの?落語家っていやまだ俺なんか全然やでそうかうんこれから新番組のミーティングやねん忙しいて落語も見に行かれへんわ何やあいつ何やあれペンシューマイいかがですか?シューマイシューマイいかがですか?シューマイ…ですからね志の輔兄さん俺はシューマイ売るために談志の弟子になったわけじゃないんですそれでも師匠が行けと言うんだから行くしかないそれが嫌なら弟子をやめるしかないだろお前が選んだんだ春子供は親を選べないよなはい?でも談志を親に選んだのは俺達なんだよただなこっちが選べるぐらいだから親を変えることもできるんだよこの世界はどういうことですか?
明治大学の落研出身だった志の輔兄さんは
卒業後広告会社に就職し結婚もしたけど
落語家になる夢が捨てきれず
27歳で脱サラして入門した変わり種だ
入門したての頃の話を聞かせてくれた
年は俺より下だったけど兄弟子に談かんってのがいてな《俺立川流やめることにした》《えッ?》《やめてどうすんだ?》《ビートたけしに弟子入りする》《えッ兄さんそれ立川談志よりビートたけしが》《面白いと師匠に言うってことです殺されますよ》《だってそうしたいんだもん》《今日師匠に話そうと思ってんだ》《えッ殺される殺される》《殺される殺される殺される…》《
(Singin’intheRain)》《》《師匠師匠!》《ああ?》《談かんです失礼します》《》《何だ?》《》《あの師匠》《うん?》《立川流やめさせてください》《やめてどうすんだ?》《たけし師匠んとこいきます》《》《たけしってあのビートたけしか?》《はい》《ヤバイ》《たけしか…》《ヤバイ殺される》《
(セロハンテープを切る)》《これ持ってけ》《これ見たらあいつも断れねえだろ》《ありがとうございます!》へえ〜師匠かっこいい優しい人なんだああ見えてだから築地の修業も師匠なりの了見なんだよそうなんですかねまああいつは断ったけどなあいつ?新しい弟子が入った志らくだ志らく?《おい明日から築地行ってな一年間働いてこい》《
(志らく)すいません師匠》《築地は嫌でございます》《じゃ破門だ出てけ》《それも嫌でございます》《どっちも嫌じゃ仕方ねえな》《じゃここにいろ》《ありがとうございます》全く変なやつだぞあの志らくってのはおッお勘定お願いします
何だよそれ
そんなのありかよ
ビックリした談春やないか久しぶりやな君かな?志らくってのはご挨拶遅くなりましてすいません築地の兄さんのことは伺っておりますてめえ何だよ築地の兄さんって!間違えましたお前も築地行けって言われたろでも断りました何断ってんだよ師匠が行けっつったら信号赤でも行くのがこの世界だろ私は魚河岸になるために弟子入りしたわけではないので断ったら破門だって言われたろでもそれも嫌だと申しましたら師匠は分かってくれましたそんな…それえッ?志らく2階へ来いはいッ何なんすかあれえッ?何で志らくは許されて俺は魚河岸なんですか落ち着けって師匠の不条理今に始まったわけやないやろ
(談々)志らくは非常識なとこもあるけど落語を覚えんのだけはめっぽう早い一週間に一本のペースで覚えるんだからえッ?そんなこと言うたら余計…あいつは俺より先に二ツ目になるってことですかほら焦らしてどないしまんねんああすまんすまん談春あいつは特別なんだ師匠が懇意にされてる放送作家の高田文夫先生の紹介なんだよ高田文夫?誰だよそれ知り合いの紹介だったらえこひいきでも何でもありかよちょっと待て待て談春何をする気や?師匠に直談判ですよ今のままで魚河岸なんて行ってられるかそんなことしたらホントに破門になるぞ今のままじゃ破門と一緒でしょうよ・
(志らく)焼き餅は遠火で焼けよ焼く人の胸も焦がさず味わいもよしいい加減に焼き餅を焼くというのは難しいようでございますご本妻とお妾さんでは焼き餅の焼きようも違うんだそうですお妾さんはうわべで焼くご本妻は腹から焼くあなたおお何だい?今日二人で町を歩ってたらすれ違った人に何て言われたかご存じ?えッ何て言われたんだよ親子かしらってもう私悔しくてあなたのその白髪が多いのがいけないの…
こいつうまい
お妾さんの膝枕毛抜きでもって白髪をつーつーと抜いてもらうこれが大変気持ちがいいもんでそのままうちへ帰るってえとよしよく覚えたなお粗末さまでした筋も悪くねえありがとうございます焼き餅は遠火で焼けよ焼く人の胸も焦がさず味わいもよしお前にな焼き餅すなわち嫉妬とは何かを教えてやるいいか己が努力行動を起こさずに相手の弱みをあげつらって自分のレベルまで下げる行為これを嫉妬というんです本来なら相手に並び抜くための行動生活をすればそれで解決するんだしかし人間はなかなかそれができない嫉妬してる方が楽だからなけどなよく覚えとけ現実は正解なんだ時代が悪いの世の中が悪いのと言ったところで状況は何も変わらない現実は現実だその現状を理解し分析しろそこには必ずなぜそうなったかという原因があるそれが認識できたらあとは行動すればいいんだそういう状況判断もできないようなやつを俺の基準ではバカという《現実は正解なんだ》ふう〜ッあッ志の輔兄さん昼間はごちそうさまでした兄さん俺やっぱり談志を親に選んでよかったですしばらく築地で頑張りますエビとか肉色々ありますけど個性がなくていけないと思いませんかその点うちのシューマイは…さすが噺家っすね聞いてて気持ちいいや内容は全然面白くないけどね昆布なんて買っていくと家族がみんなよろこんぶなんて…
