「古典芸能への招待」。
今回は京都南座吉例顔見世興行より四代目中村鴈治郎襲名の演目「土屋主税」。
誠の武士。
そして「義経千本桜」より「吉野山」をご覧頂きます。
古典芸能のえりすぐりの舞台をお楽しみ頂く「古典芸能への招待」。
ここは歌舞伎発祥の地京都・四条。
あちらの南座で京都の年中行事年末恒例の吉例顔見世興行が行われています。
江戸時代から続く公演は豪華な顔ぶれと多彩な演目で歌舞伎の正月と呼ばれています。
今回は中村翫雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露の公演です。
まずは「義経千本桜」より「吉野山」をお送りします。
坂田藤十郎演ずる静御前と中村橋之助の佐藤忠信。
桜満開の吉野山を背景に主従の道行きを描いた歌舞伎舞踊です。
(拍手)
(拍手)谷のうぐいす初音の鼓初音の鼓調べあやなす音につれてつれて招くか音につれておくればせなる忠信が東からげの旅姿
(拍手)背に風呂敷しかと背たらおって野道あぜ道ゆらりゆらり軽いとりなりいそいそと目立たぬように道へだて
(静)忠信殿待ちかねましたわいなあ。
(忠信)これはこれは静様女中の足と侮って思わぬ遅参真っ平御免下さりましょう。
ここは名に負う吉野山。
四方の景色も色々に。
春立つというばかりにやみ吉野の。
山も霞みて。
けさは。
(二人)見ゆらん。
見渡せば四方の梢もほころびて梅ケ枝うたう歌姫の里の男子が声々に我がつまが天井抜けてすえる膳昼の枕はつがもなやおかし烏のひとふしに弥生は雛の妹背仲女雛男雛と並べて置いてながめにあかぬ三日月の宵に寝よとは後朝にせかれまいとの恋の欲桜は酒に過ぎたやら桃にひぞりて後ろ向きうらやましうはないかいなせめては憂さを幸い幸い。
姓名そえて給わりし御着長を取出だし君と敬い奉る静は鼓を御顔とよそえて上に沖の石人こそ知らね西国へ御下向の御海上波風荒く御舟を住吉浦に吹き上げられそれより吉野にまします由やがてぞ参り候わんと互いに形見を取り納め実にこの鎧を賜りしも兄継信が忠勤なり継信が忠勤とや。
誠にそれよ越し方を思いぞ出づる壇の浦の海に兵船平家の赤旗陸に白旗。
源氏の強者あら物々しやと夕日影長刀引きそばめ何某は平家の侍悪七兵衛景清と名乗りかけなぎ立てなぎ立てなぎ立つれば花に嵐のちりちりぱっと木の葉武者いい甲斐なしとや方々よ三保の谷の四郎これにありと渚にちょうと打ってかかる刀を払う長刀の柄なれぬ振舞いいづれともまさにおとらぬ波の音打ち合う太刀の鍔元より折れて引く潮帰る雁勝負の花を見捨つるかと長刀小脇にかいこんで兜の錣をひっつかみ後へ引く足たじたじたじ向うへ行く足よろよろよろむんずと錣を引き切って双方尻居にどっかと座す腕の強さと言いければ首の骨こそ強けれどムハハハハハ。
タハハハハハ。
笑いし後は入り乱れ手しげき働き兄継信君の御馬の矢表に駒を駆け沿え立ちふさがるおお聞き及ぶその時に平家の方にも名高き強弓。
能登守教経と。
名乗りもあえずよっ引いて放つ矢先はうらめしや兄継信が胸板にたまりもあえず真っ逆様あえなき最期は武士の忠臣義士の名を残す思い出づるも涙にて袖は乾かぬ筒井筒いつか御身も伸びやかに春の柳生の糸長く枝を連ぬる御契りなどかは朽ちしかるべきと互いにいさめいさめられ急ぐとすれどはかどらぬ芦原峠鴻の里雲と見紛う三吉野のふもとをさして
(柝の音)続いては四代目中村鴈治郎襲名披露の演目「土屋主税」。
新鴈治郎さんにお話を伺います。
今年の正月のね大阪から始まって12月顔見世でちょうど1年になる訳ですけどもねまあある程度締めくくりというのかなこの京都でやらして頂くという事です。
だからとにかく1年間無事終わったという思いがここにたどりついてる感じになるんですかね。
それがたまたま南座の顔見世だったという事なんですけれども去年がその…襲名前という事なんでね顔見世興行に出られなかったんですね。
ですからその…自分の…去年南座のまねき見上げてて自分の名前がない寂しさがすごくあったんですよね。
まあだけどもその時に来年になれば逆にここにはイ菱と鴈治郎の名前が上がるんだというその思いが1年間ずっとあっての事だったからやっぱり見上げてまねきの中に鴈治郎って名前があった時はすごくうれしかったですよね。
あの…鴈治郎という名前は京都でなくて大阪で生まれた名前ですけれどもねでもうちにとって祖父二代目鴈治郎から京都に住んでましたし父も生まれた時は京都でございましたから。
その時にはもう京都に住まいがありましたんで言えば長年京都の縁は切れてない訳ですよね。
ずっとあった訳です。
