NHKスペシャル 生命大躍進 第1集「そして“目”が生まれた」 2015.12.28


見たい。
…と思いませんか?はるか大昔のあなたのお父さんとお母さんを。
海の中を泳ぐこの生き物。
4億年前という大昔にいたあなたの祖先です。
もちろんもう今は地球上に存在していません。
研究によって分かってきたその姿を最先端のコンピューターグラフィックスでリアルに描き出しました。
私たちはこんな生き物からどのようにして今の姿へと進化したのでしょうか?生命は悠久の時の中で少しずつ少しずつ姿を変えて今の姿形まで進化したと長らく考えられていました。
ところが今それだけでは説明のつかない事実が次々と明らかになっています。
例えば私たちに知性をもたらしている巨大な脳。
最先端の研究からなぜか200万年前に突如脳が巨大化していた事が分かりました。
更に私たちの手足も。
これまで考えられていたよりはるかに短い時間で。
ただのヒレから変化し手足へと進化した事が明らかになりました。
私たちの祖先になぜ突然そんな進化の大ジャンプが起きたのでしょうか?21世紀科学はこの謎を解く鍵を私たち自身の体の中に見いだしました。
それは細胞の中にあるはるか祖先から受け継いできたもの。
この二重らせんの物質DNAです。
そこには私たちの姿形を定める膨大な情報が書き込まれています。
今最新テクノロジーにより人間をはじめさまざまな生き物のDNAが猛烈なスピードで読み解かれています。
そこから驚くべき新事実が見つけ出されました。
DNAがある日突然激変しその結果巨大な脳や手足が作り出されるという進化の大ジャンプを引き起こしていたのです。
そんな大躍進が幾度かあった末に…今私たち人間がいるのです。
長い進化の歴史の中でヒトがヒトになるための決定的な鍵を3回のシリーズで描きます。
第1回は「目の誕生」です。
それは私たち動物に起こった最初で最大級の進化の大躍進。
今からおよそ5億年前それまで目を持たなかった祖先が突如として精巧な目を持つように進化しました。
DNAに記されていた驚くべきドラマとは?さあ私たち人間に至る命の物語を始めましょう。
(ノック)
(妹)お姉ちゃん?テレビでお姉ちゃんが好きそうな番組始まったよ。
うわっ…。
本当お姉ちゃん大昔の生き物好きよね〜。
(姉)ちょっと気を付けて。
へえ〜。
今度の作品は木の形のアート?いのちの樹。
…っていうのよ。
いのちの樹…。
あっ!触っちゃ駄目。
(鳴き声)ん?うわっ何これ!?あなたの遠い親戚よ。
大昔のね。
これが親戚?よく出来た仕掛けでしょ。
へえ〜。
まあお姉ちゃん。
大学で大昔の生き物ばっか勉強してたもんね。
それが急にアーティストになるなんて言いだして。
私はね40億年にわたる生命の進化そう私たちの命の歴史を表現したいのよ。
40億年?いい?全ての生命の源はここ!最初はたった一個の細胞だったの。
やば…スイッチ入っちゃったよ…。
それがどんどん複雑に進化してまず植物と動物とに分かれた。
更に動物は長い長い時間をかけていろんな生き物たちに枝分かれしていったの。
そして私たち人間が誕生した。
どう?生命の進化って壮大な命の物語。
まさにアートなのよ!うん…そうね。
で?枝の飾りに触れるとその時代の生き物が出てくる仕掛けって訳だ。
触らないで。
未完成なんだから。
えっ?実はまだどう表現していいか分からない進化の大きな謎があるの。
進化の謎?例えばあなたのその目はいつどうやって出来たのか?目?それこそだんだん進化して出来たんでしょ?どうもそうじゃないのよ。
進化の枝が急にたくさん伸びてるここ。
今から5億年くらい前よ。
このころ私たちの祖先に突然いろんな目がウジャウジャと現れたのよ。
突然目が現れたってお化けじゃあるまいし。
でも面白そうじゃない。
カナダ西部のロッキー山脈。
標高3,000メートルを超える峰々が続きます。
この一角で地球で最初に目を持った生き物たちの化石が次々と見つかっています。
その場所を発見した…3年前キャロンさんたちは山火事でむき出しになった地層を偶然見つけました。
そこから目を持つ古代生物の化石が出てきたのです。
この現場での撮影が許されたのは私たちが世界で初めてです。
むき出しになっているのは今から5億年以上前カンブリア紀と呼ばれる時代の地層です。
