上方落語の会▽「浮かれの掛け取り」林家菊丸、「池田の猪買い」桂文華 2015.12.25


ご機嫌いかがですか?小佐田定雄です。
「上方落語の会」今日のゲストはもう来てます。
こんにちは。
神戸蘭子です。
最近の趣味はミシンを使っての小物作りです。
あらミシンで。
はい。
夜な夜なやっております。
趣味にね落語は入ってません?あっまだ入ってないです。
あれ?何でですか?う〜ん何かちょっとやっぱ敷居が高いのかなとか聴いても難しくて理解できないのかなと思って。
そう思わはる人が多いんですけども今日なんか大丈夫です。
敷居ございません。
本当ですか?穴が掘れてえぐれてるぐらい…。
本当ですか?大丈夫ですよ。
え〜うれしい。
ゆっくり楽しんで帰って下さいませ。
はい是非。
というところでまず最初は林家菊丸さんの登場です。
出し物は「浮かれの掛け取り」。
どうぞ。

(拍手)え〜ありがとうございます。
今世紀最大の拍手ありがとうございます。
ありがとうございます。
え〜かわりまして林家菊丸と申しますが。
まあ世の中どんどんどんどんマニュアル化されてまいりましてね殺伐としてるように思うんですが最近はそのマニュアル化で融通の利かない店員さんとか若者多いですね。
この間梅田の地下街の豚カツ屋さんに入ったんです。
お昼どき豚カツ屋さんってのはサービスがいいんですね。
注文して待っとりましたら出てきましたごはんがですねこんなてんこ盛りに盛ってあるんですね。
もう漫画でしか見た事ないようなこんな盛り方で。
これはさすがに多いと思いましたのでアルバイトのおにいさんを呼んで「すいません。
このごはんちょっと減らしてもらえますか?」と言いましたら「少々お待ち下さい。
店長と相談してきます」ってこんな事を。
え〜!もう自分の判断で決められないんですね。
でしばらくして戻ってきましたら「どうぞ残して頂いても結構ですからそのままどうぞ」ってなったんです。
私別にそれで料金を減らしてくれとか言ってる訳じゃないんです。
こりゃ言ってもしゃあないと思ってこのてんこ盛りの漫画盛りのごはんを私は一生懸命食べましたですよ。
残したらもったいない。
最後もうおかずは無くなった。
でもキャベツにソースをかけてそれで必死に完食しましたこのてんこ盛りのごはんを。
でなんとか平らげてあ〜やれやれとしておりましたらまたそのアルバイトのおにいさんがつかつかとやって来て「ただいまごはんお代わり無料ですがいかが致しましょう」て。
もう本当にマニュアル化ですね。
その点昔のご商売といいますとまあええ加減なもんで生活必需品なんかも昔は全部付けでございますね。
毎月末にちゃんと払っておけばそらよいんでございますが落語の方に出てまいりますのは大抵貧乏長屋と相場が決まっております。
そういうところは付けをためてためていよいよ迎えましたのが大晦日。
そらもう店側としましてもこの大晦日ばかりはなんとか取り立ててやろうというのんで激闘が始まる訳でございますが。
「ちょっとおやっさん。
おやっさん。
おやっさんて!」。
「うるさいなあお前おやっさんおやっさんて。
かりそめにも夫を捕まえて」。
「ふん!何が夫やの。
あんたその下へどっこい付けとけ」。
「おっとどっこい。
何を言いやがんねんお前」。
「言いとなるやないかいな。
今日は幾日か知ってんのか?」。
「幾日も何も今日は大晦日や。
明日は正月。
めでたいなあ」。
「何がめでたいねんほんまにもう。
そらなちゃ〜んと払うもん払てあったらめでたいで。
ここにぎょうさんあるこの書き付け請求書このあと取りに来はんねん。
どないする気やね?」。
「そんな事言われたかてないもんはしょうがないな」。
「ようそんな気楽な事言う…」。
「まあええがな。
去年の手でいっとこ去年の手で」。
「去年の手?あんたまた死んだまねすんのんか?わてもう嫌やし。
去年の大晦日『わしにええ考えがあるさかい待っとけ』。
ぽいっと表へ出たと思ったら大きな棺おけせたろうて帰ってきて。
『わしこん中入っとくさかいお前前で泣いとけ』て。
ようんなアホな事言うわもう。
と言うてなほかに手もないさかいわてもな泣きまねしてたんやがな。
ほんなら来る人来る人みんなええ人。
払い待ってくれはったんや。
かわいそうなんは家主さんやがなほんまにもう。
あの人は人がええさかいな今までの家賃を全部棒引き。
それどころか香典持ってきてくれはったやないか。
そんなもん受け取れるか?あんたがほんまに死んだんやったらわて受け取るで。
明くる日なったら生き返んのやさかいなあんた。
『そんなもらえまへん』。
『かまへん取っとき』。
『あきまへん』。
『取っとき』。
『あきまへん』。
押し問答してたらあんたどないしたんや?棺おけの蓋はねのけて手出して『せっかくやからもろうとけ』て出てきたんやがなもう。
家主さんびっくりして腰抜かしてげたも履かんと飛んで帰ってやなあ。
あんたまたその忘れてった家主さんのげた履いて年始の挨拶に行ったんやないかもう」。
「ハハハ。
おもろかったな」。
「何がおもろい。
もうあんな目遭うの嫌やし」。
「分かった分かった。
ほんならな今年はこないしよう。
人間誰しも好きな道っちゅうのがあんねや。
なあ。
好きなもんには心を奪われるっちゅうさかいなどや?来るやつ来るやつの好きなもんでうまい事断り言うたろ」。
