地球ドラマチック「冥王星に大接近!〜ニューホライズンズの旅〜」 2015.12.28


氷の天体「冥王星」。
地球から48億キロのかなたにあるため高性能の望遠鏡でもその姿をはっきりと捉える事はできません。
(管制官)「リフトオフ」。
2006年宇宙探査機が冥王星に向かって飛び立ちました。
歴史的な旅です。
太陽系の最果てへの旅。
どんな宇宙探査よりも遠くまで行きます。
探査機「ニューホライズンズ」が冥王星そして太陽系誕生の秘密を解き明かすかもしれません。
驚くような発見があるはずです。
しかし探査ミッションは窮地に陥ります。
午後1時55分ごろ探査機との通信が途絶えました。
何かに衝突したのかも。
困難を乗り越えついに冥王星に到達したニューホライズンズ。
カメラが捉えたのは想像を絶する奇妙な世界でした。
何とハート型よ。
冥王星探査ミッションに密着します。
2006年1月19日。
冥王星探査機ニューホライズンズを載せたロケットが発射台に向かいます。
(管制官)「打ち上げ5秒前4321点火。
リフトオフ。
探査機ニューホライズンズが冥王星とその先の宇宙へ向かいます」。
打ち上げ速度は時速およそ5万7,900キロ。
史上最速です。
冥王星探査機ニューホライズンズには最速で飛行しなければならない理由があります。
太陽系を突っ切り最果てにある冥王星に接近するという前例のない使命を果たさなければならないからです。
そこは人類が探査した事のないはるかかなたの未知の世界です。
探査機は無事に打ち上がりました。
しかしミッション運用チームのメンバーたちはまだ緊張に包まれています。
打ち上げの瞬間こそ皆歓喜に沸いたもののそれは一瞬の事にすぎませんでした。
全てが正常である事を示す信号が探査機から送られてくるまで打ち上げ成功とは言えないからです。
探査機との通信が確保できて初めてミッション開始と言えるんです。
チームにできるのは待つ事だけ。
1時間後。
ニューホライズンズから最初の信号が届きました。
最高の気分でした。
ようやくミッション開始です。
ニューホライズンズはこの先およそ10年という長旅の中での最初の関門を乗り越えました。
発射から僅か9時間で月の軌道を横切りました。
アポロ計画では3日かかった距離です。
それでもニューホライズンズが太陽系の果てに到達し冥王星を探査できるまでには9年以上かかります。
冥王星は地球からおよそ48億キロ。
人類がこれまで探査してきたどの惑星をも越えたはるか先にあります。
岩だらけの赤い惑星火星。
巨大なガス惑星木星には嵐が吹き荒れています。
美しい環をまとう土星。
秒速200メートルを超す乱気流に包まれる天王星。
海王星は太陽の周りを1周するのに165年もかかります。
これらの惑星の更に先にある冥王星。
これまではこのようなCG画像で想像するしかありませんでした。
少なくとも今までは…。
(教師)「惑星について知ってる人?」。
かつて子供たちは太陽系には9つの惑星があり最も遠いところにあるのが冥王星だと教わりました。
みんな冥王星が大好きでした。
おかしなはみ出し者みたいで。
人気の秘密は何でしょう。
冥王星英語で「プルート」と名付けられたいたずらな犬に関係があるかもしれません。
この犬のキャラクターは冥王星が発見されたころに登場しました。
(ほえ声)年月とともに犬のプルートは広く知られるようになりましたが冥王星は謎めいたままでした。
地球から48億キロも離れた冥王星とその衛星は最もよく写った画像でもぼやけた点でしかありません。
はるかかなたの銀河の美しい姿を捉える「ハッブル宇宙望遠鏡」。
このすぐれた望遠鏡をもってしても冥王星はモザイクのかかったような姿でしか捉える事ができません。
距離が遠い上にとても小さいからです。
しかし解像度が低い画像を高性能のコンピューターで処理した結果興味深い事実が明らかになりました。
冥王星の表面が驚くほど多様性に富んでいる事が分かったのです。
明るい部分は氷に覆われているのかもしれません。
はっきりと認識できるのは氷です。
それ以外の物質の存在も認められはしますがそれが何なのかは正確には分かりません。
太陽系には冥王星の他にも多様な表面を持つ天体があります。