私も子どもの頃までは京都にまだ祖父のうちがありましたんでね必ず遊びに来てましたし。
子どもの時からの思い出もありますからねここには。
この公演に先だって京都でお練りというのをさせて頂いて。
なかなか京都でお練りという事ないもんですからね。
京都でお練りさして頂いてああここは自分の生まれ故郷なんだなというのをつくづく逆に感じましたね。
生まれ故郷に錦を飾るという事がもしそれに当てはまるんだとすればまさしくこういう事なのかなというような実に感慨深いものがありましたね。
ああここは自分の生まれ故郷なんだって改めて感じました。
「土屋主税」っていう場合内容を言ってしまえば実に何でもない内容なんですよね。
討ち入りのその日にたまたま隣の屋敷であったと…そこにいたという居合わせたという事でございますからね。
ただ皆さんにはやっぱり討ち入りという事がやはり日本人の心にどこか琴線に触れるところがあるんだと思うんですよね。
ですから見て決して土屋主税公っていうのが浪士のうちの一人でも何でもない訳ですから。
浅野の身内でもないですし。
でも一緒になってお客さんの気持ちがそこへ入るような…。
浪士の討ち入りがあって無事やってよかったんだなというふうなそこへ持っていけるような芝居になる訳ですよね。
そこを皆さんが感じて頂けるかどうかという事で。
登場の時にも皆様の温かい拍手があって気持ちよくやらさして頂けるという事ですかね。
土屋主税という人のいわゆる芝居自体が初代鴈治郎にあてて書いたといわれておりますんで…。
という事は間違いなく初代鴈治郎って方はいわゆるうちのひいおじいさんはある意味自我の強い実に役者らしい役者だったと思うんです。
もしかしたらほかの役者はどうでもええねんと。
客は自分しか見てないんやからっていうぐらいの強い意志を持ってる役者だったと思います。
ですからこの芝居も「土屋主税」もまさにそういう事なんでしょうな。
そういう芝居ですからこっちもてれてやってるとどうにもならない事なんで。
気持ちよく気分よくそれでいてやっぱり土屋主税という旗本ですから品があって格があってという事でしょうね。
役柄がね句が好きだという事ですから発句が好きだという事なんで多分あれはもしかしたら初代鴈治郎の自分の注文の演出だったのかそれは分かりませんよ。
初演の時にどうだったか分かりませんけどもやはりそういうふうな設定でしたからあそこで短冊に句を書くというのは不自然ではないんですよね。
それは土屋主税公が書いてる当然書いてる事なんですけどもあそこに関して言いますと多分それぞれやってる役者が本人の句を書いてるという事になりますね。
二代目鴈治郎祖父が書いたので「顔見世や七十年の眉を引く」というのがあったんですけどそれが何かすごくじ〜んと来て覚えてましてね。
「七十年の眉を引く」っていうのはすごいかっこいい言い方だなと思いましてね。
今月は自分でも書かさして頂いてます。
まねきが上がった事が自分でもうれしかったもんですからね初め「顔見世や上がるまねきのイ菱かな」としてたんですけど今は「年の瀬や」にしてます。
「年の瀬や上がるまねきのイ菱かな」としてます。
片仮名の「イ」が入るんですけどね。
それでは四代目中村鴈治郎襲名披露の演目「土屋主税」をご覧下さい。
(拍手)
(角平)ああよい心持ちになった。
こう云うとお世辞を言う様だがここの旦那は宗匠と多くの人から立てられる程あって何につけても行届きがいい。
これから御使いに来る度にお心付けは止めて貰って酒を呑ましてもらうとしようか。
(おすみ)それはお安い事だが併し余り酔ってお帰りだとお屋敷へのご首尾は悪い事はないかえ。
なに内の殿様はしもじもでは極く優しいお方で本所で土屋と言ってはそれはそれは評判のいい殿様だ。
私も土屋様の評判のいいのは聞いて居りますよ。
それに御本家は常州土浦の御城主でその御別れ故中々ご裕福との事だね。
御本家は九万五千石のお大名その御分家でおらの殿様は八千石の旗本だ。
隣りの吉良家に続いての裕福だが隣りのように賄賂をとったりまた人をいじめて蓄めたのと違っておらの殿様は清浄潔白だ。
これそんな事を大きな声をしてもし吉良様の人に聞こえたら悪いわいなぁ。
なに構う事があるものか。
それじゃといってお前…。
・
(手がなる音)はいはい只今お返事が出来たのであろう。
お聞き申してくる間お前お手酌で呑んでおくれ。
へえかしこまりました。
ああよい心持ちになった。
これですっかり寒さも取れた。
どれお銚子ぎりと出かけようか。
角平さんお待ち遠でしたね。
お詳しいお返事はこれへ認めてありますが何事をさしおきましても今夜はぜひ伺いますると御口上にてもお伝え下されいとの事です。