「あんたそんなんでけんのんかいな」。
「まあまあ任しとけ」。
「あら言うてたら来たわ」。
「誰や?」。
「家主さん」。
「おう。
今年は家主が一番か。
あのおっさん何が好きや?」。
「あの人?あの人は狂歌」。
「狂歌。
お〜狂歌というたらあの五七五七七で何や面白おかしゅうやる歌かいな。
う〜んしゃあないな。
ひとつ狂歌で断り言うたろか」。
「御事多さん」。
「これはこれは家主さん。
お越しやす」。
「ほう。
感心に今年は生きてたな。
ああ結構結構うん。
お前んとこもだいぶ家賃がたまったはるさかいなきれいに払てもらおか」。
「へえ。
よう分かっておりまんねん。
雨露しのがしてもうてる家賃ですさかいな何を差し置いてもいの一番にお支払いせんならんと思てましたんやがこれがまたわたいな近頃ちょっと凝ったもんが出来ましてな」。
「何やそれ?凝ったもんが出来たって。
分かった。
どうせお前らのこっちゃばくちかなんぞに凝ったんやろ」。
「いえいえせやおまへんねん。
狂歌に凝りまして」。
「何?お前が狂歌に凝った?ははあ分かった。
わしが狂歌が好きやさかいそない言うたら堪忍してもらえると思うてんねやろ。
え〜ああその手は食わん」。
「いやいやほんまに狂歌に凝りましてんて。
あれなかなかやってみたらおもろいもんですな。
奥が深い。
あっちゃこっちゃで狂歌の会がおまっしゃろ?今日は向こう行かな。
明日はあっち行かなあかん。
もう忙しい。
今日か明日か〜いうてな」。
「しょうもないしゃれやな。
ほたら何か?ほんまに狂歌に凝ったんやったらないっぺんどんなん作ったか言うてみい」。
「へえへえへえ。
いろいろ作りましたんやがな『貧乏』という題で出来ました」。
「何?『貧乏』という題で出来た?ちょっと言うてみい」。
「へえ。
『貧乏の』」。
「ほう『貧乏の』」。
「『棒が次第に長くなり振り回される年の暮れかな』と。
どうです?」。
「ほう。
『貧乏の棒が次第に長くなり振り回される年の暮れかな』。
うんなかなかお前にしては上出来やな」。
「へえありがとう。
まだまだおまんので。
『貧乏をすれば悲しき裾綿の下から出ても人に踏まるる』と。
どうです?」。
「なるほどなあ。
貧乏の悲哀がよう出てはるがな」。
「ええ。
『貧乏をすれどこの家に風情あり質の流れに借金の山』と。
どうです?」。
「何?『質の流れに借金の山』。
質の流れと山…。
山水やがなこれは。
なかなか風流やなあ」。
「ええ。
『貧乏に』」。
「『貧乏』ばっかりやなお前のは。
ちょっとほかのはないのんかい」。
「いやもうこれが一番作りやすいんで。
『貧乏に追い詰められし年の暮れたまりし家賃はとても払えん』」。
「ななな何やそれ?お前。
ちょっと待て待てお前。
黙って聞いてたらあんじょう狂歌で断り言うてけつかんねや。
ほんまにもうどんならんやっちゃ。
せやけどなわしの好きな狂歌でこう来られたらどもしょうがない。
ほんならまあ今日のところは待ってやるがな年が明けたら形だけでも格好つけとくれや」。
「ええよう分かっておりまんので。
えらいすんまへん。
どうも。
おおきに。
よいお年を。
おい嬶。
1人片づいた」。
「あんたえらいうまいやないかそれ」。
「へえへえ」。
「そんなもんどこで覚えてきたんや?」。
「うん。
『NHK上方落語の会』行ったら噺家がやってたんや」。
「ハッハハ。
落語はためになるなあ。
あら言うてたらまた来たわ」。
「うん?今度は誰や?」。
「今度は竹本屋の旦那」。
「お〜竹本屋の旦那か。
あの人は何が好きや?」。
「あの人?あの人浄瑠璃」。
「浄瑠璃?浄瑠璃。
だんだん大層なってきたな。
ほんならなお前ちょっと押し入れから三味線出してきてなちょっと三味線弾いてくれや。
俺がなええ加減な節回しで浄瑠璃語るさかいなそれに合わせて三味線弾いてくれ。
ほんならここを浄瑠璃の小屋に見立てて断り言うたろか。
へいいらっしゃい!へいいらっしゃい!お一人さんご案内。
お一人さんご案内〜」。
「えらい陽気やなおい。
あ〜いやいや陽気なんは結構結構。
ほなまあその調子でなひとつたまったはる払いあんじょう頼んまっさ」。
・「さあわしもあげたい払いたい」「おかしな節つけんかてええがな。
払いたかったら払たらええがな」。
・「払いたいとは思えども身は貧苦に責められて」・「払いする事でけません」「もちょっと延ばし下さりませ」。
「何やそれ?浄瑠璃の子役やがなほんまにもう。
ははあ分かった。
わしが浄瑠璃が好きやさかいそれで断りを言おうっちゅう算段やな。
まあまあそんな手で来られたら待ってやらん事はないがこっちも商売。
ただのんべんだらりとは待ってられんわ。
一体いつんなったら払えんのんかその切り切った頃を聞こうか」。
「さあその頃かえ?」。
「おかしな顔しいないな」。
・「頃は」・「弥生の初めつかった」・「桃の節句やひな済んで」・「五月人形も済んで後」・「軒の灯籠や盆過ぎて」・「菊月済めばえびす講」・「中払いやら大晦日」・「所詮払いはでけません」「そら難儀やなおい」。
・「それから先は十年百年千年万年待ったなら」・「あああ〜あああ〜あああ〜あ〜あ〜」・「その時払いが」「できるのか?」。
・「ちぇ〜おぼつかない」
(拍手)「何?それは。
千年万年たっても払えんてそらまるきり払う気ないねやがな。