私たちの見ている目の前で化石が次々と現れます。
一つの岩から太古の生き物が6匹も現れました。
目はどうでしょうか?無数の足を持つ奇妙な生き物。
今まで見つかった事のない新種です。
頭の方を見ると少し色の濃い丸いものがあります。
大きさは3ミリ。
これこそはるか5億年前の目だとキャロンさんは言います。
こちらの目にはびっくりです。
ゾウのような鼻を伸ばした頭の上になんと5つも目があります。
この時代からは少なくとも30種類もの目を持つ生き物が見つかっています。
では当時最も進んだ目はどんな目だったのでしょうか?こちらの化石ぬらすと奇っ怪な姿が浮き出てきました。
これは動物の上半身です。
アノマロカリスと名付けられています。
頭から左右に飛び出したもの。
これが目です。
カンブリア紀最大の動物でしかも最近目の構造がより詳しく分かる化石も発見されました。
拡大してみると…小さな点が集まっています。
トンボの目そっくりです。
アノマロカリスの目は現在の昆虫と同じ小さな目が集まって出来た複眼と呼ばれる目でした。
よみがえれ!アノマロカリス!あっ!アノマロカリスは当時最大の肉食動物で50センチ以上に成長しました。
目は非常に大きく周りの世界を見て極めて上手に獲物を捕らえる事ができたでしょう。
アノマロカリスこそカンブリア紀最強の王者だったのです。
さあはるかな時間を遡り5億年前の地球へタイムトラベルしてみましょう。
太古の目を持った生き物たちはどんなふうに生きていたのでしょうか。
彼らが暮らしていたのは海の中。
カンブリア紀の海は命あふれる世界です。
不思議なトゲだらけの動物…こちらは刀を生やしたような動物…5億年前の地球は奇妙な生き物で満ち満ちていました。
地球に生命が誕生してから30億年以上もの長い間生命はずっと目に見えないサイズの微生物にとどまっていました。
ところがこのカンブリア紀に突如大きく複雑な姿をした動物へと進化していました。
この動物時代の幕開けに王者として君臨したのが…左右に突き出た2つの複眼。
一度に360度を見渡せる目で獲物を探し回ります。
こちらは3センチほどの小さな動物…目はユニークなひょうたん形。
この目なら上も下も同時に見る事ができたでしょう。
でも背後は見えません。
あっ!あの5つ目の怪物…これならあらゆる方向を見る事ができたでしょう。
しかし気を取られていると…。
より巨大な目を持つフルディアに襲われてしまいました。
アノマロカリスに次ぐ大きさの肉食動物です。
突如目を持つ動物が現れたカンブリア紀。
目は生き残りに欠かせない武器となっていました。
あるものは目を使って獲物を捕らえました。
あるものは目で敵をいち早く見つけ防御を図りました。
目の優劣が生死を分ける激しい生存競争の中で多種多様な目が生まれました。
その結果この時代に突然目を持つ動物が海にあふれるようになったのです。
いろんな目で命懸けの戦い…怖い時代。
激しい生存競争こそ進化を爆発させるエネルギーなのよ。
それがなければ私たち人間までとても進化できなかったはずよ。
ふ〜ん。
私はお姉ちゃんが飼ってるこのクラゲみたいにの〜んびり生きていたいな。
そんな事言ってると食べられちゃうよ。
えっ?うわっ出た!5つ目!でも私こういうキモかわいいの嫌いじゃないかも。
それにしてもあんなにいろんな目が突然現れるなんて事ありえる?答えはその子が知っているはずよ!またスイッチ入りそう…。
いい?突然いろんな目を持つ生き物が現れたのはこの辺り。
このあとの動物たちはみんな目を持ってるの。
私たち人間もその子孫よ。
でもねこれより前の原始的な生き物には目がない。
つまり運命の分かれ目はここ。
このころに一番最初の目を手に入れた子がいたはずよ。
まさかそれが!そう。
クラゲみたいな原始的な動物。
その子はいわばその生き残りなの。
そうなんだ。
じゃあひょっとして君今でもその一番最初の目を持ってるんじゃない?長い生命の歴史において突如現れた目を持つ動物たち。
その中で最初に目を持ったのはクラゲのような動物だったと考えられています。
かさの縁の辺りをよく見て下さい。
この白い点がクラゲの目です。
この目を調べれば私たちの祖先がどうやって目を獲得したのかが分かるはずだ。
そう考えた科学者がいます。
2人はともに生命の設計図であるDNAの世界的な研究者です。
