今から50年前に始まったNHK障害福祉賞。
障害のある人や支援者の喜びや悲しみの体験を毎年集めた記録です。
これまでに寄せられた手記は1万通以上。
つづられているのは半世紀にわたる福祉の歴史そのものです。
そこで今日と明日は過去に入選した方のその後の歩みを見つめます。
今日ご紹介するのは27年前に入選した脳性まひの女性です。
障害のある人にとって自立とは何か。
考え続けた年月を振り返ります。
九州第2の都市…繁華街のゲームセンターに毎週のようにやって来るのは…
(林)あ〜!
(取材者)惜しかった!惜しかったですね。
林さんは脳性まひのため手足が自由に動かせません。
(取材者)お〜!
(取材者)おめでとうございます。
(取材者)取りましょうか。
はい。
町なかでの自由な毎日。
昔は諦めていました。
障害者の自立生活を支援するNPO。
重い障害のある当事者も含め15人が働いています。
活動は住まいや仕事を探すサポートやヘルパーの派遣など。
障害者が社会で暮らすのに必要なあらゆる事を手がけています。
林さんはこのNPOを20年前に立ち上げ現在は代表を務めています。
この日介護スタッフから相談を受けました。
車椅子の女性をトイレで介助した時に体をうまく支えきれなかったといいます。
車椅子の足元にスペースを作る事で足の不自由な人でもふんばりやすくなると林さんはアドバイスしました。
「障害のある自分だからできる支援がある」。
この日も一人の若者の相談に乗るために外出しました。
待っていたのは25歳の青年です。
今いる施設を出て1人暮らしを始めたいと林さんに支援を求めてきました。
よろしくお願いします。
人生で初めての1人暮らし。
お風呂は壁があるんやけど洗面所がね…。
自立するためには何をどうしたらよいのか全く分からないという青年に林さんはまず部屋探しを提案しました。
早速2人は気になった物件を見にやって来ました。
両足が不自由なため壁を伝って廊下を歩いていきます。
8畳一間単身者向けの部屋です。
両手が塞がれば廊下を歩くのはずっと難しくなります。
段差でつまずく可能性もありとても危険です。
少しずつ見えてきた1人暮らしの現実。
焦らずに林さんの支援を受けていく事にしました。
それがいいかどうかは別だけどね。
実は林さんも20代の頃障害者施設の中で暮らしていました。
27年前施設での日々をつづりNHK障害福祉賞に入選。
そのころの映像が残っています。
林芳江さんは25歳。
脳性まひのため手足が不自由で同じ姿勢を保ち続ける事さえ難しく入所者の中でも最も障害が重い一人です
障害者の自立を目指すこの施設では身の回りの事は自分でするのが決まりです。
寮で暮らす芳江さんは食事着替え掃除洗濯など全て自分一人でしています
自分で何でもしたら時間がかかるけど時間がかかっても自分でできた喜びっていうのはほかに変えられないと思うんですね。
自分でできるっていう…。
できた時はものすごくうれしいです。
「自分の事は自分で」という林さんの喜び。
それはかつて国や社会が障害者に求めた事でもありました。
障害者に仕事や生活する能力を身につけさせ社会経済活動に参加させる。
それこそが障害者の自立とされたのです。
健常者と同じように動けなければ社会で暮らす事はできない。
林さんも当時そう思い込んでいました。
林さんが施設で暮らし始めたのは5歳の時。
その後中学生の時に一度自宅に戻りますが間もなく父親が病気で亡くなります。
家族の負担にならぬよう林さんは自ら施設で生活する事を決めます。
本当は施設を出たくてしかたがありませんでした。
しかし一人で生活できるとは思えず諦めていました。
間もなく林さんに転機が訪れます。
当時広まり始めたピア・カウンセリングと呼ばれる活動との出会いです。
障害者の悩みに専門家ではなく同じ障害者が向き合い自立を支える画期的なものでした。
そこで目の当たりにしたのは施設を出て地域で生活する先輩たちの姿でした。
自由にならない足を口の力も使って持ち上げます
自分よりも重い障害のある人の姿に励まされた林さん。
施設を出て一人で暮らす事への思いを強くします。
27年後の今。
朝8時林さんの部屋にヘルパーがやって来ます。
おはよう。
毎朝着替えや朝食など身の回りの介助をしてもらうのです。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)お邪魔します。
お目覚めはいかがですか?う〜ん。
実は1人暮らしを始めた当初身の回りの事を全て自分の力でしたいと思っていた林さん。
ヘルパーの手を借りるのに後ろめたさを感じていました。
しかし一人では家事だけで一日が潰れてしまいました。
もう駄目だって!いつもはしないでしょ?こんな事。
やむをえずほかの人の手を借り始めた時ある事に気付きます。
生活の一つ一つを楽しむ事。
愛する人と出会い人生を共にする事。
一人では得られなかったものが今はあふれています。
いいかな。
この日林さんはNPOのスタッフに気になっている人のもとを訪ねてもらいました。
おっ!中さんおはよう。
おはようございま〜す。
幼い頃から足が不自由です。
もともと一人で部屋を借りて暮らしていましたが1年前にここへ引っ越しました。
きっかけは膀胱にがんが見つかった事でした。
医療ケアを受けやすい場所に移る方がいいと林さんが勧めたのです。
悩みを打ち明けられる家族は皆既に亡くなっています。
電気消さんといて。
林さんはこれまで中さんが病院に通うのに必ず付き添い相談相手になってきました。
この日病院帰りに事務所に寄った中さんの様子が気にかかりました。
(中)分かるんやけどね。
一人きりで暮らす中突然襲った重い病。
気丈に振る舞う中さんの不安を林さんは感じていました。
私は思ってる方なんですよ。
落ち着けてるけん。
帰りがけ中さんが突然震えだしました。
大丈夫?ちょっとね…。
うんうん。
大丈夫よね?大丈夫よ。
どうしたかね?珍しいね中さん。
ちょっと疲れたかね今日ね。
泣いていいよ。
夜になった時途端に…。
怖いんよ。
怖いんよ。
日に日に増している体の痛み病気への不安。
中さんは押し潰されそうになっていました。
人から言われるんがすごくつらいんよ。
怖いんよ。
その気持ちちゃんと出していいよ。
何くそと思って一生懸命頑張る…。
ごめんなさい。
ほっとした?ほっとした。
出したかった本当の気持ち。
ありがとうございました。
もういいってそんなのね。
ほっとした。
苦しい時にどこまでも寄り添い続ける。
障害のために傷ついて生きてきた人たちの支えになりたいと林さんは思っています。
ねえ。
久しぶり。
3つぐらいにしとこうね。
3つ?「楽しい事も大変な事もいろいろある。
自分らしい生き方ができるのが自立」。
林さんの今の思いです。
2015/12/28(月) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「私らしい“自立”〜NHK障害福祉賞50年〜」[解][字][再]
50年目を迎えた「NHK障害福祉賞」の、過去の入賞者の人生を振り返る。脳性まひのため全身が不自由な林芳江さん(52)。若い頃は諦めていた「自立」を模索した半生。
詳細情報
番組内容
今年50年の節目を迎える、障害のある方やその支援者の手記を集めた「NHK障害福祉賞」。過去に入賞した人々を訪ね、その後の人生の歩みを振り返る。脳性まひのため、全身の自由が利かない林芳江さん(52)。障害を克服し健常者に近づくよう教えられて育ったが、20代で挫折を経験し、社会での自立を諦めかけていた。しかし、地域で生き生きと暮らす他の障害者たちとの出会いに動かされ、自分らしい生き方を模索してゆく。
出演者
【キャスター】山田賢治,【語り】河野多紀
ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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