大事なのはリズムとメロディ
現実は正解だ
俺がここで働かなきゃならない現実には
そうなった原因がある
行ってきます
その状況を分析し理解してあとは行動するだけだ
はい1200円ありがとうございましたいらっしゃいませ三つください三つ1000円からお預かり型がしっかりしたやつが…
そんなわけであっという間に月日はたち
一年がすぎたのでございます
ねえやっぱり戻るの?うん?もったいないなと思ってせっかくここまで仕事覚えたのに正直最初は全然できてなかったけど今は結構ちゃんとしてると思うしあのその…もし何だったらこのままうちの店で…あ〜ッひとよひとよひとよひとよひとよふたよふたよふたよふたよふたよなるほどそういうことか!えッ何?落語と築地がつながったおいえッいくらあんだよ?いくらあんだって分かんない分かんないことねえだろさっきから数えてんだから数えてるだけだから…何やってんだてめえはよこせこっちへえッひとひと…ひとひとひとひとふたふたふたふたみっせみっせみっせみっせ…四十二両だよこれ一年間お世話になりました
(女将)今日までホントよく頑張ったねほい退職金えッ?こんなに?それはね本来ならばあんたに払うはずだった給料の残りだよ全部渡したら使っちまうだろうからためといてくれって頼まれたんだよ談志師匠にえッ?弟子のことをちゃ〜んと考えてる優しい師匠なんだよああ見えて師匠…ありがとうございます女将さん春しっかりやんなよはい
(香織)毎日そんな落語のことばっかり考えてたら恋とかしてる暇ないんだろうねきっともういるよ好きな人えッ?ただ高嶺の花でさもうず〜っと俺の片思いなんだ
(談志がえずいている)
一年ぶりの立川流の朝だ
(えずく)師匠今日からまたお世話になります何だお前まだやめてなかったのかはいおかげさまでシューマイ博士になりましたフフッよかったじゃねえか志らく・
(志らく)は〜いお前のな弟弟子だけど落語の知識はそこそこ分かってるやつだ何か分かんないことがあったら志らくに教えてもらえよろしくお帰んなさい兄さんおおッお世話になります分かった髪伸びた?だいぶいや切りましたえッ切ったん?それお茶とか色々…今沸かしてる沸かしてるから大丈夫関係ねえだろこんなとこ兄さん今日師匠は着物です草履じゃないと…ああそうなんだけど現場まで少し歩くからさ最初はこれで行ってもらって向こうで草履に履き替えようあッ談々兄さんにもお伝えしてきてはい何ですか?えッ?気利くなすごいなあッそろそろ兄さんも気利かしてくださいよはあッ?スニーカーで行くのであの足袋ではなく靴下の方でいつですか?いやしょっちゅう…談々兄さんに伝えてきました今しゃべってんねんなあ志らく何してるんです?何してるんですじゃ…することないんですか違うよ行ってらっしゃいませ志らくはい風呂の湯熱かったから水足しといたよそうですかすいません兄さん師匠熱めの風呂が好きなの覚えてるだろいつもなら熱めでいいと思いますがさっき料理してるときに親指やけどしたっぽくてちょっとぬるくしときましたそんなに変わったのか春のやつええ周りへの気遣いもそうなんですけども前のあいつだったら志らくに対して嫉妬むき出しだったと今のあいつは自分から志らくを受け入れて弟弟子からでも教わるものは何でも教えてもらおうって姿勢なんです前座の修業は人から嫌われないための修業だとよく師匠に言われたもんだからな立川流には寄席の場がないから人との関わりを学ぶのは苦労するんだが春にとっちゃ築地が修業の場寄席の場になったってことだよ師匠それ分かってて一年行かせたんですね・
(志らく)私は金原亭馬生師匠が大好きだったんです馬生師匠の弟子になりたかったんですけど亡くなってしまってそれで亡くなった夜たまたま見に行った池袋演芸場に談志師匠が出てたんです馬生師匠の思い出を語っていてそしたら客からもういい加減落語やれってクレームが出てそしたら談志師匠何て言ったと思います?悲しそうな顔して馬生師匠が死んだんだよ落語なんかやる気分じゃねえよ金返すから帰れよって師匠らしいやそれで私は立川談志の弟子になろうって決めたんです
(高田)どうですか?志らくはあいつ変なやつだぜお前あんたがいいって言うから入れてやったけど馬生師匠のファンで大学の教授が金原亭馬生が読めなかったって大学やめたやつですから教授もバカだけどそれでやめるあいつもバカじゃバカですねそういえばたけちゃんとこ行った談かんふんころがしって改名されちゃったらしいです談かんからふんころがしですよいい名前じゃねえかえッいいですか?売れりゃ何だっていいんだああそっか志らく飯でも食ってくか?あッ今日はちょっと何だよお前おごってやるから心配すんなよ俺にはまだ魚河岸で稼いだ金があるからさ今日は帰ってばあちゃんに電話してやりたいんですばあちゃん?今日誕生日なんでお祝いの電話を今私がこうしてられるのはばあちゃんのおかげなんで
