日韓、火種封印し歩み寄り 関係改善を優先、少女像は「解決へ努力」

2015/12/28 23:22 日本経済新聞


 【ソウル=峯岸博】従軍慰安婦問題をめぐる28日の日韓外相会談は、交渉の年内妥結と日韓関係の改善を優先した。慰安婦問題の「責任」のあり方など日韓両国で主張がぶつかるテーマは、溝を残しつつも互いに歩み寄り、火種を封印した。

 「両国が受け入れうる合意に達することができた。その結果を発表する」。会談後の共同記者発表の冒頭、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相はこう語り、隣の岸田文雄外相にまず発言を促した。岸田氏が合意事項に関する「日本の立場」を、尹氏が「韓国の立場」をそれぞれ発表。記者団の質問はあらかじめ認めず、共同文書も出さなかった。

 韓国政府が交渉でとりわけ重視したのが元慰安婦の名誉回復だった。それには元慰安婦が非人道的な不法行為の被害者だと日本が認めることが欠かせないと訴えた。新たに設立する元慰安婦支援の財団に、日本政府が拠出する資金に「賠償」の意味合いをもたせる国内向けの狙いもあった。

■「道義的な」削る

 日本は慰安婦問題が1965年の日韓請求権協定で「法的に解決済み」との立場を崩さない。韓国で相次ぐ日本企業を相手取った戦時中の韓国人強制徴用裁判への波及も懸念し「法的責任」の言及を拒んだ。そのうえで「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」とし「日本政府は責任を痛感している」とこれまでより踏みこんだ。元慰安婦への支援金も大幅に増額するなど韓国側が受け入れられる案を示した。

 韓国内では、合意は日本の法的責任に言及しないながらも、歴代首相がかつて元慰安婦に送った手紙の文言から「道義的な」を削り、「事実上、法的責任を認めたととれる」(元政府高官)との受け止めがある。安倍晋三首相が「心からおわびと反省の気持ちを表明する」と明言したのも、評価の声があがっている。

 日本政府の要求には、韓国が譲歩した。交渉妥結後に二度と問題を蒸し返さない「最終的、かつ不可逆的」な解決は、韓国への不信感が残る安倍首相にとって譲れない一線だった。

 ソウルの日本大使館前の慰安婦を象徴する少女像の扱いはぎりぎりまで難航した。「民間団体が設置したので撤去できない」と主張してきた韓国政府は、包括解決をめざす立場から「関連団体などとの協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と移設容認と受けとめられる表現に応じた。

 日韓両政府は「合意を玉虫色にしない」方針で協議を重ねた。合意後に両国で解釈の食い違いが生じて対立が再燃する事態を避けるためだが、埋まらない溝は残った。

■早くも食い違い

 28日に早速、表面化した。少女像について、岸田氏は外相会談後、記者団に「移転がなされるものと認識している」と語った。韓国政府当局者は「約束していない」と反論する。日本が求めたもう一つの「最終解決の保証」も「慰安婦問題の終止符を打った」(岸田氏)とみる日本に対し、韓国は「日本が表明した措置の着実な履行が前提」(尹氏)と、あくまで条件付きだとクギを刺す。

 合意には「国連など国際社会で互いに非難や批判を控える」と関係改善の場を国際社会まで広げることもうたった。韓国メディアは「未来志向的な関係発展のための転機をつくった」(毎日経済新聞)などと合意を評価する声の一方で、日本が言及した「責任」が「法的責任なのか、道義的責任なのか論争の火種が残った」(ソウル新聞早版)と懸念も出ている。