NHKスペシャル 生命大躍進 第3集「ついに“知性”が生まれた」 2015.12.28


どうして人っていろいろ考えるんだろう?あれ?そもそも私何でこんな事考えてんの?う〜ん。
考えるという私たちが持つ高度な能力。
その芽生えは既に恐竜時代に始まっていました。
なんと人間のように考えワナを仕掛ける事までできたに違いないという脳を極度に進化させた恐竜が見つかったのです。
一方の私たちの祖先。
恐竜たちが地上を支配していたこの時代に思いがけない偶然によって突如新しい脳を手に入れた事が分かってきました。
恐竜とは全く異なる方法でやがて私たち人間の知性へとつながる脳の大躍進を成し遂げたのです。
どのようにして私たちの祖先は突然新しい脳を手にしたのか?その知られざるドラマが最新のDNA研究によって解き明かされつつあります。
長い進化の歴史の中でヒトがヒトとなるための決定的な鍵となった出来事を3回のシリーズで描きます。
最終回は「知性誕生の謎」。
なぜ私たち人間だけがこれほど高い知性を持っているのでしょうか?その謎を解く鍵は私たちより巨大な脳を持ちながら何万年も前に絶滅してしまった別種の人類…最新テクノロジーはなんと絶滅したネアンデルタール人の化石からそのDNAを取り出し完全解読する事に成功しました。
そこから見えてきたたった1文字のDNAの書き換え。
それがもたらしたという驚きのドラマとは?さあ私たち人間に至る命の物語を始めましょう。
どうしよう考えちゃうな〜。
う〜ん。
考えるってすばらしいわ。
それでこそ人間よ。
で何考えてんの?どれにしようかと思って。
おやつ。
まあそういうどうでもいい事でも真剣に考えるのが人間ならではの知性よ。
このいのちの樹を見て!40億年前たった一つの細胞から始まった生命が…。
さまざまな姿形の生物へと枝分かれしながら進化していった。
…って言いたいんでしょ?
(せきばらい)そうよ。
でも知性と呼べるものを手に入れたのは私たち人間だけ。
ええ?でも犬とかチンパンジーとかイルカとか結構賢い動物いっぱいいるよ。
次元が違う!犬が新聞読んで「最近物騒な事件が多いワン」なんて嘆く?チンパンジーが政治問題で朝まで討論するかしら?そんな事人間以外の誰にできるっていうの?そりゃあ無理だよ。
そこまでできるにはあなたの頭のその巨大な脳が必要なのよ。
えっそんなに大きい?ここを見て。
恐竜時代の終わり頃よ。
このころある生き物が脳をひときわ大型化させて知性へと向かい始めたの。
へえ〜。
どんな生き物?
(鳴き声)うわっ!恐竜?ただの恐竜じゃないわ。
考える恐竜よ。
本当だ考えてる。
(鳴き声)てかもう食べちゃってるし!人類誕生よりはるか前に巨大な脳を獲得し考えるようになった恐竜がいた。
今そんな驚くべき学説が唱えられ始めています。
その考える恐竜の化石が見つかったのはカナダ西部のアルバータ州立恐竜公園。
3万個を超える貴重な恐竜の化石が見つかっている事から世界遺産に登録されています。
腹をすかせたこんなやつには出会いたくないよね。
うわっ。
(鳴き声)うわっ!
