インタビュー ここから「又吉直樹」 2015.12.30


(歓声)
(又吉)どうも〜。
又吉直樹さん35歳。
芥川賞受賞後初めて母校の中学校を訪ねました。
(笑い)
(スタッフ)ピース又吉さん入られます。
よろしくお願い致します。
現在ひとつきに50本以上のテレビ番組に出演。
5年前からは本格的に執筆活動も。
今年7月初の長編小説「火花」で芥川賞を受賞しました。
理想の笑いを模索する若手芸人たちを描いた「火花」。
発行部数は…又吉さんが作品作りで大切にしているのは…ここから生み出す理想の作品は…。
今年その才能を開花させた又吉直樹さんの創作の原点に迫ります。
又吉さんは高校卒業までの18年間この町で過ごしました。
朝学校来ると門のとこに先生立ってるんですよ。
僕結構おっちょこちょいやったんで学校来た時先生に「又吉お前かばんどうした?」って言われて。
パン屋に全部忘れてきた事ある。
途中で?パン買う時に1回置いてパン買ってそのままパンだけ持ってきてもうて。
「取ってきます」言うて取りに行ったりした事もありましたね。
懐かしいですね。
いや〜。
すみません失礼します。
失礼します。
あっ変わってないですね。
僕のコーナーが。
え〜。
あっ僕の好きな作家と並べてくれてるんですね。
不思議な感じですね。
自分の中学の図書室に自分の本が置いてるっていうのが。
本当想像もできなかったですね。
ご自身初の小説「火花」が芥川賞を受賞しました。
率直にいかがですか?まあ一部で何かいろいろ「芸人が書いたから」とかまあ「話題で」とか言われるじゃないですか。
それでちょっとまあな確かにそういうのもあるやろうなと思ってちょっと読めなくなったんですけどむちゃくちゃ尊敬しているお笑いの先輩から「いやびっくりした。
むちゃくちゃ面白かった」みたいなふうに言ってもらってうれしくてもう一回読んでみたんですよそのうれしさで。
人に褒められたら自信持てるじゃないですか。
読んだ時にやっぱむちゃくちゃ面白かったですね。
これは大丈夫やなって。
僕は思いました。
「火花」は若手芸人たちが悩み葛藤しながら理想の笑いを模索する物語です。
笑いとは何か。
芸人とは何か。
売れたいという野心や不安に揺れる登場人物たちの内面がつぶさに描写されています。
最初は友人の事を書こう。
友人というか自分…まあ主人公とその友達の何年間の変化みたいな。
内面の変化みたいなものが面白いんじゃないかなと思ったんですけどなかなかそれが難しくて。
で芸人の先輩後輩の関係性も面白いなと思って。
その関係性を細かく書いていけば何かになるんじゃないかなと思ってそれを書こうと思って書きましたね。
又吉さんの才能が育まれたのは中学時代からだといいます。
この日母校の生徒を前に初めて語りました。
(笑い)又吉さんはどんな中学生だったんですか?まあおとなしかったですねやっぱり。
休み時間とかみんないろいろそれぞれしゃべったりするじゃないですか。
僕ずっとこうやって座ってるじゃないですか。
耳がむちゃくちゃよくなるというかどんどんいろんな声聞こえてきて。
クラスの女子が誰を好きかとか誰と誰が仲悪くてとかそんなんがほとんど地獄耳というか入ってて情報として。
それでまたちょっと気持ち悪がられたんですよね。
聞いてるのかみたいな?2学期ぐらいでだんだんみんなに又吉はこういうやつなんやって浸透してから何かちょっとしゃべる事になった時とかにぽろっと「誰々の事自分好きやもんな」とか言ったら「えっ?誰にも言ってないのに何で知ってんの?」みたいな。
聞こえたみたいな。
「こいつ変なやつや」みたいな。
「何で知ってんの」みたいな。
大体僕もう聞こえてたんで。
それでまた気持ち悪がられたりはしましたね。
やっぱりちょっと変なのかなとか…。
思いましたね。
思いましたしどうするのが普通か分からんとか人間とのつきあい方がどうやればいいか分からんみたいなのはやっぱり思ってましたね。
中学時代サッカーに打ち込む一方自分の性格にコンプレックスを抱き続けていた又吉さん。
このころ出会ったのが太宰治の小説です。
仲のよかった友達から「お前みたいなやつ出てくんで」みたいな事を言われて紹介されたのが「人間失格」だったんですよね。
もちろん太宰治も知ってましたし「人間失格」も聞いた事あったんですけどそこで初めて読んだんですよ。
「人間失格」。
太宰の自伝的小説といわれ発行部数はおよそ680万部。
「恥の多い生涯を送って来ました」という手記の形でつづられ人を恐れ本心を隠して生きる主人公大庭葉蔵の転落の人生が描かれています。
それを見た時に「あっここにほとんど俺がおるぞ」という感覚でしたね。
「何やこれは」っていう。
そんな事書くなって思いましたね。
何でそんな事書いちゃうねんっていう。