地球です。
また冥王星の大気には奇妙な点がある事も分かっています。
248年周期で太陽の周りを回る冥王星は太陽に近づくにつれて凍った表面が解け徐々に大気が出現し始めるのです。
冥王星の表面からガスが噴出し一時的に大気を作り出しているんだと思います。
実に独特な大気です。
冥王星が属する「太陽系外縁部」は謎に満ちています。
太陽系外縁部はあまりに遠いため詳細は分かっていませんでした。
しかし1990年代高性能の新型望遠鏡によって冥王星の周りには多くの天体が存在している事が分かりました。
冥王星が属する太陽系外縁部は「カイパーベルト」と名付けられました。
太陽から何十億キロも離れたカイパーベルトには無数の凍った天体がひしめいています。
小惑星に似ていますが別のものです。
小惑星は岩と金属の塊ですがカイパーベルトの天体は主に氷でできています。
太陽系が誕生した時の残骸が冷凍保存されているようなものです。
これらの天体を調べる事で太陽系がどのように発達したのかが分かります。
ニューホライズンズのミッションは前人未到のものです。
火星などの地球型惑星やガスからなる木星型惑星の一帯は調査してきましたが今回は太陽系の未知の領域を探査します。
48億キロに及ぶ未知の領域への旅。
それに耐えられる探査機はどのように設計されたのでしょうか。
新しい冒険をするのに多少のリスクは付きものです。
ニューホライズンズが向かうのは太陽系の外れ。
太陽から地球までの30倍にも当たる距離を旅します。
到達時間を短くするにはできるだけ軽い探査機を作りできるだけ大きなロケットに搭載しなくてはなりません。
太陽系の果てでは太陽電池パネルが役に立たないため探査機には原子力電池を備えています。
7つの観測機器を積んでいてそれぞれが別の働きをしますが全部合わせても30キロ程度です。
グランドピアノ大の機体に搭載された7つの観測機器にはそれぞれ名前がついています。
「PEPSSI」。
「SWAP」。
「REX」。
「RALPH」と「ALICE」は1950年代のテレビ番組に登場する夫婦の名前からつけられました。
これらの機器で冥王星の表面の様子と地質学的特徴を調査し大気の謎を明らかにします。
1980年代冥王星の大気を観測するのに活躍したのが輸送機に仮設の観測室を備えた「カイパー空中天文台」でした。
望遠鏡を搭載した飛行機が気象条件に左右されない高度に達する事で「星食」と呼ばれる現象を捉えました。
星食とは冥王星のような太陽系にある天体が恒星の前を横切る事でその光を遮る現象です。
横切る天体に大気があれば恒星の光は徐々に弱まって消え徐々に元に戻ります。
大気がなければ光は突然消え突然現れます。
1988年6月9日。
カイパー空中天文台に搭乗した研究者たちは冥王星による星食を観測する事で冥王星に大気があるのかどうかを見極めようとしていました。
(科学者1)「光がだんだん弱まってきたようだ」。
(科学者2)「本当に?」。
(科学者1)「いや…どうかな」。
(科学者1)「追尾装置では弱まってる」。
(科学者3)「弱まってる。
こっちでも確認した」。
(歓声)
(科学者1)「やはり冥王星には大気があるようだぞ」。
光はゆっくりと弱まりました。
それは歴史的な発見でした。
ニューホライズンズの観測機器の中で冥王星の散失しやすい大気を分析するのがアリスです。
これがアリスの原寸大の模型です。
アリスは紫外線分光計。
つまり紫外線を虹の7色のように分ける望遠鏡です。
光の反射や吸収のしかたは元素ごとに異なり指紋のように独特のパターンを示します。
例えば水素ならこのように。
窒素ならこのようになります。
地上からの観測によって冥王星の表面と大気に窒素メタン一酸化炭素が存在する事が既に確認されています。
他にも確認が難しい物質がたくさんありそうです。
冥王星に最接近時アリスは上空およそ1万キロの距離からこれらの物質を分析します。
更に最接近後には冥王星の方を振り返り太陽の光で照らされた冥王星の大気を観測するという貴重な機会もあります。
太陽の光を利用して冥王星の大気を透過させどのような原子や分子が存在するかを突き止めます。