(鳴き声)
(鳴き声)こうした巨大恐竜たちに囲まれながら小さな体でしれつな生存競争を生き抜いた恐竜がいたといいます。
これが考える恐竜の化石その名はトロオドンです。
この化石を分析し一体どんな恐竜なのか突き止めたのがデール・ラッセルさんです。
ラッセルさんは10年近くも発掘を続け化石を集めてトロオドンの全身を復元する事に成功しました。
それがこちら。
背丈は1.2メートルほどの小さな恐竜です。
際立って大きな目が正面を向いてついています。
ものが立体的に見えるよう視覚が発達していました。
更に恐竜としては極めて珍しく指が互いに向かい合っていたといいます。
器用にものがつかめた可能性があります。
そして目や手を巧みに操る発達した脳。
これこそトロオドンの最大の武器でした。
この化石は頭蓋骨のてっぺんの部分。
ラッセルさんは裏側のくぼみに注目しました。
どれほど大きな脳だったのか?最新テクノロジーで更に詳しく調べてみましょう。
私の研究室にようこそ。
ここは恐竜たちの化石を特別な方法で分析するために作ったラボなんです。
ここではさまざまな恐竜の頭の化石から恐竜の知性について調べています。
これは恐竜トリケラトプスの頭の化石。
これを医療用のCTスキャナーで分析する事で頭蓋骨の中に埋もれている脳の大きさと形が分かります。
画面に頭蓋骨の化石の立体画像が現れました。
骨の中に埋もれていた脳が青く示されています。
大きさや形がはっきりと分かります。
ウィットマーさんはトロオドンの脳の復元にも挑みました。
いくつもの頭蓋骨の化石を分析して明らかになったのがこちら。
トロオドンの脳はほかの恐竜とは大きく違っていました。
知能の高さは体重に対する脳の重さから推定する事ができます。
これで比べるとトロオドンの脳はトリケラトプスのおよそ10倍。
肉食恐竜のティラノサウルスと比べても3倍以上もあります。
トロオドンは恐竜の中で飛び抜けて高い知能を持っていたようなのです。
巨大な脳を持ち霊長類並みの知能さえ芽生え始めていたという驚きの恐竜とは。
よみがえれ!トロオドン!さあはるかな時間を遡りウィットマーさんが思い描く考える恐竜トロオドンを目撃しにタイムトラベルしてみましょう。
時は今からおよそ…地球史上最大級の空飛ぶ生き物…大きさは10メートルもあります。
地上にも10メートルを超える大型恐竜たちが。
そこへ現れたのがトロオドン。
体は小さいですが脳は並外れて大きく高い知能を誇っています。
そんな賢い恐竜の狩りの様子をのぞいてみましょう。
あっ獲物を発見。
しかし穴に逃げ込んでしまいました。
こんな時トロオドンは巨大な脳で考えたに違いないとウィットマーさんは言います。
なんと昆虫をおとりにしてワナを仕掛けました。
幹をつかんで器用に登り息を潜めます。
餌に釣られて出てきたら優れたその目で狙って…。
捕まえました。
トロオドンは巨大な脳を持つ事で知性とも呼べるものを既に示し始めていたというのです。
ところがある日そんな恐竜たちの運命を一変させる大事件が起こります。
はるか宇宙のかなたから地球目がけて直径10キロメートルもの巨大な岩の塊が飛来しました。
そして激突。
衝突のエネルギーはすさまじいものでした。
あのトロオドンをはじめあらゆる恐竜たちは絶滅。
恐竜たちの間で芽生え始めていた知性もこの事件によって完全に消滅してしまいました。
びっくりだわ。
そんな賢い恐竜がいたなんて。
でも絶滅しちゃったんだね。
そう恐竜に未来はなかった。
何だ。
あの脳の大きな恐竜が私たちの知性の始まりかと思ったのに。
ノー!ノー!ギャグのつもりかな?人間は恐竜から進化したんじゃないわよ!むしろ恐竜は私たち哺乳類の祖先を付け狙う強敵だったんだから。
そっか。
じゃあそんな賢いライバルがもし絶滅しないで生き延びてたらえらい事になってたかもね。
実はトロオドンを復元したあのラッセル博士がまさにそんな想像をしてるの。
トロオドンが現代まで進化し続けていたらどうなったか。
枝が伸びた。
うわっ!あなた誰?名付けて恐竜人間よ。
恐竜人間…。
進化のスピードから考えたら人間並みに脳が巨大化してた可能性もあるそうよ。