要は僕がみんなに気付かれたくない中学校の時の僕は僕の事暗いやつやと思ってるし大庭葉蔵ってやつは俺は本当はこんなやつじゃないのに本当はしんどいけど周り楽しますためにわざと明るいふりしてるとかアホなふりしてるっていうそういう僕が世界に接する時の方法を誰にもしゃべってなかったのにばらしちゃっててすごく怖かったんですよね言うなよって。
でも「あれ?ちょっと待って。
これ日本で言うたら1番か2番目に読まれてる本って事はこれみんな知ってんのや」と思って。
「この本に共感してる人が多いって事はまあ多かれ少なかれ多少理解できる。
もしくは周りにこんなやつがおる。
自分自身がそうって思う人がいるんや」というふうに思って何か楽なったんですよね。
隠す事ですらないそこまで気に病む事じゃないっていう事を思えてうれしかったですね。
当時又吉さんは一人お笑いのネタをノートに書きためていました。
人に見せる事のなかったネタ帳を初めてクラスの友人に見せる事にしたのです。
これぐらいのちっさいノート買ってそこにネタをショートコントとか漫才とかを書き始めたんですよね。
それが中学2年になる頃には2冊ぐらいになっててそれをクラスメートの友達に見せたらめっちゃ笑ってくれて。
「これすっごいおもろいやん」っつって。
僕はそんなん自分ではやっぱ言えないんですけどそいつが先生に「先生又吉が何か漫才のネタ書いてて面白いからやらして」みたいな。
「ほんなら今日後で時間5分だけやるからやれ」みたいな先生言ってくれて。
ネタ帳見て練習してそのあとやったらめっちゃウケたんですよね。
そん時にやっぱりこれをやっていきたい。
ずっとネタを考えてそれを人前で自分の作ったものを見せてやっていける職業があるならそれがやりたいってすごくその時に思いましたね。
18歳でお笑い芸人を目指して上京。
独特のキャラクターと人物描写にこだわったネタで人気を集めます。
自分女やって。
女な。
俺ストーカーやるわ。
フフフハハハ…。
何でストーカーが出てきちゃうんだいきなりよ!ごめんね遅くなっちゃって。
道が混んでたからさ。
待った?ああずっと待ってたよ。
6時間も前からね!ストーカーじゃねえかお前結局!人間を観察し内面を描く。
又吉さんのものの見方や考え方に影響を与えたのが父己敏さんでした。
父親が沖縄出身でで沖縄の宴会の時に父親がまあ踊りだして誰かの三線に合わせて。
すごい盛り上がったんですね。
わ〜って盛り上がって僕は息子やから誰かが「直樹お前も踊れ」って言われて僕はすごい恥ずかしがり屋やし端っこでおとなしくしてたんですけどここで自分が踊らへんかったら父親のおかげで盛り上がってるこの場がすごく冷めてしまうんじゃないかと思ってそれは避けたいと思って頑張って踊ったんですよね。
そんなら父親の3倍ぐらいウケたんですよね。
それは子どもがやるからウケるんですけどすごい気持ちよくて台所行って一人で麦茶飲んでたら父親が近寄ってきて褒めてくれると思ったら「あんま調子乗んなよ」って言われたんですよね。
ほんで何かそれがすげえ怖くて「あっおとん嫌やったんや」と。
「息子が自分よりウケた事が悔しかったんや」って思ったんですよね。
でこれすごい複雑で誰かのためによかれと思ってやった事で誰かが喜ばへん事もあるし全てがいいか悪いかとかかっこいいかかっこ悪いかみたいな何か答えが決まってる訳じゃないというかその間もあるし両方もあるしすごく難しい。
この世界の構造というのが難しいっていうのがその後の人生でも何度もそういう事ありましたし。
僕はサッカーやってたんですけど小学校3年で始めて最初サッカーボールも持ってなかったから下手くそやったんですよね。
それを見に来た両親が最初の試合見に来たんですよ。
僕があまりにも下手やったんで父親が「お前が下手くそすぎて恥ずかしくて見てられへんかった」と。
「二度とお前の試合は見いひん」っていってはっきり言われたんですよね。
そっから本当にもう見に来なかったですね。
で高校3年に僕がなって大阪の私学大会か何かで決勝で要は大阪で1番になるかどうかっていう試合ですよね。
その時に僕の中で決着つけるっていう意味でも父親を呼んだんですよ。
前半0−1で負けてて後半父親が見てるのは感じてたんですけど父親を背にして戦ってて同点に追いついた時に「おっしゃ〜!」ってなって父親の方を見たら砂場で友達と相撲取ってたんですよ。
試合見てなかったんですよ。
でPKなったんですけどPK見んと帰ったんですよ。
で家帰ったら「負けたやろ」って言ってて「何でやねん。
同点追いついてPKで勝ったぞ」っつって。
「あそこから勝ったんか?」みたいな。
…みたいな事なんですよ。
だから僕にとっての青春で僕にとっての全力で取り組んだサッカーっていうのは僕の中ですごい事やけど父親とかどっかの大人にとってはそんなにすごい事じゃないというか。
自分が世界のど真ん中におる訳ではなくて僕は僕の人生の中での真ん中におるだけでそれぞれの人生が…。
父親にとっては息子が大阪で優勝するかよりも友達とどっちが相撲強いかの方が興味があったっていう。
そういうのが…それってでも真実じゃないですか。
僕はひどい親やなとか思わないんですよね。
それはおもろいなってやっぱ思うんです。
さすがやなというか。
本音と建て前の部分で言うと本音だらけの人ですから基本的にはむちゃくちゃかっこ悪いんですけどたまにかっこいい瞬間があるっていうふうな価値観になったんでいろんな人を見る時にかっこよさのベクトルみたいのが一個じゃないとか面白さのベクトルも一個じゃないっていうふうに見えるようになったのは多分父親の影響とかが大きいと思いますね。
それが又吉さんに与えた影響というか今にどうつながってるかっていうのはどう思いますか?例えばお笑いもそうですし文学とかはそんな簡単な人の見方ではリアルではないですよね。
ある一人の人がいてその人の事を誰かが「10文字で表せ」って言ったら無理じゃないですか。
優しい。
優しくない時もあるじゃないですか。
その人の事を知ってる50人ぐらいがそれぞれの印象を言っていったら優しいって言う人もいて残酷って言う人もいていろんな意見が対立していく中でその人が浮かび上がってくるみたいなのが例えばお笑いやったり文学やったりすると思うんですよ。
そういうふうなものを作ろうと思ったり本当の人間みたいなのを描いたりコントでやろうと思ったらやっぱり偏った偏見とか「この人はこうや」みたいなふうな決め方っていうのは危険やなと思いますね。
すごく偽物っぽいうそっぽいものになってしまうんじゃないかなって。
だから純文学とか回りくどいっていうふうに思う人もおるかもしれないですけどその回りくどさは本当はちゃんと人間描く上で必要やったりお笑いでも何かそういう変なやつやけどこんな人おるなって思う事とかっていうのはちゃんと人間見とかな出せないのかなとは思いますね。
作家としてその才能を開花させた又吉さん。
執筆のために用意した書斎で今新たな作品を生み出そうとしています。
又吉さんにとっての理想の作品世界っていうのはあるんですか?イメージというようなものとか。
僕はやっぱり人間のいろんな感情みたいなものを書きたいなとは思いますけどね。
僕がみんなの気持ち期待を応えてやる才能もないですしみんなの期待に応えて僕がやるもんっていうのは多分どっかで誰かが同じようなものをできると思うんですよね。
そうじゃないやつを書いた方がいいんやろなっていうのと…。
だからといってそれも書くんは多分簡単じゃないんですけどそういうものを書きたいですね。
それこそお坊さんが何かアイスクリームを大量に買ってるとこを見たりした時に何か笑っちゃうというかその…「人間やな」っていう。
別にその…何て言うんですか?甘いもん食うなって事じゃなくてかわいいじゃないですか。
人間はこうこうこうなってこうなるっていうものを想定してるからとっぴな行動に思えるんですけどその行動とか結果から何でそうやったんやろってたどっていくとそれなりにそこに道はあるというか。
そういうものをちゃんと見つめて書けたらええなとは思いますけどね。
こういう事を感じてほしいとかそういうこう…こうなってくれたらいいなっていう事は想定としてあったりするものなんですか?読み終わった時に外出て夜中でも音楽聴きながら2時間ぐらい歩かしたいですね。
別に音楽聴かなくてもいいんですけど。
走るとか外行って。
もうずっと電気消して布団かぶってでも目バッキバキで天井ずっとこう見てるとか。
そういう状態にしたいです。
その読者が「面白かった」とか「これは…」とかじゃなくてもっと「何やこれ!」っていうものが書きたいですね。

(テーマ音楽)2015/12/30(水) 05:30〜05:55
NHK総合1・神戸
インタビュー ここから「又吉直樹」[字][再]

自身初の長編小説『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹さん。テレビや劇場で活躍する売れっ子だ。今年開花した又吉さんの才能の原点にインタビューで迫る。

詳細情報
番組内容
自身初の長編小説『火花』で、今年芥川賞を受賞した又吉直樹さん。テレビや劇場で活躍する売れっ子だ。その才能が育まれたのは、出身地の大阪・寝屋川市で過ごした少年期。特に、「無口でいつも人を観察していた」という中学時代、書きためたネタを教室で披露し、芸人になることを決意した。また、太宰治の小説との出会いが、人を描く芸風・作風に影響を与えたという。又吉さんの才能の原点にインタビューで迫る。
出演者
【出演】お笑い芸人・第153回芥川賞受賞…又吉直樹,【きき手】井上あさひ
キーワード1
又吉直樹

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
情報/ワイドショー – 芸能・ワイドショー
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸

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