それでは今夜はお出でになるのか。
はい。
よしよし左様申し伝えるでござりましょう。
ホホホ角平さん大分まわったね。
なに…。
もう廻り道はしやしねえよ。
ハハハハハ。
ご苦労でしたね。
ありがとうございました。
ではごめんくださりませ。
ごちそうになりました。
あの足元が悪いから気を付けてお帰りなさいよ。
ありがとうございます。
大丈夫かね。
又今夜も旦那様には土屋様のお邸へお越しになったらどうでお泊りなさるであろう。
日がくれたら門戸を閉め炬燵でゆっくり温まろうか。
(拍手)
(源吾)いや降るわ降るわ。
卍巴と降りしきる向島の雪景色は又格別。
宗匠には此の雪で定めし名句が出来たであろう…。
頼もう。
・
(おすみ)はいはいどなた様でございます。
おおこれは子葉様此の雪のふりますのにようまあお越しなされました。
宗匠にはご在宅でござるかな。
はい旦那様はお内でございますからどうぞお上り下さいまし。
それは幸い。
では子葉参ったとお伝え下され。
はい畏りました。
どうぞこちらでお待ち下さいまし。
・
(其角)何子葉殿が参られしとな。
イヨウ子葉殿。
ようこそお出で下された。
さあどうぞこちらへ。
ではご免下され。
何とお寒いことではござらぬか。
川風は格別でござろう。
さあどうぞお手をおあぶり下され。
いや雪中を参ったせいか却って身内が暖かでござる。
これはお若い程あっておうらやましい事でござる。
したが此の雪はどうでござる。
よく積もったではござらぬか。
左様でござる。
この寒さも風流の一つ。
宗匠には此の雪で何かお催しでもござりまするか。
はい催そうとは存じましたなれど最前都文公よりお召しがござってそれ故催しは取り止めました。
その都文公と仰せらるるは。
土浦の土屋土佐守の御舎弟主税公の事でござる。
発句がお好きで別号を都文公と仰せらるる。
幸いの大雪なれば雪の会を催す故ぜひ参れとの御沙汰でござった。
左様でござるか。
その土屋様のお屋敷は確か本所松坂町吉良様のお隣り屋敷ではござりませぬか。
おう左様でござる。
どうじゃご貴殿も同道召されぬか。
いやせっかくの御芳志なれどちと所用がござりますれば残念ながら御辞退申す。
御用があるか残り多いことじゃ。
此の雪を肴に一盞進ぜんと持参いたせし是なる一瓢お開き下されては如何でござる。
御酒まで…これはわざわざのご持参御心入れのほどかたじけのうござる。
有合せながら何ぞ肴でも申付けましょうか。
いや決してそのお肴には及びませぬ。
宗匠には土屋様のお邸へお出でなさらねばならずまた拙者もちと急ぎますればあまりゆるゆるとはできませぬ。
だいぶお急ぎの御用と見えまするな。
宗匠には浪人以来格別のご懇意を賜りましたが今日を限りにもうお目にかかれぬかも知れませぬ。
今日を限りに逢えぬかも知れぬ…。
ああ旅へでもお出でなさるのかな?此の度ご縁がござりまして西国のさるお大名に召し抱えられ急に出立致さねばならずそれ故お暇乞いに参りました。
すりゃあの主取りを召さるるか。
いつまでも浪人の身でいてはその日の糊口に迫るばかり。
それ故是非の主取りを致してござる。
して西国はいずれのお大名でござる?いやそれも明日にでも成れば自然お分かり頂けましょう。
左様でござるか。
それなればたってお尋ねは致すまいが貴殿が二君に仕えることをご親友の勝田新左衛門殿はご存じない事はござるまいの。
如何にも喜んで祝うてくれました。
祝いましたか左様か…。
ご縁もあらば又お目にかからぬでもござりませぬが人間の身は老少不定随分お体を大切にされ後の世迄も変わらぬお付き合いを願いまする。
いやそりゃ申すまでもなきこと。
貴殿との交りも早や十年と相なりまするな。
十年の交りは浅いとは言われませぬなあ。
ではお一つ…。
頂戴致します。
頂きます。
ご返杯。
(落合)宗匠はご在宅か?おおこれは其月殿。
どちらへお越しなされました?此の雪景色を余所に見られずわざわざ宗匠をお訪ね申した。
左様でござるか。
さあさあどうぞお上り下され。
然らばご免下され。
これはご来客でござったか。
お楽しみのお邪魔を仕った。
其月殿これなる御人はかねてお咄し申し上げた元浅野家のご家中大高源吾と申さるる御人。
子葉殿これなる御人は肥州細川家の藩中にて落合其月と申さるる。
左様でござるか。
以後御別懇に願いまする。
ああこれはご叮嚀なるご挨拶。
かねて宗匠より御高名は承っておりまするが拙者は細川家の家臣にて落合其月と申すもの。
以後ご別懇にお願い申す。
其月殿。
大高殿は先輩にて俳名を子葉と申さる。