重い脳を首と背骨で支えるようにまっすぐ立って歩いてかもしれないんですって。
あ〜こういうの苦手。
消えて!賢い恐竜が絶滅したのはいいけど私たちの知性はどこから始まったの?始まりはやっぱり恐竜がいた時代よ。
私たちの祖先にそれまでどんな生き物も持っていなかった新しい脳が突然現れたのよ。
えっ?私たち人間の高い知性。
それはおよそ2億年前に祖先が獲得した新しい脳によって支えられています。
最新装置を使って脳の中のどこで知的活動が行われているのか調べてみましょう。
本を読んでいる時はこの辺り。
主に脳の表面です。
計算している時はこの辺り。
やはり脳の表面です。
会話をしている時も表面。
知的な活動は常に脳の表面部分で行われています。
これこそ知性を生み出す新しい脳。
皮のように薄いため大脳新皮質と呼ばれています。
私たち人間に至る進化の中でこの大脳新皮質はいつどのようにして生まれたのでしょうか?最近その謎に迫る大発見がありました。
最も古い哺乳類の化石の一つから大脳新皮質が見つかったのです。
僅か1センチほどの小さな化石。
これが頭蓋骨の全体です。
化石を基に復元されたその姿は体長僅か3センチ。
小指に乗るほど小さな哺乳類です。
この化石をCTスキャナーで詳しく分析すると…頭蓋骨の内部から不思議な形をしたものが現れてきました。
これが脳です。
ハドロコディウムの脳をそれ以前の祖先と比べると大きく張り出した部分があります。
これこそ大脳新皮質。
後に私たちの知性を飛躍的に高める事になる新しい脳。
その原始の姿です。
この新しい脳大脳新皮質は私たちの祖先に一体何をもたらしたのでしょうか。
さあはるかな時間を遡り大脳新皮質が誕生した時代へタイムトラベルしてみましょう。
およそ2億年前。
恐竜が絶滅するよりはるかに昔。
私たちの祖先は新しい脳大脳新皮質を持つ事でこれまでにない新たな能力を授かっていました。
それはいろんな感覚をまとめる能力です。
例えば恐ろしい恐竜が近づいてきた時。
ちらりと姿が見えると…それが視覚として脳に伝えられます。
更に地面が振動してヒゲや毛が揺れると触覚として脳に伝えられだんだん大きくなる足音は聴覚として伝えられます。
視覚触覚聴覚などいくつもの感覚を大脳新皮質でまとめる事により何がどこからどんな速さでやって来るのかを総合的に判断できるようになりました。
こうして感覚が研ぎ澄まされた事で私たちの祖先は夜の世界へと進出していきます。
夜は恐竜たちの活動が減る時間です。
大脳新皮質を駆使して総合的に判断できるハドロコディウムは暗闇の中を縦横に駆け回りました。
夜という安全な新世界へ進出する事で生き残る事ができたのです。
祖先の生き方を大きく変えた大脳新皮質。
それはこの時代にどのようにして獲得されたのでしょうか。
その謎をDNAから解き明かそうとしている研究者がいます。
哺乳類の脳が出来る仕組みを調べています。
そもそも脳の細胞が作られる時には2つの遺伝子が関わっています。
その2つとはいわばアクセルとブレーキの遺伝子です。
アクセル遺伝子は脳の細胞に「増殖せよ」と促す指令物質を出します。
一方ブレーキ遺伝子は「増殖するな」という指令物質を出します。
例えば恐竜などのは虫類では脳が出来る時にアクセルとブレーキの両方が同時に働き打ち消し合います。
このため細胞の増殖が穏やかに保たれ脳はそれほど大きくなりません。
ところが私たち哺乳類では脳が出来る時になぜか一時的にブレーキ遺伝子が故障し働かなくなります。
するとアクセルだけが踏み続けられ脳の細胞は暴走的に増殖し続けます。
こうして出来たのが大脳新皮質です。
しかも調べてみるとブレーキ遺伝子が故障するのは私たち哺乳類だけ。
は虫類や両生類などほかの動物では故障は起きません。
進化の過程でなぜ私たち哺乳類だけにブレーキの故障が起こるようになったのでしょうか。
花嶋さんはその原因を突き止めました。
哺乳類のDNAではブレーキ遺伝子のすぐ脇で僅かな変化が起きていました。
この事で分子レベルでDNAの形が微妙に変わり細胞内を漂うあるタンパク質がくっつくようになりました。
するとタンパク質が蓋となってブレーキ遺伝子は指令物質を出せなくなります。
これがブレーキの故障です。