大学を勝手にやめ落語家になろうとした志らく
借金までして入学金を工面した両親は激怒し
猛反対したそうだその両親を説得してくれたのが
たまたま上京していた志らくのばあちゃん
《お前ならできるよおばあちゃんね》《お前の落語を聞く日を楽しみにしてるからね》《さあおはぎ作ってきたんやはい食べお前好きやろ?》《ばあちゃん…》だから少しでも早く二ツ目になってばあちゃんに恩返しをしたいんですばあちゃんが元気なうちに私の落語を聞かせてやるって約束したんですそっか…
高田文夫の口利きで入った恵まれたやつだと思ってた
でも彼にも頑張らなきゃならない理由があったんだ
あッこればあちゃん好きだから誕生日プレゼント送ってやろうと思ってたくさんあったから1個持ってきました分からないですよねそういうの師匠全部頭の中入ってんぞえッ?あれッ稲庭うどんどうした?さあ私は…
私は稲庭うどんではございません
(取り立て屋)これ以上支払いが滞るとこちらもそれなりの手段に出るしかのうなりまっせ師匠に相談しましょうかあの人儲けてはるみたいやからそれだけは勘弁してください師匠はビタ一文払ってくれませんそれどころか破門です落語家みたいな儲かれへん仕事やめてしもうたらどないです?もっとええ仕事紹介しますさかいこれねここにサインしてもらうだけで契約完了ですよマグロ…すいませんもう少し待ってもらえませんか必ず二ツ目に昇進して借金全部払いますんでお願いします《幾島こんなとこで何してんの?》《俺ここに就職したんや》《
(関西)えッすごいやん》《番組で落語取り上げたろか?国府も出れるかもしれへんしな》あッもしもし幾島?俺関西あッ国府やけどどないしたん?この前お前が言うてた番組の話なんやけど詳しく聞きたいなと何やあれ本気にしたん?フフフッ悪い悪い冗談や落語やろ?地味やし誰も興味ないねやいやでもその未開拓のところをさ…お前まだ前座やそうやないか・人前で落語でけへんやんけどないすんねん友人として言わせてもらうけどなもうやめた方がええんちゃうかお笑い向いてへんで自分落語はただのお笑いとちゃうねんはいはいこれから収録で忙しいねんほなさいなら
(電話が切れる)兄さんうん?兄さんと私で勉強会やりませんか?勉強会って客呼んで?ええ談春・志らく勉強会ですお前前座が勉強会しちゃいけないことぐらい分かってんだろうよ兄さん弟子入りして四年目だよ私三年目それが何だよ?兄さん家元にホレてんなら早いとこ二ツ目なって師匠孝行すんのが弟子ってもんじゃないのかい何でタメ口利いてんだよ
そんなのは俺だって分かってる
勉強会だあ?はいお前ら二人でか?やらせてください師匠お前らが勉強会をやりたいという情熱を止める権利をたとえ師匠でも俺は持たないそれじゃあ…だがなお前らは前座だ前座は修業中の身であって商品ではないだから前座は勉強会をやってはいかんのです勉強会独演会をやりたいなら二ツ目になって堂々とやれはいはい何だ?いや別にああッ!おいお前らはい俺の基準を一日でも早く満たして二ツ目になると約束できるか?はいはい特例として勉強会を認めてやるいいか特例だぞありがとうございますまあしっかりやれ嘘だろやりましたね何だよ?いえ別に・
(勘九郎)あッ師匠おッ勘九郎おお
(勘九郎)何飲んでるんですか?いつものだよ僕も同じものを・
(バーテンダー)はいあッてことは上で落語をやってるのは師匠んとこの?上で落語?うん若いのが二人落語してましたよ地べたに正座して背中合わせになって師匠今日は私は失礼させていただきますおおどうもあれ師匠んとこのお弟子さんじゃないの?俺んとこそんなバカいねえだろお前円楽んとこの弟子じゃねえのか?またそんな…
(くしゃみ)
(円楽)風邪かな?ああどうも談志かな?長い間人間やってるけど死人のかんかんの踊らせなんざ…あッこれなんかすごいね太くて長くてバチバチバチバチってもう燃えてるっていうより…へえ〜ッいいもんだねすごいなこりゃへえ〜ッ後ろ向け後ろ向けっつってんだろすいません行こう行こう立とう芝居小屋建てたいの芝居小屋?どこでやんの
歌舞伎俳優中村勘九郎
後の十八代中村勘三郎さんは
「赤めだか」を読んでいたく感動し
わざわざ談春さんに会いに行ったそうです
君が談春君?よかったよ〜「赤めだか」
まさかこの時の地べたの前座とはつゆ知らず
江戸の芝居小屋だから何でもできるようにしたいんですはあ〜ッ志らく友達がいっぱいいるんだなこんなにいませんよ兄さんの知り合いかとえッじゃあこの人達誰?私達を見に来たお客
談春・志らく初の勉強会は
100人を超す大入り満員となりました
もちろん立川という名前の後ろ盾があればこそです