ゲーリングさんはスイスで40年にわたって目の起源に迫ってきました。
注目したのはクラゲの原始的な目の形です。
拡大してみましょう。
三日月形に見える黒い部分があります。
ここで明るい暗いを感じています。
クラゲはどうやって三日月形の黒い部分を持つようになったのか。
この謎を追う中でクラゲの原始的な目とそっくりなものを持つ意外な生き物と巡り会います。
それは日本の海にいました。
しかも夏の短い期間しか現れないといいます。
採取に当たるのは研究パートナーの…
(五條堀)狙いのやつが入ってるかどうかちょっとこれは顕微鏡で見ないと分からないんで。
まあしかしいい感じですよね。
顕微鏡で見ないと分からないほど小さいお目当てのものとは…。
あっこれ違う?これだよ。
これこれね。
これだね。
これですよ。
あっ今動いた動いた。
これだね。
これですよこれ。
狙っていたのは…小さなプランクトンです。
さあその姿をよくご覧下さい。
何やら見覚えのある三日月形の黒い部分があります。
クラゲの目と形がよく似ています。
更によく見ると…。
体の中に黄緑色に見える粒があります。
光合成をする時に使う…つまりウズベンモウソウは森の木々と同じ植物の仲間なのです。
そんなミクロの植物が持っていた三日月形の黒い部分。
ウズベンモウソウはこの部分で光を感知しています。
これはより効率よく光合成を行うために何億年もかけて進化させたいわば光センサーです。
植物であるウズベンモウソウの光センサーが動物であるクラゲの目とそっくりだった。
全く異なる進化の道を歩んできた両者が同じものを持つ事は普通はありえません。
これは同じものなのかそれとも他人のそら似にすぎないのか。
ゲーリングさんと五條堀さんDNAにその答えを求めました。
(五條堀)じゃあお願いします。
ウズベンモウソウのDNAを詳しく調べます。
その結果極めて重要な遺伝子を発見しました。
それはロドプシン遺伝子。
この遺伝子はこんな複雑な形のタンパク質を作り出します。
これを私たち動物が目で使っているタンパク質と比べるとそっくりです。
束ねられた棒が7本という点まで一致しています。
実は私たち動物の目にとってこのタンパク質は欠かす事のできないものです。
それがあるのは目の奥に広がる光を感じ取るスクリーン…無数に敷き詰められています。
タンパク質の中央の部分に光が当たると…。
花が開くように形が変わります。
この反応のおかげで私たちは光を感じ世界を見る事ができるのです。
動物の目に不可欠なタンパク質とそっくりのものが植物であるウズベンモウソウから見つかった。
これは偶然ではなく必然に違いない。
ゲーリングさんと五條堀さんはある大胆な仮説にたどりつきました。
そう簡単にはロドプシンのような複雑なタンパク質を作る遺伝子はできないと。
そうしますと例えばウズベンモウソウが持っているその光を感知するロドプシンといいますかそういうタンパク質の遺伝子がクラゲのDNAの中に移行したと考えますとこれはクラゲが突然に目を持てるように至ったとそういう可能性が極めて高い。
つまり私たちが言いたいのは動物の目のもととなる遺伝子は植物が作ったものだという事です。
その遺伝子が人間の祖先であるクラゲのような動物に種の壁を超えて移動した結果私たち動物は目を持てたのです。
植物の作った遺伝子が種の壁を超えて動物に移動する。
まさにこれまでの常識を根底から覆す考えでした。
ところが去年驚くべき発表がありました。
植物から動物へ遺伝子が移動したという実例が初めて見つかったというのです。
その生き物はボストン近郊の浅瀬に住んでいる4センチほどの動物。
ウミウシの一種です。
このウミウシ餌を食べなくても光を浴びるだけで生きる事ができます。
動物なのに葉緑体を持っていて光合成ができるのです。
なぜなのか?ウミウシのDNAを調べました。
光っているのはなんと海藻の遺伝子です。
このウミウシはもともと海藻が持っていた遺伝子を自分のDNAに組み込み光合成できるように進化していたのです。
植物である海藻から動物であるウミウシに遺伝子が移動したという今回の発見。
この事実に基づけば大昔に植物から私たちの祖先に遺伝子が移動しても不思議ではありません。
そういうふうに考えています。