DNAに起きた僅かな変化が細胞の増殖を暴走させ大脳新皮質を生み出したのです。
これこそ小さな祖先が成し遂げた大脳新皮質の獲得という大躍進でした。
この大脳新皮質は進化の過程で一層巨大化しその後哺乳類を大繁栄させやがて私たちの知性を生み出すもととなるのです。
ああDNAってなんて偉大なの!どんなハプニングも進化の力に変えていく。
いやいやいや。
遺伝子の故障?急に脳細胞が歯止めなく増えたりしちゃまずいでしょ。
大体何でちょうどいいところで増殖が止まるのよ?それが奇跡的にちょうどいいところで止まるような故障だったのよ。
うわっまた都合よく奇跡にお任せ。
ノー!ノー!DNAの奇跡を軽く見ないで。
本当にとんでもない奇跡なのよ!これを見て。
福引き?そもそも私たちのDNAでは突然一部が変化するような事がしょっちゅう起きてる。
でもね…そのほとんどは生きる上で役に立たないハズレ。
それどころか…。
命の危険につながる事もある。
まずいじゃんそんなの。
そうやって命を落とすものもいっぱいいる中でごくごくたまにすごい奇跡が起こるの。
(ベル)あっ大当たり!今分かっている限り私たちの脳がこれほど一気に巨大化するような事件は生命40億年の歴史の中でたった1回しか起きていない。
40億年に1回の大当たり…。
そのおかげで私たちが知性を持てるようになったのか。
…ってちょっと待ってよ。
知性って言うけどまだこんなネズミみたいな子の話よね。
この子が新聞読んだり朝まで討論したりできる?人間の知性には程遠いんですけど。
じゃあ何があったら人間ならではの知性って言えると思う?う〜ん…人間ならでは…。
そっか。
言葉だ!新聞読むのも討論するのも何か考えるのだって言葉だもんね。
一気に時代を進んで今の人間にたどりつく一歩手前。
このころ言葉に関わるもう一つの奇跡が起きるのよ。
(物音)誰!?私たち人間とは別の人類よ。
人間ならではの知性を象徴する私たちの言葉。
その誕生の秘密を探しにやって来たのは氷河期です。
4メートルもの巨体に深々と毛を生やした不思議なサイ。
雪と氷の世界には巨大な生き物たちがあふれていました。
こちらは雪原で生きるライオン。
今のものよりはるかに大型です。
食べ物が乏しい過酷な氷河期。
全ての生き物たちは必死に命をつないでいました。
そんな中に私たちホモ・サピエンスもいました。
姿形は今の私たちと同じです。
突然現れたのはマンモス。
体重は実に6トン。
当時最大の生き物の一つです。
この様子を陰から見ていたのは眉の部分が張り出し鼻が大きなホモ・サピエンスとは別種の人類。
その名は…実はこの時代地球上には私たちホモ・サピエンスとは異なる別種の人類が存在していたのです。
ネアンデルタール人は際立って巨大な脳を持っていました。
なんと私たちホモ・サピエンスよりも1割以上も脳が大きいのです。
その上ネアンデルタール人は体格にも優れ並外れた力を持っていました。
腕力はホモ・サピエンスの倍もあったと推定されています。
ネアンデルタール人は当時最強のハンターでした。
しかし4万年前ネアンデルタール人は絶滅してしまいました。
そんなネアンデルタール人がどれほど言葉を使う事ができたのかはよく分かっていません。
しかし彼らが暮らしていた遺跡からある興味深い事実が浮かび上がってきました。
ニコラス・コナードさんはネアンデルタール人が使っていたこの洞窟を10年にわたって調査してきました。
注目したのは発掘された石器です。
よくできたものなのですが…ネアンデルタール人は数万年もの間同じタイプの石器を作り続けました。
この大ぶりな石器を狩りから調理まであらゆる用途に使いました。
ところが私たちホモ・サピエンスの石器を見ると…。
これは肉などを切り取るための石器。
これは骨や角を削ってやりの先などを作るための石器。
このようにホモ・サピエンスは目的に応じて大きさや形の違う石器を次々と発明していたのです。
この事実などから言葉に代表される知性の違いが見てとれるとコナードさんは言います。
両者は暮らし方も違い…えっ?ちょっと待ってよ。
石器を見ただけでうまく言葉が話せたかどうかが分かるなんてどういう事?もしも高度な言葉を使えなかったら何かを思いついてもそれを伝えるのって大変よ。