お小遣いちょうだいダメですおとっつぁんから止められてる私のたもとを引っ張るもんだから袖振り払って安兵衛が千里一時虎の子走りでバラバラバラと駆けつけてくる高田馬場だ〜お前何者なんだ?一体お前もその噺聞きてえ?じゃあ二銭出しねえサゲの手前タメをつくった方が気持ちが入りやすいです分かってるよすいません
(拍手)今日はお前の子供を見て褒めてやろうと思ってやっぱおかしいよこれだってよ鉢巻きしてうんうんうなってる入れ歯も置いてあるおじいさんが昼寝してんだよおじいさんばああやさなくていいから志らく今の金馬師匠の?正確にいうと金馬師匠と柳朝師匠の73ミックスです談春兄さんサゲがイマイチだったもんですから慰めながら帰ってやりたいと本日はありがとうございました
(談々)大好評だったらしいじゃないかおめでとうまあおかげさまであほんだらお前もう天狗かいな天狗になるくらいじゃなきゃダメなんですよ天狗の時の芸は威勢がいいってアホお前似てるやないかまねすんじゃねえバカ野郎
(談々)あれッ志らくは?えッ?あれッすいませんいるんじゃねえか灯りを入れろよ灯りを油がないんだよじゃあ買ってこいよお金がないんだよいつの間にあんな根多覚えたんやろ
(談々)次の勉強会であれやるんじゃ…「文七元結」って前座が客の前で見せたらあかん大根多ですからね離してください死ななきゃならないわけがあるんです当たりめえだろう
今日の客は俺じゃなく
志らくを見て喜んでいたのかも
新装開店おめでとうございますよく来てくれたな身内ばかりのこぢんまりとしたパーティーだから遠慮なく飲み食いしてくれありがとうございます当ったりめえじゃねえか立川流の大ファンなんだから春坊よかったらあとで何か一席やってくんねえかなえッ?いやみんなも喜ぶと思うよ《無理だよ俺の方が力強えんだからほら》やらせていただきます捕まえた俺の方が力強えんだから離せ俺の方が力強えんだから無理だって欄干から手離せ離してください死ななきゃならないわけがあるいい若えもんがわけもなく飛び込んじゃしょうがねえんだよこの財布の中に五十両入ってるやるから持ってけっつってる家には娘がいるお久って十六になるいい娘なんだ吉原の「さのづち」に身売ってこしらえてくれた金だ女将さんが話の分かる人でな来年再来年の春に五十両持ってくと娘には傷ひとつつけずに帰してくれるってその金だこれがもとでお久と文七は夫婦になります文七はのれん分けをしてもらい二人は麹町の貝坂に店を開きます髷を結っておりました元結というものが不備があったんでしょう文七が改良いたしましてそれが飛ぶように売れ誰言うとなく文七元結と江戸で名物となったという一席でございます
彼は昔から褒められて伸びるタイプでした
面白かったよ立派なもんだこれ取っときな
文七元結が褒められてすっかりその気になっていたわけで
ところが…
(電話のベル)はいああ志の輔兄さんお前「文七元結」やったんだな?えッ?やったんだな?すいませんバカだねお前はえッやっちまったもんはしょうがねえとしても何で口止めしとかなかったんだ面倒なことになってるぞ
志の輔兄さんの話では俺が「文七元結」をやったことで
元々師匠をよく思っていない連中が
ここぞとばかりに師匠を責め立てたらしい
そしてあいつも…
(林)立川流の弟子は行儀が悪いですな前座が客前で大根多をやるなんて聞いたことありませんよバカにもほどがあるんじゃないんですかその前座は全く名プレーヤー名監督にあらずですな立川流はあんたの言うとおりその弟子がバカだってのは認めるよだけどな俺は俺弟子は弟子だそれが立川流だなるほど前座のくせに大根多をやるなんていう身の丈をわきまえないあたりが豪放磊落な立川流というわけですかですがねそういうことに目をつむると落語の伝統そのものが失われる可能性があるんですよ師匠に責任がないとおっしゃるのなら当然弟子が自分で責任をとるということでよろしいのでしょうね責任?《とにかくお前すぐに師匠に謝りに行け》《こういうことは時間がたてばたつほど取り返しがつかなくなる》《ヘタな言い訳はすんなよ誠心誠意で謝れ》《でないとお前今度は本当に破門に…》
嫌だ破門だけは嫌です師匠
師匠申し訳ありませんでした!バカ野郎脅かすんじゃねえよ熊か何か出てきたと思うじゃねえか今回の「文七元結」の件誠に誠に申し訳ありませんでした土下座なんか軽くすんなよお前こっち来いここ座れえッ?こっちに座れよ早くはいお前がな「文七元結」なんていう難しい噺を覚えたことは師匠としては嬉しい褒めてやるホントに申し訳…えッ?いいか覚えるなら若いうちだ「へっつい幽霊」でも「鰍沢」でも「芝浜」でもみんな覚えちまえ覚えたくなるもんなんだお前が正常なんだよ師匠…覚えるのはかまわんだがなそれは芸ではない覚えただけしゃべれるというだけなんだ分かるか?はいおい俺は褒めてんだぞお前そんな簡単に頭なんか下げんなすいません高座で客におじぎする以外は簡単に頭を下げてこびるような芸人にはなんなはい兄さん!よしせっかくだ俺が聞いてやろうじゃねえか「文七」やってみろえッ?