さあはるかな時間を遡りゲーリングさんと五條堀さんが描き出した私たちの祖先が目を獲得した瞬間へタイムトラベルしてみましょう。
あのカンブリア紀よりも前。
海にはクラゲのような動物たちが生きていました。
まだ目は持っていません。
その周りにはロドプシン遺伝子を持つ植物プランクトンがたくさんいます。
こうした植物プランクトンは当時の原始的な動物たちの餌となっていた事でしょう。
ある日その一つが体内奥深くにある子孫を残すための細胞生殖細胞の中に偶然入り込みます。
そして植物のDNAがまき散らされました。
この中にあのロドプシン遺伝子がありました。
植物が光合成をより効率よく行うために何億年もかけて作り上げた光センサーの遺伝子です。
そして奇跡が起こります。
植物のロドプシン遺伝子が動物のDNAと結合。
この瞬間植物の宝物である光センサーの遺伝子を私たちの祖先は手に入れたのです。
やがてこの遺伝子が祖先の体で活用され明るい暗いを感じられる最初の目が生まれました。
こうして私たちにとっての偉大な進化の大ジャンプ目の誕生という大躍進が成し遂げられたのです。
すご〜い。
違う種類の生き物から遺伝子をもらって進化できるなんてDNAって案外チャランポランなのね。
柔軟と言いなさいよ。
遺伝子が時には全然違う生き物の間を飛び越える。
そう!こんなふうに。
そして進化を一気に加速させる。
そのおかげで私たち動物は光ある世界へと導かれたのよ。
すごい。
まさに命の物語ね。
でも私たちの目の物語にはまだ続きがあるの。
どういう事?植物からもらった遺伝子で出来たのって明るい暗いしか分からない原始的な目だったのよ。
そっか。
じゃあ私たちみたいに色も形もクッキリ見える目ってどうやって出来たの?それこそが目の第二の謎よ。
また来るぞこれ…。
ここを見て!クラゲみたいな生き物から進化した私たちの祖先はそのあと大きく道が分かれたの。
こっちは今のエビやカニ昆虫みたいな硬い殻で覆われた動物たち。
実はさっき見たいろんな目を持つ動物のほとんどもそう。
節足動物っていうのよ。
へえ。
じゃあ人間とかに進化するこっちは?背骨を持つ仲間脊椎動物よ。
なるほど。
じゃあこの脊椎動物の枝の根元に触るとこのころの私たちの祖先が出てくるんでしょ?あれ?何も出ない。
故障?失礼ね。
もう出てるわよ。
えっどこよ?まさかこのひもみたいなやつ?そう。
私たち脊椎動物の最も古い祖先よ。
え〜?かなり残念な感じなんですけど…。
今からはるか5億年前。
祖先が目を持ったすぐあとの時代です。
私たち脊椎動物の最も原始的な祖先はこんなひものような姿でした。
名前は…僅か3センチほどの小さな動物です。
その目はクラゲの目とほとんど同じ。
明るい暗いを感じる程度の原始的なものだったと考えられています。
突如現れたのは節足動物の王者アノマロカリス。
ピカイアは原始的な目でその影を感じ素早く砂の中に身を潜めます。
しかし物の形まで見えている訳ではありません。
だから影も落とさずに接近されると…。
私たちの祖先は立派な目を持ち繁栄を極める節足動物におびえて生きるかよわい存在だったのです。
ところがその1億5,000万年後…。
私たち脊椎動物は劇的に姿を変えていました。
これが新時代の海の王者の化石だよ。
カンブリア紀に僅か数センチだった私たち脊椎動物は進化の末ここまで巨大になりました。
目を守る丸い形の骨。
中には直径10センチの大きな目玉が収まっていました。
よみがえれ!ダンクルオステウス!体長は最大10メートル。
まさしく海の王者です。
一方カンブリア紀の海を支配した節足動物の末えいたちはどんな姿に進化していたのでしょうか。
これが節足動物の王様だ。
それがこちら。
大きさ2メートルを超える…巨大なハサミを持っています。
よみがえれ!ウミサソリ!生命史上最大級の巨大複眼を持ち…。
まるで戦車のように硬い殻で全身を守っています。
節足動物もより大きく強く進化を遂げていました。
もしダンクルオステウスとウミサソリが戦ったらどうなったのか。
科学者が考えた究極の対決をご覧に入れましょう。
まずは私たち脊椎動物の王者ダンクルオステウス。
猛然と迫ります。
対するは節足動物の王ウミサソリ。
大きなハサミで立ち向かいます。
果たして勝者は!?その戦いは脊椎動物の王者の圧倒的な勝利だったといいます。
節足動物の天下をひっくり返し大逆転した私たち脊椎動物。