此の度西国のお大名にお召し抱えと相成って明日は発足と申すことじゃ。
宗匠暫らく!何と御意ある。
此の御人が二君におつかえなさるるとか。
(其角)左様でござる。
あの二君に…!左様か!これはしたり。
如何にお国風と申せそれでは余り愛想がないではござりませぬか。
あいや宗匠不肖ながら拙者は武士でござる。
ハハハハハ!ご貴殿がお武家であられる事を誰が異存が申しましょうや。
然らば申すが武士は畜生とは同席は致されぬ。
今日はこれにてお暇申す。
おやお待ちなされ。
畜生とは誰れのこと?ご返事次第では許しませぬぞ。
これは宗匠のお腹立ち甚だ以って恐れ入る。
したが畜生との同席は先祖へ対して申し訳がござらぬ。
その畜生にもよりけりじゃ犬にも劣った豚がいる!豚と同席は致されぬ。
今日はこれにてお暇申す。
いやお帰しは致されぬ。
察する処貴殿には子葉をさして言わるるのじゃな。
その訳を承りましょう。
あいや宗匠!そのように言葉どがめをなされるには及びませぬ。
なるほど世間には豚もいればみみずもいる。
したが武士の本意は上からは見えぬもの。
じゃによって我等も聞くだけは聞くつもりでござる。
いやいや聞いてはおられませぬ。
さあ豚の因縁承わろう。
さまで仰せあらばお聞かせ申す。
豚と言う奴はなおのが主の見さかいもなく食物さえ見れば隣り近所を嗅ぎ歩きまするじゃ。
其の豚のような奴が武士の中にあるとなれば何となさるる。
武士の大道は生きて二君に仕えず。
よしや貧苦に迫り餓死なすとも二君の粟を得ぬをもって道と致す。
然るに三代相恩の御主君が武士の面目を傷つけられたるを意恨に思い五万三千石の御知行を只一朝の刃傷にて捨てさせられた。
その御無念はいかばかりか…。
仮にも家人と名がつけばよし叶わぬ迄も敵の屋敷へ斬り入ってひと太刀なりとも恨むべきにそれをのめのめ生を貪り二君に節を売らんとは言語道断の豚侍!武士の風上にもおかれぬ奴じゃ!何と宗匠左様ではござりませぬか。
いや御貴殿のお心がけもご尤も。
生得誠忠の大高氏が俄かに節を破られて二君にお仕え召さるるとは。
いやなに子葉殿たとえ町人にならるるとも二君にお仕えなさることは思い止っては如何でござる?豚の講釈も宗匠のお心添えもよく存じておりますれどそれは一を知って二を知らぬほんの上べの議論。
尤も某も先君に仕えし頃は「忠臣二君に仕えず貞女両夫にまじえず」としかつめらしう申しておったがその日の暮らしにさし迫り乞食非人と相成ってはかえって先君の御名を汚し先祖を恥しめねばなりませぬ。
ご貴殿も今でこそ仕官なされておらるる故豚侍の畜生のと拙者が事をさげすみなさるるが一朝禄を失いて我が境界になられて見よ。
二君どころか三君四君恥より飢えは苦しうござるて。
ハハハハ…。
腐れ果てたるその魂誠の武士が清めてくれん!御意見は我等も同意。
さりながら余り手荒らな。
かような犬侍とお附き合い召さるるは御身のけがれじゃ!お待ちなされお待ちなされと言うに。
いや何子葉殿これほどに致されても御身は二君に仕ゆる心か?武士たる者が堅き約束決して変替えはなりませぬ。
すりゃ此れ程に申しても。
拙者が事で宗匠にもご迷惑をおかけ申し申し訳ござりませぬ。
ではこれにてお暇致しまする。
御免下され。
いやお待ち下され。
ご用でも?ご餞別に一句仕ろう。
さあ。
「年の瀬や水の流れも人の身も」。
(其角)お分かりに相成られますかな?お見事なる御名吟。
下句仕る。
「明日待たるるその宝船」。
「年の瀬や水の流れも人の身も」。
「明日待たるるその宝船」。
(拍手)お別れ申す。
おおよく降るな。
(拍手)宗匠犬侍はもう帰りましたか?「明日待たるるその宝船」。
聞くさえ汚れるその一句。
彼に句ほどの心があらば。
まだしも武士と云われんもの。
惜しき友をば失いましたなあ。
(拍手)花も雪も払えば清き袂かなほんに昔の
(拍手)昔のことよわが待つ人を我を待ちけん
(主税)最早夜に入って余程になるがまだ其角は参らぬか。
ハッ。
今朝お使番へ申し付け一刻も早くお越し下さる様にと申しおきましたが何処ぞへお立寄りなされたのでござりましょう。
この雪をいずれに於て眺めておるやら待久しい事じゃのう。
日頃御性急な御前様故さぞお待久しゅうござりましょうがその内には必ず参らるることにござりましょう。
では今一度使いをとらせ。
畏まりました。
凍る衾になく音をばどうじゃ?園。
そちも一つ過してはどうじゃの。
(お園)生れついての不調法お相手も致しませず申し訳がございませぬ。
そちが参って早や余程に成るが兄勝田新左衛門から何か便りでも参ったか。