俺は死ぬほど嬉しかった
もう二度と師匠に稽古をつけてもらえないと思っていた
早くやれよお前何やってんだよいや師匠そんな「文七」なんて大根多とんでもございません勘弁してくださいそうかならいいやあッいや師匠あの…
最後のチャンスを逃してしまった
師匠お願いします破門だけは堪忍したってください!お願いしますお願いします兄さん志らくよそう簡単に頭を下げちゃいけねえはあッ?《
(林)師匠に責任がないとおっしゃるのなら》《弟子が当然自分で責任をとるということでよろしいのでしょうね》《前座が責任とれるわけねえじゃねえかバカ野郎》お前ら五十席落語覚えたか?
(三人)はいはいじゃあな明後日二ツ目昇進試験やるから
ついに来るべき時が来ました
(関西・談々)ありがとうございますこれ食っていいぞえッ?食っていいってえッ?関西それな醤油つけるとうまいんだよありがとうございます冗談だバカ野郎お前すいませんお醤油取ってきましょうかいや嘘やろ何やねんお前お金がないんだよえッ随分景気が悪いじゃねえかよ《師匠に相談しましょうか》《落語家みたいな儲かれへん仕事やめてしもうたらどないです?》おいおっかあ帰ったぞ《お笑い向いてへんで自分》・
(配達員)新間さんはいお届けものですサインいただけますかありがとうございましたご苦労さまでした《お前の落語を聞く日を楽しみにしてるからね》《さあおはぎ作ってきたんやはい食べお前好きやろ》だから試験だよ試験今度受けることになったから試験?それに受かったらどうなるの?二ツ目になれるんだよつまりプロの落語家として認められるんだえ〜ッそう・よかったじゃないおめでとういやまだ受かったわけじゃないからさやっぱ…ダメなのかい?そういう縁起でもないこと言うなよあの…とにかく絶対にお父さん信行からです約束忘れんなよですって分かってるよじゃあ
約束の四年まで三ヵ月
たぶんこれが最初で最後のチャンスだ
立川流の二ツ目昇進の条件は
古典落語を五十席覚えること
寄席の鳴り物をひととおり打てること
講談の修羅場を話せること
都々逸長唄や舞踏など歌舞音曲
その中から師匠が選んだ根多をその場で演じ
師匠を納得させる出来であること
よし
試験前夜考えれば考えるほど
しくじった時のことばかりがよぎって
彼は全く寝つけませんでした
で寝すごしました
やっべッ何やってんのホンマあいつは何やってんねん!お前はすいません五十席選べました?大丈夫だ念を押して六十書いてきたどうしました?書いた紙忘れてきたどうしよう
(関西)時間がないぞ!とにかくすぐに五十個できる根多書き出しましょうはよせえよもうすいませんメモお借りしますどうしよう四十しかない
(志らく)「真田小僧」ああそうかあと「十徳」もないぞああホントだヤバイあと一つ足りないよ来たあと一つあと一つ「寿限無」でいいだろあれなら子供だってできるだろまさか師匠も試験で「寿限無」やれとは言わないしないらっしゃいました兄さん
(鼻歌)
(弟子達)おはようございます・
(女性)いらっしゃいませおい談春ほい何が「ほい」だバカ野郎すいません
えッ俺が最初なの?
「寿限無」やってみろえッ?早くやれよはい…
試験には談志師匠となじみのある三名が
見届け人として立ち会いました
よろしくお願いします…お前な早くやれよお前はい…あの「寿限無」は名前言ってけばよろしいですか?バカ野郎頭からちゃんとやれよはいすいません
えーっと「寿限無」って誰がどこ行くんだっけ?