勝敗を分けたのは目です。
祖先の目は大躍進を遂げ高性能化していました。
ダンクルオステウスの目は人間と同じつくりでした。
カメラ眼と呼ばれています。
その構造です。
大きなレンズがあり光を集めます。
そして奥には解像度の高いスクリーン網膜があってここに像を結ぶ事で物の姿形を捉える事ができます。
既にそのカメラ眼を持っていたダンクルオステウス。
視力は高く遠くからでも敵の姿や動きを的確に見極めた事でしょう。
一方節足動物が持つ複眼はどうでしょうか。
一度に広範囲を見渡せるというメリットはありますが視力となると…。
ぼんやりとしか見えなかった事が複眼の構造の研究から分かっています。
ダンクルオステウスは最大4トンにまで成長しました。
大きなアゴそしてよく見える目が重要な武器でした。
もしウミサソリと出会えばたやすく夕食にした事でしょう。
私たち脊椎動物はアゴそしてよい目のおかげで成功したのです。
明るい暗いしか分からなかったピカイアの原始的な目。
一体どんな魔法でカメラ眼への第2の大躍進を果たしたのでしょうか。
今DNA解析の著しい進歩がこの魔法を解き明かしつつあります。
実はフロリダの海に5億年前のピカイアの生き残りといわれる珍しい生き物がいます。
その住みかは浅瀬の海底です。
シャベルで海底の砂をすくい上げると…。
ほら出てくるわよ。
白っぽいひものようなものが現れました。
このナメクジウオに光を当てると…反応しました。
頭部を拡大すると見える小さな黒い点。
これがナメクジウオの目です。
暗い明るいを感じられる程度でまさにピカイアの原始的な目そのもの。
ナメクジウオは遺伝子もピカイアの生き残りと言えるくらい似ていると考えられています。
そこで2008年ナメクジウオのDNA情報の全てを解読。
それをカメラ眼を持つ脊椎動物の代表である人間のDNA情報と比べたところ意外な事が分かりました。
祖先筋にあたるナメクジウオとヒトのDNAを比べてみました。
すると……という例が驚くほどたくさん見つかったのです。
例えば体の基本構造を作り上げるHOX13と呼ばれる遺伝子。
ナメクジウオには1個しかありませんがヒトは4個持っていました。
更に目を形づくる時に重要なEYAという遺伝子もナメクジウオには1個しかありませんがヒトにはやはり4個ありました。
なぜヒトでは遺伝子が4個ずつあるのか。
プロジェクトが導いたのは驚くべき結論でした。
ナメクジウオのような姿の祖先から人間に進化するまでのおよそ5億年間のどこかで…持っている遺伝子のセットが丸ごと4倍に増えるような事件が起きていたというのです。
遺伝子が丸ごと4倍になった大事件によって私たちの祖先はカメラ眼などの新しい器官を作り体をより複雑にできるようになったというのです。
えっ!?ちょっと待ってよ!遺伝子が増えるとこの目が出来るってどういう事?例えばこの筆が一つの遺伝子だとする。
これが4本に増えたら?全く同じ筆が4本もあったって意味ないんじゃない?そうね。
でも余分に増えた3本の筆が長〜い時間がたつうちにいろんな形の筆に変わったとしたら?それはうれしいでしょ。
いろんな絵が描けるようになるもん。
まさにそういう事が起きたのよ!遺伝子って時間をかけて変化する事ができるの。
そもそも私たちにとって遺伝子とは体の中のさまざまな器官を作り出すためのいわば道具です。
その道具が4倍に増えた事で祖先は体の中の器官をより複雑で精巧なものへと進化させていく事が可能となりました。
その代表がカメラ眼です。
光を感じる細胞を1億個以上も配置して出来た…透明な細胞を規則正しく並べて生み出されたレンズなどさまざまな部品が増えた遺伝子を使って作られました。
ここに記されているのはカメラ眼で働いている遺伝子。
その数は1,800種類以上。
この多くが遺伝子が丸ごと4倍になった事件で生まれた遺伝子だと分かっています。
私たちが日々使っている精巧なカメラ眼。
それは遺伝子が丸ごと4倍に増えたおかげで生み出されたものだったのです。
遺伝子が4倍になる事でさまざまなタイプの細胞を新たに作り出せるようになったのです。
それらを目に使ったからこそカメラ眼が実現しました。
では遺伝子の4倍増という幸運な出来事はどのようにして起きたのでしょうか。