別れましてその後は只の一度も便りもなくどうしておりますやら案じられてなりませぬ。
あっいや案ずる事はあるまい。
いたわしや浅野殿には無念に此の世を去られしかど城代には大石内蔵助これあれば思慮分別のあるべき筈。
それに連なる浪士の面々そちの兄をはじめとしてやがては名の出ることもあろうかと欺く先見をはかりし某もいささか義を知るためじゃ。
此の詞に間違いなくば予も世間の褒め者に相成る道理にあらざるよ。
仰せの通りにござりますれば私とてもどの様に嬉しい事か存じませぬがもしこれがうら上になりましたその時は御前様に会わす顔がござりませぬ。
あっいやその様なことはよも有るまい。
万一にも赤穂の浪士義を知らぬ暁には予も世間の笑われもの。
公儀のご用がつとまらぬわ。
ハッ申し上げます。
只今其角殿参られましてござりまする。
参ったか!あ〜いやすぐ様これへ。
心得ました。
ようやく参ったか。
これからはいつものお句でさぞお楽しみでござりましょう。
今宵は余程過ごすであろうぞ。
またお夜明かしを遊ばしてお風邪を召してはなりませぬ。
其の心労には及ばぬ事じゃ。
聞くも淋しき一人寝の…御前様。
誠に遅刻仕り相すまぬ儀でござりまする。
遅かったではないか。
又いつもの酒であろう。
ずっとこれへ通られよ。
(其角)ではご免下さりましょう。
其角様ようお出で遊ばしました。
どうじゃ其角この雪でさぞ名句が出たであろうのう。
いやいや発句どころではござりませぬ。
今日程胸の悪い日はござりませぬ。
では一つ過ごすがよいぞ。
いやその御酒は頂きませぬ。
それよりも御前様へ一つお願いがござります。
改まって願いとは何事なるぞ。
外の事でもござりませぬがこれに居らるるお園殿のお暇が願いとう存じます。
そりゃまた何でどう言う訳でござりまする。
兄勝田新左衛門より左様な事でも申し出たか。
いや兄よりの申し出ではござりませぬ。
然らば何故の暇を祈るぞ。
確かこの園には両親も無き筈なるに。
ああそれなれば当人が当家の奉公いやじゃと申すか。
いやいやいや左様でもござりませぬ。
然らば何等の仔細なるぞ。
はい私の気に入りませぬ。
そちの気に入らぬか。
こりゃまあいよいよ不思議な事を申し居るわ。
そちはこの園の親代りになって居るのではないか。
その親代りの私ゆえお暇を願うのでござりまする。
今日はどうか致しておりはせぬか。
まあまあよいよい。
一つすごせ。
御前様よりのお盃。
いつもの様にお過ごし遊ばせ。
いやお園殿のお酌は受けぬ。
そりゃ又何故でござりまする。
全体赤穂の浪人は皆腰抜けばかりでござりまする。
今日はいよいよどうか致して居りはせぬか。
そちは今まで赤穂の浪士を贔屓致したではないか。
はい。
これまでは贔屓でござりましたが今日という今日は愛想もこそもつき果てました。
彼等は武士ではござりませぬ。
乞食でござりまする。
何ご立腹かは存じませぬが乞食とは聞き苦しきお詞。
そりゃ余り没義道ではござりませぬか。
お黙り召され。
乞食同様の娘を其角の手から差し上げましたは一生の誤り。
それ故お園殿のお暇をお願い申すのでござりまする。
例え乞食の娘であろうとも当人の心が玉と光ればこりゃこの上の事ではないではないか。
お園殿の心が玉と光りますかな。
なかなか見上げた心掛けじゃ。
御前はお迷い遊ばしてじゃ。
赤穂浪士のその中でも大高源吾とは久しき交りなれど今日という今日は全く愛想が尽き果てました。
この様な者に風流の道が分る筈がござりませぬ。
あ〜これこれ大高源吾とはあの子葉の事か。
左様でござりまする。
子葉は子葉。
園は園。
何も此の者にかかわった事ではないではないか。
いやいや其のお園殿の兄御たる勝田新左衛門と大高源吾は同輩にてしかも交り深き友。
なりゃ牛は牛連れ申さずとも大概その性根は知れておりまする。
先程から承っておりますれば何か兄が不都合せしとかで私のお暇を願われますが兄は兄。
私は私。
一旦ご奉公に上りましたる上からは死ぬる迄お暇は頂きませぬ。
そなたはそのように仰せらるるが全体大高源吾の心意気がよくないゆえ。
大高様は大高様。
何の私に係わる事ではござりませぬ。
処があるじゃて。
余人がお世話いたしたのならとも角も其角の手からそのような不忠者の妹を御前様のお傍近う差し上げたと言われてはこの其角の顔にもかかわる事。
そこ許には気の毒じゃが是非お暇を…。
もうよいもうよい。
そりゃ全てあすの事。
今宵は一つすごすがよいぞ。
いやいや明日までは待たれませぬ。
あすになれば源吾が西国へ出立を致しまする。
故国へでも帰ると申すのか。
それなればよろしゅうござりまするが西国のさるお大名に召し抱えられたのでござりまする。