そうだ確かお寺へ行く話だったような…
なんまいだぶなんまいだぶおやどなたかね?あッ…やだなあ何忘れちゃったんですか分かってるくせ…最近あの…物忘れが激しくてね
嘘でしょ兄さん
何ぼけちゃったの?おいお前何やってんだよえッ?何って「寿限無」ですけど誰のテープで覚えたんだ?本で覚えました本なんかで覚えるからそんなことになるんじゃねえか音で覚えろって言ったろもういいやすいません談々
落ちた
「松山鏡」のケンカのシーンやってみろおめえさんだよ!俺がか何も俺隠しごとなんかしてねえよはあ〜ッ
完全に落ちた
じゃあ関西はい「七度狐」の頭からやってみろ大阪の喜六清八という気の合った二人連れ天気もいいのでひとつお伊勢参りに行こうとなりましてやってまいりましたのが奈良の山中でございます志らく「品川心中の下」やってみろ大丈夫なの?ちゃんと足はあったかい?いや足はちゃんとありましたよ
立川流の試験で寿限無はないだろ
完全にノーマークだった
嫌だよあたし嫌だ嫌だもういい談春鳴り物何かやってみろ
(長唄)もういい
落ちた…
(小唄)うんもういい試験は終わりだどうもご苦労さまでしたありがとうございました
(弟子達)ありがとうございましたお前達に聞く落語っていうのは何だ?人間はな寝ちゃいけない状況でもつい寝てしまう酒を飲んじゃいけないと分かっていても勧められたら飲む夏休みの宿題は計画的にやった方があとで楽だと分かっていてもそうはいかない努力はしたけど偉くなれなかったそういうやつらが寄席を見に来る落語っていうのはそういうやつらが主人公なんだよ落語とは人間の業の肯定だよく覚えとけはいまあ歌と踊りはオーケーとは言えねえやつもいるがまあ条件つきで合格ということだよく頑張ったえッ?立川流家元としてお前達四人に二ツ目昇進を認める兄さんッやったありがとうございますッだけどなおいッすいませんお前達が相手にするのはあくまでも世間であり大衆だ決して落語だけを愛する観客達の趣味の対象になるんじゃねえぞはいッ俺んとこで二ツ目になったということは他の二ツ目とはものが違うんだそこはプライドを持っていいはいッありがとうございました!頭が高えんだよありがとうございますッ
こうしてついに彼らは
立川流二ツ目に昇進したのです
談々は入門から五年
関西と談春は四年
志らくは二年半
談志のもと厳しい修業に耐えたのです
師匠言うてはったぞ歌と踊り条件つきや言うて稽古せんと!ちゃんと条件つきはお前だろすいません稽古しますすいませんッありがとうございました何笑うてんお前もお前もあんまりうまなかったぞ
(大将)家元からうめえもんかたっぱしから食わしてやれって言われてっから遠慮しねえで食えじゃあ遠慮なくいただきますッこれが二ツ目の味かでも俺らよう受かりましたね談春兄さんダメだと思いました「寿限無」忘れちゃうんだもん俺も正直焦ったよ金輪際「寿限無」はやらないって誓ったねお待ちどおさまですありがとうございます兄さんこれで心置きなくお酒飲めますねおうよどうしはりました?やめただってさ…夢になるといけねえ
(関西)「芝浜」やんそれすいませんいただきますはい頑張るんだぞなあありがとうございましたまたおいで
(談々)大将太っ腹だなあこんな祝儀袋まで包んでくれて今度は私達が恩返しをする番です今まで応援してくださった方々にたまにはお前いいこと言うなはい兄さんもたまにでいいんで言ってください痛いなあ誰に向かって言ってんだよたまにでいいので小さいねえ談々兄さん談々兄さんもうさっさと返しちゃってください酒代にするのだけはやめてくださいね貸しですからねお前ら…いいのか?しゃあないですよ俺ら兄弟ですやん全くダメな兄さんを持つと困りますよねえええ本当にあれ?お前今俺見て言ったよな?被害妄想ですよいや見てたじゃん嫌だ絶対見たお前見とったやんありがとう…兄さん泣かんでよろしいってねえ恥ずかしいって確かに…しまいなはれじゃあ二ツ目昇進のお披露目落語会?立川流の?しかも四人同時談志の弟子なので結構ハデにやるみたいですよ各界からも大物が顔を出すとかそれアリだなアリですね何とかうちの番組で独占取材とかできないの?できないの?・どうですかねえ…あの談志だからなあそうだなあ談志だからなああの〜その弟子の一人俺のツレなんです学生時代のホントか幾島?俺が言うたらそいつから談志に話してオッケーになると思いますよすごいじゃん幾島君
(電話のベル)もしもし立川流ですけれどもあッ関西は私ですけど・幾島だけど国府二ツ目になったんやってなあ昇進おめでとうありがとうわざわざ電話くれたんや当たり前やないか同じ関西の親友なんやから・でなちょっと小耳に挟んだんやけどその披露パーティーうちの番組で独占取材させてもらえるよう談志に口利いてもらえへん?談志?お前もテレビ出るええチャンスや思うて俺が特別に薦めてやったんやああそうかやっぱ持つべきもんはやなあせやろ〜でもお断りや俺幾島君の言うようにお笑い向いてへんしおこがましいて幾島君の番組なんか出られへんわちょっと待て国府ほんで逆になあ取材お願いするにしてもなお前の局だけ絶対にお断りやほなさいなら〜何が談志に口利いてくれや偉そうにぬかすな!ボケ…呼び捨てにすんじゃねえよバカ野郎何がお前披露…師匠あの…加藤さんから何か届いてます何すかね?お醤油ですかね似てねえよすいません…確かにとりあえずご祝儀でいただいた分です残りもこれからはすぐに返済できると思いますんでそない願いまっせ二ツ目で消えていく落語家さんもようけいたはりますからな詳しいんですねええ私落語好きですからえッ?ちょっとサインしてもらえまっかえッはッ?今度は何の契約書ですか?いやあんたのですやんえッ?あんたのサインッ立川談々の僕のですか?そうそうそうここへサインお願いしますそれからもう一つこちらもちょっと大きいですよ大丈夫ですか?こんなにおはぎ…どうもありがとうございました
(祖母)「一弘へだからおばあちゃん言ったろ」「お前なら大丈夫だって」「よーく頑張ったねえおめでとう」「おばあちゃんより」おめでとうさあ入ってあんたの家なんだからただいま親父何をやってもいつもギリギリだなおめえは・