ほんまにもうどんならんやっちゃなあ。
せやけどまあまあ浄瑠璃で来られたらしょうがないな。
ほなまあまあちょっとだけ待ってやるわ」。
「ありがとうございます。
えらいすんまへん。
どうも。
ハッハ〜。
嬶2人片づいた」。
「あんたほんまにうまいなせやけど。
へえ〜わてあんたにほれ直したわ」。
「おかしな事言う…。
あらまた来た。
今度誰や?」。
「今度は酒屋の番頭」。
「ほう。
あの人何が好きや?」。
「あの人?あの人歌舞伎」。
「歌舞伎!だんだん大層なってきたな。
ほんならもうお前の三味線だけでは足らんわ。
奥にな若い噺家がぎょうさん住んどったやろ。
あいつらに言うてな鳴りもん適当にあしろうてなはやしてくれって頼んできて。
え?うんうん何?やってくれるて?よし。
ほんならなあの番頭はひとつ今日のところは上使に見立ててやなひとつこの芝居で断り言うたろか。
うん」。
「よよよよっ!待ってました!お掛け取り様のお入り〜」。
「どこやどこや?けったいな声出してんのは。
ははあ八五郎のうちやな。
あいつまた今年も工面が悪いねやな。
せやさかいわしの事上使に見立ててわしの好きな芝居で断りを言おうっちゅう算段やな。
何をさらすねんほんまにもう。
そんな手で来られたらこっちも乗らなしょうがないなおい。
よしほんならな上使というのは袖の大きな衣装を着けんのやさかいこの風呂敷をなこういうふうにしてほんでから矢立てをこういう具合になこれでこう上使に見立てて」。
「ウッハハハ。
嬶見てみい。
番頭のガキやる気やで。
えらいかっこつけとるがな。
お入〜り!」。
「これはこれはお掛け取り様には遠路のところご苦労千万。
そこはどぶ板いざまずあれへ」。
「掛け取りなればまかり通る。
正座許しめされい」。
「まずま〜ず」。
「してお掛け取り様の今日の趣この家の主八五郎めにお聞かせ下さりょうあればありがとう存じまする」。
「掛け取りの趣余の儀ではない。
謹んで承れ〜い。
一つその方月々ためし酒醤油塩の代金積もり積もって35円と85銭丁稚定吉をもって数度催促致すがいっかな払わず。
今日った大晦の事なればその方参りて必ず取り立てこいよと主人けち兵衛の厳命上使の趣かくのとおり」。
「ははあその仰せいちいちごもっともにはそうらえどその言い訳にはこれなる扇面」。
「何?扇をもって言い訳とは。
『雪晴るる比良の高嶺の夕まぐれ花の盛りを過ぎし頃かな』。
『花の盛りを過ぎし頃かな』。
こりゃこれ近江八景の歌。
この歌もって言い訳とは?」。
「はあ心やばせと商売に浮御堂やつす甲斐もなく所帯の財布は唐橋で無心の手紙もかただより雁ばかりで膳所はなし貴殿に顔を粟津のも比良の暮雪の雪ならで消ゆる思いを推量なし今しばし唐崎の…」。
「うむ。
『松でくれろ』。
待ってくれろという謎か。
…してその時節は?」。
「今年も過ぎて来年のあの石山の秋の月ごんと打ちだす三井寺の鐘を合図に」。
「きっと返済致すと申すか」。
「まずそれまではお掛け取り様この家の主八五郎来春お目に」。
「うむかかるで〜あろう」。
「ははあ」。
「ウッハッハハハ。
嬶見てみい。
喜んで帰っていきよったで」。
「まあお前もよっぽど…」。
「お前まで芝居せんかてええわい」。
「せやけどわて今年の大晦日楽しなってきたわほんまに。
ご近所にもぎょうさん掛け取り来てはんね。
うちにも2〜3人呼んでこよか」。
「アホ言えお前。
もううちだけで手いっぱいや」。
「あら言うてたらまた来たわ」。
「今度は誰や?」。
「魚屋の金さん」。
「お〜魚金か。
あいつは何が好きや?」。
「あの人?あの人けんか」。
「けんか!えらいやつが来よる。
ほんならしょうがないひとつけんかで断り言うたろうか。
なあちょっとお前なんぞあったらいかんからへっこんどけへっこんどけ」。
「おい邪魔するで」。
「おう来たな魚金」。
「うん?おめえなれなれしいやないかい」。
「いやいやいやあ〜今日はほかの日やない大晦日や。
お前んとこもぎょうさんたまったんできれいに払うてもらおか」。
「払うてやりたいねんけどなああいにく持ち合わせがないんねや。
昔から『無い袖は振れん』てな事いうやろ?そやさかいな諦めて帰って」。
「ちょっと待てアホお前。
そら何を言うのやあっさり。
今日はほかの日やない大晦日や。
なあ。
お前な今時分になってそんな事言うのやったらふだんが肝心やぞふだんが。
忘れもせん言うたろか?お前。
10日ほど前やお前と風呂屋の前でばったり会うたがな。
向こうから来んのは魚金や。
うちにぎょうさん付けがあるさかいそれお前俺のそばに来てやな言い訳の一つもしよんのやろと思たからこっちはまあ見て見んふりしてたんや。
ほんならお前あん時どないした?肩で風切って上げ面さらして知らん顔してシュ〜ッと通っていきよった。
わしあん時思たがな。
お前があないして知らん顔して行くところを見ると今年の大晦日にはちゃんと払てくれるもんやと思やこそ今日こうして来てんねやないかい。
それを『無い袖は振れん』?お前なめとったら承知せんぞこら!俺はなけんかの魚金言われてんねや。
今日はお前から取るもん取るまではここを一歩もいごかんさかいそう思え」。
「お〜さすが魚金威勢がええな。
よし!なら今日はなお前に持たすもん持たすまでは俺もお前を一歩もこっからいごかさんさかいそう思え」。
「おうよっしゃ。
そんなら払うてくれ」。