アリスが大気を調べるかたわらで赤外線分光計のラルフは冥王星の表面に存在する分子を調べます。
表面の明るい部分は窒素とメタンの分子からなるある種の雪だろうと推測しています。
しかしそうした雪に覆われていないと思われる部分もあります。
赤みがかった炭化水素の堆積物だと思われます。
色の濃い部分が何なのかラルフによる解明が期待されます。
冥王星のクローズアップ画像を撮影するのはニューホライズンズに搭載された最大の撮影装置「LORRI」です。
特殊な望遠レンズで誰も見た事のない冥王星の表面を捉えます。
ローリがどれほど高精細な画像を撮影できるか見てみましょう。
ニューヨークを上空から捉えた画像です。
ハドソン川イーストリバーセントラルパークがはっきり写っています。
この画像は高度640キロの人工衛星から撮影されたものですがローリならこれと同じ精度の画像をおよそ1万1,000キロの距離から撮影できます。
しかしリスクはあります。
探査機が向かうのは極寒のカイパーベルトだからです。
望遠鏡のレンズは宇宙空間にさらされた開口部分から冷えていきます。
観測機器の一部だけが冷え他は温かいままという状態ですから望遠鏡の形がゆがみ焦点が合いにくくなります。
そうなるとこのようなピントがずれた写真しか撮影できないかもしれません。
この問題を解決するために用いられたのが防弾チョッキに使われている素材「炭化ケイ素」です。
ローリは特殊な炭化ケイ素でできていて温度の変化にも耐えられゆがみません。
その上とても頑丈で軽量です。
何年もかけて探査機を準備してきました。
考えうるあらゆる事態に対処できるようにしたんです。
あとはただ結果を見守るだけです。
これまでの大きな努力が報われるかどうかチームは待ち続ける事しかできません。
探査機は自律的に動くよう事前にプログラミングされています。
何かトラブルが起きても私たちは手出しできません。
肝心なものが映ってないからカメラをもう少し左に振ってとか言えないんです。
冥王星に近づくころには探査機からの信号が地球に届くまで4時間半かかるようになります。
地球から探査機に信号が届くのも4時間半かかるという事です。
何か問題が起きてもどう対処するかの指示を与えるのに往復9時間以上かかります。
でも科学的に重要な観測ができるのはたった12時間なんです。
探査機の全ての観測予定時刻は前もってプログラミングされています。
時間のずれが大きいと何もない宇宙空間を無駄に観測する事になります。
2007年2月28日。
打ち上げから1年あまりが過ぎました。
ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のミッション運用室には緊迫した空気が流れています。
ニューホライズンズが木星に接近するのです。
もし予定どおりに木星へ接近できれば木星の重力によって放り出される「スイングバイ」によって飛行速度がグッと速まります。
ローラースケートを使ったローラーゲームの技と似ています。
1人のスケーターがもう1人の体を引っ張り前に押し出して速度を速めるのです。
これと同じ事を木星にしてもらおうという訳です。
緊張が増していきます。
ミッションの運用マネージャーアリス・ボウマンは「ママ」の愛称で呼ばれています。
チェック開始。
ボウマンは何年もかけてこの瞬間に備えてきました。
失敗は許されません。
スイングバイが失敗すれば冥王星への到達は数年先になってしまいます。
運命の瞬間が刻々と近づきます。
ママは探査機の状態を示す信号が届くのを待ちます。
木星の重力をうまく利用できたのかできなかったのかがこれで分かります。
赤は失敗緑は成功灰色はデータ受信なし。
データが届きました。
こちらママ。
探査機データは全てのサブシステムで正常。
探査機は木星から離脱し冥王星へと向かっています。
(拍手)スイングバイのために木星に接近します。
これは木星を研究する上でも絶好のチャンスです。
実際に形の大きな天体をカメラで撮影して確認する唯一の機会でした。
よしどうだ?これを見て。
すごい。
どっちも写ってるぞ。
きれいだな。
ニューホライズンズは木星の衛星イオの火山が噴火する様子を連続で画像に捉えました。