さあはるかな時間を遡りその大躍進の現場へタイムトラベルしてみましょう!それはあのピカイアが生きていたカンブリア紀の初めの頃。
当時私たちの祖先は明るい暗いしか分からない原始的な目で生きていました。
海底に産み落とされた卵にオスが精子を振りかけています。
普通精子は父親のDNAの半分を持ち卵子は母親のDNAの半分を持っています。
そのため子どもには両親と同じ量のDNAが受け継がれます。
しかしこの時何らかのミスで事件が起こります。
親のDNAを半分ではなく丸ごと持つ精子と卵子が作られたのです。
この精子と卵子が出会って受精。
親の2倍の量のDNAを持つ受精卵が出来ました。
通常よりも大量の遺伝子を含むこうした受精卵は普通余分な遺伝子が悪さをしてうまく育ちません。
ところがこの時は生き残るための何らかの条件が偶然にも満たされ2倍のDNAを持つ子どもが無事誕生しました。
そして世代を重ねるうち驚く事にこの奇跡が再び起こります。
2倍のDNAを持つ親から2倍の精子と2倍の卵子が作られたのです。
そして4倍ものDNAを持つ子どもが誕生しました。
これこそ私たちの祖先です。
その体には進化の上でのとてつもない潜在力が秘められていました。
遺伝子を4セットずつ持つというとてつもない潜在力はその後アゴやヒレなどの画期的な器官を生み出し続けます。
その中の一つがカメラ眼でした。
おかげで私たちの祖先は外の世界を鮮明に見天敵から逃れられるようになりました。
DNAの4倍増が導いた原始的な目からカメラ眼への進化の大ジャンプ。
まさに祖先たちの運命を変えた大躍進でした。
カメラ眼はその後も恐竜哺乳類などあらゆる脊椎動物によって大切に大切に受け継がれていきます。
そして今このカメラ眼を最も活用している生き物が私たち人間です。
私たちはこの目で文字を読み幾多の発見や発明を成し遂げて今日の文明社会を築いてきました。
植物からもらった遺伝子。
そしてDNAの4倍増。
今の私たちがあるのははるか5億年前に起きたこの2つの偶然のおかげだったと考えられるのです。
この目の誕生にそんなすごいドラマがあったんだ。
…にしても丸ごと倍増もありだなんてDNAってやっぱ相当チャランポランだね。
だから柔軟と言いなさいって。
DNAがそれだけ柔軟なものだったからこそ進化の大躍進が起きて私たち人間が生まれたのよ。
こんなドラマチックな大躍進があったからこそ今の私たちがいて…。
(2人)この目がある。
フフッ…。
奇跡みたいな偶然に感謝しなくちゃね。
(物音)何!?進化の大躍進はまだ始まったばかりよ。
(物音)ちょっとお姉ちゃんおっきすぎ!
(恐竜の鳴き声)「シリーズ生命大躍進」。
第2回はいよいよ陸上へと進出した私たちの祖先の物語です。
そこで待ち受けていたものは…。
想像を絶する天変地異でした。
こうした苦境の中で私たちの祖先が成し遂げた更なる大躍進とは…。
そして第3回は人類に至る最後の大躍進。
知性の獲得の秘密に迫ります。
生命大躍進これはDNAが教えてくれた私たち人間に至る命の物語です。
2015/12/28(月) 00:30〜01:30
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 生命大躍進 第1集「そして“目”が生まれた」[字][再]

なぜ人は今ここにいるのか?この壮大な謎を解く鍵が、命と共に受け継がれたDNAの中にある。古代生物の「命のドラマ」をタイムトラベルCGで体感!新垣結衣がナビゲート

詳細情報
番組内容
なぜ人は今のような姿形で生きるようになったのか?壮大な進化の謎が、21世紀、私たち誰もがもつDNAの最新研究から解明され始めた!DNA、それは生命誕生の40億年前から途切れることなく受け継がれてきた「命の記録」。そこに記された古代生物たちの驚きのドラマを、臨場感あふれるタイムトラベルCGで体感!新垣結衣がナビゲートする。第1集は、5億年前の私たちの祖先に、なぜか「目」が突如現れた謎の大事件に迫る。
出演者
【出演】新垣結衣,【語り】伊藤雄彦,久保田祐佳,【声】幸田夏穂,河本邦弘,樫井笙人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント

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