例えば…。
分かる?…とか?違う!…って伝えたの!分かる訳ないじゃん。
ほらね。
私たちホモ・サピエンスがあれだけいろんな石器を生み出せたのもアイデアを伝える高度な言葉が使えたおかげだと考えられるのよ。
ネアンデルタール人と比べて私たちホモ・サピエンスがより高度な言葉を使えたとするとそれはなぜなのでしょうか。
最新研究からそこに遺伝子が深く関わっている可能性が浮かび上がってきました。
言葉に関わる遺伝子が発見されたのです。
きっかけは言葉がうまく話せないある遺伝性の病気の調査でした。
サイモン・フィッシャーさんは病気の原因を探るために症状が出ている人たちの血液を採取しDNAを分析しました。
するとその人たちには共通してDNAの特定の場所に違いがある事を見つけました。
FOXP2遺伝子は言葉などのコミュニケーションにどれほど影響を与えるのかマウスを使った実験が行われています。
実はマウスの赤ちゃんは超音波の鳴き声を使って母親とコミュニケーションをとっています。
その鳴き声を超音波マイクで収録し分析しました。
画面の短い横線が鳴いている部分。
いわばマウスの赤ちゃんの発する言葉です。
続いて人間の持つFOXP2遺伝子を組み込んだマウスの赤ちゃんで実験を行いました。
すると…。
長めの波形が少し出てきてますね。
人間のFOXP2遺伝子を組み込むとマウスの赤ちゃんはより長く鳴くようになりました。
いわばよりおしゃべりになったのだと桃井さんは考えています。
言葉などのコミュニケーションに深く影響を与えるFOXP2遺伝子。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとではその遺伝子に何か違いがあるのではないか。
しかしネアンデルタール人は4万年も前に絶滅してしまっています。
その遺伝子を調べる事など普通は不可能です。
そんな不可能に挑む画期的なプロジェクトがありました。
化石からDNAを取り出そうというのです。
およそ4万9,000年前にネアンデルタール人が住んでいたこの洞窟からはこれまで13体もの化石が発掘されてきました。
発掘現場に着くと手袋に帽子マスクなどをつけ始めます。
これはウイルス感染などを防ぐのに使う防護服です。
出てきたのはネアンデルタール人の大たい骨の一部。
集められた化石は厳重に封がされ分析へと回されます。
果たして化石からDNAは取り出せるのか。
挑戦しているのは研究プロジェクトのリーダースバンテ・ペーボさんです。
1980年代からこのプロジェクトを率いてきたペーボさん。
およそ30年かかって化石の中からごく僅かのDNAを抽出する事に成功しました。
ところがそのDNAは何万年もたつ間に無数の小さな断片にちぎれしかも多くの部分が失われていました。
そこでペーボさんたちは世界中から化石を集める事にしました。
たくさんの断片をつなぎ合わせて元のDNAを復元しようというのです。
集まったDNA断片の総数はなんと4億個。
その分析のためペーボさんたちは独自のコンピュータープログラムの開発に取り組みます。
各断片から互いに重なり合う部分を見つけ出しこれを手がかりにして元の並びを復元するプログラムです。
そして2010年絶滅したネアンデルタール人のDNAを復元する事に成功しました。
興奮しましたよ。
いよいよネアンデルタール人と私たちホモ・サピエンスのDNAの比較が始まりました。
あの言葉に関わるFOXP2遺伝子を比べてみると意外な事にネアンデルタール人と私たちホモ・サピエンスとではFOXP2遺伝子の主要な部分には違いはありませんでした。
そこで研究チームはFOXP2遺伝子の周辺にまで分析の手を広げ40万文字にもあたるDNAを徹底的に洗い直します。
すると40万文字の中にほんの1文字重要な違いを発見します。
ネアンデルタール人ではAで表されているこの部分。
そこが私たちホモ・サピエンスではなぜかTに変化していました。
発見者のマリチッチさんは僅か1文字の違いがFOXP2遺伝子の働きに影響を与えた可能性があるといいます。
僅か1文字のDNAの変化が言語能力にどんな影響を与えうるのでしょうか。