地球外の宇宙空間で火山の噴火を微速度撮影できたのは初めてでした。
貴重な映像です。
こんな映像が撮れて本当に幸運でした。
何日も眠れない夜を過ごしましたが全ての努力が報われました。
木星の重力によるスイングバイによって速度を上げたニューホライズンズはこのあと休眠状態に入ります。
機器の劣化を最小限に抑えるためです。
探査機は9年間に及ぶ長旅のほとんどを眠って過ごし週に1度だけ地球のママに連絡を送ってきます。
こちらママ。
状況確認です。
ママはシステムに異常がないかをチームに報告します。
ニューホライズンズが旅を続けている間地球では天文学における大革命が起ころうとしていました。
冥王星は太陽系第9惑星になってから75年でその惑星としての地位が揺らぎ始めたのです。
冥王星は1930年に発見されて以来惑星と見なされてきました。
太陽系の最も遠く小さな惑星にとって屈辱的な事態です。
デモを繰り広げ冥王星を擁護する人も現れました。
冥王星は1930年にアメリカ人の青年クライド・トンボーによって発見されました。
農場で働いていたトンボーはやがてアリゾナ州にあるローウェル天文台に職を得ます。
最初の仕事は望遠鏡の手入れや掃除でした。
トンボーは仕事を終えると海王星の軌道を乱す原因と考えられていた謎の「惑星X」を探しました。
トンボーはまず望遠鏡に写真乾板を取り付け固定しました。
それから望遠鏡を1時間空に向けて夜空の星を撮影しました。
撮影中モーター式の望遠鏡がゆっくりと動き地球の自転によって生じる見かけの動きを補正します。
トンボーは数日後にも同じ方法で同じ領域の夜空の写真を撮影しました。
次に撮影した2枚の写真を「ブリンクコンパレーター」という装置を使って見比べました。
この装置を使えば2枚の写真を交互に見比べられるため僅かな変化も見つけ出す事ができます。
人間の目は違いを見分ける能力にすぐれています。
しかし何十億キロもかなたの暗い天体を見つけ出すのは気が遠くなるような作業でした。
トンボーは何か月もかけて少しずつ作業を進めました。
父はある夜凍死しかけました。
指がかじかんで観測ドームから出るドアを開けられなかったからです。
およそ1年後。
トンボーはついに夜空をゆっくりと横切る小さな点を発見しました。
分かりますか?これです。
太陽系の第9惑星冥王星を発見したトンボーは大学に進学しやがて天文学を教えるようになりました。
そして太陽系の果てに他にも惑星がないか探し続けました。
しかしトンボーや他の天文学者がどれほど懸命に探しても誰も何も発見できませんでした。
しかしその後デヴィッド・ジューイットとジェーン・ルーがその挑戦を引き継ぎました。
惑星を探すのが難しいのは惑星が恒星とは異なりそれ自体が光を放っていないからです。
恒星以外の天体は太陽が放つ光が天体の表面で反射し地球まで届いてようやく見えるのです。
しかし光はかなり弱まっています。
ジューイットとルーは現在はスマートフォンにも搭載されているデジタルカメラの技術を使って観測を続けました。
そして5年後。
最初の天体を発見した時の一連の画像です。
この天体がゆっくりと左に移動しているのが分かるでしょう?この他にもゆっくりと移動する天体を発見した2人は冥王星は単独ではないと宣言しました。
冥王星の周りには数多くの天体が存在していたのです。
この一帯は1950年代にその存在を主張していた天文学者ジェラルド・カイパーにちなんでカイパーベルトと名付けられました。
カイパーベルトの発見は太陽系についての理解を大きく広げる一方で冥王星の惑星としての立場を危うくしました。
冥王星は多くのカイパーベルト天体の1つにすぎないのでしょうか?冥王星は惑星ではないという意見に父は動揺しました。
父にとっては受け入れがたい事でした。
しかし決定的な発見がもたらされます。
ジューイットとルーの発見から数年後天文学者のマイク・ブラウンはカイパーベルトに冥王星よりも大きな天体を見つけようとしていました。
火星や地球くらいの大きさの天体を見つける事も夢ではないと考えていました。
1997年に探索を開始しましたが何が見つかるかと胸が躍りました。