(母)お父さんね今年に入ってから毎日のようにそうやって日にち数えてね「信行のやつは全く何やってんだー!」って四年がたつのを一番ハラハラしてたのはお父さんよそしてあんたが二ツ目になったことを誰よりも喜んでるのも親父…・
(父)早く稼いで返せよああ?分かってるよあり合わせの物しかできないけどそれとも外に食べに行く?お寿司でもねえお父さん?ああ…あのさ母ちゃん…カレー作れないかな?えッ?いや…ほら…家で家族三人でさ母ちゃんのカレー食いたいんだよ任しといて
こうして彼らはそれぞれに
二ツ目になった喜びをかみしめていたのですが
またしてもあの男です
取り消せってのはどういう意味かね?見届け人をされたある方からひととおりの状況は伺いましてね私にはあの四人が二ツ目にふさわしいかどうか大いに疑問ですよあいつらは立川流が決めたつまり俺が決めた課題をクリアした何か問題あるのかい?ホントにそうですか?何を!?特に談春に関しては「寿限無」もまともにできなかったとかそして彼には先日の大根多の問題もある二ツ目にするどころか破門にしてもおかしくないような弟子じゃないですか結局話題づくりのために四人まとめて二ツ目にしたんじゃないんですかそうすればあなたのところに弟子になりたいやつが増えてあなたのもとにはまた上納金が入ってくるわけですから二ツ目なのに盛大な昇進披露をやるらしいですねそれも全部パフォーマンスじゃないですか今や立川流は新しいことをやろうとして本質を見失った見せかけだけの一門なのではないですかね?私はね家元落語を愛する批評家の端くれとしてあなたの独りよがりのために三百年の秩序を壊されるのはもうたまらないんですよ今回の二ツ目昇進私は絶対に認めませんよ失礼師匠何であいつに言われっぱなしで黙ってるんですうるせえなあ何で言い返さないんですか師匠!俺はこういうもめごと嫌いなんだよ!もとはといえばてめえだろ問題起こしたのは!ちゃんとした弟子だったらこんなこと言われねえんだよ!あいつの言うとおりじゃねえか!二ツ目なんかすんじゃなかったよ本気で言ってるんですか師匠!?本気か冗談かいい加減分かるようになれバカ!本気に決まってんだろバカ野郎!腹立つわあいつ何や林ってホンマ…林何ちゅうねん林修一先生です先生いらんのやおはようございますうん…最初はいっぱいいたんだけどないつの間にか四匹になっちゃったよああ金魚ですかこいつらいくら餌やっても全然大きくなんねえなその方が育てがいがあるってもんじゃないですかそのうちりっぱな金魚になりますよ赤めだかは金魚にならんだろう
それからひと月後の…
二ツ目に昇進した彼らの
昇進披露落語会が開かれることになりました
真打ちならともかく二ツ目昇進で
これほどの大舞台が用意されることは
当時も現在も落語会の常識では
考えられないことでございます
それはひとえに立川談志という名前があったからに他なりません
オエッ!兄さんそこまで師匠のまねせんでよろしいやんまねじゃねえよお前見たかあの客の数無理お願いします《今回の二ツ目昇進私は絶対に認めませんよ》
林修一との遺恨を残したまま
ついに昇進披露の幕が上がろうとしていました
(拍子木を鳴らす)本日はお忙しい中立川流二ツ目昇進披露落語会にお運びいただきまことにありがとうございます私案内役を承りました立川流二ツ目立川志の輔でございますどうぞよろしくお願い申し上げますさてこれに控えおりまするは立川流一門立川談々同じく立川関西同じく立川談春そして立川志らくでございますこの四名の者このたび家元のお許しをいただきめでたく二ツ目に昇進と相成りましてございますつきましてはこの昇進を祝い口上を述べさせていただきますそれではまず立川藤志楼こと高田文夫よりご挨拶申し上げます
(高田)今日はこいつらのためにありがとうございますおまえら面あげて皆さんにお顔をね向こうが談々でございます年を食っております33で二ツ目
申し訳ありません
先生方の口上俺の頭には全く入ってきませんでした
パンニャ師匠ありがとうございましたそれでは最後にこの四人の師匠であります立川流家元立川談志よりご挨拶申し上げます
(拍手)ご来場感謝いたします二ツ目になる基準はまず落語の数内容すなわち技術ですそれを私が認めたということですやがてそこへオリジナリティーを加えていくまだそこまではいたっておりませんがそうなってほしいと思っております私は厳しいですから四人の他に二十人近くがやめておりますそれを乗り越えて今日を迎えたということはどこへ出しても恥ずかしくはないと自負しております落語家は伝統を語っていかなければいけませんそしてうける根多をつくっていくこれをこれからこいつらがやっていくんです最後には己の人生と己の語る作品がどこでフィットするかこの問題にぶつかってくると思いますそれまでこの三年四年五年どんな世界でもいいがむしゃらにかきまわしてこいと教えたつもりです落語家はもはや個人です演者そのものを見に来る時代になっておるのですお前ら顔あげろ最後にこの場を借りて言っておきますお前らはうまいです誰が何と言おうと立川流二ツ目ですホントによく頑張った他のバカ共に負けんなそれからなあまり落語家とつきあうな
(笑い)《遅くなりまして》《誰だお前》《弟子にしてください》《提灯や何かがいらなくな…》《語尾をのむなって言ってんだろ》《明日から築地行ってこい俺の弟子続けたかったら》《一年間働いてこい》《現実は正解なんだ》《土下座なんか軽くすんなよお前》《簡単に頭を下げてこびるような芸人にはなるな》《ふざけんなこの野郎!何で弟子のために》《俺が頭下げなきゃいけねえんだよ!》皆さんよろしくごひいきお引き立てをお願いいたしますどうか!こいつらをかわいがってやってくださいどうか師匠…批評家の先生方もこいつらの事実をありのままにしっかりと書いてやってくださいましよろしくお願いいたしますそしてどうかどうぞそれを飯の種にしやがれってんだい!師匠!
師匠あなたを喜ばせること
立川談志を喜ばせること
その思いはこれからも変わりません
ずっといつまでも
以前師匠は言ってましたね
忠臣蔵であだ討ちに参加しなかった家来達こそが
落語では主人公なんだと
信行ー!
めだかはめだかどんなに頑張ったって
金魚にはなれないけれど
でもだからこそいとおしい
もしかしたら彼らの人生そのものが
笑って泣ける最高の落語なのかもしれません
ねッ師匠
もうねオエーッちゃうんですよ急にねオロロロッ!では師匠締めを三本締めでお願いいたしますまさかのちょっと師匠ちょっと師匠お願いしますよそれでは皆様お手を拝借よーッ!ありがとうございましたッお前らとりあえず売れてこい大木金太郎
(笑いと拍手)
二ツ目昇進を機に
兄弟子の談春より先に真打ち昇進
そして落語立川流家元立川談志は
家族にみとられて亡くなりました
ひとひとひとふたふたふたみっせみっせ…
そして立川談春は…
四十二じゃ…ねえわけねえだろ覚えてるよ3年前だよな俺は朝芝の浜行って革の財布に四十二両入った夢見…ええッ!何でこれここにあるの?それでいい何一つ直すとこはねえ上出来だよ!ええッ!?おっ母何でこれここにあるの?夢じゃなかったんだよお前さん《誰ですかこれ?》《坊やだよ》《今日から坊やは談春だよ》やめた何で?また夢になるといけねえだろ
(拍手)
今でもあの庭の水鉢には
立川談志に育てられた
赤めだか達が
競って泳いでいるとかいないとか
褒めてたよ…怖ッ
赤めだかこのへんでお開き
じーっと俺を見てね「●●ポを出すというのは」って言い出したんですよはッ?「うーん三枝に出せと言ったら出さない」「たけしに出せと言ったら出す」「お前は言わなくても出す」絶賛ですよね僕の「ああありがとうございます」と言うて不思議な空気の中帰ってきたのを覚えてますね2015/12/28(月) 21:00〜23:25
MBS毎日放送
年末ドラマ特別企画「赤めだか」[字]【二宮和也×ビートたけし初共演!立川談春原作】
今最もチケットの取れない落語家・立川談春が天才落語家・立川談志の弟子時代を描いた「赤めだか」をSPドラマ化!談志と弟子たちの笑って泣ける青春落語グラフィティ!
詳細情報
出演者
立川談春…二宮和也
立川談志…ビートたけし
立川志らく…濱田岳
立川関西…宮川大輔
香織…清野菜名
立川談かん…柄本時生
立川ダンボール…新井浩文
寿司屋の大将…さだまさし
魚問屋の店主…柳家喬太郎<スペシャルゲスト>
春風亭昇太
春風亭小朝
中村勘九郎
三遊亭円楽
○
魚河岸の女将…坂井真紀
志らくの祖母…正司歌江
談春の父…寺島進
談春の母…岸本加世子
出演者2
高田文夫…ラサール石井
立川談々…北村有起哉
立川志の輔…香川照之
林修一…リリー・フランキー
ナレーション…薬師丸ひろ子
ナビゲーター…笑福亭鶴瓶
スタッフ
原作…立川談春『赤めだか』(扶桑社刊)
脚本…八津弘幸
協力…談志役場 他
プロデューサー…伊與田英徳、渡瀬暁彦
演出…タカハタ秀太
番組内容
1980年代半ばに起きた空前の漫才ブームの最中、信行 (のちの談春・二宮和也) は中学の芸能鑑賞会で、落語家・立川談志 (ビートたけし) に出会う。この衝撃の出会いから数年後、高校生になった信行は、談志の弟子になるべく立川流の門を叩いた。立川流では、親の援助なしに弟子は生活していくことができない。しかし家出した信行は生活費は新聞屋に住み込みでバイトをして稼ぐので、弟子にして欲しいと頼みこむ。
番組内容2
その勢いを買ったのか、談志は信行に「談春」という名前を与え、立川流に入門を許される。談志のもとには、談々 (北村有起哉)、関西 (宮川大輔)、ダンボール (新井浩文) という兄弟子がいた。彼らとともに
番組内容3
談志から言いつけられる無理難題をこなす毎日。これが修行なのか…そんな日々を疑問に思う談春。もがきながら、日々を必死に生きる談春と弟子仲間たちの笑いあり、涙ありの青春落語グラフィティ!
関連URL
【公式サイト】
http://www.tbs.co.jp/AKAMEDAKA/
【公式Twitter】
@akamedaka_tbs
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制作
TBS
おことわり
番組の内容と放送時間は変更になる場合があります。
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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