いや何と申す大高源吾には節をやぶり西国方の諸公に仕官致すと申すのか。
左様でござりまする。
あの二君に仕える!?御意。
ハハ…。
左様な事があろう筈はなかろう。
そちは今まで赤穂の浪士を誠の武士と申し伝えていたではないか。
余もそれを伝え聞けばこそ誠の武士が恋しさに赤穂の武士の臣たる園をそちの世話にてかかえしならずや。
それが二君に仕ゆる節をやぶるなどとこりゃ正しく何かの聞き違い。
誠の事とは思われぬが。
いやいや。
拙宅におきまして眼前見えましたる証人はかねがねお目通りを願いおりまする細川の藩中落合其月今宵のお催しにぜひ同道致しくれよとの頼みから同道致してお次迄は参りましたがお園殿がござる故同席致すは身の穢れとお次に控えて居りまする。
そりゃ落合其月殿が参られしとか。
お呼び出し下されば乞食の因縁もお分りになりましょう。
然らば直ぐ様これへとお通し申せ。
はい畏ってはござりまするがお園殿が此の場にあっては。
もうよいよい承知いたした。
直ぐ様これへ。
お連れ申して参りましょう。
恋しき人はつみふかく思わぬこりゃ園そちは暫時次へ下がれ。
御前様まで私を。
うとみはせぬがこれには何ぞ子細があろう。
さあ立て立て。
左様なればお控え申すでござりましょう。
捨てた浮捨てた浮世のこれ。
山かづら御前様其月殿をお連れ申しました。
土屋公には一別以来御健勝の体を拝し恐悦至極に存じ奉りまする。
見のがし難き此の大雪。
俳諧と酒の友。
さあずっとこれへ通られよ。
お言葉なれば落合殿。
先ず宗匠より。
然らば御免下さりましょう。
お招きもなき当席へ参り押して参上仕りしのみならずお召抱えをお下げ願いましたるは甚だもって恐れ入ったる儀にはござれども心に染まぬ不義者の縁者同席するは武士の穢れと差し控えて居りましたる処お聞き届け下され忝けなく存じ奉る。
承れば赤穂の浪士節を破り二君に仕うる者こそある由赤穂の者と聞くと顔を見るさえ無念でござる。
御前様お聞き遊ばされましたか。
人の心ほど不甲斐ないものでござりまするな。
只今宗匠より承われば大高源吾には節を破り西国方の諸公に仕官致すと申せしがこりゃ誠の事でござるかのう。
決して偽りではござりませぬ。
武士は相身互い。
何卒彼が心を試しやらんと心にもなき悪口雑言散々に申し聞けましたなれど更に用ゆる気色も見えず。
殊更宗匠には旧交を重んじ諫めの一句を読まれしかどそれさえ彼には更に悟らずあつかましくも下句をつけてそのままに帰りましたが人間も貧すればああも心が腐るものかと思えば不愍に存じられます。
すりゃそれ程までにお諫めあってもいよいよ二君に仕えまするとか。
いや〜。
して源吾が仕える西国方とは何れの諸侯でござるかの?その儀は手前も問い糺しましたなれど明日にでもなればいずれ分かると申しまして彼も恥と見てその行先は申しませぬ。
すりゃ明日にでもなればいずれ分かると申しましたか。
こりゃ余程恥じ入ったと見えまするな。
して宗匠が諫めし句とは?「年の瀬や水の流れも人の身も」。
「年の瀬や水の流れも人の身も」。
はあ流石は宗匠。
人の身の行末を案じよくぞ諷諫なされたり。
して源吾が付けし句とは?「明日待たるるその宝船」。
「明日待たるるその宝船」。
ん?いや「年の瀬や水の流れも人の身も」。
あっかたじけのうござる。
ああ「年の瀬や水の流れも人の身も明日待たるるその宝船」。
恐れながら拙者愚案仕るに「明日待たるるその宝船」とは今は浪人貧苦の身なれど明日からは乗る宝船と己れの恥を自慢の一句。
誠の武士なれば切って捨つべき奴なれど犬にも劣った人非人。
犬畜生をさいなむは刀の汚れとそのまま見逃し帰してござります。
(其角)かかる者におかかわり合いに相成っては末代までお家の御瑕瑾とも相成りましょうと存じましてそれ故お園殿のお暇をお願い申しに上りました。
御当家の御内事向きにくちばし入れまするは甚だ以って恐れ入ったる儀にはござれども諺にも君子は友を選ぶとあり。
陪臣づれの某を風流の友とおぼし召さるる御芳志にむくゆる拙者が寸志いやかかる事を申上げずとも才智にたけし土屋侯とくより御承知とわたらせ給うが知って言わざるは不忠の本分。
例え婦女子と申せどもかかる者の縁辺をお傍近う召さるるはあたら御名家を汚すの道理。
宗匠にお縋り申し招きもなきに推参致せしのみならず御無礼をもかえりみず御注言申せし段甚だもって恐れ入ったる儀には御座れども。
何とぞ御思案の程願い奉る。
只今にてもお詞がござれば親代りの私ゆえすぐに引取りまするでござりまする。
如何でござりましょう?御前さ…。
あっ土屋公?
(其角)御前様。
(落合)あっこりゃご睡眠と相見えまする。
我々が参るまでだいぶお過ごしと見えまするな。
然らば暫時お次へ参ってお目覚めあるを待つと致しましょう。
左様仕りましょう。
おおいつの間にやら雪はやみ月が雲間も洩れて参った。
雪に照る月とはこりゃ一段眺めがまさって参った。
今宵の雪を題となし。
例の駄句でも並べましょうか。
左様仕ろう。
雪の夜に隣りは吉良殿のお宅でござるか。
おお左様でござる。
積る思いを我袖に包みかねたる憂き涙御前様。
お許しなされて下さりませ。
不束な此の身を思召されまするに只今の様な事迄もお耳に入れる勿体なさ。
大高様のお心がそでないばかりに兄迄も悪名蒙る今宵の仕儀。
女ながらも私も赤穂浪士の妹なれば武士の魂お目にかけます。
御前様お赦しなされて下さりませ。
既に斯うよと見えければ待て待て!何故生害なるぞ?御前様を恥かしめし此の身の言訳此の場に於て。
其方迄が大高源吾を不忠者と思い居るか。
赤穂の浪士は大の忠臣。
何と御意あそばします。
只今宗匠の申せし詞に源吾が仕える西国方の諸侯の名を問いしかど明日にでもなればいずれ判ると申せしのみならず別れに望み詠ぜし一句に「明日待たるるその宝船」。
既に仕ゆる身なりせば「明日を待つ」とは詠みはせまい。
雪にはそそぐの読句あり。
「明日待たるるその宝船」明日待たるるいよいよ本望。
いやそれでこそ誠の武士。
(拍手)世辞にかしこき其角でさえ悟り得ざるは智者と呼ぶ大石内蔵助が皆深慮明智の程。
例え打つ槌ははずるるとも余が先見ははずれまい。
万一にも赤穂の浪士二君に仕ゆる心あらば土屋主税は禄を捨て再び人には見えぬ所存。
せく処ではあらざるぞよ。
いつに変らぬ御大量。
お旨の程は分かりませぬが諸事は仰せを待ちまする。
それがよい。
折から聞ゆる剣戟の音只ならぬあの物音。
ありゃ火事ではござりませぬか。
心を配り気を配る深夜に及び吉良の邸には太刀打つ音。
明日待たるる。
ここじゃわい。
御前様へ申し上げまする。
只今御門前へ赤穂浅野家の旧臣奥田貞右衛門中村勘助と名乗りたる二人の武士が参りましてござりまする。
赤穂の浪士が参りしとなしてして何と何と。
出立ちは火事装束同様にして浅野内匠頭の家来四十七人亡君の怨敵吉良上野介様を今宵打果たし申す間必ずお出合い下さるまじく火の用心万端念入りに致し必ず粗相なき様仕りますると言い置いて立去りましてござりまする。
赤穂の浪士が夜討ちとな。
これこれこれ…。
園予が先見は外れまいがな。
驚き入ったる御先見これで私の肩身も広くこの様な嬉しい事はござりませぬ。
これ六弥。
要所要所に高張りを灯させ彼等に便宜をいや火事と心得用意を致せ。
畏ってござりまする。
引き違えて駆け来る其角御前様お聞き遊ばしましたか。
赤穂の浪士が亡君の敵討ちじゃと申しまする。
もしその中に大高源吾は居りまするか勝田新左衛門は加わって居りませぬか。
これこれ静かに致せ静かに致せ。
吉良家へ対して助太刀と思われては心苦しい。
それよりもな今宵浪士が本望を達せられる様に吉良家調伏の一句を読め一句を読め。
いやいや発句どころではござりませぬ。
前代未聞の敵討ち。
どうか見たいものじゃなあ。
これ静かに致せと申すに。
こりゃ其角よい晩に雪が降ったのう。
其角酌を致せ。
いやそのお酌はお園殿に。
私がお酌を致しましてもお叱りではござりませぬか。
そう仰られると其角面目次第もござりませぬ。
ああ最前子葉が参ったは此の暇乞いに相違ない。
あれ程の武士が加わっておらぬはずはない。
源吾は居るか。
新左衛門殿。
かなたへ走りこなたへ走りかなたの松を打見やり身の危きを打ち忘れ月は照れども夜目にて届かず大高殿はおわするか其角これよりお詫び申す。
もしもし其角様雪も積もっておりまするしお年の上故お危のうござりまする。
早うお降りなされませ。
いやいや先途を見届けぬうちは滅多にここは下りませぬ。
折から聞ゆる呼子の笛続いて響く太鼓の音
(太鼓)これ園頼母を呼べ。
頼母を呼べ。
頼母様頼母様。
はあ。
仰せ付けられましたる通り御邸内の要所要所に高張りを灯させ出火の用意万端整いましてござりまする。
落ちなくせしか。
(頼母)はあ。
其方隣家へ参り大石内蔵助に面談致し最早本望を達せられし上からはこの侭退去の志はよもあるまい。
万一退去のみぎりに土屋主税改めて面談致したいと申し伝えい。
はあ。
これこれこれ其角最早物見には及ばぬぞよ。
本望は達せられたぞ。
ええ御前様それがお分かりになりましたか。
如何にも相分かった。
ちぇ。
かたじ…ああ…。
おお。
危のうござりまする。
どこもお怪我はござりませぬかお腰は痛みは致しませぬか。
したたか腰は打ちましたがお蔭で抜けは致しませぬ。
はっ…。
御口上の趣き大石内蔵助へ通ぜし所御隣家を騒がせし御詫びとして只今一人遣わしますれば子細はその者よりお聞き取り下されとの口上にて早一人参りましてござりまする。
早一人参りしとか。
定めて土足に相違あるまい。
裏門よりこれへと通せ。
はあ。
これこれこれ其角。
浪士一人参るとあるからは源吾新左衛門の在否も分る。
予が勝つか汝が勝つか。
ここ暫くがあやうい瀬戸じゃのう。
いやいや譬え手前が負けましても大高源吾が居りますよう。
何卒兄の新左衛門も加って居りますよう。
八百万の神々様。
お願い申し。
(二人)上げまする。
神々祈るぞ殊勝なり仰せに随い伴いましてござりまする。
待ちかねた!すぐさまこれへ!はっ。
それ!六弥殿!
(六弥)お通りなされ。
(源吾)御免下され。
(拍手)
(お園)おお源吾様か!
(其角)大高氏!誠に宗匠。
お園殿。
御前源吾はおりました。
ちぇ忝い。
源吾様承りとうござりまする。
兄の新左衛門も加わって居りましたか。
お悦びなされ。
勝田氏には見事手柄をなされしぞ。
すりゃ兄も…!申し申し申し申し申し申し申し申し申し申し申し申し御前様兄も加わっておりましてござりまする。
申し其角様兄も…!此様な嬉しい事はござりませぬ!
(拍手)源吾殿近う。
はあ。
四十有余の人々永々の御苦労お察し申しまするぞ。
今宵本望を達せられ嘸御満足でござろうのう。
有難き御懇の仰せ。
申し上ぐる詞なし!只御明察下しおかれましょう。
つきましては只今御用人を以って仰せ渡されし段有り難く存じ奉る。
内蔵助お答え申しまするには今般上野介殿御首級を給わる上は回向院へ罷りこし大目附衆へ訴え申し出でお仕置を相待つ覚悟。
もし事不順に候わば内匠頭菩提所芝泉岳寺へ罷りこしいずれも切腹致す所存。
尤も吉良家火の元万端よくよく念入に致し候わば此儀御心やすかるべしとの口上にござりまする。
すりゃ御菩提所泉岳寺へおこしとな御尤も千万。
さりながら御一同へ申しおかんが必ず必ず粗略な切腹なご無用。
只上の御沙汰を相待たれよとご一同に御伝え下され。
御芳志千万忝う存じまする。
御免!大高氏!面目次第もござりませぬ!貴殿は落合其月殿。
かかる御心とは露しらず最前の悪口雑言。
のみならず足蹴に致せし拙者の愚かさ。
いざ御存分に致されよ。
最前貴殿の仰せこそまことの武士の申す所実の所某も心で礼を申しておった。
左迄仰せられる程穴にも入りたき此の其月。
なれども願わくば誠忠無二の貴殿のお手にかかって相果てるは身の本懐。
さあいざ首はねられい大高氏!如何様に仰せあるとも貴殿に刃向こう刃はござらぬ。
すりゃこれ程まで申しても。
いかにも。
土屋公!恐れながら御庭前のはしを穢し申す。
ご免。
ああいや待たれい!只今の大高氏の言葉を何と聞かれた!最前の御身の忠誠が誠の武士と申されたではござらぬか。
今死ぬる場所ではござらぬ!貴殿が死ねば此の其角も共に死なねばなりませぬ。
土屋公を初め宗匠の御一言無下にいたすも本意ならず。
惜しからぬ命なれど如何にも御意に従い申す。
すりゃお止どまり下さるとな。
心の底よりお詫び致す!それで身共も安堵致した。
(笛の音)もはや引揚の合図土屋公をはじめいづれも御免。
ああいや源吾殿待たれい!
(源吾)はっ。
はばかりながら勝田新左衛門に妹園は永く当家に仕えおるとお伝え願いたい。
源吾様妹は無事に奉公致しおると兄へお伝えなされて下さりませ。
御前のお情け御身の無事共に申し伝えるでござろう。
子葉殿これが別れか。
お名残り惜しい。
宗匠今生のお別れでござりまするな。
いずれも御免!御免!それッ。
(拍手)勇ましきあのいでたち。
せめて門内よりも見送りやらん。
ああいや御前様あなたは天下のお旗本。
御大身の御身にて御見送りの儀はまずまず。
無念の死を遂げられし内匠殿さぞや泉下において御満足にござろうな。
浅野殿はよい家来を持たれたのう。
(拍手)
(柝の音)
(テーマ音楽)2015/12/27(日) 21:00〜23:00
NHKEテレ1大阪
古典芸能への招待 京都南座顔見世大歌舞伎「義経千本桜 吉野山」「土屋主税」[多][字][デ]
京都・南座顔見世大歌舞伎から、中村鴈雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露演目「土屋主税」と、中村橋之助・坂田藤十郎による歌舞伎舞踊の名作「吉野山」をご紹介する。
詳細情報
番組内容
今回の南座顔見世は、1月から始まった四代目中村鴈治郎襲名披露の公演でもある。その襲名披露演目から「忠臣蔵」の外伝物で、初世鴈治郎の当たり狂言から選ばれた「玩辞楼十二曲(がんじろうじゅうにきょく)」の一つ「土屋主税」(中村鴈治郎、片岡仁左衛門、市川左團次、片岡孝太郎 ほか)と、中村橋之助・坂田藤十郎による歌舞伎舞踊の名作「義経千本桜 吉野山」をお送りする。【副音声解説】高木秀樹 【ご案内】金城均アナ
出演者
【出演】坂田藤十郎,中村橋之助,四代目 中村鴈治郎,片岡仁左衛門,市川左團次,片岡孝太郎,中村亀鶴,中村梅枝,中村寿治郎,中村鴈童,中村扇乃丞,中村鴈洋,中村鴈大,中村翫祐,中村翫哉,片岡松太朗ほか
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劇場/公演 – 歌舞伎・古典
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