「せやから言うてるやろ。
ないねん」。
「なかったらあけへんやないかいほんまにもう。
本当打っても響かんやっちゃな。
もうええわい。
ほんならなそこらくる〜っと回ってくるさかいなまた夕方寄してもらうわ」。
「おいちょっと待て!待て!どこ行くねんお前。
最前どない言うたんや?『取るもん取るまではここを一歩もいごかん』と言うたんと違うんかい。
男がいっぺん口から出した言葉や。
ちゃんと守らんかい!」。
「はあ〜そらなふだんはなんぼでもお前の相手なったるわ。
俺はけんかが好きや。
せやけど今日はそうもしてられへん大晦日やないかい。
あちこち回らんならんねや!」。
「ほたら何かい。
お前どうしてもここいごきたいんかい」。
「そうや」。
「ほんならいごけるようにしていかんかい」。
「何や?そのいごけるようにて」。
「血の巡りの悪いやっちゃな。
考えたら分かるやろお前。
最前どない言うたんや。
取るもん取るまではそこいごかん言うたやろ。
それやったら取るもん取った言うたら動けんねん」。
「え?」。
「取るもん取った言うたらお前そこ動いてええねん」。
「うん…。
まあ理屈はそやけどな俺は何ももろうてない」。
「おうそれやったら俺がお前に持たすまで10日か20日でもそこでじ〜っと」。
「んなアホな。
アホな事言うな。
そうもしてられへんがなお前。
あちこち回らんならんねや」。
「どないすんねん」。
「何やお前…。
お前…なあ!えらいやつにかかってもうた。
ふんふんだ」。
「何?」。
「ふんふんだ」。
「え?」。
「ふんふんあ!」。
「どっか漏れてんのかお前は。
男やったらはっきり言え。
取ったか取らんのかどっちや!」。
「取った!」。
「取ったか。
取ったか!よし受け取り書け」。
「何でやアホ」。
「ほんならお前10日でも20日…」。
「あ〜もう書いたる書いたる。
書いたるがなほんまに。
はあ〜。
何?判がない?ほんまにもう。
ふん!」。
「ハハハハハ書きよった書きよった。
11円50銭。
安い勘定やな。
おい魚金。
ブツブツぼやきながらどこ行くねん。
ちょっと待て!」。
「まだなんぞ用かい」。
「お前取るもん取ったんやろ。
それやったら『ありがとうございました』と礼を言わんかい」。
「まだ礼まで言わすかい」。
大騒動「浮かれの掛け取り」おあと交代でございます。
(拍手)林家菊丸さんの「浮かれの掛け取り」でございました。
いかがでした?いろんなものまねっていうんですか?いろんなまねをして逃れる姿がすごい面白くて…。
何か私も困った時にそういうふうにものまねしたら逃れられるかなと。
あとバレエとか…。
多分やめはった方がええと思います。
ありゃもう噺家さんのお得意の芸を見せるんでああいう事はなかなかまねせん方がええと思うてます。
というところで後半またこれも冬の噺です。
桂文華さんの「池田の猪買い」です。
では続けてどうぞ。

(拍手)え〜ありがとうございます。
場内割れんばかりの拍手を頂戴しまして。
かわりまして桂文華の方でおつきあいを願いますが。
え〜何です?風邪がはやってますけどもね。
テレビなんか見てますとすぐに薬とは言わないですね。
今食事療法でいろんなん言いますね。
何かショウガを食べると発汗作用があるとかあとハチミツは殺菌作用があるとかカリンエキスが喉にええとか。
やたら食べ物…もう聞かない日がないですね。
ああいうのを分析する機械が発達してるんでしょうかね。
よく聞きますよね。
昔聞かなんだようなのはポ…ポリフェノールとかねええ。
え〜何です?ナットウキナーゼとかね。
え〜ジンゲロールとかショウガオールとか。
あとカプサイシンタイガー・ジェット・シンいろんなん言います。
ええねえ。
え〜今日はひとつあのね薬なんかまだあんまり一般的やない食事療法が当たり前やった時分の方でおつきあい願いますが。
「甚兵衛はんこんにちは!甚兵衛はんいてなはるか?甚兵衛はんこんにちは。
甚兵衛はん」。
「おおその声は金さんかいな。
さあさあさあこっち入っといで」。
「ええこんちは」。
「相変わらずにぎやかな男や。
おいおいお前どないしたんや?えらい鼻の頭真っ黒けやな」。
「何です?」。
「いいやいな鼻の頭真っ黒けになってるで」。
「あっこれですか?これあのやいとの痕」。
「またえらいとこへやいと据えたんやな」。
「何を言うてまんねん!これあんたが教えとくなはったんやで」。
「わしが?」。
「そうでんがな。
ふたつきほど前にねわたいが『のぼせまんねん』ちゅうたらあんた『やいと据え』て教えとくなはった」。
「ああ教えた教えた。
それはやな首の後ろ盆の窪ここへやいと据えたら治ると教えたった」。
「そうそうあん時あんた言うてなはったやろ?『やいとっちゅうのは据えた上へ据えた上へ据えないかん』ちゅうて」。
「ああ教えた教えた。
確かに『火がよう下りるように据えた上へ据えた上へ据えなはれ』て教えたった」。
「そうでっしゃろ?わたいね据えた上へ据えた上へ据えたんです。
ほなやいとがどんどんどんどん上がってきましてねこれね。
10日目にてっぺんに来ましてこっからず〜っと下りてきてここが打ち止めやなと思うてここばっかりしてたらこんなして真っ黒け」。
「いや違うでお前それは。
いやわしの言うたんはその『据えたな真上へ真上へ据えなはれ』と言うたんや」。
「いや真上へ真上へ据えたらねやいとがどんどん上がってきまんねんこれが」。
「いや違うがな。
やいと据えたら痕が出来るやろ?」。
「痕出来ます」。
「その痕の上へ痕の上へ据えんねやがな」。
「痕の上へ痕の上へ据えたんのが上がってきまんねん」。
「痕の真上…」。
「真上真上据えたんや」。
「違うがな。
痕が出来たらなそのおんなじとこへ重ねて据えんねやがな」。
「あっ高うに重ねまんのん?」。
「違うちゅうねんお前は!どない言うたら分かんのや?あのないっぺん済んだらその痕へまた改めておんなじとこへ据えんねやがな」。
「さよか!いやわたいもねおかしいなと思たん。
ちゅうのがね10日までは上でっせ。
こっから下になりまっしゃろ?しゃあないさかいわたい逆立ちしてやいと据えた」。
「アホやがな!ほんまにもう。
ほいで治ったんか?」。
「治りました!」。
「治るだけがおもろいなお前は。
で今日は何や?」。
「今度はまたね冷えて冷えてしょうがおまへんねんけどなんぞええ薬おまへんか?」。
「あ冷えかいな。
それやったらおまはん猪の身やった事あるか?」。
「猪の身て何ですか?イノシシの肉?」。
「そうそう」。
「あんなもん効きまっか?」。
「何を言うてんねん。
昔からな『薬食い』ちゅうてな殊に冷え気一般にはええとしてあんねや」。
「さよか!ほなちょっと今から行って買うてきます」。
「これこれ待ちなはれ。
言うとくで。
ここらで売ってるやつじゃあかんで」。
「何で?」。
「『何で?』てなここらで売ってるやつは獲れてから日がたったある。
ああいうやつはな今獲れました獲れ獲れの生きのええ新しいやつやなかったら薬の効き目効能がないねやな」。
「ああさよか。
それどこ行ったら売ってまんねん?」。
「ちょっと足を伸ばして池田へでも行ってみなはれ。
あそこらは毎日でも猪の獲れるとこや」。
「さよか!ほなちょっと今から行てきます」。
「待ちちゅうねんお前は。
だいぶいらちやな。
今時分から行て日が暮れてしまう。
帰ってこられへんがな。
明日の朝早うに行きなはれ」。
「さよか。
ほな明日の朝一番に行かしてもらいます」。
「あ〜これこれあのなそれから行く前にわしのうち寄ってくれるか?ちょっと頼みたい事あるさかいに」。
「さよか。
ほな明日の朝寄してもらいまっさ」。
と右のアホ明くる朝になんのを待ち焦がれまして朝のはよから。
(戸をたたく音のまね)「甚兵衛はんおはようさん!甚兵衛はんここ開けて!」。
「やかましな。
これこれこれ。
近所の迷惑になるがな。
くぐりが開いたら入っといで」。
「おはようさん!」。
「『おはようさん』やないがな。
いやいやお前に来てもうたんはほかやないねんうん。
わしも久しぶりに猪の身が食べたいなと思てなああ。
わしのもついでに買うてきてもらいたい」。
「ああお安いご用でええ。
でなんぼほど買うてきまひょ?」。
「そうやなあのなすまんけどな200匁ほど買うてきてもらおか」。
「へいへいよろしおます。
でわたいなんぼほど買うてきまひょ?」。
「まお前はな若いねやさかいな300匁ほど買うといで」。
「ほな都合が500匁でんな。
行き帰りの渡し賃とか弁当代入れてままあ3円もあったら足りまっか?」。
「まあ3円は要ろまいがなまあ3円あったら心丈夫やな」。
「あさよか!3円つうたらもうきょう日僅かな金でんな」。
「そやそやそやそや。
きょう日3円いうたら僅かな金や」。
「僅かな金やな。
ちょっと貸しといて」。
「あっさり言いないな。
『貸しといて』はええけどやでわしお前こないだ貸した50銭まだ返してもうてないで」。
「ああ!あんな50銭いつでもよろしい」。
「どっちが借りてんや分からん!お前と物言うたら損がいくねん。
まあまあなこれ3円貸しといたるけどもこないだの50銭と一緒に…」。
「倒す?」。
「倒したらあかんねん。
あんじょう返してや。
でおまはんな池田行く道分かったあるか?」。
「ええ何でっしゃろ?とりあえずここから港町へ出ましてね紀州街道を南へ南へ」。
「何を言うてんねん。
おまはんそんな事したら和歌山行ってしまうやないかいな」。
「あら!和歌山から池田へ行けまへんか?」。
「そんなもん行けるかいな」。
「あさよか。
ほたら何でっか?和歌山に住んでる人は生涯池田行けまへんのんか?」。
「行けん事はないけどもな何で大阪から池田行くのにいっぺん和歌山ぐるっと回っていかんならんねん。
それが団子理屈やっちゅうねんな。
分からなんだら尋ねなはれ。
ええか?分からん事を分からんと言うのは分からんこっちゃないねや。
分からん事を分かると言うのが分からんこっちゃ。
分かったか?」。
「分からん」。
「わしのこの家の前が丼池筋やな。
これをト〜ンと北へ突き当たる」。
「わっデボチン打つ」。
「打たいでもええねん。
行けるとこまで行くと突き当たるとこない言うねやな。
丼池の北浜には橋がない。
昔からない。
いまだにない」。
「これ一つの不思議でんなあ」。
「何の不思議な事があるかい。
『橋ない川は渡れん』てな事を言うな」。
「渡るに渡れん事おまへんで」。
「お偉いな。
どないして渡る?」。
「船で渡ろか?泳いで渡ろか?」。
「それでは事が大胆な」。
「ほたらどないしよ?」。
「黙って聞きなはれ。
これをちょっと西へ通るとな淀屋橋という橋がある。
淀屋橋大江橋蜆橋と橋を3つ越える。
お初天神の西門に『紅卯』ちゅうすし屋の看板がある。
これが目印や。
こっからあとは北へ一本道。
十三の渡し三国の渡しと渡しを2つ越える。
服部の天神さん横手に見ながら岡町から池田…。
池田もな町なかじゃいかんで。
山の手へかかって山猟師の六太夫さんというたら大阪まで聞こえた猪撃ちの名人や。
ああ。
分からなんだらせえだい尋ねながら行きなはれ」。
「さよか。
おおきに。
わたい行ってきまっさ!ありがたい人やなあええ?こないして細こう道も教えてくれて銭も貸してくれはったな。
『分からなんだらせえだい尋ねながら行け』ちゅうとったな。
いっぺんここで尋ねといたろかな。
誰ぞおらんか?せやしかしなあボ〜ッとしたやつに聞いたらな教えよんのに暇かかるさかいな。
なるべく急えてるやつがええけどな急えてるやつ。
急えてるやつはおらんかいなと。
わっこいつはえらい走っとんな。
こいつ聞いたろ。
もし!」。
「な…何ですか?」。
「あんた急いてなはんの?」。
「ええわたいちょっとね心急きでんねや」。
「心急きって何急いてまんの?」。
「いやうちの家内が産気づきましてな今から産婆はん呼びに行きまんので急いてまんねん」。
「ああさよか。
そら急かないかん急がなあかん。
ほんだらちょっともの尋ねますけど」。
「いや私急いてまんねん。
はよしとくなはれ」。
「えあのねあんた丼池の甚兵衛はん知ってなはる?」。
「いや私そんな人知りまへん」。
「『知りまへん』てわたいこないだうどん呼ばれた人」。
「知らんがなそんなもん。
何だんねん?」。
「あの人の家の前が丼池筋でんねん。
これをトンと北へ突き当たるちゅうとあんたデボチン打つと思ってる?」。
「いや私そんなん思うてない」。
「思うとけここは。
でこれちょっと西へ通るとね淀屋橋ちゅう橋がおまんねん。
淀屋橋大江橋蜆橋と橋を3つ越える。
ね。
お初天神の西門に『紅卯』ちゅうすし屋の看板がおまんねん。
これが目印。
あとは北へ一本道。
十三の渡し三国の渡しと渡しを2つ越える。
服部の天神さん横手に見ながら岡町から池田…池田も町なかではあきまへん。
山の手へかかって山猟師の六太夫さんちゅうたら大阪まで聞こえた猪撃ちの名人でんねんけどもその人のうちへ行くのはどう行ったらよろしい?」。
(笑い)「『どう行ったらよろしい』てあんたの言うたとおりでええねやがな!」。
「ああそうや」。
「離しなはれ!ほんまにもう」。
「ハハッ言うたとおりちゅうのはおもろいなええ?」。
あっちで尋ねこっちで尋ねやって参りましたのは池田。
池田も山の手へかかってまいりますというと寒気の厳しい折柄綿をちぎって投げるような雪がチラ〜チラ。
「お〜寒っ!あ〜寒っ!寒いな〜。
う〜。
こない寒なんのやったらもっとぎょうさん着てきたらよかったなあ。
雪が降ってんねやこれなあ。
しかしこれ道は合うてんのんかいな?誰ぞに尋ねたいけどもこんなもう雪の中誰も表に出てないで。
誰ぞ…。
あ〜お百姓さん。
偉いなあ。
この雪の降る中表で野良仕事や。
あのお百姓に尋ねたろ。
あ〜。
もし〜!お百姓!ちょっと道を尋ねますがな〜。
もし〜!お百姓!聞こえてないんかいな?ほんまにもう。
おい!こら!道を…。
あああれかかしかいなあれ。
よう出来てあんな」。
一升徳利に蓑と笠が着せてあんねん。
「とっくりと見なんだが身のいっしょうの過ち」て。
「シャイシャイシャイシャイシャイシャイ」。
「モ〜!」。
「あびっくりした!びっくりした!あ〜びっくりした!こら!びっくりしたやろ!いきなり耳元で牛鳴かすやつがあるかい!」。
「ああ堪忍しとくれ。
畜生のこっちゃでなあ」。
「なんぼ畜生か知れんがいきなり耳元で牛鳴かしたらびっくりするやないかほんまにもう!あ〜びっくりした。
びっくりついでにちょっともの尋ねますけど」。
「けったいな筋やな。
何や?」。
「あんたねあの山猟師の六太夫さんのうち知ってなはる?」。
「ああ六太夫さんのうちかい。
ああそれならなこっち来いこっち来いこっち来い。
こっち来てなわしのこの手の指す方角を見てごらん。
あそこにな白壁がチラチラッと見て松の木がニュッと出たうちがあるじゃろ?」。
「ど…どこですか?」。
「いやあそこにな白壁がチラチラッと見て松の木がニュッと出たうちがあるじゃろ?」。
「ど…どの辺り?」。
「お前さんあの白壁と松の木が見えんかえ?」。
「いや白壁と松の木はよう見えてまんねやけどその『チラチラ』と『ニュッ』が見えん」。
「そんなの見えたりするかいな。
あそこが六太夫さんのうちや。
行っといで」。
「さよか。
おおきに。
どうも!あどうやらここやな」。
(戸をたたく音のまね)「こんにちは!こんにちは!開けとくなはれ!」。
「はいはいはいはい。
ドンドンたたきな。
今開けるさかいに。
え。
はいはいどなたじゃな?」。
「えらいすんまへん。
ちょっともの尋ねますけどね山猟師の六太夫さんのうちはこちらですかいなあ?」。
「ああ六太夫なら手前じゃ」。
「あさよかあ。
拍子の悪い。
何軒ほど手前ですか?」。
「いや違う違う違う。
ここが六太夫のうちじゃ」。
「あここが六太夫のうちか」。
「あんた口悪いなお前は」。
「お留守ですか?」。
(笑い)「何を?」。
「お…お留守ですか?」。
「お前だいぶに変わってんな。
『お留守ですか』てうちらで応対してるんや。
いてるがな」。
「いやちゃいまんねや。
あの山猟師の六太夫さんはお留守ですか?」。
「せやさかいにわしが六太夫じゃ」。
「えっ!?あんた六太夫さん?うそやん!私芝居で見てよう知ってまっせ。
山猟師て色が白うてねうりざね顔でええ男でっせ。
あんたひげ面で汚い」。
「ほんまもんはこんなもんじゃ」。
「あほんまもんそんなもんかい」。
「何やねんそれは。
お前さん何や?お前さん何やっちゅうねん!」。
「人間や」。
「人間は分かってるがな。
どちらから?」。
「あちらから」。
「どうして?」。
「歩いてや!やれやれこりゃこりゃ」。
「何やねんおまはんは。
え?何?はあはあ。
『大阪から猪の身分けてもらいに来た』て?あ客人かいな!あそら遠いとこご苦労さん。
ま中へ入って火に当たんなはれ」。
「えらいすんまへんすんまへん。
寒かった寒かった。
ちょっと火当ててもらいま。
いやねわたいね新しい猪の身が欲しおまんねん。
あの古いやつあきまへんねん。
新しい今獲れ獲れの新しいやつおまっか?」。
「ああそらお前さんええとこに来た。
おととい撃った猪まだそのままそこにつるしたるがな」。
「え?おとといのやつ?びっくりした!えっ!?猪ってこない大きなもんでっか?」。
「ああほんまもんそないして大きなもんや」。
「これ新しい?」。
「そうそうおととい撃ったとこや新しい」。
「あさよか。
せやけどねわたい素人でっせ。
そんなもんこれ見たところで新しい古いの区別つきまへんがな。
そらあんたはね『おととい撃った』とか言うけどもひょっとしたらこれおととし撃ったやつか分からん」。
「そんなもんおととしの猪つるしといたらダラ〜ッと垂れてくるわそんなもん。
おととい撃ったやつや新しい」。
「そんな事言わんとねポンポンと撃ちに行きまひょうな」。
「あっさり言いないな。
うん?撃ちに行かん事はないけどもおまはん猪の身なんぼほど要んねん?」。
「いやわたい300匁甚兵衛はん200匁都合500匁」。
「500匁ぐらいで撃ちに行けるかい」。
「そんな事言いなはんな。
表見てみなはれ。
白いもんがチラチラとしてまっせ。
こんな日は猟が立ちまっせ」。
「『猟が立つ』か。
あ〜いやいやこんな商売してたらな至って験を気にすんのじゃ。
『猟が立つ』気に入ったな。
え。
やれやれ『牛に引かれて善光寺詣り』か。
まあまあ山猪撃ちに行く事にしようか」。
「そうしなはれそうしなはれ。
気の変わらんうちに」。
「サン!サン来い!サン!サン来い!」。
「あんた何を言うてまんねん?それは」。
「犬を呼んでますんじゃ」。
「ああ犬呼んでまんのかいな」。
「あ〜猪之よ!あ〜猪之よ!」。
「ん〜!」。
「あっびっくりした!びっくりした。
これ何でんねん?」。
「ああそらうちの伜じゃ」。
「あこれあんたの伜でっか!『猪之よ』ちゅうなり黒いもんがボンと出てきたからイノシシ放し飼いにしてんのかなと思て。
でこれは新しいか?」。
「いやうちの伜やそれは」。
「山行くの邪魔くさい。
撃と」。
「あかんあかんあかん!あ猪之よ。
父はな大阪の客人と山猪撃ちに行くでな寂しかろうがおとなしいに留守番してんのじゃぞ」。
「ん〜」。
「これこれ。
『ん〜』てな返事するやつがあるかい。
田舎の子は行儀知らんちゅうてな大阪の客人に笑われるぞ。
返事は『はい』とすんのじゃ『はい』と。
分かったか?」。
「ん〜」。
「まだ『ん〜』ちゅうてる。
情けない」。
「父かて猪撃ったらじきに戻ってきてや」。
「ん〜!」。
「父かて『ん〜』ちゅうてるがな」。
「大人は構やせんのじゃ。
ほたら客人行こうか」。
「ん〜!」。
「おんなじように言いないな。
さあ来いさあ来いさあ来い」。
「ちょちょちょちょ…六太夫さん待っとくんなはれ。
山道慣れてまへんねん」。
「はよ来いはよ来い」。
「うわ〜!六太夫さんこれまたえらい見晴らしのええとこ出てきましたなあ」。
「さあさあさあ道は険しいがなここへじきに出られるさかいな」。
「あ〜いやこれ谷が…え?一望に見渡せますなあ」。
「ああそうじゃろう」。
「あ六太夫さん何かあそこで犬がワンワンワンワンとほえてまっせ」。
「ああ最前なあの谷にサンを放しといた。
どうやら猪見つけよったみたいやな。
あ〜!出てきた出てきた。
おっ!客人あんたなかなか運がええな。
いっぺんに2頭も出てきたで」。
「あほんまでっか?あほんまに2頭いてまんな。
え?大きいのと小さいの。
あれは何ですか?あの親子ですか?夫婦ですか?」。
「め…夫婦ちゅうのおかしいけどなま今時分に親子はないな。
恐らく雄と雌やな」。
「あほな夫婦てなもんですな。
ええええ。
ああれやっぱり何ですか?仲人入れた仲ですか?どれ合い?」。
「『どれ合い』ちゅうやつあるかいな。
まま撃つ事にしよかうん。
でどっち撃とう?」。
「はい?」。
「どっち撃とう?」。
「え?『どっち撃とう』て両方ともバンバンと」。
「そうはいかんな。
どうしても一頭撃ってる間にもう一頭はな音にびっくりして逃げてしまうさかいな」。
「あさよか。
え〜?ほなこれどっちがうまいんでっか?」。
「まあまあ雌の方が身が軟らこうてうまいな」。
「あさよか。
わたいね猪の身食べんの初めてやさかいその雌の方撃ってもらいまひょか?」。
「ああほな雌の方撃つよってちょっと待っときや。
静かにしてて。
今狙いを定め…」。
「ちょっと待っとくんなはれ。
六太夫さんあんたそれ目方で商売してはんねやろ?大きい方があれでしょ?雄でっしゃろ?ねえ目の前で大きい方逃がしたらそら悪いわええ。
やっぱりあの〜雄でよろしい。
雄にしとくなはれ」。
「いやわしゃどっちでもええねんで。
うん。
おまはんのために撃ちに来てんや。
ほんだらまあそない言うなら雄を撃たしてもらおかな」。
「ちょっと待っとくんなはれ。
甚兵衛はん歯悪いんですわ。
やっぱり雌にしてもらえまっか?」。
「わしゃどっちゃでもええねん。
おまはんのために撃ちに来てんや。
ほなまあ雌の方にしようかな」。
「やっぱり雄でよろしいわ」。
「雄にしようか」。
「雌にして」。
「どっちやねん!ほんまにもう。
やかましいな」。
「どっちゃでもよろしい」。
「『どっちゃでもええ』はええけどな横手からやいやい言われたらな狙いが定まらん。
静かにしてて」。
「ええ静かに…静かにしてます。
しかし何でっしゃろな?これ獲れ獲れの猪の身てうまいんでっしゃろな?」。
「そらうまいわい。
ええ?ほっぺたが落ちよるぞ」。
「わ〜わたいとてもやないけど大阪までよう辛抱しまへんわ。
あんたのうちで食べて帰ってよろしいか?」。
「食って帰ったらええやないかい」。
「えらいすんまへんけど鍋貸しとくなはるか?」。
(笑い)「鍋ぐらい使たらええやないかい」。
「えらいすんまへんけども砂糖と醤油も貸しとくなはる?」。
「なんぼでも使たらええやないかい」。
「あの表に根深植わってました。
あれも抜いて入れてよろしいか?」。
「入れたらええやないかい」。
「飯あるか?」。
「やかましいなお前は!おのれ先いったるか!ほんまにもう。
黙っててくれ!」。
「だ…黙ってます!はよはよはよ!今今!そこそこ!撃て!やあポン!」。
「やかましいやっちゃ」。
あまりの事に思わず引き金をばダダ〜ン!「当たった当たった当たった当たった!はよ来いはよ来いはよ来いはよ来い!どうじゃ?客人大きなもんじゃろ?」。
「わ〜大きなもんでんなあええ?でこれ新しいか?」。
(笑い)「お前今何を言うたんや?お前。
『新しいか?』て今お前の目の前で撃ったとこやないかい!」。
「そうかて今下りてくる時ね木の陰になってこれ見えなんだ。
あんた出しなに猪之におかしな目つきしてたん。
あの見えへん間に古いやつとシュッシュッと入れ替えた」。
「んなアホな事ができるかい」と。
あまりの事に六太夫さん鉄砲逆手に持ちますと台尻のとこでこの猪をポンと2つたたいた。
この猪が弾食ろうて死んでたやつやないんですな。
はずみ食ろうて気絶してただけでございますんでボンボンとたたかれた拍子にムクムクッと起き上がりますとトコトコトコッと走りだした。
「客人見てみぃ。
あのとおり新しいわい」。
(笑いと拍手)
(拍手)え〜桂文華さんの「池田の猪買い」でございました。
いかがでした?いや随分キャラクターの濃い人が登場しましたよね。
「何か全然話が進まない。
う〜ん」とかって思ってしまうんだけど何か憎めない。
いや文華さんっていう人がああいうキャラクターの持ち主でございますんで。
あそうなんですね。
落語というのはもう演者がどんな人かで色が決まってくるようなとこがありますんで。
あそうなんだ。
ちょっと魅力的なとこあります。
うん面白いです。
というとこで次回もまたおつきあい願えますか?はい。
ありがとうございます。
それでは本日の「上方落語の会」はこれにてお開きでございます。
それではまた!失礼します。
さよなら!2015/12/25(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会▽「浮かれの掛け取り」林家菊丸、「池田の猪買い」桂文華[字]

▽「浮かれの掛け取り」林家菊丸、「池田の猪買い」桂文華▽第358回NHK上方落語の会(27年12月3日)から▽ゲスト:神戸蘭子▽ご案内:小佐田定雄(落語作家)

詳細情報
番組内容
第358回NHK上方落語の会から林家菊丸の「浮かれの掛け取り」と桂文華の「池田の猪買い」をお届けする。▽浮かれの掛け取り:大晦日、次々に借金取りがやってくるが金はない。そこで、借金取りの好きな話題で矛先をそらそうと撃退法を考えるのだが…。▽池田の猪買い・病の体に猪の肉がいいと言われ、やっとのことで山の猟師を訪ねた男、新鮮な肉を求めて一緒に射ちに出かけるが…。▽ゲスト:神戸蘭子▽ご案内:小佐田定雄
出演者
【ゲスト】神戸蘭子,【案内】小佐田定雄,【出演】林家菊丸,桂文華
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落語
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漫才

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
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趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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