さあマリチッチさんが考える高度な言葉を獲得した大躍進の瞬間へタイムトラベルしてみましょう。
私たちの祖先の細胞の奥深くある時大事件が起ころうとしていました。
見えてきたのは言葉に関わる遺伝子FOXP2です。
DNAに時折起こる突然変異がここで発生。
40万文字の中の僅か1文字のDNAがAからTに変化しました。
するとそこにあるタンパク質がくっつくようになりました。
その結果FOXP2の一部に蓋がされ作られる物質の量が減ったのです。
今明らかになっているのはここまで。
この事で何かが変わりFOXP2に影響を与え高度な言葉が生まれたとマリチッチさんは言います。
厳しい氷河期私たちの祖先は高度な言葉を武器にして生き残りを図りました。
言葉を巧みに使う事でたくさんの人が協力し合いより大がかりな狩りができるようになったといいます。
更に言葉はある特別な事を可能にしました。
知識を世代を超えて引き継ぎ発展させる事です。
人間以外の生き物ではどんなにすばらしい技能を身につけても一代限りで子には伝わりません。
ところが人間は言葉を使って知識を子に伝え更に子がそれを発展させ孫へと引き継ぐ事ができるようになったのです。
私たちに高度な言葉をもたらし人間を人間にしついには文明を生み出したもの。
それはたった1文字のDNAの書き換えだったのかもしれないのです。
え〜40万文字の中のたった1文字?もちろんこの1文字の変化だけで私たちが高度な言葉を使えるようになった理由が全て説明できる訳じゃない。
でもそれくらい僅かな変化でさえとてつもない大躍進が起こりうる。
それが生命40億年の物語なのよ。
運命はチャランポランなDNA次第か。
柔軟なDNAでしょ?エヘッ。
数え切れないほどの変化を繰り返しながらいつか途方もない奇跡を引き当てる。
その度に命はさまざまに姿形を変えてこの星にあふれそして私たち人間が誕生した。
ねえお姉ちゃん。
これから私たちにどんな奇跡が起こるのかな?わあ〜まだまだすっごい奇跡が起こりそう。
この地球に最初の命が生まれてから40億年。
長い長い時間の中で生命は幾度も大躍進を果たしてきました。
5億年前偶然にも植物から遺伝子をもらった事でこの目は生まれました。
たまたま感染したウイルスから新たな遺伝子がもたらされ胎盤が出来子育てが一変。
親子の深い愛情が育まれました。
そして偶然の遺伝子の故障により生まれた新しい脳が知性を生み人は人となりました。
私たち人間に至る命の物語。
そこには信じられないような偶然と幸運の連続が書き記されていました。
私たちが今この瞬間に生きている事。
それこそが40億年紡がれてきた命の奇跡そのものなのです。
2015/12/28(月) 02:20〜03:10
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 生命大躍進 第3集「ついに“知性”が生まれた」[字][再]

生命40億年の歴史の中で、なぜ人間だけがこれほど賢い生き物になれたのか?実は偶然の大事件で脳が巨大化し始めて…新垣結衣とタイムトラベル!太古の生き物をCGで体感

詳細情報
番組内容
シリーズ『生命大躍進』最終回は、なぜ私たち人間だけが、これほど賢い生き物に進化できたのか、究極の謎に迫る。最新研究から、祖先が知性への階段を昇りはじめたきっかけは、思いがけないDNAの事件によるものだった…。そして氷河期に絶滅した別種の人類ネアンデルタール人のDNA復元計画から、人が人となれた理由に迫る。新垣結衣さんが一人二役で演じる“姉妹”と一緒にタイムトラベル!マンモスや恐竜をリアルCGで体感
出演者
【出演】新垣結衣,【語り】伊藤雄彦,久保田祐佳,【声】江原正士,河本邦弘,樫井笙人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ニュース/報道 – 報道特番

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:1522(0x05F2)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: