今日の社説
認知症の追跡調査 対策促進へ北陸の成果を
来年度から実施される認知症の1万人追跡調査に、金大が参加する見通しとなった。新たな「国家戦略」の一環で、金大が認知症予防のプロジェクトに取り組んでいる七尾市中島町が全国8地域の拠点の一つとなる。認知症に関する国の大規模調査は初めてで、発症のメカニズム解明などを目指し、早期診断、治療に役立てる。
認知症の人は、2025年には約700万人に達すると見込まれ、認知症対策は喫緊の課題となっている。北陸では金大、金沢医科大、富大、福井大が連携する「北陸認知症プロフェッショナル医養成プラン」(認プロ)による専門医養成なども行われており、認知症施策の国家戦略に沿う取り組みを進める北陸の役割は大きい。大学や自治体、地域などが一丸となって認知症対策を促進してほしい。
追跡調査は、認知症の住民調査で実績のある金大と九州大が中核となって進む見込みで、全国8地域を合わせて、調査人数1万人を目指す。認知症のメカニズムはまだ十分に解明されておらず、生活習慣や血液などのデータを収集、解析して発症リスクとの関連などを調べる。認知症研究に先進的に取り組んでいる関係機関が連携して調査研究を進め、認知症予防や発症メカニズムに迫る成果を期待したい。
金大は、2006年度から地域脳健診・認知症予防プロジェクト(なかじまプロジェクト)に取り組み、七尾市中島町で60歳以上の全住民を対象に専門医が健診している。同プロジェクトでは、緑茶を飲む人が飲まない人に比べて認知症になりにくいデータが出ており、この研究結果は全国的に注目を集めた。住民調査のデータ解析によって発症リスクを減らす可能性を示し、多くの人に認知症への理解を深める成果を発信したといえる。
金大が拠点となった「認プロ」は、認知症のチーム医療のリーダー養成や、地域の医療機関向けの研修などに取り組んでいる。患者を支える地域ネットワークの要となる専門医の養成を着実に進めるとともに、認知症への理解を促す啓発活動もさらに展開してもらいたい。
中国の反テロ法 反民主の懸念が拭えない
中国の「反テロ法」が成立し、年明けから施行される。「国家安全法」や「反スパイ法」に続く治安関係の国内法整備であるが、運用の仕方で表現・報道の自由や信教の自由が脅かされる懸念も拭えない。
反テロ法は、新疆ウイグル自治区を中心に、独立派のウイグル族によるとみられる暴力事件が多発しているのを受けて制定された。ウイグル族にはイスラム教徒が多く、中国政府は自治区の独立派を「テロ組織」として厳しく取り締まっている。しかし、自治区内の事件情報はほとんど公開されておらず、国際人権団体などは、テロ対策を口実に少数民族の抑圧が強化されているとみている。
新疆ウイグル自治区で2014年に逮捕された犯罪容疑者は前年に比べて倍増しており、今年9月の炭鉱襲撃事件で警察当局が「テロリスト」として殺害した者の中には、子どもや女性が含まれているとの情報も伝えられる。
中国政府は先ごろ、政府のウイグル族政策を批判的に書いたフランス人記者を、事実上の国外退去処分にした。この記者は、中国当局とウイグル族との衝突は抑圧的な政策が原因であり、パリ同時テロなどとは性質が異なると指摘した。これに対して中国政府が「テロ行為を助長する報道は容認できない」と批判し、謝罪しなければ記者証を発給しないという措置をとったのは、行き過ぎた言論統制と言わざるを得ない。
反テロ法は、テロ行為の認定に曖昧さがあり、当局の裁量で拡大適用される可能性が否定できない上、報道に関して「模倣を誘発するようなテロ事件の詳細を報じてはならない」との禁止規定が設けられている。また、テロ情報収集のため、IT企業に暗号情報の提供を求める規定もあるため、米国務省などは、情報統制や民主的活動の制限がさらに強化され、経済活動にも支障をきたしかねないと強い懸念を示している。
こうした国際社会の懸念表明に対して、中国政府は内政干渉と反発しているが、法治の名の下で人権抑圧が強まれば、国際的な批判を受けて当然であろう。