ブラウンはカリフォルニア州のパロマー天文台にある世界最大のデジタルカメラで夜空を撮影。
画像をコンピューターに転送し毎朝解析を続けました。
テクノロジーの力はブラウンに次々と発見をもたらしました。
冥王星の半分ほどの大きさや1/4ほどの大きさの天体を見つけました。
そしてついにこの明るい天体を発見したんです。
ゆっくりと動いていたのでかなり遠くにある事は明らかでした。
ブラウンはとうとうカイパーベルトの中に目的の天体を発見しました。
驚きました。
これまで私が見つけた中で最も遠く最も大きい。
冥王星よりも大きいかもしれないって。
冥王星よりも大きい可能性がある天体が発見され大論争が起きました。
冥王星が惑星ならこの天体も惑星と呼ばれるべきです。
ここ100年ほど天体の命名は国際天文学連合が行っています。
しかしこの天体に名前をつけるにはこれがカイパーベルト天体なのか太陽系の第10惑星なのかをはっきりさせなくてはなりません。
議論は興味深いものでした。
それまで惑星の定義は厳密に定まっていなかったんです。
ある天体を惑星として分類するための分かりやすい指針が必要になってきました。
チェコのプラハで開かれた総会で惑星の新たな定義が採択されました。
冥王星は惑星であるための条件を一つだけ満たしませんでした。
「惑星とは自分の軌道の周囲から他の天体を排除した天体である」という条件です。
冥王星の周りには多数のカイパーベルト天体が存在します。
小さな冥王星には周囲の天体をなくしてしまうほどの重力がありませんでした。
また冥王星の軌道はだ円形で他の太陽系の惑星と同じ平面上にありません。
軌道が円形で太陽を中心とした同一平面上を回る大きな天体は8つ。
太陽系で惑星と呼べるのはその8つだけです。
冥王星は惑星ではなく「準惑星」と新たに定義されました。
冥王星は太陽系の第9惑星の地位を失いましたがたくさんの仲間がいる事が分かりました。
準惑星は次々と発見され中には発見当初に「サンタ」の愛称で呼ばれたものもあります。
太陽系外縁部カイパーベルトには小さな天体が無数に存在する事が分かりました。
その多くに大気や衛星すらあるかもしれません。
小さい事以外は惑星としての特徴をほぼ満たしています。
なぜ太陽系外縁部には多くの小さな天体が存在するのか。
この疑問に答えるには太陽系が誕生したころまで遡る必要があります。
太陽系の起源は45億年から46億年前に遡ります。
ガスとチリが自らの重力によって集まった事で生み出されました。
まとまるにつれて太陽系は巨大な円盤になっていきました。
そしてガスやチリが集まった物体が出現し軌道を描いて回転するようになりました。
その物体が徐々に大きくなり惑星になったんです。
惑星はチリが集まる事で形成されたと考えられています。
小石が岩に岩が微惑星に微惑星が原始惑星にそして原始惑星が惑星にというように。
(シャーフ)小さな物体がある一定の質量に達すると急速な成長を始めます。
大きな重力を持つようになるからです。
巨大なガス惑星である木星や土星は大量の水素やヘリウムを引き寄せました。
(シャーフ)冥王星は本来もっと太陽に近い場所で形成されたものの大きな惑星が更に巨大化するうちにより遠くの軌道へ押しやられたのだと考える事もできるでしょう。
冥王星などのカイパーベルト天体は惑星が出来上がる過程でできた残骸だと考えられています。
つまりカイパーベルト天体は何らかの理由で大きく成長するのが止まった天体なのです。
冥王星を詳しく調べる事ができれば冥王星の歴史が分かるだけではありません。
太陽系の歴史や現在の構造など多くの事が分かるかもしれません。
冥王星はもうひとつ大きな謎を解く鍵を握っている可能性があります。
生命が存在するために必要な水エネルギーそして有機物。
もしかすると多くのカイパーベルト天体がこれら全ての要素を兼ね備えているかもしれないのです。
(スターン)冥王星の地下に広大な海が存在するという説があります。
他のカイパーベルト天体についても同様です。
あくまでも可能性の話ですが水があれば生命も存在するかもしれません。
つまりカイパーベルト天体は太陽系で最もよくある種類の天体であり最も一般的な生命の住みかかもしれないという事です。
2008年6月8日。
2年以上宇宙空間を飛行していた冥王星探査機ニューホライズンズは土星の軌道を通過しました。
その3年後には天王星の軌道を通過。
飛行を始めてから5年が過ぎても探査機は正確に機能していました。
しかし予想外の事実が判明します。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像から冥王星の衛星の数が5つもある事が分かりました。
ミッションのリスクが高まります。
これらの衛星は全ておそらくおよそ46億年前に同時期に形成されたと思われます。
冥王星と同じくらいの大きさの2つの天体が衝突した結果です。
最終的に冥王星はその形をとどめ粉々に砕けた天体が5つの衛星を形成しました。
いくつかはいびつな形をしています。
(ウィーバー)これらの衛星が生み出したごく小さなチリが冥王星を取り巻いている可能性があります。
ニューホライズンズは高速で飛んでいるためミリ単位のチリでもぶつかれば探査機に穴が開いてしまいます。
ミッションの継続は不可能になるでしょう。
NASAの「超高速衝突実験装置」は極小の弾を時速およそ2万7,000キロで撃ち出す事ができます。
ニューホライズンズが衝突する可能性のあるチリの大きさはピンの頭から砂粒くらいのものです。
あまり危険とは思えないかもしれません。
しかし超高速で衝突すれば砂粒ひとつでも命取りになります。
長さおよそ36メートルの砲身から弾が飛び出します。
標的はニューホライズンズと同じ素材で作られています。
最初の層は探査機表面を覆う金色の断熱材。
2つ目の層は探査機本体の壁です。
3つ目の層は探査機の心臓部である電子機器や観測機器に似せた薄い金属の板です。
何度もテストが繰り返されました。
その結果ほとんどの弾は探査機本体で押しとどめられましたがいくつかは貫通しました。
このような穴がいくつか開けばミッションは終わりを迎えてしまうかもしれません。
細かなチリが衝突する可能性が高まった事で冥王星への接近は更に難しくなりました。
衝突を避けるためチームは予備の飛行経路を考える必要がありました。
一番理想的な飛行経路も考案されました。
考えられる飛行ルートは4つあります。
どれを進む事になるかは2週間ほどしないと決められません。
最悪なのは冥王星に近づき観測を始めたところで衝突が起き画像が見られなくなるケースですね。
これは精神的ダメージが大きいです。
(ボウマン)接近する際にチリがないかを観測する予定です。
今では私たちは冥王星の衛星を危険要素と呼んで警戒しています。
2014年8月25日。
ニューホライズンズがボイジャー2号以来ちょうど25年ぶりに海王星の軌道を通過しました。
ボイジャー2号のミッションは木星と土星の探査を主な目的としていましたがその後も天王星や海王星衛星トリトンなどの画像を地球へ送り続けました。
2014年12月6日。
何年にも及ぶ休眠状態からついにニューホライズンズを再起動させる日がやってきました。
今夜休眠状態を解除します。
48億キロの旅はほとんど休眠状態のまま進んできましたがそれが今日終わるんです。
歴史的な日です。
全てのシステムを起動し作動している事を確認すると探査機からママへ報告が送られます。
探査機から受け取るデータは実際には4時間半前に発信されたものです。
信号を受信するために特別なネットワークが用意されています。
地球の自転に影響される事なく24時間探査機と通信できるように巨大なアンテナが地球を1周するように設置されているのです。
ミッション運用室の隣ではメンバーが祝福の時を待っています。
しかしニューホライズンズからの信号を受信し始めたという知らせを受けるまでは全てお預けです。
画面にデータが表示され始めました。
データが来ました。
全てのシステムが正常に作動していると確認できるまで安心はできません。
(ボウマン)通信系状況確認を。
(通信系担当者)異常なし。
(ボウマン)電力系。
(電力系担当者)異常なし。
(ボウマン)推進系。
(推進系担当者)異常なし。
良かった。
ニューホライズンズは予定どおり休眠状態を解除。
冥王星への旅を続けています。
ついに接近だな。
ああ。
ミッションには長年にわたり多くの人々が関わってきました。
彼らの人生をかけた挑戦がついにハイライトを迎えようとしています。
接近を控えチームは冥王星に新たな衛星はなくチリによる損傷のリスクもほぼないと結論づけました。
新たな衛星は見つかりませんでした。
科学的には残念ですが危機回避の面からは喜ばしい事です。
しかし…。
午後1時55分ごろ探査機との通信が途絶えました。
胃に穴があいたような気分でした。
こんな事が起きるはずがないと思いました。
あそこまで行きながら何かに衝突したんだろうかと不安になりました。
問題を解決するため運用チームは探査機のバックアップ・コンピューターとの交信を試みました。
すぐにバックアップの信号を捉える事ができました。
探査機を発見できて本当に安心しました。
何らかの理由で探査機の処理システムがリセットされバックアップ用に切り替わっていたんです。
最接近の1週間前にしてとんでもない悪夢でした。
システムの復旧は可能でしたが問題はその時間があるかどうかでした。
アリスは休む間もなくほとんど寝ていないようでした。
2晩ほどは床で少し横になっただけでした。
病気の子供をそばで看病しているようなものです。
問題が解決したのは最接近するちょうど1週間前の事でした。
(ボウマン)システムは復旧しました。
それから次々と画像が送られてきました。
この1週間受信する画像は日増しに鮮明になってきています。
期待が膨らみますね。
次に送られてくる画像は画面いっぱいに冥王星が写っているはずです。
そこで何が起きているかがよく分かる事でしょう。
待ちきれませんね。
冥王星に最接近する直前およそ80万キロの距離から撮影された画像です。
科学者たちは明るい部分は氷で暗い部分は大気から降り注いだ有機物の微粒子だと推測しています。
これを見て。
ハートだよ。
冥王星にハート型の地形が見えるとはね。
クレーターもたくさんある。
荘厳な風景だな。
見た事もないよ。
打ち上げから9年半。
最後の難関がやってきました。
ニューホライズンズは冥王星までおよそ1万2,500キロの距離まで接近します。
システムに異常をきたす事なく最接近を果たせるのか。
世界中が見守る中チームは信号を待ちます。
ただいま受信待ち。
こちらママ。
ニューホライズンズは異常なし。
観測データは探査機内に保存済み。
冥王星から離脱しました。
(拍手と歓声)成功です。
本当に安心しました。
翌日ニューホライズンズからは人類が初めて目にする冥王星のクローズアップ画像が送信され始めました。
標高3,000メートル級の氷の山脈。
クレーターがほとんどない冥王星最大の衛星カロンの画像も届きました。
全てのデータが地球に届くまでにはおよそ1年4か月かかります。
そのデータを分析するには更に何年もかかるでしょう。
地球で冥王星の謎が解き明かされている間もニューホライズンズはカイパーベルトを通り抜け更にその先へと旅を続けていくのです。
2015/12/28(月) 00:00〜00:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「冥王星に大接近!〜ニューホライズンズの旅〜」[二][字][再]

太陽系の最果てに位置する冥王星。今年7月、探査機ニューホライズンズが、9年に及ぶ旅を経て最接近を果たした。そこでカメラが捉えたのは想像を絶する奇妙な世界だった!

詳細情報
番組内容
凍った天体、冥王星。太陽系誕生時の状態が冷凍保存されていると言われ、研究者たちを魅了してきた。しかし、地球からあまりに遠く、姿をはっきり捉えることはできなかった。ニューホライズンズが探査に出発したのは2006年。以来、冥王星が惑星の分類から外れるなど状況が激変する中、今年ついに最接近を果たした。人類が初めて目にする冥王星のクローズアップ。太陽系誕生の秘密は明らかになるのか!?(2015年アメリカ)
出演者
【語り】渡辺徹

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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